トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)とは|中国籍の指示役・回収役が逮捕される仕組みと刑事責任
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ、略して「匿流」)とは、SNS等で緩やかに結び付いた者が、匿名性を利用して離合集散を繰り返しながら特殊詐欺や強盗などを行う犯罪グループをいいます。警察庁は令和6年に対策本部を設置し、指示役から回収役まで各役割の者を順次検挙しています。
この記事の要点
- トクリュウは暴力団と異なり固定した組織を持たず、「指示役・かけ子・受け子・出し子・回収役」が互いの顔を知らないまま役割分担をします(警察庁の定義)。
- 現金を受け取っていない指示役や回収役も、共謀共同正犯として詐欺罪(刑法246条、10年以下の拘禁刑)の責任を負います。
- グループの活動として組織的に行われた詐欺は、組織的犯罪処罰法3条により刑が加重される可能性があります。
- 別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、留学、技能など)の方は、詐欺罪で拘禁刑(執行猶予付きを含む)となれば退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。
- 司法取引(刑事訴訟法350条の2)により、共犯者の供述から上位役が逮捕される例が報道されています。
報道された事案の概要
報道によれば、2026年10月、埼玉県内の飲食店の個室トイレで詐取金を受け渡す「回収役」として、中国籍の30代女性が詐欺の疑いで逮捕・送検されました。関与が疑われる詐取金は約7500万円に上るとされています。また、2026年9月末には、広島県警が、匿名・流動型犯罪グループが関与する詐欺事件で、協議・合意制度(いわゆる司法取引)により得た情報を端緒として、上位の役割とみられる中国籍の30代会社役員を逮捕したと報道されました。いずれも容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。
トクリュウとは何ですか
警察庁が「匿名・流動型犯罪グループ」と呼ぶ、SNSで集まり匿名のまま離合集散する犯罪集団です。
従来の暴力団は、組長を頂点とする固定的な組織で、構成員の実体が把握されていました。これに対しトクリュウは、「闇バイト」の募集などを通じてSNSで集まった者が、秘匿性の高い通信アプリで指示を受け、犯行ごとに入れ替わります。メンバー同士が互いの本名や顔を知らないことも多く、末端が逮捕されても上位の者にたどり着きにくい構造になっています。警察庁は令和6年に対策本部を設置し、特殊詐欺・強盗・資金洗浄などを一体として捜査する体制をとっています。
指示役・かけ子・受け子・出し子・回収役の役割分担とは
トクリュウの詐欺は、役割ごとに分業されており、どの役割でも詐欺罪の共犯として処罰されます。
一般に、「指示役」は犯行全体を企画し通信アプリで指示を出す者、「かけ子」は被害者に電話をかけて警察官や親族などを装う者、「受け子」は被害者から現金やキャッシュカードを直接受け取る者、「出し子」は詐取したカードでATMから現金を引き出す者、「回収役」は受け子や出し子が得た現金を集めて上位に送る者を指します。報道された埼玉の事案のように、飲食店の個室トイレなど人目に付かない場所で現金の受渡しが行われるのは、受け子と回収役が互いの顔を見ずに済むようにするためと説明されています。
回収役はなぜ重く扱われるのですか
回収役は複数の受け子から多額の現金を集めるため、関与額が大きく、グループの中核に近いと評価されやすいからです。
受け子は1件ごとの被害者に対応するにすぎませんが、回収役は複数の事件の詐取金を集約するため、立件される被害総額が数千万円規模になることが珍しくありません。量刑では被害額と役割の重要性が大きく考慮されるため、受け子より重い刑が言い渡される傾向があります。また、回収役は指示役と直接連絡を取っていることが多く、捜査機関は回収役の通信履歴を解析して上位の者に迫ろうとします。このため、回収役として逮捕された方は、取調べで他の共犯者について詳しく聴かれることになります。
現金を受け取っていない指示役も詐欺罪になりますか
なります。自ら実行行為をしなくても、共謀に基づいて他人に実行させた者は共謀共同正犯として詐欺罪の責任を負います。
刑法60条は「二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする」と定め、判例は、共謀に参加した者は自ら実行行為を分担しなくても共同正犯となるとしています(共謀共同正犯)。指示役は電話もかけず現金にも触れませんが、犯行計画を立て、役割を割り振り、利益の大半を得る立場にあるため、むしろ最も重い責任を負うのが通常です。報道された広島の事案は、末端の共犯者が司法取引に応じて上位役の情報を提供した結果、指示役とみられる者が逮捕された例として注目されます。
組織的犯罪処罰法で刑が重くなることはありますか
グループが「団体」と評価され、その活動として組織的に詐欺が行われたと認められれば、組織的犯罪処罰法3条による加重の対象となり得ます。
組織的犯罪処罰法3条は、詐欺などの罪が「団体の活動として、当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われたとき」に、刑法より重い法定刑を定めています。トクリュウは離合集散を特徴としますが、指揮命令系統と継続的な役割分担が認められる場合には「団体」に当たると判断される可能性があり、実際に特殊詐欺グループに同法が適用された例があります。加えて、詐取金の移転・隠匿は同法の犯罪収益等隠匿罪(いわゆるマネーロンダリング)に問われることもあります。これらの法定刑の数値は条文を確認のうえでご案内しますが、通常の詐欺罪よりも重い刑を前提に弁護方針を立てる必要があります。
逮捕された後、手続はどのように進みますか
逮捕から最長23日間の身柄拘束を経て、検察官が起訴・不起訴を決めます。
| 段階 | 期間 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 警察による逮捕・取調べ | 48時間以内に検察官へ送致 | 刑事訴訟法203条 |
| 検察官の勾留請求 | 送致から24時間以内 | 刑事訴訟法205条 |
| 勾留 | 10日間、延長で最大20日間 | 刑事訴訟法208条 |
| 起訴・不起訴の決定 | 勾留満了までに | 刑事訴訟法248条 |
詐欺事件では、被害者ごとに別の事実として再逮捕・再勾留が繰り返されることがあり、身柄拘束が数か月に及ぶ例もあります。また、共犯者との口裏合わせを防ぐ目的で接見等禁止が付され、家族との面会や手紙のやり取りが制限されることが多いです。弁護人は逮捕直後から面会できます(刑事訴訟法39条1項)。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
詐欺罪は刑法第2編第37章の罪です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、技能、留学、家族滞在、経営・管理など)で在留する方が、第37章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由としており、執行猶予が付いても該当します。したがって、別表第一の方は、執行猶予付き判決であっても退去強制手続に進むのが原則です。
永住者・日本人の配偶者等・定住者など別表第二の在留資格の方は、4号の2の対象ではありませんが、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑を受けた場合は入管法24条4号リに該当します(全部執行猶予は除かれます)。回収役として数千万円規模の詐取金に関与したとされる場合、実刑となれば1年を超える刑期となることが多く、別表第二の方でも退去強制の危険があります。
退去強制事由に該当した場合でも、日本人の配偶者や子がいるなどの事情があれば、在留特別許可(入管法50条)を求めることができます。令和6年6月10日施行の改正で申請手続と考慮事情が法定されました。一方、退去強制された方は原則5年間(再度の場合は10年間)上陸を拒否され(入管法5条1項9号)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸を拒否されます(同項4号)。
弁護士に相談すべき場面
- 家族が「回収役」「受け子」として逮捕され、警察から連絡があったとき。逮捕直後の供述が在留資格の帰趨まで左右します。
- 取調べで他の共犯者や指示役について聴かれているとき。司法取引や共犯者供述の信用性を踏まえた対応が必要です。
- 「荷物を受け取るだけのアルバイト」と思っていたなど、詐欺の認識(故意)を争う余地があるとき。
- 被害弁償や示談によって不起訴・罰金を目指し、在留資格を守りたいとき。
- 既に起訴され、執行猶予が付いても退去強制になるのかを知りたいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針をとっています(立会いが認められることは現状ほとんどありませんが、取調べの直前に捜査官と協議すること自体に意味があると考えています)。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
トクリュウと暴力団は何が違うのですか。
暴力団は構成員・組織の実体が固定的で、暴力団対策法の規制を受けます。トクリュウは特定の組織に属さない者がSNS等で集まり、犯行ごとに離合集散する点が特徴です。ただし、刑法上の共犯の成立や組織的犯罪処罰法の適用は、グループの名称ではなく、実際の役割分担と意思の連絡によって判断されます。
匿流(トクリュウ)の末端として一度だけ関わった場合でも逮捕されますか。
一度の関与でも、詐欺罪やその未遂の共同正犯として逮捕される可能性があります。特に回収役・受け子は、被害者や他の共犯者の供述、防犯カメラ、通信履歴から特定されやすく、関与額が大きいほど勾留・起訴の可能性が高まります。
指示役は海外にいても日本で処罰されますか。
日本国内で詐欺の結果が生じている以上、日本の刑法が適用されます(刑法1条)。海外にいる指示役であっても、帰国時や国際的な捜査協力を通じて逮捕されることがあります。
被害弁償をすれば在留資格は守れますか。
被害弁償は量刑上重要ですが、別表第一の在留資格の方が詐欺罪で拘禁刑(執行猶予付きを含む)となれば、入管法24条4号の2の退去強制事由に該当します。在留を守るには、不起訴や罰金にとどめる弁護活動が不可欠です。
家族が逮捕されたと警察から連絡がありました。何をすべきですか。
逮捕直後は家族も面会できないのが通常です(接見等禁止が付くことも多いです)。弁護人は逮捕直後から面会できますので(刑事訴訟法39条1項)、できるだけ早く弁護士に依頼し、本人に黙秘権と供述調書の署名押印の意味を伝えてもらうことが重要です。
根拠条文・出典
- 刑法60条(共同正犯)、246条(詐欺)、250条(未遂)(e-Gov法令検索で確認)
- 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条(組織的な詐欺等)、10条(犯罪収益等隠匿)
- 刑事訴訟法39条1項、203条、205条、208条、350条の2(協議・合意制度)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、24条4号リ・4号の2、50条
- 警察庁「匿名・流動型犯罪グループ」に関する公表資料
- 2026年9月から10月の各社報道
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