金の密輸(関税法違反・消費税法違反)で逮捕されたらどうなるか|罰則・没収・追徴と在留への影響
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
金の密輸で逮捕されると、無許可輸入(関税法111条)や消費税を免れたこと(消費税法64条)について、最長で10年以下の拘禁刑や1000万円以下の罰金(併科もあります)が問題になるほか、金塊そのものが没収され、没収できない場合は追徴が命じられます。中国籍の方の在留については、これらの罪は入管法24条4号の2の列挙罪に含まれないため、1年を超える実刑かどうか(同条4号リ)が分かれ目になります。
この記事の要点
- 金を申告せずに持ち込むと無許可輸入の罪となり、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はその併科で、未遂も処罰されます(関税法111条1項・3項)。
- 偽りその他不正の行為により消費税を免れると、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又はその併科です(消費税法64条1項)。
- 犯罪に係る金塊は没収され、没収できないときは追徴が命じられます(関税法118条)。
- 運搬役であっても、中身が金である可能性を認識していれば故意が認められ、共犯として処罰されます。
- 関税法違反・消費税法違反は入管法24条4号の2の列挙罪ではなく、1年を超える実刑かどうか(同条4号リ)で退去強制事由該当性が判断されます。
報道された事案の概要
報道によれば、2026年6月から7月にかけて、約10億円相当の金塊を人形の中に隠して国内に持ち込もうとしたとして、中国籍の40代から50代の男女5人と日本人1人の計6人が、関税法違反(無許可輸入未遂)などの疑いで逮捕され、その後全員が起訴されたとされています。別に、約53億円相当の金も押収されたと報じられています。報道は捜査機関の発表に基づくものであり、本記事では個々の事実関係の当否には立ち入らず、金の密輸事件一般について解説します。
金の密輸はなぜ犯罪になるのですか
金の輸入には消費税が課されるため、申告せずに持ち込んで国内で売却すると消費税分が利ざやになり、この行為が無許可輸入と消費税の逋脱として処罰されます。
金そのものは輸入が禁止された物ではありません。しかし、外国から金を輸入するときは税関に申告し、輸入時に消費税を納める必要があります。密輸は、この消費税を納めずに金を持ち込み、国内の買取業者に消費税込みの価格で売却することで、納めなかった消費税分を利益として得る手口です。金の価格が高騰するほど、同じ重さで得られる利益が大きくなるため、組織的な密輸が繰り返されてきました。税関は空港や港で手荷物検査や身体検査を行い、人形や衣類、体内などに隠した金塊を摘発しています。申告せずに持ち込む行為は無許可輸入(関税法111条)に、消費税を免れる行為は消費税法64条に、それぞれ該当し得ます。
関税法違反・消費税法違反の罰則はどうなっていますか
無許可輸入は5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科、消費税の逋脱は10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科で、関税を免れた場合には関税法110条の罪も問題になります。
関税法111条1項は、許可を受けないで貨物を輸出入した者や虚偽の申告をした者を、5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めています。貨物の価格の5倍が1000万円を超えるときは、罰金の上限は価格の5倍以下となるため、高額の金塊では罰金額が大きくなります。同条3項により未遂も処罰され、報道事案のように税関で発見された場合は未遂として立件されます。消費税法64条1項は、偽りその他不正の行為により消費税を免れた者を10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金に処し、又は併科すると定めています。関税法110条1項は、偽りその他不正の行為により関税を免れた場合の罪で、10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科です。金は関税が課されない品目であるため、実務上は111条と消費税法64条が中心になりますが、他の課税品目を併せて密輸した場合には110条も問題になります。
| 罪名 | 法定刑 | 没収・追徴 | 中国籍の方の在留への影響 |
|---|---|---|---|
| 無許可輸入・未遂(関税法111条1項・3項) | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科(貨物価格の5倍が上回るときは5倍以下) | 関税法118条により金塊を没収、できないときは追徴 | 1年を超える実刑なら退去強制事由(入管法24条4号リ)。執行猶予・罰金は更新審査で素行を考慮 |
| 消費税の逋脱(消費税法64条1項) | 10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科 | 免れた税額の納付が別途問題になる | 同上 |
| 関税の逋脱(関税法110条1項) | 10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科(罰金の上限は免れた関税額の10倍まで引上げ可) | 関税法118条により没収・追徴 | 同上 |
金塊は没収されますか。追徴とはどのような制度ですか
犯罪に係る金塊は没収され、既に売却されるなどして没収できないときは、その価格に相当する金額の追徴が命じられます。
関税法118条は、関税法の一定の罪に係る貨物の没収と、没収することができない場合の追徴について定めています。税関で押収された金塊は没収の対象となり、本人の手元には戻りません。既に国内で売却されて現物がない場合には、その価格に相当する金額を国庫に納めるよう命じられます。没収・追徴は罰金とは別に科されるため、罰金に加えて金塊相当額の負担が生じることになり、経済的な影響は大きなものになります。運搬役が金塊の所有者でない場合でも、没収の対象となること自体は変わりません。
税関の通告処分と刑事手続はどのような関係にありますか
関税法の犯則事件では税関長による通告処分の手続がありますが、金額が大きく悪質な事案は税関から検察官に告発され、警察・検察による逮捕・起訴の手続に進みます。
関税法には、税関職員が犯則事件を調査し、税関長が調査結果に基づいて罰金相当額の納付などを通告する手続(犯則事件の調査及び処分に関する規定)があります。通告の内容を履行すれば刑事手続には進みません。しかし、通告処分は比較的軽微な事案を対象とする運用であり、報道事案のように数億円規模の金塊を隠して持ち込もうとした事案では、税関が検察官に告発し、警察や検察が関税法違反・消費税法違反で逮捕・勾留し、起訴する流れになるのが通常です。逮捕後は48時間以内に送致、24時間以内に勾留請求、勾留は10日で最大10日延長という一般の刑事手続と同じ流れをたどり(刑事訴訟法203条・205条・208条)、組織的な事案では共犯者との口裏合わせを防ぐため接見等禁止が付くことが多くあります。
運び屋(運搬役)は「知らなかった」で済みますか
中身が金である可能性を認識しながら運んだと認められれば未必の故意として処罰され、報酬の額や隠匿の方法が故意の認定に大きく影響します。
関税法違反・消費税法違反は故意犯であり、運搬役が金塊であることを認識していなかった場合には処罰されません。しかし、見知らぬ人物から高額の報酬で荷物の運搬を依頼された、荷物の中身を確認しないよう指示された、不自然な重さや隠し方であった、過去にも同様の運搬をしたことがあるといった事情があると、金である可能性を認識しつつあえて運んだとして未必の故意が認定されやすくなります。渡航費や報酬を受け取って繰り返し来日している場合には、組織の一員として共同正犯の責任を問われることもあります。他方で、依頼の経緯、本人の年齢や言語能力、荷物の外見などから認識がなかったことを具体的に説明できる場合もあり、取調べの初期に安易に認める供述をせず、弁護人と事実関係を整理することが重要です。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
関税法違反・消費税法違反は入管法24条4号の2の列挙罪ではないため、別表第一の在留資格の方でも執行猶予や罰金では退去強制事由に該当せず、1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合に該当します(同条4号リ)。
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格の方が刑法の窃盗・詐欺・傷害などの特定の章の罪や暴力行為等処罰法などの罪で拘禁刑に処せられた場合を、執行猶予の有無を問わず退去強制事由としていますが、関税法と消費税法はこの列挙に含まれていません。したがって、在留資格の種類を問わず、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられたかどうか(同条4号リ。刑の全部の執行猶予は除かれます)が基準になります。金塊の価額が大きい事案では実刑判決となる例があり、その場合は服役後に退去強制手続に進みます。執行猶予や罰金で終わった場合は退去強制事由には当たりませんが、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では素行が考慮されるため、不許可となるおそれがあります。また、1年以上の拘禁刑に処せられた方は、入管法5条1項4号により期間の定めなく上陸拒否事由に該当し、退去強制された方は5年間(再度は10年間)上陸を拒否されます(同項9号)。退去強制手続に進んだ場合は、在留特別許可(同法50条)の審査で家族関係や在留期間が考慮されます。
弁護士に相談すべき場面
- 家族が空港で税関に止められ、そのまま逮捕されたと連絡を受けたとき。
- 荷物の運搬を頼まれただけで中身を知らなかったが、取調べで故意を認めるよう求められているとき。
- 税関の調査を受けており、通告処分で終わるのか刑事手続に進むのかを知りたいとき。
- 就労や経営・管理の在留資格があり、判決の内容によって在留期間の更新に影響が出るおそれがあるとき。
- 起訴後の保釈や、没収・追徴の範囲について見通しを知りたいとき。
当事務所では中国語での相談に対応しており、専属通訳が常駐しています。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で臨んでいますが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
金の密輸はなぜ犯罪になるのですか。金を持ち込むこと自体は違法ではないのでは。
金を輸入すること自体は禁止されていませんが、輸入には税関への申告と消費税の納付が必要です。申告せずに持ち込むと無許可輸入(関税法111条)となり、消費税を免れたことについて消費税法64条の問題も生じます。密輸の動機は、輸入時に納めるはずの消費税分を国内での売却価格に上乗せして得る利ざやにあり、税関の摘発対象となっています。
頼まれて運んだだけで、中身が金だとは知らなかった場合はどうなりますか。
関税法違反・消費税法違反が成立するには故意が必要です。中身を知らなかったという主張は、荷物の受取りや報酬の経緯、指示の内容、運搬の方法などから、金である可能性を認識していたかどうかを検討して判断されます。多額の報酬や不自然な隠し方があると、未必の故意が認定されやすくなります。取調べで安易に認める供述をする前に、弁護人と事実関係を整理することが重要です。
逮捕された金塊は没収されますか。追徴とは何ですか。
関税法118条は、犯罪に係る貨物の没収と、没収できない場合の追徴を定めています。押収された金塊は没収の対象となり、既に処分されて没収できない場合は、その価格に相当する金額の追徴が命じられることがあります。没収・追徴は罰金とは別に科されるため、金塊の価値が高いほど経済的な負担は大きくなります。
税関の通告処分とは何ですか。通告処分で終われば逮捕されませんか。
関税法の犯則事件では、税関長が調査の結果に基づき、罰金に相当する金額の納付などを通告する手続があり、これを履行すれば刑事手続に進まない仕組みです。ただし、金塊の密輸のように金額が大きく悪質と判断される事案では、税関が検察官に告発し、警察や検察が逮捕・起訴する流れになるのが通常です。どちらの手続に進むかは事案によります。
中国籍で就労の在留資格があります。有罪になると強制送還されますか。
関税法違反・消費税法違反は入管法24条4号の2の列挙罪に含まれていないため、執行猶予付きの判決や罰金では退去強制事由に該当せず、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた場合に該当します(同条4号リ)。ただし、退去強制事由に当たらなくても、在留期間更新の審査では素行が考慮され、不許可となるおそれがあります。
根拠条文・出典
- 関税法110条1項・111条1項・3項(e-Gov法令検索で確認)、118条(条文名のみ)、犯則事件の調査及び処分に関する規定(条文名のみ)
- 消費税法64条1項(同上)
- 刑事訴訟法203条・205条・208条(同上)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、24条4号リ・4号の2、50条(同上)
- 2026年6月から7月の各社報道
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