中国籍の方が逮捕されたらどうなるか|逮捕から釈放・起訴・判決・強制送還までの流れ
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
中国籍の方が日本で逮捕されると、最長23日間の身柄拘束の中で起訴するかどうかが決まり、有罪判決を受けた場合には、刑事手続とは別に入管法上の退去強制手続(強制送還)が問題になります。不起訴や執行猶予で終わっても在留資格の問題が残ることがあるため、刑事弁護と入管対応を同時に進める必要があります。
この記事の要点
- 逮捕から48時間以内に検察官へ送致され、24時間以内に勾留請求、勾留は10日で最大10日延長されます(刑事訴訟法203条・205条・208条)。
- 逮捕された外国人は、本人が希望すれば自国の領事機関に通報されます(領事関係に関するウィーン条約36条)。
- 不起訴になれば刑事手続は終わりますが、退去強制事由が別にあれば入管の手続に引き継がれることがあります(入管法24条)。
- 窃盗・詐欺・監禁などで拘禁刑の判決を受けると、別表第一の在留資格の方は執行猶予でも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。
- 退去強制されると原則5年間、再度の場合は10年間上陸できず、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸拒否事由に当たります(入管法5条1項9号・4号)。
報道された事案の概要
2026年9月から10月にかけて、中国籍の方が逮捕されたとする報道が各地で相次ぎました。報道によれば、特殊詐欺グループの受け子や回収役として被害者から現金やキャッシュカードを受け取ったとする詐欺の容疑、スーパー銭湯の脱衣所でロッカーをこじ開けようとしたとする窃盗未遂の容疑、電車内で乗客のバッグから財布を抜き取ったとするスリ(窃盗)の容疑、金塊を隠して国内に持ち込もうとしたとする関税法違反の容疑、人を部屋に閉じ込めたとする監禁の容疑など、罪名も手口も多岐にわたります。年齢は20代から50代まで幅広く、容疑を認めている方も否認している方もいると報じられています。いずれも捜査段階の報道であり、有罪が確定したものではありません。
逮捕されたらまず何が起きますか
逮捕後は警察で取調べを受け、48時間以内に検察官に送致され、その後10日から20日の勾留を受けるかどうかが決まります。
警察は逮捕から48時間以内に書類と身柄を検察官に送致し(刑事訴訟法203条)、検察官は24時間以内に勾留請求をするか釈放するかを決めます(同法205条)。裁判官が勾留を認めると10日間、やむを得ない事由があれば最大10日間延長されます(同法208条)。この間は警察署の留置施設で生活し、繰り返し取調べを受けます。取調べの冒頭では黙秘権が告げられ(同法198条2項)、供述調書の内容に納得できなければ署名押印を拒むことができます。通訳を介した取調べは誤解が生じやすいため、調書の読み聞かせを丁寧に確認することが重要です。
| 段階 | 期間の上限 | 根拠条文 | 主な出来事 |
|---|---|---|---|
| 逮捕から送致 | 48時間 | 刑事訴訟法203条 | 警察での弁解録取・取調べ、領事機関への通報の希望確認 |
| 送致から勾留請求 | 24時間 | 同法205条 | 検察官による取調べ、勾留請求又は釈放 |
| 勾留 | 10日+延長最大10日 | 同法208条 | 警察署等での身柄拘束、弁護人の接見、起訴・不起訴の決定 |
| 起訴後 | 判決まで数か月程度が多い | 同法89条・90条 | 保釈請求、公判準備、公判 |
| 判決後 | 事案による | 入管法24条・50条 | 退去強制事由に当たれば入管の違反調査、収容又は監理措置、在留特別許可の審査 |
中国の領事館には連絡されますか
本人が希望すれば中国の領事機関に通報され、日中間では本人の希望にかかわらず通報される運用があるとされています。
領事関係に関するウィーン条約36条は、外国人が逮捕・勾留された場合、本人の要請があれば当局がその旨を本国の領事機関に遅滞なく通報し、本人にその権利を告げることを定めています。日中間には二国間の領事協定があり、本人の希望の有無にかかわらず通報される運用があるとされています。領事機関は面会や家族への連絡を手助けすることがありますが、弁護人を付けてくれるわけではなく、捜査や裁判の内容に介入することもありません。家族が中国にいる場合は、領事機関と弁護人の双方を連絡経路として確保しておくことが現実的です。
家族は面会できますか。弁護士や通訳はどうなりますか
弁護人は立会人なしでいつでも接見できますが、家族の面会は勾留が決まった後に限られ、接見等禁止の決定が付くと会えません。
弁護人は立会人なしに被疑者と接見し、書類や物の授受ができます(刑事訴訟法39条1項)。家族は勾留が決まった後に留置施設で面会できますが、共犯者がいる事件や否認事件では接見等禁止が付くことが多く、その場合は弁護人以外は面会も手紙のやり取りもできません。弁護人は逮捕段階では当番弁護士や私選で、勾留段階からは国選でも選任できます。接見の通訳は弁護人側で手配します。差入れや家族への伝言、勤務先・学校への対応も弁護人を通じて進めるのが通常です。
外国人は不起訴になりやすいというのは本当ですか
外国人だから不起訴になりやすいという事実はなく、不起訴で釈放された直後に入管の手続に引き継がれる場合があることが、そのような印象の一因になっています。
不起訴には、証拠が足りない嫌疑不十分と、犯罪は認められるが情状により起訴しない起訴猶予(刑事訴訟法248条)などがあります。被害者がいる事件では被害弁償と示談が起訴猶予の判断に大きく影響します。他方で、不法残留などの退去強制事由がある外国人については、検察官が刑事処分をせずに釈放し、そのまま入管が身柄を引き継いで退去強制の手続を進めることがあります。この場合は刑事裁判は行われませんが、本人は送還され、上陸拒否期間の対象になります。「不起訴になったのに国外に出た」と見える事案の背景には、こうした入管手続への移行があることが少なくありません。不起訴を目指す弁護と、釈放後の在留を守る検討は、切り離さずに進める必要があります。
起訴されたら保釈は認められますか
起訴後は保釈を請求でき、逃亡や罪証隠滅のおそれが小さいと判断されれば認められますが、外国人は逃亡のおそれを理由に慎重に判断される傾向があります。
起訴されると保釈の請求ができます(刑事訴訟法89条・90条)。裁判所は、罪の重さ、証拠の状況、住居の有無、身元引受人、海外に逃げるおそれなどを考慮します。日本に家族や勤務先があり、旅券を弁護人が預かる、出国しない旨を誓約するなどの条件を整えて保釈が認められた例は少なくありません。公判では裁判所が通訳人を付け、起訴状や証拠の内容が通訳されます。
判決の後はどうなりますか。強制送還の手続はどのように進みますか
有罪判決が退去強制事由に当たる場合、刑の執行が終わった後(執行猶予なら判決確定後)に入管の手続が始まり、収容又は監理措置の下で審査を受け、在留特別許可が認められなければ送還されます。
実刑なら服役の終了に合わせて入管が身柄を引き継ぎ、執行猶予や罰金なら釈放後に入管の調査が始まります。入国警備官の違反調査を経て、収容令書による収容か、令和6年6月10日施行の改正入管法で導入された監理措置(監理人の下で収容せずに手続を受ける制度)の下で、入国審査官の違反審査、特別審理官の口頭審理、法務大臣への異議の申出と進みます。この過程で在留特別許可(入管法50条)を求めることができ、改正法では申請手続と考慮事情(在留を希望する理由、家族関係、素行、入国の経緯、在留期間、人道上の配慮の必要性など)が法定されました。家族関係や長期の平穏な在留を具体的な証拠で示すことが審査の中心になります。
| 報道された罪名 | 法定刑 | 別表第一の在留資格の方 | 別表第二の在留資格の方 |
|---|---|---|---|
| 詐欺(刑法246条、未遂は250条) | 10年以下の拘禁刑 | 拘禁刑なら執行猶予でも退去強制事由(24条4号の2・第37章) | 1年を超える実刑なら退去強制事由(24条4号リ) |
| 窃盗(刑法235条、未遂は243条) | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 拘禁刑なら執行猶予でも退去強制事由(24条4号の2・第36章)、罰金は更新審査で考慮 | 1年を超える実刑なら退去強制事由(24条4号リ) |
| 監禁(刑法220条) | 3月以上7年以下の拘禁刑 | 拘禁刑なら執行猶予でも退去強制事由(24条4号の2・第31章) | 1年を超える実刑なら退去強制事由(24条4号リ) |
| 関税法違反(無許可輸入・111条) | 5年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科 | 1年を超える実刑なら退去強制事由(24条4号リ)、執行猶予・罰金は更新審査で考慮 | 同左 |
強制送還されると日本に戻れますか
退去強制された方は原則5年間、再度の場合は10年間上陸を拒否され、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸拒否事由に当たります。
入管法5条1項9号は、退去強制された者について5年間(過去にも退去強制された者は10年間)、出国命令で出国した者について1年間の上陸拒否を定めています。さらに同項4号は、日本又は外国の法令に違反して1年以上の拘禁刑又はこれに相当する刑に処せられたことのある者を、期間の定めなく上陸拒否事由としています(政治犯罪を除く)。したがって、送還から5年を経過しても、1年以上の刑に処せられた方は原則として上陸できず、上陸特別許可を求めることになります。判決の刑期が1年以上かどうかは、再入国の可否を左右する分かれ目です。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
在留への影響は、在留資格が別表第一か別表第二か、刑の種類、罪名の3点で決まります。別表第一(技術・人文知識・国際業務、技能、経営・管理、留学、家族滞在、短期滞在など)の方は、窃盗・詐欺・監禁・傷害・住居侵入などの刑法第2編の特定の章の罪や暴力行為等処罰法などの罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。別表第二(永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者)の方にはこの規定は適用されませんが、無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられると該当します(同条4号リ。刑の全部の執行猶予は除かれます)。薬物関係の法令違反は、在留資格を問わず執行猶予や罰金でも退去強制事由です(同条4号チ)。退去強制事由に当たらない罰金や執行猶予でも、在留期間更新や在留資格変更の審査では素行が考慮され、不許可となるおそれがあります。該当した場合でも、在留特別許可(同法50条)の審査で家族関係や定着性が考慮されます。
弁護士に相談すべき場面
- 家族や知人が逮捕されたと警察や領事館から連絡を受けたが、どこに拘束され、どのような容疑なのか分からないとき。
- 本人が日本語の取調べに不安を感じており、供述調書への署名押印を迫られていると聞いたとき。
- 被害者がいる事件で、被害弁償や示談を通じて不起訴や釈放を目指したいとき。
- 就労や留学、家族滞在の在留資格があり、判決の内容によって日本に残れるかどうかが変わるとき。
- 永住者や日本人の配偶者であり、退去強制手続の中で在留特別許可を求めたいとき。
当事務所では中国語での相談に対応しており、専属通訳が常駐しています。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で臨んでいますが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。それでも取調べの直前に警察官と協議し、通訳の確保や供述の任意性に関する懸念を伝えることは、取調べの進め方に影響することがあります。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
逮捕されたことは中国にいる家族にどう伝わりますか。
警察が家族に直接連絡することは通常なく、本人の希望により領事機関へ通報されるほか、弁護人が本人の依頼を受けて家族に連絡するのが一般的です。日中間では本人の希望にかかわらず領事機関に通報される運用があるとされていますが、領事館から家族への連絡の有無や時期は事案によります。早い段階で弁護人を選任し、家族への連絡経路を確保することが大切です。
取調べの通訳は信用できますか。
取調べの通訳人は警察・検察が手配します。多くは適切に通訳されますが、法律用語や方言のニュアンスが正確に伝わらないことはあり得ます。供述調書に署名押印する前に内容を読み聞かせてもらい、少しでも違うと感じたら訂正を求め、納得できなければ署名押印を拒むことができます。弁護人との接見では弁護人側で通訳を用意できます。
不起訴になれば在留資格はそのまま残りますか。
不起訴は刑事手続上の有罪判決を避けるという意味で大きな意味がありますが、在留資格の問題は別です。不法残留や資格外活動などの退去強制事由が別にある場合は、釈放後に入管の手続が始まることがあります。退去強制事由がなければ、在留資格はそのまま残り、次回の更新審査で素行が考慮される可能性があるにとどまります。
執行猶予が付けば強制送還されませんか。
罪名と在留資格によります。別表第一の在留資格(技術・人文知識・国際業務、技能、留学、経営・管理、短期滞在など)の方が窃盗・詐欺・監禁などの罪で拘禁刑の判決を受けた場合は、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。薬物関係の法令違反は在留資格を問わず執行猶予や罰金でも該当します(同条4号チ)。
永住者や日本人の配偶者でも強制送還されますか。
永住者・日本人の配偶者等・定住者などの別表第二の在留資格には24条4号の2は適用されませんが、1年を超える実刑(同条4号リ)や薬物事犯(同条4号チ)には該当します。該当した場合でも、在留特別許可(入管法50条)の審査で家族関係や在留期間などが考慮され、在留が認められる可能性があります。
根拠条文・出典
- 刑事訴訟法39条1項・89条・90条・198条2項・203条・205条・208条・248条(e-Gov法令検索で確認)
- 刑法220条・235条・243条・246条・250条(同上)
- 関税法111条(同上)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、24条4号チ・4号リ・4号の2、50条(同上)
- 領事関係に関するウィーン条約36条
- 2026年9月から10月の各社報道
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