1年を超える実刑と在留特別許可|50条1項ただし書の特別の事情と配偶者を弁護士が解説
2026/10/11
1年を超える実刑判決を受けた外国人でも、入管法50条1項ただし書の「特別の事情」が認められて在留特別許可がされた公表事例はあります。ただし、その6件の量刑はいずれも1年2月から1年6月で、配偶者が日本人又は定住者であるなど、家族関係や日本での生い立ちに強い事情がある事案に限られていました。
実刑が見込まれる事件では、刑期が1年を超えるかどうかと、確定までに配偶者の在留上の地位を引き上げられるかが、結論を大きく左右します。
本記事の要点
- 無期又は1年を超える実刑に処せられた人は、人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情がなければ、在留特別許可を受けられません(入管法50条1項ただし書)。
- 改正法施行後の令和6年分(6月10日以降)と令和7年分で、ただし書に当たりながら許可された公表事例は6件あり、量刑はいずれも1年2月から1年6月でした。
- 6件のうち4件は配偶者が日本人又は定住者の事案で、配偶者が別表第一の在留資格である事案は1件もありません。
- 平成26年分から令和7年分までの公表事例で1年を超える実刑の事案は48件あり、許可はこの6件だけです。
入管法50条1項ただし書とは、どんな規定ですか。
無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた人などについて、在留特別許可の要件を一段と厳しくする規定です。通常の積極要素と消極要素の比較ではなく、次の「特別の事情」があるときに限って許可されます。
「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る。」(入管法50条1項ただし書の末尾)
令和5年改正法(令和6年6月10日施行)で設けられた規定で、ガイドラインは「特別の事情」を次のように説明しています。
「「特別の事情」とは、このような者であっても、例えば、当該外国人が、本邦で疾病の治療を受けている者で、相当期間本邦で治療を受けなければ生命に危険が及ぶ具体的なおそれがあることなど、在留を許可しないことが人道的見地から酷に過ぎると認められる事情をいいます。」(在留特別許可に係るガイドライン第1の1(注1))
例は生命に関わる治療の必要性で、高い水準が想定されています。もっとも、公表事例では家族関係や日本での生い立ちを理由に「特別の事情」が認められた例が現れています。考え方の全体は在留特別許可の「特別の事情」とはで整理しています。
どんな判決が「1年を超える実刑」に当たりますか。
刑期が1年を超え、かつ執行が猶予されていない判決です。全部執行猶予の判決や、一部執行猶予で実刑部分が1年以下の判決は除かれます。
| 判決の内容 | 50条1項ただし書 | 入管法24条4号リ |
|---|---|---|
| 拘禁刑1年の実刑 | 当たらない | 当たらない |
| 拘禁刑1年2月の実刑 | 当たる | 当たる |
| 拘禁刑3年・全部執行猶予 | 当たらない | 当たらない |
| 一部執行猶予で、実刑部分が1年以下 | 当たらない | 当たらない |
| 一部執行猶予で、実刑部分が1年を超える | 当たる | 当たる |
24条4号リも、同じ基準で1年を超える実刑を退去強制事由としています。ただし書に当たらない判決でも、24条4号の2(別表第一の在留資格の人の一定の罪)や同号チ(薬物)に当たれば退去強制事由になり、ガイドラインに沿った通常の総合判断になります。4号リについては入管法24条4号リとはをご覧ください。
ただし書に当たっても許可された公表事例はありますか。
あります。改正法施行後の公表事例には、ただし書に当たる事案として許可された例が6件あります。
| 公表事例 | 刑事処分 | 主な家族関係等 | 許可内容 |
|---|---|---|---|
| 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が日本人の場合・ただし書該当許可第1事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役1年2月の実刑(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当) | 日本人配偶者、婚姻約24年5月、本人は永住者 | 定住者(1年) |
| 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が正規在留外国人の場合・ただし書該当許可第1事例 | 覚醒剤取締法違反 懲役1年2月の実刑 | 配偶者は定住者、未成年の子3人 | 定住者(1年) |
| 令和6年分(6月10日以降)・その他・ただし書該当許可第1事例 | 盗品等有償譲受け等 懲役1年6月・罰金20万円の実刑 | 永住者である未成年の子、在日約21年 | 定住者(1年) |
| 令和7年分・配偶者が日本人の場合・ただし書該当許可第1事例 | 窃盗 懲役1年2月の実刑 | 日本人配偶者、婚姻約33年4月、在日約33年1月 | 日本人の配偶者等(1年) |
| 令和7年分・配偶者が正規在留外国人の場合・ただし書該当許可第1事例 | 窃盗 懲役1年2月の実刑 | 配偶者は定住者、未成年の子3人、在日約34年2月 | 定住者(1年) |
| 令和7年分・その他・ただし書該当許可第1事例 | 窃盗 懲役1年6月の実刑 | 日系人として日本で出生し、日本の教育機関で教育を受けた | 定住者(1年) |
(出典:出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」令和6年分・令和7年分。)
許可された6件には、どんな共通点がありますか。
量刑が1年2月から1年6月にとどまっていること、そして日本人・定住者の配偶者や永住者の子など、日本に根を下ろした家族がいるか、本人が日本で生まれ育っていることです。
罪名は覚醒剤取締法違反、窃盗、盗品等の罪で、在日期間は約21年から約34年に及びます。
反対に、配偶者が「技術・人文知識・国際業務」など別表第一の在留資格である事案は、6件の中に1件もありません。そもそも当事務所が平成26年分から令和7年分までの公表事例を原典で精査したところ、配偶者が別表第一の在留資格で本人に刑事処分(執行猶予を含みます)がある事例は8件あり、すべて不許可でした。ただし書の壁を越えるには、「特に考慮する積極要素」に当たる家族関係が事実上の前提になっている、とみるべきです。
同じくらいの実刑でも不許可になったのは、どんな事案ですか。
前科が重なっている事案、過去に在留特別許可や退去強制を受けたことがある事案、刑期が2年以上の事案です。
- 令和6年分(6月10日以降)・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第4事例:覚醒剤取締法違反で懲役1年6月の実刑。配偶者は定住者でしたが、ほかに前科3件があり、在留特別許可歴もありました。
- 令和7年分・その他・不許可第2事例:詐欺等で懲役2年6月の実刑。日本人実子の監護・養育を主張しましたが、在留特別許可歴もあり不許可でした。
- 令和7年分・配偶者が正規在留外国人の場合・不許可第2事例:売春防止法違反等で懲役2年・罰金80万円の実刑。配偶者は永住者でしたが、退去強制歴がありました。
配偶者が定住者という同じ条件でも、前科の記載のない1年2月の事案は許可され、前科3件の1年6月の事案は不許可でした。公表事例の範囲では、2年以上の実刑でただし書による許可を受けた例は見当たりません。
実刑が見込まれるとき、今から何ができますか。
刑事弁護で刑期を1年以下又は執行猶予にとどめることを目指し、同時に、判決確定までの時間を使って家族の状況を整えることです。
刑期が1年を超えるかどうかは、ただし書の適用だけでなく、24条4号リに当たるかどうかも分けます。1審判決に争うべき点があれば、控訴は被告人の正当な権利です。控訴期間は14日で(刑事訴訟法373条)、被告人だけが控訴した事件では原判決より重い刑を言い渡すことはできません(同法402条)。その結果、判決確定までの期間も延びます。
その時間で、配偶者を永住者又は日本人に引き上げることを目指します。永住許可は原則として引き続き10年以上の在留が目安で、帰化も2026年4月1日から運用上、原則10年以上の在留が必要になりました。配偶者自身の申請は本人の要件で審査されますが、家族の状況も確認されることがあるため、弁護士と相談しながら進めてください。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、確定までの期間に家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。結論は事案ごとに異なり許可をお約束はできませんが、実刑が見込まれる段階でも打てる手は残っています。全体像は在留特別許可と配偶者の在留資格をご覧ください。
よくある質問
Q1. 1年を超える実刑判決を受けたら、在留特別許可はもう無理ですか。
無理ではありません。入管法50条1項ただし書の特別の事情が認められれば許可され得ます。ただ、改正法施行後の公表事例で許可された6件の量刑は、いずれも1年2月から1年6月でした。
Q2. 執行猶予付き判決でも、ただし書は適用されますか。
刑の全部の執行猶予を受けた場合は適用されません。一部執行猶予の場合も、実刑部分が1年以下であれば適用されません。ただし、24条4号の2や4号チなど別の退去強制事由に当たることはあります。
Q3. 配偶者が技術・人文知識・国際業務の場合、ただし書の特別の事情は認められますか。
公表事例には、そのような許可例はありません。配偶者が別表第一の在留資格で本人に刑事処分がある事案は、8件すべてが不許可です。確定までに配偶者の永住許可や帰化を検討する意味は大きいといえます。
Q4. 前科があると、ただし書の許可は難しくなりますか。
公表事例を見る限り、難しくなります。配偶者が定住者の事案で、前科の記載のない1年2月の実刑は許可され、前科3件と在留特別許可歴のある1年6月の実刑は不許可でした。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
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