替え玉受験(TOEIC・大学院入試)は何罪か|偽計業務妨害・有印私文書偽造と在留資格の取消し
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
替え玉受験とは、他人になりすまして試験を受け、あるいは他人に自分の代わりに受験させる行為をいい、試験の公正な実施を妨げる偽計業務妨害罪(刑法233条・3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)と、受験票や答案に他人の氏名を書いて提出する有印私文書偽造・同行使罪(同法159条・161条・3月以上5年以下の拘禁刑)に当たり得ます。中国籍の留学生にとっては、文書偽造の罪が入管法24条4号の2の列挙罪であるため執行猶予付きでも退去強制事由となるうえ、在留資格の取消しや退学による留学の活動喪失という三重の影響があります。
この記事の要点
- 他人になりすまして受験する行為は、試験の公正な実施を妨げる偽計業務妨害罪に当たり得て、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(刑法233条)。
- 受験票や答案に他人の氏名を記載して提出すれば有印私文書偽造・同行使罪となり、3月以上5年以下の拘禁刑です(同法159条・161条)。
- 依頼した側も、替え玉を務めた側も、共犯として処罰の対象になります。
- 本人確認の写真、筆跡、通信機器、入学後の食い違いなど、発覚の経路は多く、組織的な不正では一人の摘発から依頼者全員に捜査が及びます。
- 文書偽造の罪は入管法24条4号の2の列挙罪で、留学などの別表第一の在留資格の方は執行猶予付きでも退去強制事由に該当し、合格を基に得た在留資格は取消し(同法22条の4)の対象になります。
報道された事案の概要
報道によれば、2026年5月、TOEICの試験会場で他人になりすまして受験したとして、中国籍の大学院生が有印私文書偽造・同行使などの疑いで再逮捕され、スマートグラスや小型マイクなどの通信機器を使って外部から解答を伝える組織的な不正であったとされています。同月には、大学入試の替え玉受験を試みたとして、中国籍の塾講師が有印私文書偽造などの疑いで再逮捕されたと報じられました。また同年1月には、大学院入試で他人に替え玉受験をさせたとして、中国籍の20代が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたと報じられています。報道は捜査機関の発表に基づくものであり、本記事では個々の事実関係の当否には立ち入らず、替え玉受験事件一般について解説します。
替え玉受験は何罪になりますか
替え玉受験は、試験の公正な実施を妨げる偽計業務妨害罪と、受験票や答案に他人の氏名を記載して提出する有印私文書偽造・同行使罪が中心で、どちらで立件されるかは不正の態様によります。
偽計業務妨害罪(刑法233条)は、偽計を用いて人の業務を妨害した者を3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定めています。偽計とは、人を欺き、あるいは人の錯誤や不知を利用する行為をいい、他人になりすまして試験を受けることは、試験を実施する大学や団体に対し、受験者が本人であると誤信させて試験を行わせるものですから、これに当たります。妨害の対象となる業務は、大学の入学試験であれば大学の入試業務、TOEICであれば実施団体の試験運営業務です。試験が中止されたり再試験が必要になったりしなくても、公正な実施が害されるおそれが生じた時点で成立すると解されており、合格したかどうかも問いません。
有印私文書偽造罪(刑法159条)は、行使の目的で他人の印章や署名を使用して権利・義務又は事実証明に関する文書を偽造した者を3月以上5年以下の拘禁刑に処し、偽造私文書等行使罪(同法161条)は、偽造した文書を行使した者を同じ刑に処すると定めています。替え玉受験では、受験票や答案用紙、受験者の署名欄などに、受験者本人の氏名を替え玉が記載します。これらは受験者が誰であるかという事実を証明する文書であり、名義人である受験者本人の意思に基づかずに作成されたものとして偽造に当たり、試験監督者に提出する行為が行使に当たります。もっとも、受験者本人が替え玉に依頼している場合、名義人の承諾があるため偽造とはいえないのではないかという議論がありますが、試験は本人が受けることを前提とした制度であり、他人が本人名義で答案を作ることについて名義人の承諾は意味を持たないと考えられており、実務上も報道事案のとおり有印私文書偽造・同行使で立件されています。このほか、オンラインで実施される試験で他人のアカウントにログインして受験した場合などには、私電磁的記録不正作出(条文名のみ)や不正アクセス禁止法違反が問題になることもあります。
| 罪名 | 法定刑 | 入管法24条4号の2の列挙 | 中国籍の方(留学など別表第一)の在留への影響 |
|---|---|---|---|
| 偽計業務妨害(刑法233条・第35章) | 3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 列挙外 | 1年を超える実刑で退去強制事由(4号リ)。ただし在留資格取消し・退学の問題は別途生じる |
| 有印私文書偽造(刑法159条・第17章) | 3月以上5年以下の拘禁刑 | 列挙(第17章) | 執行猶予付きでも拘禁刑に処せられれば退去強制事由(4号の2) |
| 偽造私文書等行使(刑法161条・第17章) | 3月以上5年以下の拘禁刑 | 列挙(第17章) | 同上 |
依頼した側と替え玉になった側は、どちらが罪になりますか
替え玉を務めた人が実行者として、依頼した人も共同正犯又は教唆犯として、いずれも処罰の対象になり、仲介して報酬を得ていた人も同様です。
替え玉受験は、少なくとも依頼者と替え玉の二人が関わる犯罪です。実際に試験会場で他人名義の答案を作成し提出するのは替え玉ですが、依頼者は自分の受験票や身分証を渡し、報酬を約束し、替え玉が合格すればその利益を受ける立場にあり、犯罪の実現に不可欠な役割を果たしています。したがって、依頼者も共同正犯として替え玉と同じ罪で処罰され得ます。報道事案のように、他人に替え玉受験をさせた側が偽計業務妨害の疑いで逮捕されるのはこのためです。さらに、SNSやチャットで替え玉受験を募集し、依頼者と替え玉を引き合わせて手数料を得ていた仲介者、スマートグラスや小型マイクなどの機器を提供して外部から解答を伝えていた協力者も、共犯として責任を問われます。組織的に行われていた場合は、単発の替え玉よりも計画性や常習性が重くみられ、正式起訴されて拘禁刑が求刑される可能性が高くなります。
替え玉受験はなぜバレるのですか
本人確認の写真との照合、筆跡や過去の成績との不一致、会場での通信機器の発見、入学後の面接や授業での食い違いなど発覚の経路は多く、一人の摘発から通信記録を通じて依頼者全員に捜査が広がります。
試験の実施団体や大学は、替え玉受験への対策を年々強化しています。入室時に身分証の顔写真と本人を照合する、受験票に顔写真を貼らせる、試験中に本人確認を巡回する、答案の筆跡を出願書類と照合する、同一人物の受験履歴と得点の急激な変動を分析するといった方法が一般的です。語学試験では、短期間に点数が大幅に上昇した受験者を抽出して調査することもあります。会場でスマートグラスや小型イヤホン、小型マイクなどが発見されれば、その場で失格となるだけでなく、警察に通報されます。合格後に大学の面接や授業で語学力や知識が明らかに合格水準に達していないことから発覚し、大学が入試の答案と照合して通報する例もあります。そして、一人の替え玉や仲介者が摘発されると、押収された携帯電話のチャットや送金の記録から、過去に依頼した人全員が特定され、順次、逮捕や事情聴取に至ります。報道事案で再逮捕が続いているのは、こうした捜査の広がりを示しています。
大学や試験団体はどのように対応しますか
発覚した替え玉受験は失格・合格取消し・入学許可の取消しとなり、既に在学中であれば退学処分となるのが通常で、刑事事件としての通報も行われます。
試験の段階で発覚すれば、その試験は失格となり、一定期間の受験禁止が付されることもあります。合格後に発覚すれば、合格や入学許可は取り消されます。入学後に発覚した場合は、不正な手段で入学したことを理由に、入学許可の取消しや退学処分となるのが通常です。TOEICのような語学試験のスコアを、大学院入試や就職、在留資格の申請に使っていた場合には、スコアの無効化が通知され、それを基に得た合格や採用、許可にも影響が及びます。刑事手続とは別に、大学や試験団体は警察への通報や被害届の提出を行い、これが捜査の端緒になります。逮捕された場合の身体拘束の流れは一般の事件と同じで、48時間以内の送致、24時間以内の勾留請求、10日間の勾留と最大10日間の延長(刑事訴訟法203条・205条・208条)であり、複数の試験や複数の依頼者が関わる組織的な事案では、一つの試験ごとに再逮捕が繰り返されて身体拘束が長期化する傾向があります。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
有印私文書偽造・同行使は刑法第17章の罪として入管法24条4号の2に列挙されているため、留学などの別表第一の在留資格の方は執行猶予付きでも拘禁刑に処せられれば退去強制事由に該当し、さらに不正に得た合格を基にした在留資格は取消し(同法22条の4)の対象となり、退学となれば留学の活動自体を失います。
第1に、退去強制事由との関係です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、家族滞在など)の方が、刑法第2編第17章(文書偽造の罪)などの特定の章の罪により拘禁刑に処せられた場合を、執行猶予の有無を問わず退去強制事由としています。有印私文書偽造・同行使は第17章の罪ですから、留学生がこれらの罪で有罪となり、執行猶予付きであっても拘禁刑に処せられれば、それだけで退去強制事由に該当します。罰金刑はありませんので、起訴されて有罪となれば拘禁刑となります。他方、偽計業務妨害罪は第35章の罪で4号の2の列挙に含まれていないため、偽計業務妨害のみで有罪となった場合は、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑かどうか(同条4号リ)が基準になります。どの罪名で起訴されるかが在留の帰趨を分けるため、弁護人は文書偽造の成否を含めて争点を検討する必要があります。
第2に、在留資格の取消しです。入管法22条の4は、偽りその他不正の手段により上陸許可や在留資格の変更・更新などの許可を受けた場合や、留学の在留資格の方がその活動を継続して一定期間行っていない場合などに、在留資格を取り消すことができると定めています。替え玉受験で得た合格を基に留学の在留資格を取得し、あるいは大学院への進学に伴って更新していれば、不正の手段によって許可を受けたものとして取消しの対象になります。刑事事件で起訴されなかった場合や、罰金で終わった場合であっても、取消しの手続は別途進み得ます。第3に、退学による活動の喪失です。大学を退学になれば、留学の在留資格に対応する活動を行うことができなくなり、他の大学に入学しない限り在留期間の更新は認められません。退去強制手続に進んだ場合には、在留特別許可(同法50条)の審査がありますが、留学生が日本で築いた基盤は限られることが多く、許可は容易ではありません。また、1年以上の拘禁刑に処せられた方は、入管法5条1項4号により期間の定めなく上陸拒否事由に該当し、退去強制された方は5年間(再度は10年間)上陸を拒否されます(同項9号)。
弁護士に相談すべき場面
- 家族や友人が替え玉受験の疑いで逮捕され、再逮捕が続いて身体拘束がいつまで続くのか分からないとき。
- 依頼しただけ、名前を貸しただけ、機器を渡しただけで、自分がどの罪のどの範囲で責任を問われるのかを知りたいとき。
- 大学や試験団体から事情を聴かれ、警察への通報や退学処分が見込まれるとき。
- 留学の在留資格があり、判決の内容によって退去強制事由に当たるかどうか、在留資格の取消しがあり得るかどうかを知りたいとき。
- 有罪判決の後、進学や就職、在留資格の変更にどのような影響が出るのかを整理したいとき。
当事務所では中国語での相談に対応しており、専属通訳が常駐しています。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で臨んでいますが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
替え玉受験は何罪になりますか。
他人になりすまして受験する行為は、試験の公正な実施を妨げるものとして偽計業務妨害罪(刑法233条・3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)に当たり得ます。受験票や答案に他人の氏名を書いて提出すれば、有印私文書偽造罪・同行使罪(同法159条・161条・いずれも3月以上5年以下の拘禁刑)が成立し得ます。依頼した側も、替え玉を務めた側も、共犯として処罰の対象になります。
替え玉受験はなぜバレるのですか。
受験時の本人確認(身分証の顔写真との照合)、受験票や答案の顔写真、筆跡の不一致、過去の受験記録との得点の乖離、試験会場でのスマートグラスや小型マイクなどの通信機器の発見、合格後の入学手続や面接での本人との食い違いなど、発覚の経路は多岐にわたります。組織的な不正では、関係者の一人が摘発されると通信記録から依頼者全員に捜査が及びます。
TOEICの替え玉受験も犯罪ですか。
TOEICは民間団体が実施する試験ですが、試験の公正な実施は団体の業務であり、他人になりすまして受験すれば偽計業務妨害罪が成立し得ます。受験票や答案用紙に他人の氏名を記入して提出すれば、有印私文書偽造・同行使罪の問題も生じます。報道事案でも、TOEICの替え玉受験について有印私文書偽造・同行使などの疑いで逮捕されたと報じられています。
替え玉受験で有罪になると、留学の在留資格はどうなりますか。
有印私文書偽造・同行使は刑法第17章の罪で、入管法24条4号の2の列挙罪であるため、留学などの別表第一の在留資格の方は、執行猶予付きであっても拘禁刑に処せられれば退去強制事由に該当します。偽計業務妨害のみの場合は、1年を超える実刑が基準です(同条4号リ)。さらに、替え玉受験で得た合格を基に在留資格を取得・変更していれば在留資格の取消し(同法22条の4)の対象になり、大学を退学になれば留学の活動自体を失います。
依頼しただけで自分は受験していません。それでも逮捕されますか。
替え玉受験を依頼した人は、偽計業務妨害や有印私文書偽造・同行使の共犯(共同正犯又は教唆犯)として、自ら受験した人と同様に逮捕・起訴され得ます。報道事案でも、他人に替え玉受験をさせたとして依頼した側が偽計業務妨害の疑いで逮捕されたと報じられています。報酬を支払っていた、通信機器を用意していたといった事情は、関与の深さを示すものとして重くみられます。
根拠条文・出典
- 刑法159条・161条・233条(e-Gov法令検索で確認)、161条の2(私電磁的記録不正作出。条文名のみ)
- 不正アクセス行為の禁止等に関する法律(条文名のみ)
- 刑事訴訟法203条・205条・208条(同上)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、22条の4、24条4号リ・4号の2、50条(同上)
- 2026年1月及び5月の各社報道
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