特殊詐欺の受け子・回収役で逮捕されたらどうなるか|ニセ警察詐欺・だまされたふり作戦の報道事例と刑の見通し
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
特殊詐欺の受け子・回収役として逮捕されると、現金を受け取る前に逮捕された場合でも詐欺未遂罪(刑法246条・250条)の共同正犯として処罰され、初犯であっても実刑となることがあります。別表第一の在留資格の方は、執行猶予付きの判決でも退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。
この記事の要点
- 受け子が現金を受け取る前に逮捕された場合も詐欺未遂罪が成立し、法定刑は既遂と同じ10年以下の拘禁刑です(刑法246条・250条)。
- 被害者が警察と協力して「だまされたふり」をしていた場合でも、受け子には詐欺未遂の共同正犯が成立し得ます(最決平成29年12月11日)。
- 「詐欺とは知らなかった」という弁解は、報酬や指示の内容などから未必の故意が認定されることが多く、具体的事情に基づく主張が必要です。
- 量刑は被害額・回数・役割・弁償の有無で大きく異なり、初犯でも実刑となる例があります。
- 別表第一の在留資格の方は、詐欺罪(未遂を含む)で拘禁刑となれば執行猶予でも退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。
報道された事案の概要
報道によれば、2026年10月、福岡県久留米市で、警察官をかたって82歳の女性から現金をだまし取ろうとした詐欺事件の現金受取役として、東京都内に住む中国籍の30歳の男性が詐欺未遂の疑いで現行犯逮捕されました。女性が不審に思って警察に相談し、警察の依頼に応じて「だまされたふり」を続けたうえで、受取場所に現れた男性を警戒中の警察官が逮捕したとされています。容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。
受け子・回収役は何罪になりますか
現金やカードを受け取れば詐欺罪、受け取る前に逮捕されれば詐欺未遂罪で、いずれも共同正犯として処罰されます。
刑法246条の詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させる罪で、法定刑は10年以下の拘禁刑です。罰金刑が定められていないため、起訴された場合は正式裁判となり、略式命令による罰金で終わることはありません。250条により未遂も処罰され、法定刑は既遂と同じです(未遂減軽は裁判所の裁量です)。受け子は被害者に直接接する役割ですが、電話をかけたかけ子や指示役と意思を通じて役割を分担しているため、自分が電話をかけていなくても共同正犯(刑法60条)として詐欺全体の責任を負います。キャッシュカードをだまし取る手口では、受け子が窃盗罪に問われる類型もあります。
だまされたふり作戦とは何ですか。被害者がだまされていなくても未遂になりますか
被害者が詐欺に気付いた後も警察と協力して応じるふりを続け、現れた受け子を逮捕する手法で、最高裁は受け子に詐欺未遂の共同正犯が成立し得るとしています。
だまされたふり作戦では、被害者は既に詐欺に気付いているため、現金が実際に交付される危険はありません。そこで「不能犯として無罪ではないか」「気付いた後に関与した受け子は未遂の責任を負わないのではないか」が争われてきました。最高裁は、平成29年12月11日の決定で、だまされたふり作戦が開始された後に受け子として関与した者について、共犯者による欺く行為が既に行われている以上、受領行為を含む詐欺を完遂するうえで本質的な役割を担ったとして、詐欺未遂罪の共同正犯が成立すると判断しました。報道された久留米の事案も、この判例の枠組みで処理されると考えられます。
「詐欺とは知らなかった」と言えば無罪になりますか
故意がなければ無罪ですが、裁判実務では客観的事情から未必の故意が認定されることが多く、単なる否認では通りません。
詐欺罪が成立するには、自分の行為が詐欺の一部であることを認識している必要があります。確定的に知っていなくても、「詐欺かもしれないと思いながらあえて引き受けた」という未必の故意があれば足りると解されています。裁判所は、仕事の内容に比べて報酬が不自然に高いこと、秘匿性の高い通信アプリで指示を受けていたこと、偽名や偽の肩書を名乗るよう言われたこと、高齢者から現金や通帳を受け取る方法が通常の取引と異なることなどを手掛かりに、故意を推認します。したがって、「知らなかった」と主張する場合には、募集の経緯、指示の内容、報酬額、本人の日本語能力や社会経験などを具体的に示し、本当に詐欺を疑う契機がなかったことを裏付ける必要があります。
受け子の刑はどの程度になりますか
被害額・回数・役割・弁償の有無によって異なり、初犯でも実刑となる例があります。
特殊詐欺は高齢者を狙う組織的犯罪として厳しく処分される傾向にあり、受け子は末端であっても被害者と直接対面する役割として軽視されません。一般的な傾向として、未遂1件で被害が生じておらず、初犯で、反省と被害者への謝罪・弁償が尽くされている場合には執行猶予が付くことが多い一方、既遂で被害額が大きい場合、複数回の関与がある場合、回収役として多額の現金を扱っていた場合には、初犯でも実刑となる例があります。具体的な見通しは事案ごとに異なりますので、数値を断定することはできません。
| 罪名 | 法定刑 | 別表第一の在留資格への影響 |
|---|---|---|
| 詐欺(既遂)・刑法246条 | 10年以下の拘禁刑 | 拘禁刑(執行猶予付きを含む)で退去強制事由(入管法24条4号の2) |
| 詐欺未遂・刑法250条 | 既遂と同じ(減軽は裁量) | 同上 |
| 窃盗(カード手口の場合)・刑法235条 | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 拘禁刑なら退去強制事由。罰金なら4号の2には該当しないが更新審査に影響 |
逮捕後の手続はどのように進みますか
現行犯逮捕から48時間以内に送致、その後最大20日間の勾留を経て、起訴・不起訴が決まります。
逮捕後、警察は48時間以内に検察官へ送致し(刑事訴訟法203条)、検察官は24時間以内に勾留を請求します(205条)。勾留は10日間で、やむを得ない事由があれば最大10日間延長されます(208条)。特殊詐欺では共犯者との連絡を防ぐため接見等禁止が付されるのが通常で、家族との面会はできません。弁護人は逮捕直後から面会できます(39条1項)。取調べでは黙秘権が告知されますが(198条2項)、通訳を介した供述調書の内容を十分に確認せずに署名押印すると、後から訂正することは困難です。他の共犯者について聴かれた場合の対応は、司法取引の可能性も含めて弁護人と相談してから決めるべきです。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
詐欺罪及びその未遂は刑法第2編第37章の罪です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、技能、特定技能、家族滞在、経営・管理など)の方が第37章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とし、執行猶予が付いても該当します。就労・留学系の在留資格の方であれば、執行猶予付き判決でも退去強制手続に進むのが原則です。永住者・日本人の配偶者等・定住者などの別表第二の方は4号の2の対象外ですが、1年を超える拘禁刑の実刑を受ければ24条4号リに該当します(全部執行猶予は除外)。
退去強制事由に該当した場合は、在留特別許可(入管法50条)を求めることになりますが、特殊詐欺への関与は不利に評価されます。退去強制された方は原則5年間上陸を拒否され(入管法5条1項9号)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸を拒否されます(同項4号)。在留資格を守るには、起訴前に不起訴を獲得することが最も重要です。
弁護士に相談すべき場面
- 家族が受け子・回収役として現行犯逮捕され、接見等禁止で面会できないとき。
- 「荷物の受取」「代理受領のアルバイト」と聞いていて、詐欺の認識を争いたいとき。
- だまされたふり作戦で逮捕され、未遂の成否や関与の程度を争いたいとき。
- 被害者への謝罪・弁償を通じて不起訴や執行猶予を目指したいとき。
- 留学・就労の在留資格を持っており、処分の内容によって日本に残れるかを知りたいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針をとっています(立会いが認められることは現状ほとんどありませんが、取調べの直前に捜査官と協議すること自体に意味があると考えています)。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
受け子で逮捕されたら何年くらいの刑になりますか。
被害額、関与の回数、役割、被害弁償の有無、前科の有無などによって大きく異なり、一概には言えません。詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑はありません。初犯で未遂1件にとどまり、被害弁償が済んでいる場合には執行猶予が付くことも多い一方、既遂で被害額が大きい場合や複数回の関与がある場合には初犯でも実刑となる例があります。いずれにせよ、別表第一の在留資格の方は執行猶予でも退去強制事由に該当するため、不起訴を目指す弁護活動が重要です。
「荷物を受け取るだけ」と聞いていて、詐欺とは知りませんでした。無罪になりますか。
詐欺の故意がなければ詐欺罪は成立しません。ただし、裁判所は、報酬の高さ、指示の不自然さ、身分を偽るよう言われたこと、受取場所や方法の異常さなどから「詐欺かもしれないと思いながら引き受けた」(未必の故意)と認定することが多く、単に「知らなかった」と述べるだけでは足りません。具体的な経緯と客観的証拠に基づいて主張する必要があります。
だまされたふり作戦で逮捕された場合、被害者がだまされていないのだから無罪ではないのですか。
最高裁は、被害者がだまされたふりをしていて財産が交付される危険がなかったとしても、受領行為に関与した受け子には詐欺未遂罪の共同正犯が成立し得ると判断しています(最決平成29年12月11日)。被害者がだまされていないことを理由に無罪になるわけではありません。
被害者に弁償すれば不起訴になりますか。
被害弁償は不起訴や執行猶予の判断において重要な事情ですが、それだけで不起訴が約束されるものではありません。特殊詐欺は組織的犯罪として厳しく処分される傾向にあり、未遂で被害が生じていない場合でも起訴される例があります。早期に弁護人を通じて被害者側と連絡を取ることが重要です。
留学中に受け子で逮捕されました。学校はどうなりますか。
勾留が続けば授業に出席できず、在学状況によっては除籍されることがあります。また、留学の在留資格は別表第一ですので、詐欺罪(未遂を含む)で拘禁刑となれば、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。在留を守るには起訴前の段階での弁護活動が決定的に重要です。
根拠条文・出典
- 刑法60条(共同正犯)、235条(窃盗)、246条(詐欺)、250条(未遂)(e-Gov法令検索で確認)
- 刑事訴訟法39条1項、198条2項、203条、205条、208条
- 最高裁判所決定平成29年12月11日(だまされたふり作戦と詐欺未遂の共同正犯)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、24条4号リ・4号の2、50条
- 2026年10月の各社報道
関連する解説
ご相談・お問い合わせ
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)
中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。全国からご相談を承ります。
電話:050-7587-4639
微信(WeChat)ID:matsumura1119
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
本ページは一般的な情報提供であり、個別の事案の結果を保証するものではありません。