婚姻の実体をどう立証するか|在留特別許可で同居・家計・子を示す資料と偽装婚との違い
2026/10/11
婚姻の実体は、夫婦の言葉ではなく、同居・家計・子・交流の経過を示す客観的な資料の積み重ねで立証するものであり、婚姻期間が長くても「実態」が認められなければ不許可になるため、刑事事件の段階から資料を残しておくことが欠かせません。配偶者が日本人や永住者でも、婚姻の中身が示せなければ、ガイドラインの「特に考慮する積極要素」は働きません。
本記事の要点
- ガイドラインは、婚姻が「安定かつ成熟していること」を求め、偽装婚や形式的な婚姻届を明示的に除いています。
- 許否の判断では、申立ての内容だけでなく、具体的な根拠の有無や客観的な状況が考慮されます(ガイドライン第3)。
- 公表事例には、婚姻期間が約10年や約30年に及んでいても、婚姻・同居の実態が認められずに不許可とされた例があります。
- 逮捕や勾留の後に成立した婚姻は公表事例上ほとんど許可されておらず、法律婚の前の内縁期間を立証して婚姻の成熟を補った許可例があります。
在留特別許可で、なぜ婚姻の実体が問われるのですか。
ガイドラインが婚姻を積極要素とするのは、形だけの婚姻ではなく、夫婦として実際に支え合ってきた婚姻に限られるからです。
「当該外国人が、日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」(在留特別許可に係るガイドライン第2の2(1)ウ)
配偶者が永住者・定住者など別表第二の在留資格の場合も、第2の2(2)ウで同じ要件が置かれています。「安定かつ成熟」の意味は婚姻が安定かつ成熟とはで説明しています。
婚姻の実体は、どのように判断されますか。
本人や配偶者の説明だけでなく、それを裏づける根拠と客観的な状況から判断されます。説明と資料が食い違えば、かえって不利に働きます。
「個々の事案ごとに当該外国人の申立て内容だけでなく、具体的な根拠の有無や客観的な状況も考慮した結果、各考慮事情に認められる積極要素及び消極要素を総合的に勘案し」(ガイドライン第3)
また、ガイドライン第2の9は、退去強制手続や在留諸申請で「虚偽の内容の申告を行ったこと」を消極要素に挙げています。都合の悪い事実を伏せたり、同居の時期を実際より長く述べたりすると、婚姻そのものの信用を失います。
どのような資料で婚姻の実体を立証しますか。
ガイドラインの文言に一つずつ対応する形で、客観的な資料をそろえるのが基本です。
| 示すべき事実 | 資料の例 | 対応する文言 |
|---|---|---|
| 同居していること | 世帯全員の住民票、賃貸借契約書、公共料金の領収書 | 夫婦として相当期間共同生活 |
| 家計を共にしていること | 生活費の振込・送金の記録、共同で使う口座、家計の分担の説明 | 相互に協力して扶助 |
| 子を共に育てていること | 出生の記録、保育園・学校の書類、医療の記録 | 夫婦の間に子がいる |
| 交際から現在までの経過 | 時期のわかる写真、やり取りの記録、親族との交流の記録 | 安定かつ成熟 |
| 周囲が夫婦と認めていること | 親族・友人・勤務先の陳述書 | 安定かつ成熟 |
写真は枚数より、出会いから現在まで時期が途切れないことが大切です。夫婦本人と第三者の陳述書の書き方は配偶者の陳述書・嘆願書の書き方にまとめています。
公表事例では、婚姻の実体が否定された例がありますか。
あります。婚姻期間が長い事案でも、婚姻・同居の実態が認められないとして不許可とされています。
| 公表事例 | 婚姻期間と主な事情 | 特記事項 |
|---|---|---|
| 令和5年分(2023年)・配偶者が日本人の場合・不許可第1事例 | 婚姻約1年8月、出頭申告、刑事処分なし | 婚姻・同居の実態が認められなかったもの |
| 令和5年分・配偶者が日本人の場合・不許可第5事例 | 婚姻約30年3月、不法就労助長で罰金30万円の略式命令 | 婚姻・同居の実態が認められなかったもの |
| 令和4年分・配偶者が日本人の場合・不許可第3事例 | 婚姻約7年、窃盗で懲役2年8月(当時の刑名。現行法の拘禁刑に相当) | 同居の実態が認められなかったもの、虚偽の申告 |
| 平成29年分・配偶者が日本人の場合・不許可第4事例 | 婚姻約10年、商標法違反で懲役1年6月・罰金150万円 | 婚姻・同居の実態に疑義 |
(出典:出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」各年分)
刑事処分のない事案でも、実態がなければ不許可です。婚姻期間の長さは、実体の証明の代わりにはなりません。
別居している場合や、逮捕の後に結婚した場合はどうなりますか。
別居していても直ちに不許可となるわけではありませんが、理由と夫婦のつながりを説明する必要があります。逮捕や勾留の後に結婚した場合は、公表事例上きわめて厳しく見られています。
令和6年分(6月10日以降)・配偶者が日本人の場合・不許可第2事例は、婚姻約34年2月でしたが、不法就労助長で罰金20万円の略式命令を受け、配偶者と別居していた事案で、在留特別許可は認められませんでした。婚姻期間が長くても、別居の事実がほかの消極的な事情と重なれば、結論に影響します。
一方、平成26年分・配偶者が日本人の場合・不許可第3事例には「勾留中に婚姻が成立したもの」との記載があり、逮捕や収容の後に成立した婚姻が許可された公表事例はほとんど見当たりません。
反対に、結婚前から同居していた期間は、法律婚の後に評価されることがあります。平成27年分・配偶者が正規在留外国人の場合・許可第2事例は、婚姻約5月でしたが、内縁期間約3年7月が明記されて許可されています。内縁の扱いは内縁とは(在留特別許可での評価)をご覧ください。
偽装結婚と疑われないために、何に気をつければよいですか。
婚姻の経過を、事実のとおり、資料と一致する形で説明することに尽きます。
公表事例には、偽装結婚に関わって電磁的公正証書原本不実記録・同供用の罪で有罪となり、不許可とされた例が繰り返し現れます。偽装結婚は、それ自体が刑事事件になり、ガイドライン上も積極要素から除かれます。真実の婚姻であっても、説明が二転三転すれば同じ疑いを招きかねません。
夫婦それぞれが入管や警察で話す内容は、出会いの時期、同居の開始、家計の分け方など細部まで一致している必要があります。供述調書が作られる刑事事件の段階から、在留を見すえて話す内容を整理しておくことが大切です。
弁護士に相談するのは、いつがよいですか。
逮捕された直後が望ましい時期です。刑事事件の供述と入管での説明を一貫させ、確定までの時間で資料を整える必要があるからです。
当事務所には、刑事事件で有罪判決を受けた方について、判決確定までの期間を使って家族の状況を整え、在留特別許可を得た実績があります。ただし、結論は個別の事情によって異なり、許可をお約束できるものではありません。
よくある質問
Q1. 婚姻期間が長ければ、婚姻の実体は認められますか。
期間だけでは認められません。令和5年分・配偶者が日本人の場合・不許可第5事例は婚姻約30年3月でしたが、婚姻・同居の実態が認められず不許可でした。同居や家計の共同を客観的な資料で示す必要があります。
Q2. 夫婦の写真が少ないのですが、不利になりますか。
写真はあくまで資料の一つです。住民票、送金の記録、子の学校の書類、第三者の陳述書などを組み合わせて、同居と扶助の実態を示すことができます。
Q3. 仕事の都合で別居しています。在留特別許可は難しいですか。
別居だけで直ちに不許可となるわけではありません。別居の理由、生活費の送金、定期的な行き来などを資料で示し、夫婦として扶助し合っていることを説明する必要があります。
Q4. 逮捕された後に婚姻届を出しても意味はありますか。
公表事例では、逮捕や勾留の後に成立した婚姻はほとんど許可されていません。それ以前から交際・同居していたのであれば、その期間を資料で立証することが重要です。
シリーズの関連記事
- 【柱記事】在留特別許可は配偶者の在留資格で分かれる
- シリーズ総索引(全記事一覧)
- 在留特別許可申請で配偶者が準備する書類|戸籍・住民票から陳述書・嘆願書まで
- 配偶者の陳述書・嘆願書の書き方|在留特別許可で伝わる事実と将来の監督を弁護士が解説
- 公表事例を使った在留特別許可の主張の組み立て|裁量基準・平等原則・比例原則を弁護士が解説
本記事は一般的な解説であり、個別の事案の結論を保証するものではありません。具体的な見通しは、事情を伺ったうえでご説明します。
最終更新日:2026年10月11日
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119