在留特別許可の許可・不許可事例は「裁量基準」|合理的理由なく外れた不許可処分は違憲・違法――平等原則・比例原則で争う
2026/09/24
在留特別許可の許可事例・不許可事例は、個別の事例であると同時に、法務大臣の裁量権行使の基準(裁量基準・処分基準)として機能します。合理的な理由なくその基準から外れた不許可処分は、平等原則・比例原則に反し、違憲・違法です。
最終更新日:2026年9月23日/執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/微信(WeChat)ID:matsumura1119
本記事の要点
- 出入国在留管理庁は、「在留特別許可の透明性を高めるため」に許可・不許可事例を毎年公表し、判断の考え方をガイドラインとして公にしています。
- 最高裁は、行政庁が公にしている基準と異なる取扱いをすることは、「公正かつ平等な取扱いの要請」や「相手方の信頼の保護」の観点から、特段の事情がない限り裁量権の逸脱・濫用に当たると判示しています(最判平成27年3月3日)。
- 公表事例は個別事例ですが、同種の事案で許可しながら、合理的理由なく別の事案を不許可とすることは、平等原則(憲法14条1項)と比例原則に反します。
- 当事務所では公表事例のデータベース化を進め、問題となる類型ごとに正確な比較調査を行ったうえで、平等原則違反・比例原則違反を主張します。
- 在留特別許可を希望される方は、申請の段階からご依頼ください。
在留特別許可の公表事例とガイドラインは、法的にどういう位置づけなのか?
法務大臣が自ら公にした、裁量権行使の基準です。出入国在留管理庁は、公表事例の冒頭で次のように述べています。
「在留特別許可の透明性を高めるため,平成16年以降,各種の事例を公表しているところですが,本年も,平成30年中に在留特別許可された事例のうち19件,在留特別許可されなかった事例のうち19件について,類型別に分類の上,次の2のとおり公表します。」(出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」令和元年5月)
また、「在留特別許可に係るガイドライン」は、令和5年改正入管法と参議院の附帯決議を踏まえて令和6年6月に改定され、同月10日から運用されています。改正法は、在留特別許可の判断で考慮すべき事情を法律に書き込み(入管法50条5項)、不許可の場合には理由を付した書面で通知することを義務づけました(同条10項)。
外国人の出入国に関する処分には行政手続法の処分基準の規定は適用されませんが(行政手続法3条1項10号)、事例とガイドラインを公にし、それに沿って判断していることを示している以上、これらは機能的には処分基準と同じ役割を果たしています。
基準から外れた処分は、なぜ違法になるのか?
公にされた基準と異なる取扱いは、特段の事情がない限り、公正・平等な取扱いの要請と信頼保護に反し、裁量権の逸脱・濫用となるからです。
最高裁はかつて、マクリーン事件で次のように述べていました。
「行政庁がその裁量に任された事項について裁量権行使の準則を定めることがあつても、このような準則は、本来、行政庁の処分の妥当性を確保するためのものなのであるから、処分が右準則に違背して行われたとしても、原則として当不当の問題を生ずるにとどまり、当然に違法となるものではない。」(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁)
しかしその後、最高裁は、公にされた基準の拘束力について次のように判示しました。
「行政庁が同項の規定により定めて公にしている処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合に,当該行政庁が後行の処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いをするならば,裁量権の行使における公正かつ平等な取扱いの要請や基準の内容に係る相手方の信頼の保護等の観点から,当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることを相当と認めるべき特段の事情がない限り,そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることとなる」(最判平成27年3月3日民集69巻2号143頁)
この判決が根拠としているのは、「公正かつ平等な取扱いの要請」と「相手方の信頼の保護」です。いずれも行政手続法に固有の要請ではなく、裁量処分一般に及ぶ憲法上・法治主義上の要請です。行政庁が自ら基準を公にし、「透明性を高めるため」に事例を示している以上、同じ理は在留特別許可にも及ぶ、というのが当事務所の立場です。
平等原則違反・比例原則違反は、どのように主張するのか?
類似の許可事例と比べて不許可とした合理的理由がないこと(平等原則)、失われる利益と処分の目的との均衡を欠くこと(比例原則)を、具体的な事例と数字で示します。
表1 在留特別許可をめぐる主張の組立て
| 主張 | 内容 | 主に使う資料 |
|---|---|---|
| 平等原則違反(憲法14条1項) | 同じ類型・同程度の事情で許可された事例があるのに、合理的理由なく不許可とした | 公表事例(類型・発覚理由・在日期間・婚姻期間・子・刑事処分)、当事務所のデータベース |
| 比例原則違反 | 退去強制によって失われる家族の結合・生活基盤・子の利益が、違反の程度と比べて著しく重い | 入管法50条5項の考慮事項、ガイドラインの積極要素・消極要素、生活・家族の証拠 |
| 信頼保護・考慮不尽 | 公にされた基準で積極要素とされた事情を考慮せず、または消極要素を過大に評価した | ガイドライン、不許可理由書(入管法50条10項) |
たとえばガイドラインは、「不法滞在を申告するため、自ら地方出入国在留管理官署に出頭したこと」を積極要素として挙げています。当事務所の集計では、公表事例452件のうち出頭申告の事例は212件で、うち172件(約81%)が許可されています。出頭申告をし、婚姻の実体や子の養育など同じ事情を備えた方が不許可とされた場合、類似の許可事例との違いを入管が合理的に説明できるかが問われます。
比例原則の面では、入管法50条5項が、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、その間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性を考慮事項として定めています。これらを軽視し、違反の事実だけを過大に評価した判断は、手段と目的の均衡を欠きます。
なぜ類型ごとの正確な調査が必要なのか?
特定の事情だけを取り出した形式的な比較では足りず、類型・発覚理由・家族関係・刑事処分などを揃えた正確な比較が、平等原則違反の主張の土台になるからです。
在留特別許可は諸事情を総合して判断されます。そのため、「似た事例で許可が出ている」と主張するだけでは、入管から「事情が違う」と反論されます。比較の相手となる事例を、次のような軸で正確に絞り込む必要があります。
- 家族類型(配偶者が日本人/配偶者が正規在留の外国人/子と共に不法滞在/その他)
- 発覚理由(出頭申告か、警察逮捕か)
- 在日期間・不法滞在期間・婚姻期間・子の年齢
- 刑事処分の有無と内容、退去強制歴・在留特別許可歴
当事務所では、出入国在留管理庁が公表した平成26年分から令和7年分までの事例452件を原本と照合し、類型・発覚理由・刑事処分ごとに検索できるデータベースとして集約を進めています(在留特別許可データベース)。依頼を受けた事案については、問題となる類型ごとに比較対象の事例を洗い出し、許可事例と何が同じで何が違うのかを一件ずつ特定します。
当事務所は、どの段階で何をするのか?
申請の段階から裁判まで、同じデータと同じ論理で一貫して争います。
表2 段階ごとの対応
| 段階 | 当事務所の対応 |
|---|---|
| 刑事事件の段階 | 不起訴を目指す弁護活動(刑事処分の有無が在留特別許可の結論を大きく左右するため) |
| 在留特別許可の申請 | 類似の許可事例との比較表を添え、平等原則・比例原則に沿って申請書面を作成 |
| 不許可処分を受けたとき | 理由書(入管法50条10項)を精査し、基準から外れた点を特定 |
| 裁判 | 処分の取消訴訟、退去強制令書の執行停止の申立てで、平等原則違反・比例原則違反を主張 |
在留特別許可の申請は、退去強制令書が発付された後はできません(入管法50条3項)。比較調査と証拠の準備には時間がかかるため、早い段階でのご相談が重要です。
よくある質問
Q1 公表事例は個別の事例にすぎず、基準にはならないのではありませんか?
公表事例は個別の事例ですが、入管庁自身が「透明性を高めるため」に類型別に分類して公表しているものです。同種の事案で許可しながら、合理的理由なく別の事案を不許可とすることは、平等原則に反します。
Q2 ガイドラインに沿っていない不許可処分は、すぐに違法になりますか?
基準から外れたことだけで直ちに違法となるわけではありません。最判平成27年3月3日は、基準と異なる取扱いを相当とする「特段の事情」がない限り、裁量権の逸脱・濫用に当たるとしています。当事務所は、特段の事情がないことを、類似事例との比較で具体的に示します。
Q3 自分の事案と似た公表事例があるかどうか、調べてもらえますか?
はい。当事務所のデータベースで、家族類型、発覚理由、在日期間、刑事処分などを揃えた比較を行います。
Q4 すでに不許可処分を受けてしまいました。まだ争えますか?
不許可の処分には理由を付した書面が交付されます(入管法50条10項)。処分の取消訴訟や、退去強制令書の執行停止の申立てで争う方法があります。取消訴訟には出訴期間があるため、すぐにご相談ください。
Q5 中国語で相談できますか?
できます。微信(WeChat)ID:matsumura1119 からもご連絡いただけます。
在留特別許可を希望される方へ
在留特別許可は、法務大臣の広い裁量に委ねられた処分です。だからこそ、入管が自ら公にした基準と事例に照らして、「なぜこの事案だけが不許可なのか」を具体的に問うことが、最も有効な武器になります。当事務所は、公表事例のデータベースと類型ごとの正確な調査に基づき、平等原則違反・比例原則違反を主張して、依頼者の在留を守るために戦います。
在留特別許可を希望されるのであれば、ぜひ当事務所にご依頼ください。
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出典・根拠
- 出入国管理及び難民認定法50条3項・5項・10項、行政手続法3条1項10号、行政事件訴訟法30条、憲法14条1項(e-Gov法令検索で現行条文を確認)
- 最大判昭和53年10月4日民集32巻7号1223頁(マクリーン事件)
- 最判平成27年3月3日民集69巻2号143頁
- 出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」(平成26年分〜令和7年分)
- 出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」(令和6年6月改定)
本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の事案についての法的助言ではありません。結果を保証するものではありません。