公表事例を使った在留特別許可の主張の組み立て|裁量基準・平等原則・比例原則を弁護士が解説
2026/10/11
在留特別許可を求める主張では、入管庁の公表事例を一種の裁量基準として読み、本人と事情の近い許可事例を示したうえで、そこから合理的な理由なく外れる判断は平等原則・比例原則に反すると組み立てるのが有効です。
ガイドラインだけでは、抽象的な考え方しか分かりません。どの事情がそろえば許可され、どの事情が加わると不許可になるのか。その具体的な線引きを示しているのが公表事例です。
本記事の要点
- 在留特別許可の判断は法務大臣の広い裁量に委ねられていますが、公表事例はその裁量が実際にどう使われてきたかを示す物差しになります。
- 類似事例は、配偶者の在留資格、刑事処分の区分と刑期、発覚の端緒、婚姻期間と子、消極的な特記事項の5点で選びます。
- 対比では、許可事例との共通点を具体的に示し、不許可事例とは何が違うのかを事実で区別します。
- ガイドラインは退去強制の理由となった事実を反社会性の程度に応じて評価するとしており、これは比例原則の考え方と重なります。
- 公表事例は原典の表と照合してから使うこと、配偶者の在留資格が別表第一の場合は主張だけでなく事実そのものを整えることが重要です。
公表事例とは何ですか。なぜ主張の材料になるのですか。
出入国在留管理庁が毎年公表している、在留特別許可された事例とされなかった事例の一覧です。発覚の端緒、在日期間、婚姻期間、子の有無、刑事処分、特記事項などが事例ごとに記載されており、判断の実際を知る数少ない手がかりです。
ガイドラインは、在留特別許可の性質を次のように述べています。
「在留特別許可は、従前から、本邦からの退去を強制されるべき外国人に対して例外的・恩恵的に行われる措置であり、その判断は、法務大臣の極めて広範な裁量に委ねられて」(ガイドライン第1の2)
裁量が広いほど、判断の一貫性を外から確かめる手段が必要になります。当事務所は平成26年分から令和7年分(2025年)までの公表事例を原典で精査し、刑事処分のある153件を罪名・処分区分・刑期で整理しています。整理の考え方は在留特別許可の公表事例データベースをご覧ください。
公表事例を「裁量基準」として読むとは、どういう意味ですか。
個々の公表事例を、入管庁が自ら示した判断の目安として扱うという意味です。同じような事情の人を合理的な理由なく違って扱えば、平等原則に反するという主張につながります。
公表事例は個別の判断にすぎない、という反論は当然あり得ます。しかし、入管庁は類型ごとに許可例と不許可例を並べて公表しており、その目的は判断の透明性を高めることにあるはずです。そうであれば、公表された許可事例とほぼ同じ事情の申請者を不許可とするには、それを正当化する別の事情が必要だと考えるのが自然です。当事務所は、合理的な理由なく公表事例から外れた処分に対しては、平等原則・比例原則の観点から争う立場をとっています。考え方の詳細は在留特別許可の裁量基準で説明しています。
類似事例は、どんな項目で選べばよいですか。
結論を左右しやすい5つの項目で、本人の事案と近いものを選びます。罪名だけで選ぶと、決定的な違いを見落とします。
| 項目 | 公表事例での記載 | 見る理由 |
|---|---|---|
| 配偶者の在留資格 | 日本人、永住者、定住者、技術・人文知識・国際業務など | 別表第二か別表第一かで、婚姻が「特に考慮する積極要素」に当たるかが分かれる |
| 刑事処分 | 罰金、執行猶予付き判決、実刑と刑期 | 実刑で1年を超えると入管法50条1項ただし書の問題になる |
| 発覚の端緒 | 出頭申告、警察逮捕、摘発、関係機関からの通報など | 出頭申告は積極に働きやすい |
| 婚姻期間と子 | 婚姻約○年、子の人数と年齢 | 婚姻の安定と成熟を示す |
| 特記事項 | 退去強制歴、在留特別許可歴、出国命令歴、虚偽申告など | 一つでもあると結論が変わりやすい |
公表事例との対比は、実際にどう書きますか。
許可事例と本人の事案の共通点を項目ごとに並べ、残る違いが本人に不利なものではないことを示します。不許可事例が近くにある場合は、何が違うのかを事実で区別します。
たとえば、令和6年分(6月10日以降)・配偶者が正規在留外国人の場合の2つの事例は、どちらも出頭申告で、交通事件の執行猶予付き判決を受け、未成年の子がいる事案です。
| 公表事例 | 刑事処分 | 婚姻・子 | 配偶者 | 結論 |
|---|---|---|---|---|
| 許可第3事例 | 道路交通法違反 懲役1年2月・執行猶予3年(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当) | 約6年7月・子1人 | 定住者 | 許可(定住者) |
| 不許可第2事例 | 過失運転致死 禁固3年・執行猶予4年 | 約12年4月・子2人 | 技術・人文知識・国際業務 | 不許可 |
婚姻期間は不許可事例の方が長いのに、結論は逆です。もちろん、人が亡くなった事案かどうかという違いもあり、配偶者の在留資格だけで説明することはできません。対比の書面では、こうした違いを一つずつ確認したうえで、本人の事案がどちらに近いかを論じます。
実刑の事案でも同じです。令和7年分には、窃盗による懲役1年2月又は1年6月の実刑判決を受けながら入管法50条1項ただし書により許可された事例が3件あります。一方、同じ年の「その他」の類型には、詐欺等による懲役2年6月の実刑判決で、日本人実子の監護養育を主張しながら不許可となった事例があります。刑期の長さも、対比の軸になります。
比例原則は、どのように主張に使いますか。
退去強制によって本人と家族が受ける不利益が、違反の重さと釣り合っているかを問う形で使います。ガイドライン自体が、退去強制の理由となった事実を程度に応じて評価するとしています。
「その理由となった事実は、その反社会性の程度に応じて消極要素として考慮されます。」(ガイドライン第2の6)
同じ罪名でも、被害の大きさ、回数、動機、事件後の弁償や反省は事案ごとに違います。刑事事件の判決で示された量刑の理由や、執行猶予が付いた事情は、反社会性の程度を示す材料になります。そのうえで、配偶者や子と引き離される不利益の大きさを、家族関係の具体的な事実で示し、違反の程度に比べて退去強制が重すぎることを論じます。
本人に不利な公表事例は、どう扱えばよいですか。
主張書面の軸は有利な事例に置き、不利な事例は区別できる点を把握して備えておきます。区別できない不利な事例が多い類型では、主張の前に事実そのものを変える工夫が必要です。
典型は、配偶者が別表第一の在留資格の場合です。平成26年分から令和7年分までの公表事例で、配偶者が別表第一の在留資格で本人に刑事処分がある事例は8件あり、すべて不許可でした。この類型で事例を対比しても、有利な先例は見つかりません。刑事判決を理由とする退去強制事由は判決の確定によって生じるため、確定までの時間を使って配偶者の永住許可や帰化を進め、許可事例の多い類型に事案を移すことが現実的な道です。当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、この方法で家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。
公表事例を使うときに、注意すべき点は何ですか。
原典の表と照合すること、事例の背景にある事情を読み落とさないことです。二次的なまとめだけを頼りにすると、誤った対比になりかねません。
- 公表事例は表の形で公表されており、列を読み違えると刑事処分の帰属を取り違えるおそれがあります。引用前に必ず原典を確認します。
- 令和6年分は、令和5年改正法の施行日(6月10日)の前後で分けて公表されています。
- 公表事例は類型ごとに数件ずつ選ばれたもので、すべての判断を網羅したものではありません。
- 公表事例は入管庁の判断の集積であり、裁判所の判断とは別のものです。
罪名ごとの傾向は犯罪別の公表事例の分析で整理しています。
よくある質問
Q1. 公表事例と同じ事情なら、許可されるのですか。
そうとは限りません。判断は個々の事案ごとに積極要素と消極要素を総合して行われます(ガイドライン第3)。ただ、事情の近い許可事例があることは、それと異なる判断に合理的な理由が必要だと主張する強い根拠になります。
Q2. 公表事例はどこで見られますか。
出入国在留管理庁のウェブサイトで、年ごとに公表されています。当事務所では、平成26年分から令和7年分までを原典で照合したうえで整理しています。
Q3. 公表事例の主張は、入管の手続と裁判のどちらで使えますか。
どちらでも使えます。入管の手続では在留特別許可の申請の際の主張として、不許可となった後の取消訴訟では、処分が裁量の範囲を逸脱・濫用したことを示す材料として用います。
Q4. 刑名が「懲役」と書かれている事例は、今の拘禁刑と同じに考えてよいですか。
公表事例の「懲役」「禁錮」は当時の刑名で、現行法の拘禁刑に相当します。刑期と執行猶予の有無を基準に対比するのが適切です。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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