舟渡国際法律事務所

身体に機械を付ける前に――ストーカーGPS装着義務付け立法を批判する

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身体に機械を付ける前に――ストーカーGPS装着義務付け立法を批判する

身体に機械を付ける前に――ストーカーGPS装着義務付け立法を批判する

2026/07/30

弁護士 松村大介

はじめに――「一定の加害者」とは誰か

2026年7月28日、第43回犯罪対策閣僚会議が「詐欺及びストーカー被害拡大防止のための緊急対策」を決定した。ストーカー対策の項目には、こう書かれている。

【重要】ストーカー規制法に関するご相談は1時間5万円の有料相談のみとなっております。無料相談は対応しておりませんのでご注意ください。

一定の加害者へのGPS機器等の装着により、加害者が被害者等に接近した場合に被害者等に通知される仕組み等の新たな被害者保護措置の導入に関し、諸外国の制度、技術上及び運用上の課題等も含め、早急に検討を進める。

この一文には、制度の骨格が何ひとつ書かれていない。誰が装着を命じるのか。裁判所か、公安委員会か、警察署長か。どの程度の事実が認められれば命じられるのか。期間はどれだけか。取得された位置情報は誰が、いつまで保有するのか。装着を命じられた者は、どこに不服を申し立てるのか。書かれているのは「一定の加害者」という五文字だけである。

私は、この五文字が誰を指すことになるのかを、実務の側から知っている。そして、その「認定」がどのように行われているかも知っている。だから私は、この立法に反対する。装置に反対するのではない。装置を付ける相手を決める手続が、この国には存在しないからである。

本稿は二部からなる。第1部で、ストーカー規制法上の「認定」がいかに脆弱な手続の上に成り立っているかを、私自身が担当した事件を素材に述べる。第2部で、その認定の上にGPS装着義務を接続することが憲法上いかに耐えがたいかを、比較法の実際に照らして論じる。

第1部 ストーカー冤罪の恐怖――そもそも認定がおかしい

1 「あなたはストーカーです」と警察が言う日

ある日、警察から呼び出される。行ったことのある場所、送ったことのあるメール、交わしたことのある会話について、順に尋ねられる。数日後、警察署長名の書面が交付される。「更に反復して当該行為をしてはならない」。ストーカー規制法4条1項の警告である。

この間、相手方とされた者に、法律上保障された手続はひとつもない。

条文を読めば分かる。4条は、警察本部長等が「前条の規定に違反する行為があり、かつ、当該行為をした者が更に反復して当該行為をするおそれがあると認めるとき」に警告できると定める。3項は被害者への通知を、4項は申出に応じなかった場合の申出者への理由通知を定める。警告を受ける者に対する事前の告知も、弁解の機会も、防御の機会も、条文上どこにも書かれていない。

各都道府県警察の事務取扱要綱を見ても同じである。申出の受理、警告事前調査、調査等報告書の作成、警告審査票を添付しての本部長への上申、本部長の判断、警告書の交付。この一連の流れは、すべて警察組織の内部で完結している。相手方とされた者は、自分について何が記録され、何が「認定」されたのかを知らないまま、結論だけを受け取る。

そして警告には、罰則がない。だから「行政指導にすぎない」と説明される。

2 「行政指導にすぎない」のに、9割が従う

私は、身に覚えのない警告を受けた依頼者の代理人として、この「行政指導にすぎない」という説明を、法廷で正面から争ってきた。

事案はこうである。依頼者は、ある県警から4条1項の警告を受けた。つきまとい等の事実はない、というのが依頼者の言い分である。私たちは警告の取消訴訟を提起した。第一審は訴えを却下した。警告は行政指導にすぎず、新たな義務を課したり権利を制限したりする法律上の効果がないというのが理由である。控訴審(大阪高裁令和6年6月26日判決)も控訴を棄却した。高裁は、銃砲刀剣類所持等取締法の改正により警告が所持許可の欠格事由と結びつけられている点に着目し、形式的には法律効果が生じうることを認めながら、立法者意思としてこれを行政処分としない扱いであったとして、処分性を否定した。上告受理申立ては、あっけなく不受理となった。最高裁の判断は、ない。

続いて提起した国家賠償請求訴訟でも、私たちは三点を主張した。①つきまとい等の事実は存在せず警告の要件を欠くこと、②外国籍の依頼者に対する事情聴取で通訳を付さなかったこと、③実質的な不利益処分でありながら聴聞も弁明の機会も与えられなかったこと。第一審は請求を棄却した。警察の認定がそのまま追認され、ストーカーであるという判断が、抽象的なかたちで裁判所によって上書きされた。控訴審も当方の主張を採用せず、上告審はまたも不受理であった。

取消訴訟は処分性で門前払いされ、国賠訴訟は棄却される。救済手段は二重に閉ざされている。

ここで、判決の論理の破綻を指摘しておきたい。警告が本当に「行政指導にすぎない」のなら、これに従う義務はない。ところが実務が示しているのは、警告を受けた者の圧倒的多数が行為を止めるという事実である(私は前記訴訟において、警告を受けた者の9割が行為を止めているという事実を指摘した)。従う義務のない行政指導に、なぜ人は従うのか。答えは明らかである。従わなければ次に禁止命令が待っており、禁止命令に違反すれば刑罰が待っているからである。警告は、刑罰に至る階梯の第一段である。第一段だけを取り出して「法的効果がない」と言うのは、階段の一段目には人を運ぶ機能がないと言うのに等しい。

そして、この構造には残酷な逆説がある。そもそもストーカー行為をする意思のない者は、警告を受けた後、当然ながら何もしない。何もしないのだから、禁止命令は出されない。禁止命令が出されれば処分性が認められて争う道が開けるのに、無実であるがゆえに争う機会が永久に訪れない。警告だけが、消えないまま残る。

なお、本件と同種の争点を扱った大阪高裁判決については、興津征雄教授による評釈が法学教室534号(2025年3月)に掲載されている。立法者意思が明確でなくとも解釈により処分性が認められれば事前手続の対象となる、という指摘は、実務にとって重い。

3 令和7年改正――最後の歯止めが外された

ここまでは、少なくとも「被害者からの申出」という入口の歯止めがあった。

その歯止めが、外された。

令和7年12月10日公布・法律第83号による改正ストーカー規制法は、令和7年12月30日から、警告について職権発動を可能とした。改正前の4条1項は「その相手方の申出により」警告することができると定めていた。改正後は「その相手方の申出により、又は職権で」となった。

改正の理由として説明されているのは、被害者が申出を躊躇する事案への対応である。その必要性を、私は否定しない。川崎市で岡崎彩咲陽さんが殺害された事件(神奈川県警の検証結果等報告書は令和7年9月に公表された)では、被害者の意向確認が遅滞したために警告・禁止命令の「機会を逸した」と検証報告書自身が認めている。申出待ちの制度が人を死なせたという指摘には、正面から向き合わなければならない。

だが、である。

入口の歯止めを外すなら、出口に歯止めを作らなければならない。申出という外部からの起動条件を撤廃するということは、警察が自らの判断だけで、ある人物を「ストーカー」と認定し、そう告げる書面を交付できるということである。しかもその認定手続には、相手方の言い分を聞く仕組みがない。争う手段もない。誤りを是正した件数を示す統計すらない。

改正法は、入口を開けただけで、出口を作らなかった。

4 数字が示していること

令和7年におけるストーカー事案の統計を見よう(警察庁「令和7年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」)。

推移を並べると、構造の変化が見える。

令和5年に禁止命令等が警告を上回り、以後その差が開き続けている。運用の重心は「まず警告」から「いきなり禁止命令」へ移った。

そして注目すべきは、緊急禁止命令等の比率である。令和7年は3,037件中1,840件、約6割が緊急禁止命令である。

禁止命令等について、法5条2項は「行政手続法第13条第1項の規定による意見陳述のための手続の区分にかかわらず、聴聞を行わなければならない」と定める。弁明の機会では足りず、より重い聴聞を義務付けた規定である。ところが同条3項は、緊急の必要があるときは聴聞も弁明の機会の付与も行わずに命令できるとし、事後15日以内の意見の聴取で足りるとする(原則は相手方の申出によるが、身体の安全が害されることを防止するために緊急の必要があると認めるときは職権でも発令できる)。

つまり、禁止命令の6割は、事前に何も言わせないまま発令されている。制度の原則と例外が、実務において逆転している。

5 誤りの規模を、誰も知らない

さらに深刻なのは、この統計に載っていないものである。

警察庁の公表資料には、次の数値が一切記載されていない。

  • 警告・禁止命令の取消し・撤回の件数
  • 禁止命令等の有効期間の延長件数
  • 恋愛感情要件(法2条柱書)の該当性が争われた件数
  • 警告に対する不服申立ての件数(そもそも制度が存在しない)

行政が自ら誤りを正した件数を公表していない、ということは、誤りの規模を外部から検証する手段が存在しないということである。年間1,577件の警告のうち、いくつが誤りであったのか。誰も知らない。知る方法がない。

冤罪は、統計に現れない。現れないから存在しないことにされる。そして「これまで問題は生じていない」という前提の上に、次の制度が積み上げられる。

6 「恋愛感情」という主観的要件

ストーカー規制法2条は、規制対象となるつきまとい等を「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で」行われるものに限定している。

警察庁通達(令和3年5月26日付け警察庁丙生企第71号)は、「好意の感情」を「好きな気持ち、親愛感のことをいい、恋愛感情のほか、女優等に対する憧れの感情等が含まれる」と説明する。

この要件は、被害者保護の側からは「保護範囲が狭すぎる」と批判されてきた。近隣トラブルや職場の怨恨に起因する執拗な行為が対象から漏れるからである。その批判には理由がある。

だが同時に、この要件は逆方向の危険も抱えている。行為者の内心を、外形的行為の乏しい事案でも認定できてしまうという危険である。メールを何通送ったか、何度その場所に行ったかという外形は争えても、「どういう感情を充足する目的だったか」は、申告者の説明と、警察官の心証によって決まる。私が担当した事件で、依頼者の側に恋愛感情がなかったことを立証するために、言語学的なアプローチや同じ研究室のメンバーの証言まで動員しなければならなかったのは、そのためである(この点については、後年の別訴において、警告申出の時系列と供述内容を証拠に基づいて弾劾することができ、冤罪であるという依頼者の言い分がそれなりに認められるに至った。私人間の訴訟ではあるが、文書警告の無効を確認する旨の和解が成立する見込みである。名誉回復という意味では、ようやくの一応の解決である)。

7 第1部の小括――土台が腐っている

整理しよう。

警告は、事前手続も事後手続も司法審査もない、手続保障の空白地帯にある。にもかかわらず、銃砲刀剣類所持許可の欠格事由となり、警察の記録に残り、禁止命令への階梯となる。令和7年改正によって、被害申告という起動条件すら不要になった。

禁止命令は、聴聞を義務付けられているが、実務では6割が事前手続を経ずに発令されている。

そして、誤りの是正がどれだけ行われたかを示す統計は、存在しない。

これが、GPS装着義務付けが接続されようとしている土台である。

第2部 装着義務付けの違憲性

1 捜査ですら令状がいる――最高裁大法廷判決の射程

議論の出発点は、最大判平成29年3月15日(刑集71巻3号13頁)である。GPS捜査の適法性について、最高裁が大法廷を開いて全員一致で示した判断を、正確に引用する。

GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。

続けて、憲法35条との関係を述べる。

憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。そうすると、……個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる……とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。

さらに最高裁は、検証許可状によることの限界を指摘し、条件付き令状という便法をも斥けた。

仮に、検証許可状の発付を受け、あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても、GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。

事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、「強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない」と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。

そして法廷意見は、次の一文で締めくくられる。

GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

ここから何が導かれるか。

第一に、GPSによる位置情報の継続的取得は、それ自体が憲法上の重大な法益侵害である。最高裁は、これを単なるプライバシーの問題ではなく、憲法35条の「私的領域への侵入」として構成した。しかも本件は、被疑者の車両に端末を取り付けた事案である。今回検討されているのは、人の身体への装着である。侵害の程度は、比較にならない。

第二に、刑事責任を追及する捜査ですら、令状なしには許されない。犯罪を犯した疑いがあり、令状審査を経てなお条件付けが必要とされる処分である。それを、犯罪の成立が認定されたわけでもない者に対して、行政機関が命じてよいはずがない。

第三に、最高裁は「立法的な措置が講じられることが望ましい」と述べたが、それはどんな立法でもよいという意味ではない。判決が明示したのは「憲法、刑訴法の諸原則に適合する」立法である。判決が例示したのは、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知といった統制手段であった。政府の「緊急対策」には、そのいずれも書かれていない。

なお付言すれば、我が国には既に、裁判所が命じるGPSの立法例が存在する。令和5年に創設された、保釈された被告人に位置測定端末を装着させる制度である(施行は令和10年までとされている)。裁判所が決定し、対象・要件・位置情報の取得と利用が法定されている。制度設計の作法は、既に国内にある。それを無視して、警察の認定に直結する行政措置としてGPS装着を構想するのであれば、それは作法を知らないのではなく、作法を避けているというほかない。

2 憲法13条――「取得」の局面をどう捉えるか

住基ネット訴訟判決(最判平成20年3月6日民集62巻3号665頁)は、憲法13条について「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」を認めた。もっとも、同判決は本人確認情報が「個人の内面に関わるような秘匿性の高い情報とはいえない」こと、法令の根拠と正当な行政目的があること、目的外利用が懲戒処分・刑罰で禁じられ、審議会等の制度的措置があることを挙げて、憲法13条違反を否定した。

この判決の枠組みは、開示・公表の局面を扱ったものである。GPS装着が問題とするのは、その手前の取得の局面である。しかも、氏名・生年月日・性別・住所という「社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報」とはまるで性質が異なる。24時間の位置情報は、その人がどの病院に通い、どの宗教施設に行き、誰の家に泊まり、どの弁護士事務所を訪れたかを、すべて記録する。大法廷判決がいう「個人の行動を継続的、網羅的に把握する」とは、そういうことである。

そして、住基ネット判決が合憲性を支えるものとして挙げた「制度的措置」――目的外利用の禁止、罰則、監視機関――が、今回の構想にはひとつも用意されていない。取得した位置情報を誰が保有するのか。捜査に転用してよいのか。いつ消去するのか。政府文書は、何も答えていない。

3 憲法31条――成田新法事件の総合較量に耐えるか

行政手続にも憲法31条の保障が及びうることは、成田新法事件(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)が確立した。

憲法31条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。

しかしながら、……行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではない。

この総合較量に、GPS装着義務を乗せてみよう。

制限される権利利益の内容・性質は、24時間365日、身体に装着された機器を通じて、私的領域を含むすべての所在と移動が継続的・網羅的に把握される状態である。制限の程度は、拘禁に次ぐ。装着者は、機器を外せば処罰され、充電を怠れば警報が鳴り、通信圏外に入れば警察官が臨場する生活を送る。しかもそれは、機器が視認されうる以上、社会的な烙印を伴う。

これに対して、達成しようとする公益は被害者の生命・身体の保護であり、その重要性は疑いようがない。緊急性も、事案によっては極めて高い。

だから較量は難しい――と言いたいのではない。私が指摘したいのは、成田新法事件が要求する較量は「制度全体として事前手続を省略してよいか」という粗い問いではなく、個別の処分ごとに、制限の程度と公益上の緊急性とを突き合わせる作業だということである。そして日本の現行制度は、その作業を担う機関を持っていない。警告には手続がなく、禁止命令の6割は事前手続を経ない。較量する者がいない場所に較量の結論だけが置かれるのなら、それは較量ではなく、単なる授権である。

成田新法事件で園部逸夫裁判官が述べた意見を引いておく。

私は、行政庁の処分のうち、少なくとも、不利益処分(名宛人を特定して、これに義務を課し、又はその権利利益を制限する処分)については、法律上、原則として、弁明、聴聞等何らかの適正な事前手続の規定を置くことが、必要であると考える。

4 保安処分としての性格――日本が一度捨てた道

GPS装着義務は、法的性質としては何か。

刑罰ではない。有罪判決を前提としないなら、なおさらである。では行政上の措置か。だが、その内容は将来の犯罪を防ぐために現在の自由を制約するものであり、要件は「再犯のおそれ」という将来予測である。これは、保安処分にほかならない。

日本は、保安処分の導入を一度検討し、そして捨てた国である。

1974年(昭和49年)の改正刑法草案は、治療処分と禁絶処分を規定した。1981年(昭和56年)の法務省刑事局案は、これを治療処分に一本化し、対象を放火・殺人・傷害・強姦・強制わいせつ・強盗に絞った。しかし、日本弁護士連合会、日本精神神経学会、障害者団体の強い反対により、保安処分の新設は実現しなかった。1927年の予備草案・1940年の改正刑法仮案が置いていた「予防拘禁」も、1961年の準備草案・1974年の草案では採用が見送られている。その理由として説明されたのは、次の点であった(法制審議会刑事法特別部会編『改正刑法草案 附・同説明書』155頁以下、中山研一『刑法改正と保安処分』102頁以下参照)。

  • 危険な常習犯に対する予防監置が、執行面で刑と区別し得ないこと
  • 拘禁の長期化による人権侵害の危険があること
  • 対象者の必要性そのものに疑問があること

そして、保安処分批判の中核にあった論拠は、今日のGPS論にもそのまま妥当する。

第一に、再犯予測は原理的に困難である。「再犯のおそれ」を確度をもって判定する方法は、今日に至るまで確立していない。誰が装着し、誰が装着しないかを分ける線は、結局のところ、判定者の心証である。

第二に、解除要件が「おそれの消滅」であるかぎり、措置は無期限化する。存在しないことを証明できない以上、「おそれがなくなった」と認定される契機は訪れにくい。刑事局案の治療処分が期限のない収容を認めていたのは偶然ではない。予防を目的とする措置は、構造的に終わらない。

第三に、刑罰との区別が困難である。執行の実態が刑と区別できないなら、それは名前を変えた刑罰である。有罪判決を経た者に、刑の執行後さらに課すのであれば、憲法39条後段の二重処罰の禁止に触れないかが正面から問われる。有罪判決を経ない者に課すのであれば、刑罰以上の制約を、刑事裁判の保障なしに課すことになる。どちらに転んでも、憲法上の難点は残る。

5 比例原則――「効くのか」を誰も検証していない

制約が正当化されるためには、目的が正当であるだけでは足りない。手段の適合性(効果があること)、必要性(より制限的でない手段では目的を達成できないこと)、狭義の比例性(制約と得られる利益とが均衡すること)が要求される。

薬事法距離制限違憲判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)が「よりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要する」と述べたのは、この必要性審査である。

GPS装着義務について、この三段階を検証した公的資料を、私は見たことがない。

適合性について。装置が接近を防ぐという想定は、装置が正常に作動し、警報が適時に伝達され、警察官が間に合うことを前提としている。この前提が現実にどれだけ成り立つかは、第3部で見る各国の運用実態が示している。

必要性について。より制限的でない手段は尽くされたのか。池袋の事件で禁止命令を受けた男性は、警察が促したカウンセリングの受診を拒否していた。フランスが大規模に配備しているのは、加害者に装置を付けるBARではなく、被害者が携行する緊急通報端末(téléphone grave danger)である。2025年1月末で6,285台、BARの稼働数の8倍に及ぶ。加害者処遇プログラムの受診率が5%程度にとどまるという我が国の現状で、加害者の身体に機械を付けることが「他に手段がないから」といえるのか。

狭義の比例性について。そもそも我が国では、警告や禁止命令の誤りがどれだけあったかという基礎データすら公表されていない。誤って装着を命じられる者がどれだけ生じるかを見積もる術がないまま、均衡を論じることはできない。

6 諸外国は、まさにこの点で日本と違う

政府文書は「諸外国の制度」を参考にすると述べる。ならば、その諸外国が何を制度の核心に据えているかを、正確に見なければならない。

以下、第3部として、比較法の実際を検討する。

第3部 比較法――参考にすべきは装置ではなく手続である

1 韓国――「電子足輪の国」で、決めるのは裁判所である

日本の報道で最も頻繁に参照されるのが韓国である。だが、その制度の要点は「足輪」ではない。

ストーキング犯罪の処罰等に関する法律(2021年4月20日公布、同年10月21日施行)は、2023年7月11日改正(2024年1月12日施行)により、暫定措置(잠정조치)の種類に「位置追跡電子装置の付着」を追加した(9条1項3号の2)。

命令に至る経路は三段階である。

1. 司法警察官が申請する。警察は自ら装着を命じることができない。

2. 検事が請求する。8条は、検事が「ストーキング犯罪が再発するおそれがあると認めるとき」に、職権または司法警察官の申請により裁判所に請求すると定める。

3. 裁判所が決定する。9条1項は、裁判所が「ストーキング犯罪の円滑な捜査・審理または被害者保護のために必要と認める場合」に決定をもって措置を行うとする。

期間は3か月。2回に限り各3か月の延長が可能で、最長9か月である(9条7項)。

不服申立ても法定されている。12条により、行為者またはその法定代理人は、決定に影響を及ぼした法令違反、重大な事実誤認、著しく不当な場合に抗告をすることができる。抗告期間は告知から7日以内である。

執行は保護観察所が担い、現場対応は警察が担う。裁判所・保護観察所・警察が分担する三者構造である。

そして、統計が示すものを見てほしい。

裁判所は、警察が求めた装着の3分の2を却下している。韓国国内では「裁判所はなぜ消極的か」という批判があるという。だが、この却下率こそが制度の生命線である。誰かが「それは行き過ぎだ」と言える構造があるからこそ、残る3分の1が正当性を持つ。

日本で同じ制度を作った場合、この却下は誰が行うのか。警告に処分性すら認められず、禁止命令の6割が事前手続を経ずに発令されるこの国で、いったい誰が、警察の求めた装着を却下するのか。

なお、被害者側の仕組みも急速に整備されている。2024年12月の電子装置付着法改正により、2026年6月24日から、被害者はスマートフォンアプリで装着者のリアルタイムの位置・動線・移動速度を地図上で確認できるようになった。2026年3月の南楊州の事件を受け、同年7月6日からは法務部と警察庁が情報を共有し、保護観察官と警察が同時に出動する合同対応が始まっている。

2 ドイツ――「深刻な基本権侵害」と認めたうえで、限定して合憲とした

ドイツには二つの制度がある。

(1) 刑法68b条1項1文12号の滞在監視(elektronische Aufenthaltsüberwachung)

行状監督(Führungsaufsicht)の指示として、裁判所(刑事執行部)が命じる。要件は累積的である。

  • 3年以上の自由刑の執行を終えたこと
  • 刑法66条3項1文が掲げる犯罪(保安監置の要件をなす重大犯罪カタログ)またはテロ関連犯罪であること
  • 同種の重大犯罪を更に行う危険が存在すること
  • 指示が更なる犯罪を思いとどまらせるために必要と認められること

そして、その適用実績である。2026年6月30日時点で、全16州あわせて147名(うち行状監督=刑法68b条によるものが128名、州警察法に基づく予防的監視が18名、外国人法によるものが1名)。人口8,000万を超える国で、この規模である。

連邦憲法裁判所は2020年12月1日決定(2 BvR 916/11, 2 BvR 636/12)でこれを合憲とした。しかし、その論証の運びを見落としてはならない。第二法廷はまず、継続的な所在把握が一般的人格権および情報自己決定権に対する「深刻な基本権侵害(tiefgreifender Grundrechtseingriff)」であることを正面から認めた。そのうえで、次の点を挙げて比例性を肯定した。

  • 適用が3年以上の自由刑の服役後に限られること
  • 具体的な再犯の危険が資格を有する犯罪について認められる場合に限られること
  • 対象が「危険かつ再犯のおそれのある犯罪者という狭く限定された目標集団」であること
  • 保護法益が生命、身体の完全性、第三者の性的自己決定という高位の法益であること
  • 刑訴法463a条4項がデータの利用目的を限定し、遅くとも収集から2か月後には削除することを義務付け、認知と削除の文書化義務を課していること

合憲判断を支えているのは、装置の有用性ではない。対象の限定と、データの消去義務である。

(2) 2026年暴力保護法改正(BGBl. I 2026 Nr. 198、2026年7月9日公布)

ドイツはこの夏、暴力保護法(Gewaltschutzgesetz)に電子的滞在監視を導入する法律を成立させた。新設される1a条の要件は、次のとおりである。

  • 暴力保護命令の遵守を統制するために不可欠(unerlässlich)であること
  • 個別事案において一定の事実が、命令違反が予期され、そこから被害者の生命・身体・自由・性的自己決定に対する具体的危険が生ずるとの想定を正当化すること

命じるのは家庭裁判所である。期間は当初最長6か月、延長は各回最長3か月。違反の法定刑は2年以下から3年以下に引き上げられた。そして、施行後5年での評価(Evaluierung)が法律に明記されている。

立法過程も示唆に富む。政府草案は「電子的滞在監視の命令は、被害者の表明された意思に反して行ってはならない」と定めていたが、2026年5月6日の法務委員会がこれを削除した。加害者が被害者に圧力をかけて措置を阻止しうるからである。被害者の意思は、総合衡量における一事情として考慮されることになった。議会が、条文の一語一語について、こうした議論を積み重ねている。

批判も存在する。犯罪学者Jörg Kinzigは、足環は「フェミサイドに対する万能薬ではない」とし、殺害された女性の多くはそもそも保護命令を申し立てていなかったと指摘する。女性シェルター連絡協議会(Frauenhauskoordinierung)は、研究上、女性殺害のうち足環によって防止しえたのは10件に約1件にとどまるとして、全国統一のリスクマネジメントと学際的なケースカンファレンスの整備こそが必要だと主張している。

3 スペイン――装置が壊れたとき、何が起きたか

スペインは、加害者に発信機を、被害者に受信端末を持たせる双方向型のCometaシステムを2009年から運用してきた。命じるのは、ジェンダー暴力を管轄する裁判官である(刑法48条4項、LO 1/2004・64条3項)。稼働台数は2024年末で4,595台。装置の設置は、まず被害者側に対して行われる。被害者はデータ処理の目的を了解する書面に署名し、受信機を受け取る。被害者が受信機を持たないかぎり、制度は起動しない。

そして、日本の議論が正面から向き合うべきなのは、この制度の運用が崩れたときに何が起きたかである。

2023年10月、Cometaの運用業者がTelefónicaからVodafone(Securitasとの共同)に交代した。移行計画の入札評価は10点満点中3.6点であった。「設計が不十分」「資源配分が不十分」と評価されていた。

その結果、何が起きたか。検察庁年次報告(Memoria de la Fiscalía General del Estado 2025)はこう記録している。Cometa管制センターは各裁判所に対し、機器移行が完了した2024年3月20日より前の情報は提供できない旨を通知した。検察庁の表現によれば、「Cometaセンターが情報を提供できないことにより、事実が2024年3月20日より前である場合には被疑者の位置または行動を知ることが不可能となり、これは事案によっては訴追を提起するために必要な本質的な証拠の喪失を意味する」。

捜査段階では、位置データが得られず訴追を提起できない事案が生じ、暫定的訴訟打切り(sobreseimiento provisional)が相次いだ。公判段階では、Cometaの担当者が基準日以前の事実について位置を答えられず、無罪判決が続いた。検察庁は「多数の暫定的打切りと無罪判決」と記載している。政府説明では、影響を受けた女性は46名、データ空白期間は約4か月とされる。

機器そのものの不具合も報告された。GPS位置の突然の飛躍、地理的不正確、位置表示の固着、誤警報、加害者が足環を外してもCometaに警報が発報しなかった事例。誤作動を懸念して被害者が自ら装置を無効化した例まである。2026年3月には国民の擁護官(Defensor del Pueblo)が、圏外・測位不良・電池不足・利用者による改変の可能性・技術の陳腐化という5類型の不具合を指摘した。

さらに、刑事責任の局面にも波及した。スペイン刑法468条3項は装置の破壊・不作動化を処罰するが、裁判所は故意の立証を厳格に要求し、装置の技術的不具合が記録されている事案では、疑わしきは被告人の利益に(in dubio pro reo)無罪とした例がある。

政府は2026年1月、新契約を承認した。手首型から足首型へ、取外し不能なeSIM、耐破壊素材、長寿命電池、装置間のBluetooth直接検知。装置17,660台を調達し、全国最低在庫2,000台、故障時24時間以内の交換、管制室を最低151名体制(法務アドバイザーと臨床心理士2名を含む)とする。総額は7,140万〜1億1,110万ユーロである。

日本の「緊急対策」は、この規模の運用体制について、一行も書いていない。装置を付けるとは、こういうことである。24時間の管制センターを作り、故障時に24時間以内に交換できる在庫を全国に置き、警報が鳴るたびに人を動かし、そして、その全記録を刑事裁判で証拠として提出できる状態に保ち続けることである。それができなければ、装置は被害者を守らず、無実の者を有罪にし、有罪であるべき者を無罪にする。

4 フランス――同意を要件にしたら、民事はほぼ死んだ

フランスの接近禁止用電子ブレスレット(bracelet anti-rapprochement, BAR)は、2019年12月28日法律により創設され、2020年9月に5つのパイロット地から運用が始まった。

制度は二本立てである。

刑事ルートでは、予審判事または自由・勾留裁判官が理由付き命令により決定する。被装着者の同意は不要である。ただし、装着拒否および機器の機能維持の拒否が義務違反にあたり、未決勾留に至りうる旨の告知を要する。期間は当初最長6か月、更新可、通算最長2年。

民事ルートでは、家事事件裁判官(juge aux affaires familiales)が保護命令(ordonnance de protection)の措置として命じる。ここでは、裁判官が当事者双方を審尋し、装置の作動を説明したうえで、被装着者の自由かつ説明を受けた同意を取得しなければならない。期間は最長6か月、自動更新はない。

結果はどうなったか。

2024年1月15日時点の稼働は1,011件。うち刑事991件、民事わずか20件である。司法省の研究報告(2025年4月)は、その理由を端的に記す。「暴力的な(元)配偶者で本措置に同意する者は稀である」。

同意要件を課した民事ルートは、事実上死文化した。

さらに、2025年5月1日時点の稼働は778件に減少している。政府は、1,000件を同時に管理する能力は維持しており、加害者用359台・被保護者用470台の在庫があるとして、減少は装置不足ではなく司法判断によるものだと説明している。導入から5年を経て、装置の運用は縮小に向かっている。

その一方で、被害者が携行する緊急通報端末(téléphone grave danger)は2025年1月末で6,285台、前年同月比+10%、2024年に850万ユーロが投じられた。フランスの実務が選んでいるのは、加害者の身体に付ける装置ではなく、被害者の手元にある端末である。

5 イギリス――ストーキング保護命令に電子監視は付いていない

イングランド・ウェールズには、ストーキング保護命令(Stalking Protection Order, SPO)がある。2019年法に基づき、警察本部長のみが申し立て、治安判事裁判所が発令する。期間は最低2年。違反は犯罪であり、正式起訴で5年以下の拘禁刑に処せられる。

その証明度は、2024年4月版の法定指針(statutory guidance)により、民事基準(蓋然性の優越)であることが明示された。2020年版の指針は刑事基準としていたから、引き下げられたことになる。ストーキングの有罪率が1.7%(2022〜23年)という低さを背景とする変更である。この点については、民事基準で発令された命令の違反に5年の拘禁刑を科すという構造の不均衡が、刑事弁護実務から批判されている。

そして、本稿の主題にとって決定的なのは次の一点である。2024年4月版の法定指針は、こう述べている(66項)。「インフラが整っていないため、警察はSPOの条件の遵守を確保する目的で電子監視の付加を求めるべきではない」。

ストーキング保護命令に、電子監視は付かない。付けられる体制がないからである。

家庭内虐待保護命令(Domestic Abuse Protection Order, DAPO)では電子監視が可能だが、2021年法37条は厳格な前提条件を置く。①内務大臣が当該地域における実施体制の存在を裁判所に通知していること、②裁判所が現に利用可能な体制の下で措置を講じうると認めること、③被監視者以外に協力が不可欠な者がいる場合はその者の同意、④命令に監視責任者を明示すること。しかも、これは2024年11月27日から始まったパイロットであり、実施地域はグレーター・マンチェスター、ロンドンの一部、英国運輸警察等に限られる。警察向けの実務説明は、被命令者が現に審理に出頭している場合に限り付しうるとし、期間は最長12か月としている。

電子監視を「できる」と法律に書くことと、電子監視を「する」ことの間には、体制という深い溝がある。イギリスは、その溝を認めたうえで、埋まるまでは付けないと決めている。

6 アメリカ――「身体に装置を取り付けることは、捜索である」

連邦最高裁は、United States v. Jones, 565 U.S. 400 (2012) で、車両へのGPS装置の取付けと監視が修正4条にいう捜索に当たると判示した。Sotomayor裁判官の同意意見は、GPS監視が「家族的、政治的、職業的、宗教的、性的な交友関係についての豊富な詳細を反映する、公道上の移動の精密かつ包括的な記録」を生成する点を強調した。

そして、Grady v. North Carolina, 575 U.S. 306 (2015) は、この法理を人の身体に及ぼした。

a State also conducts a search when it attaches a device to a person's body, without consent, for the purpose of tracking that individual's movements.

(州が、同意なく、個人の移動を追跡する目的でその身体に装置を取り付けるときもまた、州は捜索を行っているのである。)

重要なのは、Gradyの対象が民事手続により命じられた監視だったことである。刑事捜査でないことは、捜索該当性を否定しない。ただし修正4条が禁じるのは「不合理な」捜索であるとして、合理性の判断は差し戻された。

差戻しを受けた諸州の裁判所は、二つの方向に分かれた。

個別的合理性審査を採る系統。マサチューセッツ州最高裁は Commonwealth v. Feliz, 481 Mass. 689 (2019) で、性犯罪の大部分についてGPS装着を義務的に課す州法の適用を違憲とした。一律・包括的な適用を斥け、「合理性の個別的判断」を要求し、立証責任は州が負うとした。同法は「対象犯罪で有罪となったすべての者についてGPS監視が必ずしも合理的な捜索とはならないという点で過大包摂である」。

Commonwealth v. Roderick, 490 Mass. 669 (2022) はこれを承継し、諸事情の総体における考慮要素の集合による衡量を示した。プライバシー側の要素として、装置装着の物理的侵害性、監視期間、収集データの範囲と永続性、社会的スティグマ。政府側の要素として、犯罪の重大性、排除区域の実効性、再犯リスク評価、抑止と将来の捜査上の有用性、従前の遵守状況。そして次のように述べる。「政府は、証明済みの再犯者を監視する場合に比べ、潜在的再犯者を監視することについての利益は小さい。」

ノースカロライナ州最高裁は差戻後の State v. Grady, 372 N.C. 509 (2019) で、保護観察等に服していない再犯者に対して再犯者であることのみを理由に終身の衛星監視を課すことを修正4条違反とした。決定的だったのは、州が「監視が公衆を保護し犯罪を抑止することについて何らの実証的証拠も提出しなかった」という一点である。

カテゴリー的正当化を採る系統もある。Belleau v. Wall, 811 F.3d 929 (7th Cir. 2016) は、ウィスコンシン州法による性犯罪者への一律終身GPS監視を合憲とした。Posner裁判官は「基準は合理性であって、治安判事を満足させることではない」と述べ、減縮されたプライバシー期待と児童保護の利益とを衡量した。もっとも、Flaum裁判官の同意意見は、当該州法が「これまで是認されたいかなる special needs プログラムよりも、おそらく侵害的である」とし、技術の広範な展開が「市民と政府の関係を変質させうる」と警告している。

DV・ストーカー加害者への適用も、州レベルで進んでいる。マサチューセッツ州一般法209A条7項は、裁判所が虐待防止命令違反者にGPS装置の装着を命じ、裁判所が定める地理的排除区域を設定し、区域に立ち入れば位置データが直ちに原告および警察に送信されると定める。コネチカット州一般法46b-38c条(f)項は、保護命令違反で訴追され、家庭内暴力介入部により高リスク加害者と判定された者について、裁判所が「電子監視が被害者を保護するために必要である」と認定したうえで命じるとする。イリノイ州のいわゆるCindy Bischof法は、判事が保釈条件または保護観察条件として命じ、被害者の主要な所在地から5,000フィート以内にバッファゾーン、2,500フィート以内に排除区域を設定できるとする。

いずれも、命じるのは裁判所である。

実効性の評価も蓄積されている。米国司法省国立司法研究所の評価研究(Erez, Ibarra ほか)は、GPS登録が監視期間中の接触試行の激減と結びついていること、有罪率が高まること(接触禁止が証人威迫を防ぐため)を報告する一方、南部サイトではGPS参加による効果が観察されなかったことも記録している。被害者からは、技術的限界、審理過程でのプライバシー侵害、そして「誤った安心感」への懸念が挙げられている。イリノイ州の運用評価では、2020年のシカゴでGPS違反警報が約1万2,000件発生した一方、GPS違反自体を理由とする市内での逮捕はわずか4件、いずれも公訴棄却であったという。加害者が装置を「試して」被害者に到達できる範囲を探る事例も指摘されている。

7 欧州人権裁判所――被害者保護義務も、加害者の権利と均衡しなければならない

Uzun v. Germany(申立番号35623/05)は、GPS追跡が条約8条の私生活の尊重を受ける権利への干渉に当たることを認めたうえで、①国内法上の明確な根拠と予見可能性、②極めて重大な犯罪であること、③期間が約3か月と短いこと、④より緩やかな手段が先行して試みられ奏功しなかったこと、⑤事後の司法審査を挙げて、8条違反を否定した。

他方で、Opuz v. Turkey(2009年6月9日)は、家庭内暴力に対する「一般的かつ差別的な司法の不作為」を認定し、国家に制度的改革を義務付けた。被害者保護は、国家の積極的義務である。

そして、両者を架橋するのが大法廷判決 Kurt v. Austria(2021年6月15日)である。同判決は、当局が家庭内暴力の申告に対し即時の対応と特別の注意をもって対処し、自律的・能動的・包括的なリスク評価を行う義務を負うことを明らかにした。被害者の申告のみに依拠せず、エスカレーションの軌跡や武器へのアクセス等の既知のリスク要因を考慮しなければならない。

だが同時に、大法廷はこう述べた。予防措置は、被害者の保護と、加害者とされる者の他の条約上の権利、とりわけ5条(身体の自由)および8条(私生活の尊重)との均衡を図らなければならない。とりわけ、未決勾留は純粋に予防的な目的のためには用いられず、場所・時期・特定された被害者に関する具体的・個別的な証拠に基づかなければならない。一般的な危険性の評価では足りない。

被害者を守れ、という要請と、加害者とされた者の権利を守れ、という要請は、対立するものではない。両者を架橋するのは、個別具体的なリスク評価という同一の作業である。そして、その作業を誰が、どのような手続で行うかこそが、制度の質を決める。

8 比較法から抽出される共通分母

各国の制度を並べると、装置の型式も、期間も、被害者側端末の有無も異なる。だが、共通しているものがある。

抽出される共通分母は、次の七点である。

1. 命じるのは、常に裁判所である。行政機関が単独で人の身体に装置を付ける制度を、私は見つけられなかった。

2. 一般的危険性ではなく、個別具体的な危険が要件とされる。

3. 期間に上限があり、定期的な再審査に服する。

4. 補充性が要求される。より緩やかな手段では足りないことが前提とされる。

5. 取得したデータの利用目的が限定され、削除義務が課される。

6. 不服申立ての経路が用意されている。

7. 制度の実効性を事後に評価する仕組みが用意されている。

日本で検討されているものには、このいずれも書かれていない。

結論――欠けていたのは機械ではなく、判断である

1 最も強い制約を、最も弱い手続に接続してはならない

改めて、日本の現状を並べる。

ストーカー規制法上の警告は、事前手続も事後手続もなく、司法審査も否定され、令和7年改正によって被害申告という起動条件すら不要になった。禁止命令は聴聞を義務付けられているが、6割が事前手続を経ずに発令されている。誤りがどれだけ是正されたかを示す統計は存在しない。

その上に、GPS装着義務を接続しようとしている。

これは、最も強度の権利制約を、最も脆弱な手続に接続するという設計である。世界のどこにも、そのような制度はない。

政府の「緊急対策」は「諸外国の制度……も含め、早急に検討を進める」と書く。だが、諸外国から学ぶべきは装置ではない。装置を付ける相手を、誰が、どのような手続で、どの程度の事実に基づいて決めるかという、その一点である。

2 池袋で欠けていたのは何だったのか

2026年3月26日、池袋で春川萌衣さんが殺害された。加害男性は前年のうちにストーカー規制法違反で逮捕され、その後に禁止命令が出ていた。そして、警察が促したカウンセリングの受診を拒否していた。

川崎で岡崎彩咲陽さんが殺害された事件では、警告も禁止命令も出されていなかった。神奈川県警の検証結果等報告書は、危険性・切迫性の過小評価、署対処体制の形骸化、本部長への報告が遺体発見まで行われなかったこと、窓ガラス損壊事案で鑑識活動が行われなかったことを認めている。同報告書に、GPS・電子監視への言及は一切ない。再発防止策として書かれているのは、警察組織内部の体制強化である。

二つの事件が示しているのは、機械の不在ではない。危険の程度を個別に評価し、必要な介入を選び取る判断の不在である。禁止命令が出ていた者について、受診拒否という明白な危険信号を捉えて次の手を打つ仕組みがなかったこと。相談が9回繰り返されても危険性が過小評価されたこと。組織の内部で情報が上がらなかったこと。

そこにGPSを足しても、判断は生まれない。むしろ、装置を付けたという事実が、判断を尽くしたという錯覚を生む危険がある。ドイツの女性シェルター連絡協議会が「足環を大きな成功と称し、スペインモデルの導入と呼ぶのは、まことに誤解を招く」と述べ、全国統一のリスクマネジメントと学際的なケースカンファレンスの整備を求めたのは、まさにこの点である。

3 それでもGPSを導入するというのなら

私は、被害者保護の必要性を軽んじるつもりはない。人が殺されている。制度は変わらなければならない。

だが、変えるべき順序がある。

第一に、警告の処分性を法律上明記し、争える制度にすること。誤って「ストーカー」と認定された者が、その認定を裁判所で争えないという現状は、法治国家として異常である。「行政指導だから争えない」という論理は、9割が従うという実態の前に破綻している。

第二に、警告についても、相手方に告知・弁解・防御の機会を法律上保障すること。緊急を要する事案に例外を設けることは当然だが、原則と例外が逆転しない設計が必要である。

第三に、警告・禁止命令の取消し・撤回件数、延長件数を統計として公表すること。誤りの規模が分からないまま、制度を積み上げてはならない。

第四に、GPS装着を導入するのであれば、命じるのは裁判所とすること。検察官の請求に基づく決定でも、令状主義に準じた事前審査でもよい。だが、警察の内部判断で人の身体に機械を付けることは、憲法上許されない。最大判平成29年3月15日が、車両への装着について令状を要求したことの意味を、正面から受け止めなければならない。

第五に、期間の上限、定期的な再審査、不服申立ての経路、位置情報の利用目的の限定と削除義務、そして施行後の評価義務を、法律に書き込むこと。ドイツ憲法裁判所が合憲判断を支えたのは、まさにこれらの規律であった。

第六に、運用体制を先に整えること。スペインが示したのは、装置の管制と保守が崩れれば、被害者は守られず、刑事裁判の証拠は失われ、無実の者が処罰されうるという現実である。イギリスがストーキング保護命令に電子監視を付さないと決めているのは、体制がないからである。装置を付けると法律に書くことと、装置が機能することの間には、深い溝がある。

4 最後に

令和7年11月21日、衆議院内閣委員会で警察庁生活安全局長は、ストーカー加害者へのGPS装着について「憲法で保障されている国民の権利等との関係を含め様々な観点からの慎重な検討が必要」と答弁した。令和8年4月2日の参議院内閣委員会では、国家公安委員長が、社会復帰の阻害、対象者家族への影響、憲法上の権利との関係を考慮すべき論点として挙げている。

私は、この慎重さを支持する。そして、この慎重さが「早急に検討を進める」という一行によって押し流されないことを願う。

私が代理人を務めた事件の依頼者は、身に覚えのない警告を受け、取消訴訟で門前払いされ、国家賠償請求も棄却され、上告はいずれも不受理となった。名誉が一応回復されるまでに、何年もかかった。相手方男性を被告とする別訴において、警告申出の時系列と供述内容を証拠に基づいて弾劾し、恋愛感情の不存在を立証するために、言語学的なアプローチと関係者の証言を積み上げて、ようやくである。

もしその依頼者が、今後導入される制度のもとで「一定の加害者」に該当すると判断されていたら、どうなっていたか。24時間、身体に機械を付けられ、位置を記録され、それを争う手段もなく、外せば処罰される。誤りが判明したときには、何年も経っている。

被害者を守ることと、無実の者を守ることは、対立しない。両者を同時に実現する道は、ひとつしかない。危険の程度を、証拠に基づいて、独立した機関が、個別に判断すること。そして、その判断を誤ったときに、正す道が開かれていること。

諸外国が到達しているのは、その地点である。装置は、その手続の後に来るものであって、手続の代わりになるものではない。

身体に機械を付ける前に、まず、認定を正すことである。

【重要】ストーカー規制法に関するご相談は1時間5万円の有料相談のみとなっております。無料相談は対応しておりませんのでご注意ください。

筆者 松村大介(弁護士・第一東京弁護士会所属/舟渡国際法律事務所)

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