日本人と結婚した中国籍の方の在留特別許可とは|考慮事情と準備する資料・出頭申告との関係を弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
在留特別許可とは、退去強制事由に当たる外国人について、法務大臣が在留を特別に許可する制度です(入管法50条)。日本人と結婚している中国籍の方の場合、婚姻が真実で安定していることを具体的な資料で裏付けられるかどうかが、許可の判断を大きく左右します。
この記事の要点
- 在留特別許可は退去強制手続の中で判断され、令和6年6月10日施行の改正により申請の手続と考慮事情が法律に定められました(入管法50条)。
- 日本人との婚姻は有力な積極要素ですが、婚姻の真実性・安定性、同居の実態、交際の経緯を資料で示す必要があります(入管庁「在留特別許可に係るガイドライン」)。
- 不法残留(入管法24条4号ロ)か不法入国(同条1号)か、刑罰歴の有無(同条4号チ・リ・4号の2)によって評価は大きく変わります。
- 不許可なら退去強制令書が発付され、裁決と令書は取消訴訟(行訴法3条2項・14条1項)と執行停止(同法25条)で争えます。
- 速やかな帰国を選ぶ場合は出国命令(入管法24条の3)により上陸拒否期間が1年となります(同法5条1項9号)。
こんな場面で問題になります
- 留学の在留期限が切れたまま働き続け、その間に日本人と結婚して子も生まれた。
- 技能実習先を離れて不法残留となった後に交際を始め、結婚して出頭を考えている。
- 不法残留の状態で結婚したが、配偶者の収入が不安定で、生活の安定を説明できるか不安がある。
- 摘発されて収容された後に婚姻届を出した。
- 以前の婚姻で在留資格を得た経緯があり、今回の婚姻の真実性を疑われている。
日本人と結婚していれば在留特別許可は認められますか
当然には認められません。婚姻は有力な積極要素ですが、入管法50条に定められた考慮事情を総合して判断されます。
改正後の入管法50条は、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国に至った経緯、在留期間とその間の法的地位、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性などを考慮するほか、内外の諸情勢や不法滞在者に及ぼす影響も考慮すると定めています。入管庁の「在留特別許可に係るガイドライン」は、日本人との真摯かつ安定した婚姻関係を積極要素の一つとし、重大な犯罪、偽造文書の行使、偽装婚姻などを消極要素としています。入管庁が公表している許可事例と不許可事例を見ると、婚姻があっても不法入国の経緯や刑罰歴があると不許可になる例があり、逆に不法残留だけで他に問題がなく、同居と生計の実態が明らかな例では許可される傾向が読み取れます。つまり、婚姻という事実そのものではなく、婚姻の中身と本人の経歴の両方が審査の対象です。
在留特別許可はどの手続の中で判断されますか
退去強制手続の最終段階で、法務大臣(権限の委任を受けた地方出入国在留管理局長)が判断します。
手続は、入国警備官の違反調査(入管法27条)、入国審査官の違反審査(同法45条)、特別審理官の口頭審理(同法48条)、法務大臣への異議の申出(同法49条)の順に進みます。異議の申出に理由がないと認める場合でも、法務大臣は在留を特別に許可することができます(同法50条)。令和6年6月10日施行の改正により、退去強制令書が発付されるまでの間に在留特別許可を申請する手続が設けられ、許可しない場合にはその旨と理由が通知されることになりました。改正前は法務大臣の職権に委ねられていた判断に、申請と理由の通知という手続の枠組みが加わったことで、どの考慮事情についてどのような資料を出したかが、後の訴訟でも意味を持つようになっています。
| 段階 | 担当 | 本人・弁護士ができること |
|---|---|---|
| 違反調査 | 入国警備官 | 供述調書の内容確認、通訳の正確性の確認、資料の提出 |
| 違反審査 | 入国審査官 | 退去強制事由の認定に対する意見、口頭審理の請求 |
| 口頭審理 | 特別審理官 | 代理人の立会い、証人(配偶者)の供述、証拠の提出 |
| 異議の申出・在留特別許可の申請 | 法務大臣(地方局長) | 考慮事情ごとの主張書面と資料の提出 |
| 裁決・退去強制令書 | 主任審査官 | 取消訴訟(6か月以内)・執行停止の申立て |
婚姻の真実性はどのように審査されますか
交際の経緯、同居の実態、生計の状況、双方の親族の認識、意思疎通の方法などを、資料と供述の整合性で審査されます。
入管は、本人と配偶者を別々に聴取し、出会いの時期や場所、結婚を決めた経緯、日常生活の細部について供述が一致するかを確認します。住民票上の同居だけでなく、実際に同じ住居で生活していることを示す写真、家賃や光熱費の支払記録、近隣や親族の陳述が求められます。摘発後や出頭直前の婚姻は在留目的ではないかと慎重に見られるため、それ以前から交際が続いていたことを時系列で示す必要があります。なお、在留目的の偽装婚姻は、公正証書原本不実記載等(刑法157条)などの刑事事件として扱われることがあり、その場合は在留特別許可どころか退去強制と上陸拒否の問題になります。
不法入国や刑罰歴があると不利になりますか
不法入国や偽造文書の行使は重い消極要素であり、刑罰歴は内容と時期によっては退去強制事由そのものになります。
不法残留(入管法24条4号ロ)は、在留期限を超えて残留したという事実にとどまりますが、不法入国(同条1号)や他人名義の旅券の使用は、出入国管理の秩序を正面から害したものとして厳しく評価されます。刑罰歴については、薬物関係法令違反で有罪判決を受けた者は執行猶予や罰金でも退去強制事由に当たり(同条4号チ)、無期又は1年を超える拘禁刑(全部執行猶予を除く)も同様です(同条4号リ)。別表第一の在留資格で在留していた人が窃盗・詐欺・傷害などの罪で拘禁刑に処せられた場合は、執行猶予が付いても退去強制事由になります(同条4号の2)。これらに当たる場合、婚姻があっても許可の壁は高くなります。
どのような資料を準備すべきですか
婚姻の成立を示す公的書類、交際と同居の実態を示す資料、生計の安定を示す資料、本人の素行と反省を示す資料の四つに分けて準備します。
婚姻の成立については、日本の戸籍謄本と婚姻届受理証明書に加え、中国側の婚姻登記(結婚証)又は未婚であったことの証明を公証・翻訳付きで用意します。交際と同居については、出会いから現在までの経緯を書いた本人と配偶者の陳述書、日付のある写真、通信記録、賃貸借契約書、郵便物を揃えます。生計については、配偶者の課税証明書・源泉徴収票・在職証明書、預金残高を示す書類を提出します。素行については、納税や社会保険の状況、不法残留に至った経緯の説明、反省の内容、配偶者の親族からの上申書が役立ちます。子がいる場合は出生届・母子健康手帳・就学の資料も重要です。
出頭申告と摘発ではどう違いますか
自ら出頭したことはガイドライン上の積極要素であり、出頭の際に、帰国を前提とする出国命令と、在留を求める退去強制手続のどちらを選ぶかを決める必要があります。
速やかに出国する意思をもって自ら出頭した不法残留者で一定の要件を満たす人は、収容されずに出国命令(入管法24条の3)を受けて帰国でき、その場合の上陸拒否期間は1年です(同法5条1項9号)。一方、退去強制により送還された場合の上陸拒否期間は5年(再度の場合は10年)です。日本人の配偶者であれば、いったん帰国して在留資格認定証明書の交付を受け、上陸拒否期間の経過後に再来日する道も現実的な選択肢になります。日本を離れずに在留特別許可を求める場合は退去強制手続の中で申請することになり、不許可のときは退去強制の上陸拒否期間が問題になるため、どちらを選ぶかは夫婦の事情を踏まえて慎重に決める必要があります。
不許可になった場合はどうなりますか
退去強制令書が発付されますが、裁決と令書の発付はいずれも行政処分として取消訴訟と執行停止の対象になります。
異議の申出に理由がないとの裁決と退去強制令書の発付処分は、処分を知った日から6か月以内に取消訴訟を提起でき(行訴法3条2項・14条1項)、送還を避けるために執行停止(同法25条)を申し立てます。出入国に関する処分は行政不服審査法の審査請求の対象外(同法7条1項10号)であるため、争う手段は訴訟です。裁判では、法務大臣の広い裁量を前提としつつ、50条の考慮事情の見落とし、事実の誤認、公表事例との不均衡などから裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)を主張します。
中国籍の方に特有の留意点
- 中国側の婚姻登記:日本で婚姻届を出しただけでは中国で婚姻が登記されていないことがあります。中国の戸口簿、未婚証明や結婚証の公証・翻訳を早めに手配してください。
- 通訳:口頭審理や聴取は入管の通訳を介して行われます。交際の経緯など微妙な事情は訳され方で評価が変わるため、事前に弁護士と中国語で整理した陳述書を提出することが有効です。
- 子の国籍:日本人との間の子は日本国籍を取得しますが、中国は二重国籍を認めていないため、中国側での扱いは別途確認が必要です。
- 帰国の選択:出国命令で帰国した場合は1年、退去強制の場合は5年の上陸拒否期間があります(入管法5条1項9号)。1年以上の拘禁刑の前科があれば期間の定めのない上陸拒否事由(同項4号)になり、再来日には上陸特別許可(同法12条)が必要になります。
- 刑事事件との関係:在留中の犯罪歴や、偽装婚姻の疑いは刑事事件に発展することがあり、刑事弁護と入管対応を一体で考える必要があります。
弁護士に相談すべき場面
- 不法残留のまま日本人と結婚し、出頭するか、帰国して再来日を目指すかを決めかねているとき。
- 摘発や収容の後に婚姻届を出し、婚姻の真実性をどう示せばよいかわからないとき。
- 過去に罰金刑や執行猶予付き判決を受けており、在留特別許可への影響を知りたいとき。
- 口頭審理や異議の申出を控え、主張書面と資料を整えたいとき。
- 不許可の裁決を受け、取消訴訟や執行停止を検討したいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。入管事件と刑事弁護を一体で扱い、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針です(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
日本人と結婚していれば在留特別許可は認められますか
当然には認められません。日本人との婚姻は有力な積極要素ですが、入管法50条の考慮事情(家族関係・素行・入国の経緯・退去強制の理由となった事実など)を総合して判断されます。婚姻の真実性と安定性を資料で示せるかが鍵です。
摘発された後に婚姻届を出しました。不利になりますか
摘発後の婚姻は、在留目的の婚姻ではないかと慎重に見られます。摘発前からの交際や同居の事実を、写真・通信記録・親族の陳述などで時系列に沿って示すことが重要です。
出頭する前に弁護士に相談する意味はありますか
出頭の時点で、出国命令(入管法24条の3)を受けて帰国するのか、退去強制手続の中で在留特別許可を求めるのかを決めておく必要があります。方針と資料を整えてから出頭することで、口頭審理や異議の申出での主張が一貫します。
不許可になったら、もう日本に残る方法はありませんか
裁決と退去強制令書は取消訴訟(行訴法3条2項、出訴期間は処分を知った日から6か月)と執行停止(同法25条)で争えます。また、帰国後に在留資格認定証明書の交付を受けて再来日する道も、上陸拒否期間との関係で検討します。
過去に罰金刑を受けたことがあります。影響しますか
罰金刑も素行の評価で消極要素になり得ます。特に薬物関係法令違反は罰金でも退去強制事由(入管法24条4号チ)であり、評価が厳しくなります。刑罰の内容と時期を正確に把握したうえで主張を組み立てる必要があります。
根拠条文・出典
- 出入国管理及び難民認定法50条(在留特別許可。令和6年6月10日施行の改正で申請手続・考慮事情・理由の通知を規定)
- 出入国管理及び難民認定法24条1号・4号ロ・4号チ・4号リ・4号の2(退去強制事由)、24条の3(出国命令)、27条(違反調査)、45条(違反審査)、48条(口頭審理)、49条(異議の申出・裁決・退去強制令書)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号(上陸拒否事由・上陸拒否期間)、12条(上陸特別許可)
- 行政事件訴訟法3条2項(取消訴訟)、14条1項(出訴期間)、25条(執行停止)、30条(裁量処分の取消し)
- 行政不服審査法7条1項10号(外国人の出入国に関する処分の適用除外)
- 刑法157条(公正証書原本不実記載等)
- 出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」、同庁公表の在留特別許可された事例・されなかった事例
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