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司法取引(協議・合意制度)とは|詐欺事件の上位役逮捕に使われた制度と共犯者が知っておくべきこと

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司法取引(協議・合意制度)とは|詐欺事件の上位役逮捕に使われた制度と共犯者が知っておくべきこと

司法取引(協議・合意制度)とは|詐欺事件の上位役逮捕に使われた制度と共犯者が知っておくべきこと

2026/10/11

最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所

司法取引(協議・合意制度)とは、検察官が、詐欺などの「特定犯罪」の被疑者・被告人との間で、他人の刑事事件の解明に協力することと引換えに、不起訴や軽い求刑などの利益を与える合意をする制度です(刑事訴訟法350条の2、2018年6月施行)。日本の制度は他人の事件についての「捜査・公判協力型」に限られ、自分の罪を認める代わりに刑を軽くする「自己負罪型」はありません。

この記事の要点

  • 対象は「特定犯罪」に限られ、詐欺(刑法246条から250条)、組織的犯罪処罰法の罪、薬物・銃器犯罪、財政経済犯罪が含まれます(刑事訴訟法350条の2)。
  • 協議には弁護人が加わり、合意には弁護人の同意が必要です(刑事訴訟法350条の3・350条の4)。
  • 合意に違反して虚偽の供述や偽造証拠の提出をすると、5年以下の拘禁刑に処せられます(刑事訴訟法350条の15)。
  • 共犯者の合意に基づく供述を端緒として、上位役が逮捕される例が報道されています。他人の供述で逮捕された側は、その信用性を争うことができます。
  • 詐欺罪で拘禁刑となった別表第一の在留資格者は、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。

報道された事案の概要

報道によれば、2026年9月末、広島県警は、匿名・流動型犯罪グループが関与する詐欺事件について、協議・合意制度(いわゆる司法取引)により得た情報を端緒として、グループの上位の役割とみられる中国籍の30代会社役員を詐欺の疑いで逮捕したと発表しました。先に逮捕されていた共犯者が検察官と合意し、上位役に関する供述をしたものと報じられています。容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。

司法取引(協議・合意制度)とはどのような制度ですか

被疑者・被告人が「他人の刑事事件」の解明に協力する見返りに、検察官が処分上の利益を与える合意をする制度です。

刑事訴訟法350条の2によれば、検察官は、特定犯罪の被疑者・被告人との間で、本人が他人の刑事事件について真実の供述をすること、証人尋問で真実を証言すること、証拠を提出することなどの協力をし、検察官がその見返りに不起訴、公訴の取消し、特定の訴因・罰条による起訴、求刑についての意見、略式命令の請求などをすることを内容とする合意ができます。協力の対象となる「他人の刑事事件」も特定犯罪でなければなりません。合意の内容は書面にされ、関係する公判では裁判所に提出されます(刑事訴訟法350条の7)。

どのような罪が「特定犯罪」に当たりますか

詐欺を含む財産犯の一部、組織的犯罪処罰法の罪、薬物・銃器犯罪、財政経済犯罪などが対象です。

特定犯罪は刑事訴訟法350条の2第2項に列挙されています。刑法の罪では、詐欺・電子計算機使用詐欺・準詐欺・恐喝とその未遂(246条から250条)のほか、贈収賄、文書偽造などが含まれます。これに組織的犯罪処罰法の罪、覚醒剤取締法など薬物関係の罪、銃刀法の罪、租税法・独占禁止法・金融商品取引法などの財政経済犯罪が加わります。殺人や傷害などの生命・身体に対する罪は、被害者感情への配慮から対象外とされました。特殊詐欺グループの事件が司法取引の典型例と想定されていたことが、この列挙からも分かります。

司法取引で被疑者は何を得られますか

不起訴、軽い訴因での起訴、求刑意見、略式命令請求など、処分の段階に応じた利益です。

協力する側(被疑者・被告人)の行為検察官が与え得る利益
他人の事件について取調べで真実を供述する不起訴処分、公訴の取消し
証人尋問で真実の証言をする特定の訴因・罰条での起訴、訴因・罰条の変更
証拠の収集に協力し、証拠を提出する求刑についての意見、略式命令の請求

受け子や回収役として逮捕された方が指示役の情報を提供し、自身は略式命令による罰金や不起訴にとどまるという使われ方が考えられます。もっとも、検察官が協議に応じるかどうかは検察官の裁量であり、被疑者側から求めれば常に成立するものではありません。

弁護人はどのように関与しますか

協議は原則として弁護人を加えて行われ、合意には弁護人の同意が不可欠です。

刑事訴訟法350条の3は合意に弁護人の同意を要求し、350条の4は協議を検察官と被疑者・被告人及び弁護人との間で行うものと定めています。被疑者本人だけが取調室で捜査官に「仲間のことを話せば軽くなる」と言われて供述しても、それは法律上の司法取引ではなく、利益の保障もありません。弁護人は、協力によって得られる利益と、供述によって負う危険(共犯者からの報復、虚偽供述罪、在留資格への影響)を比較し、合意すべきかどうかを本人とともに判断します。

日本の司法取引とアメリカの司法取引はどう違いますか

日本は他人の事件に協力する「捜査・公判協力型」のみで、自分の罪を認めて刑を軽くする「自己負罪型」は認められていません。

アメリカの司法取引(プリーバーゲニング)は、被告人が自分の罪を認める代わりに訴因や求刑を軽くしてもらう自己負罪型が中心で、大半の事件がこの方法で終結します。日本では、虚偽の自白を誘発するおそれなどから自己負罪型は導入されず、組織犯罪の上位者を解明する目的で、他人の事件に関する協力に限って合意を認めました。また、日本では裁判所が合意の当事者ではなく、量刑は最終的に裁判所が決めます。

共犯者の供述で逮捕された場合、どう争えますか

合意に基づく供述は、自己の利益のために他人を巻き込む危険があるため、信用性を厳しく吟味するよう求めることができます。

司法取引の最大の問題点は「引込み」の危険です。合意をした者は自分の処分を軽くしたいという動機を持つため、他人の関与を誇張したり、記憶にないことを事実のように述べたりするおそれがあります。このため、合意内容書面が裁判所に提出され、供述者が証人となる場合には弁護人が反対尋問を行い、通信履歴や金銭の流れなど客観的な証拠との整合性を検証します。また、合意者が虚偽の供述をすれば刑事訴訟法350条の15の罪に問われることも、信用性を争う際の前提となります。他人の供述だけで指示役と断定されることのないよう、逮捕直後から客観証拠の確保と黙秘権の行使を含めた対応をとることが重要です。

外国人(中国籍の方)の在留資格への影響

司法取引の対象となる詐欺罪は刑法第2編第37章の罪です。入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、技能、留学、経営・管理など)の方が第37章の罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由とし、執行猶予付きでも該当します。したがって、司法取引によって軽い処分を目指す場合、別表第一の方にとっては「拘禁刑を避け、不起訴又は罰金(略式命令)にとどめる」ことが在留資格を維持する分かれ目になります。永住者・日本人の配偶者等などの別表第二の方は4号の2の対象ではありませんが、1年を超える拘禁刑の実刑となれば24条4号リに該当します(全部執行猶予は除外)。

他方、司法取引で協力し不起訴となった場合でも、入管の在留期間更新や永住許可の審査では、事件への関与自体が素行の評価に影響することがあります。退去強制事由に該当した場合は、在留特別許可(入管法50条)を求める余地があります。退去強制された方の上陸拒否期間は原則5年(入管法5条1項9号)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸を拒否されます(同項4号)。

弁護士に相談すべき場面

  • 取調べで「仲間のことを話せば処分を軽くする」と持ちかけられたとき。正式な協議・合意によるべきかを弁護人が判断します。
  • 共犯者の供述を根拠に指示役・上位役として逮捕されたとき。供述の信用性と客観証拠との整合性を争う必要があります。
  • 受け子・回収役として逮捕され、司法取引によって不起訴や罰金を目指したいとき。
  • 合意後に供述内容を変えたい、又は合意から離脱したいと考えているとき。虚偽供述罪のリスクを踏まえた助言が必要です。
  • 処分の内容(不起訴・罰金・拘禁刑)によって在留資格がどうなるかを知りたいとき。

舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針をとっています(立会いが認められることは現状ほとんどありませんが、取調べの直前に捜査官と協議すること自体に意味があると考えています)。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。

よくある質問

司法取引に応じれば、自分は不起訴が約束されるのですか。

合意の内容次第です。不起訴のほか、軽い訴因での起訴、求刑意見、略式命令請求などが合意の対象になり、どれになるかは協議で決まります。また、合意は検察官・本人・弁護人の三者が書面で確定して初めて効力を持ち、取調べでの口約束には拘束力がありません。

共犯者が司法取引で私のことを話したら、私はどうなりますか。

共犯者の供述を端緒として逮捕される可能性があります。もっとも、合意に基づく供述は、自分の刑を軽くしたい動機から他人を巻き込む危険があるため、裁判では合意内容書面が証拠として提出され、信用性が慎重に吟味されます。弁護人は反対尋問や客観証拠との矛盾の指摘によって争うことができます。

司法取引で嘘をつくとどうなりますか。

合意に違反して虚偽の供述をし、又は偽造・変造の証拠を提出した者は、5年以下の拘禁刑に処せられます(刑事訴訟法350条の15)。司法取引で得た利益を失うだけでなく、新たな罪に問われます。

外国人でも司法取引を使えますか。

国籍による制限はありません。ただし、協議は日本語で行われるため、通訳を介して内容を正確に理解したうえで、弁護人の同意のもとに合意する必要があります。在留資格への影響も含めて判断すべきですので、入管事件に通じた弁護人と相談することが重要です。

取調べで「仲間のことを話せば軽くしてやる」と言われました。これは司法取引ですか。

違います。正式な協議・合意は検察官が弁護人を加えて行い、書面で確定するものです。取調官の口頭の働きかけは法律上の司法取引ではなく、それに基づいて供述しても利益が保障されません。まず弁護人に相談し、正式な手続によるべきかを判断してください。

根拠条文・出典

  • 刑事訴訟法350条の2(合意)、350条の3(弁護人の同意)、350条の4(協議)、350条の7(合意内容書面の提出)、350条の15(虚偽供述等の罪)(e-Gov法令検索で確認)
  • 刑法246条(詐欺)、250条(未遂)
  • 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律3条
  • 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、24条4号リ・4号の2、50条
  • 2026年9月から10月の各社報道

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