日本で生まれ育った子がいる家族の在留特別許可とは|子の利益をどう主張するか・親の事情の影響を弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
日本で生まれ育った子がいる家族の在留特別許可とは、在留資格のない親子について、子が日本で出生し就学して定着していることを中心的な考慮事情として、法務大臣が家族の在留を特別に許可するかどうかを判断する場面をいいます(入管法50条)。子の利益は児童の権利条約3条を根拠に主張できますが、親の経歴も同時に審査されます。
この記事の要点
- 在留特別許可の判断では、家族関係と人道上の配慮の必要性が法定の考慮事情に含まれ、日本で生まれ育った子の存在はその中核です(入管法50条)。
- 入管庁「在留特別許可に係るガイドライン」は、日本の小中学校に通う子を養育していることを積極要素とし、公表事例でも子の就学期間と定着が重視されています。
- 子の最善の利益は児童の権利条約3条を根拠に主張しますが、親の不法入国や刑罰歴(入管法24条1号・4号チ・4号リ)は独立した消極要素です。
- 家族全員が許可される場合のほか、子だけが許可され親が不許可となる場合もあります。
- 不許可の裁決と退去強制令書は取消訴訟(行訴法3条2項・14条1項)と執行停止(同法25条)で争えます。
こんな場面で問題になります
- 両親とも不法残留のまま日本で子が生まれ、子は小学校高学年になり中国語をほとんど話せない。
- 父が不法入国、母が不法残留で、中学生の子が日本の高校進学を控えている。
- 子は日本生まれだが、家族で中国に一時帰国したことがあり、定着の程度を疑われている。
- 子に持病があり、日本の病院で継続的な治療を受けている。
- 摘発されて家族で退去強制手続に入り、子の学期の途中で送還されるおそれがある。
子が日本で生まれ育っていれば家族全員が在留特別許可を受けられますか
当然には受けられません。子の出生・就学・定着は有力な積極要素ですが、親の入国の経緯や素行と合わせて総合判断されます。
入管法50条は、在留を希望する理由、家族関係、素行、入国に至った経緯、在留期間、退去強制の理由となった事実、人道上の配慮の必要性などを考慮事情として定めています。日本で生まれ育った子がいることは、家族関係と人道上の配慮の両面で強い積極要素です。入管庁の「在留特別許可に係るガイドライン」も、日本の小中学校に在学する実子を監護養育していることを積極要素として挙げています。他方、親が不法入国である場合や刑罰歴がある場合は、それ自体が独立の消極要素となり、公表事例の中にも、子が就学していながら親の経歴を理由に家族全員が不許可となった例と、子だけが許可され親が帰国を求められた例の双方があります。令和5年には、日本で生まれて就学している在留資格のない子とその家族について、一定の要件のもとで在留特別許可を与える対応方針が法務大臣から公表されましたが、親に重大な消極要素がある場合は対象外とされ、恒久的な制度ではない点に注意が必要です。
子の利益はどの規定に基づいて主張しますか
児童の権利条約3条(児童の最善の利益)を根拠に、入管法50条の家族関係・人道上の配慮という考慮事情を具体化して主張します。
児童の権利条約3条は、児童に関するすべての措置において児童の最善の利益が主として考慮されるべきことを定めています。日本も締約国であり、退去強制手続における判断は児童に関する措置に当たります。もっとも、裁判例は条約から直接に在留許可の請求権が生じるとは認めておらず、法務大臣の裁量判断の中で考慮されるべき事情として位置づけられています。したがって、条約を掲げるだけでなく、この子にとって送還がどのような不利益をもたらすのか(言語、教育の断絶、友人関係、医療、中国側での就学の見通し)を具体的な事実で示し、50条の考慮事情に当てはめていく作業が必要です。子自身の意見を聴く機会を求めることも、同条約12条の趣旨から検討に値します。
子の年齢・就学状況はどのように評価されますか
年齢が高く、日本の学校での就学期間が長いほど、日本への定着が強いと評価され、就学前の子は帰国しても順応できると見られる傾向があります。
公表事例を見ると、小学校高学年から中学校・高校に在学し、日本語で教育を受け、中国語での学習が困難な子については、送還が子の生活基盤を根本から失わせるものとして重く評価されています。反対に、乳幼児については、親とともに帰国すれば中国での生活に順応できると評価されることが多く、積極要素としての重みは小さくなります。もっとも、子の病気や障害、日本国籍の親族との関係、中国側で戸口(戸籍)の登録がなく就学や医療に支障が生じるおそれなど、個別の事情によって評価は変わります。
| 子の状況 | 評価の傾向 | 用意する資料 |
|---|---|---|
| 日本生まれ・中学生以上で在学中 | 定着が強く、送還の不利益が大きいと評価されやすい | 在学証明書、成績表、担任・校長の意見書、本人の作文、進学の資料 |
| 日本生まれ・小学生 | 就学期間と日本語の定着の程度により評価が分かれる | 在学証明書、通知表、友人や保護者の陳述、日本語能力の資料 |
| 就学前 | 帰国しても順応可能と見られやすい | 保育園の資料、医療記録、中国側に生活基盤がないことの説明 |
| 病気・障害がある | 日本での治療継続の必要性が人道上の配慮として評価される | 診断書、治療経過、中国での治療の困難を示す資料 |
親の事情はどのように影響しますか
不法残留だけであれば子の事情が重視されやすい一方、不法入国・偽造文書の行使・刑罰歴があると、子が許可されても親が不許可となることがあります。
不法残留(入管法24条4号ロ)は在留期限を超えて残ったという事実にとどまりますが、不法入国(同条1号)や他人名義の旅券の使用は出入国管理の秩序を正面から害したものとして重く扱われます。刑罰歴については、薬物関係法令違反は罰金や執行猶予でも退去強制事由(同条4号チ)、無期又は1年を超える拘禁刑(全部執行猶予を除く)も退去強制事由(同条4号リ)です。親の一方にだけ消極要素がある場合、他方の親と子が許可され、消極要素のある親が帰国を求められることがあり、家族の分離という結果を避けるために、親の帰国後の再来日の見通し(上陸拒否期間と上陸特別許可)まで含めて方針を立てる必要があります。
手続はどのように進みますか
家族で出頭するか摘発されるかにより退去強制手続が始まり、口頭審理と異議の申出を経て、退去強制令書の発付前に在留特別許可を申請します。
手続は、入国警備官の違反調査(入管法27条)、入国審査官の違反審査(同法45条)、特別審理官の口頭審理(同法48条)、法務大臣への異議の申出(同法49条)の順に進み、令和6年6月10日施行の改正により、退去強制令書が発付されるまでの間に在留特別許可を申請できるようになりました。改正では、収容に代えて監理人のもとで手続を進める監理措置(同法44条の2)も設けられ、子を養育する家族についてはこの措置を求めることが考えられます。家族の構成員ごとに別々の手続が進むため、子の事情と親の事情を一体の主張書面にまとめ、各人の手続で同じ資料を提出することが重要です。
どのような資料を用意すべきですか
子の出生と就学・定着を示す資料、中国で生活基盤がないことを示す資料、親の生活と素行を示す資料を揃えます。
子については、出生届受理証明書、母子健康手帳、在学証明書、成績表、担任や校長の意見書、本人が書いた作文、友人や保護者の陳述書、習い事や地域活動の記録、医療記録を用意します。中国側については、戸口の登録の有無、親族の有無、中国語の能力、中国で就学する場合の見通しを説明する資料が重要です。親については、就労と納税の状況、住居の安定、地域との関係、不法残留に至った経緯と反省を示す陳述書を提出します。資料は時系列で整理し、50条の考慮事情のどれに対応するかを明示した主張書面とともに提出します。
不許可の場合は争えますか
裁決と退去強制令書の発付は行政処分であり、6か月以内の取消訴訟と執行停止の申立てで争えます。
異議の申出に理由がないとの裁決と退去強制令書発付処分については、処分を知った日から6か月以内に取消訴訟を提起でき(行訴法3条2項・14条1項)、送還を避けるために執行停止(同法25条)を申し立てます。執行停止では、子の就学の継続が断たれることや家族が分離されることを重大な損害として疎明します。本案では、法務大臣の広い裁量を前提としつつ、子の最善の利益に関する考慮事情の見落とし、事実の誤認、公表事例との不均衡を理由に裁量権の逸脱・濫用(同法30条)を主張します。出入国に関する処分は行政不服審査法の審査請求の対象外(同法7条1項10号)であるため、争う手段は訴訟です。
中国籍の方に特有の留意点
- 戸口の登録:中国で出生登録(戸口)をしていない子は、帰国後の就学や医療に支障が生じるおそれがあります。登録の有無と手続の可否は、送還の不利益を示す事情として確認してください。
- 子の中国語:日本の学校で育った子が中国語の読み書きをできないことは、中国での就学の困難を示す具体的な事情です。学校の記録や家庭での使用言語を説明できるようにしてください。
- 通訳:親の聴取は入管の通訳を介しますが、子の生活に関する細かな事情は訳され方で評価が変わります。弁護士と中国語で整理した陳述書を事前に提出することが有効です。
- 親の一方の帰国:親の一方が不許可となる場合、出国命令か退去強制かで上陸拒否期間が1年か5年かに分かれます(入管法5条1項9号、24条の3)。再来日の見通しまで含めて家族の方針を決める必要があります。
- 刑事事件との関係:親に在留中の刑事事件がある場合、その処分の内容が在留特別許可の判断に直結するため、刑事弁護と入管対応を一体で進める必要があります。
弁護士に相談すべき場面
- 在留資格のないまま子が日本で生まれ、就学しており、家族で出頭を考えているとき。
- 親の一方に不法入国や刑罰歴があり、家族が分離されるおそれがあるとき。
- 退去強制手続が始まり、子の就学や治療を続けながら主張を組み立てたいとき。
- 令和5年に公表された対応方針の対象になるかどうかを確認したいとき。
- 不許可の裁決を受け、取消訴訟や執行停止を検討したいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。入管事件と刑事弁護を一体で扱い、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針です(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
子どもが日本で生まれて小学校に通っています。家族全員に在留特別許可は出ますか
当然には出ません。子の就学と定着は有力な積極要素ですが、親の入国の経緯や刑罰歴などの消極要素と合わせて総合判断されます(入管法50条)。親の事情によっては、子だけが許可され親は不許可となることもあります。
子どもがまだ幼児です。不利ですか
就学前の子は、親とともに帰国しても生活に順応できると評価されやすく、就学中の子に比べて積極要素としての重みは小さくなります。ただし病気や障害、日本国籍の親族の存在など、個別の事情で評価は変わります。
児童の権利条約は入管の審査で考慮されますか
児童の権利条約3条は子の最善の利益を定めており、入管法50条の家族関係や人道上の配慮の必要性という考慮事情を具体化する根拠として主張できます。条約に基づいて直接に許可を請求できるものではありませんが、裁量の判断で考慮されるべき事情です。
親が不法入国です。子が日本生まれでも望みはありませんか
不法入国は重い消極要素であり、不法残留の場合に比べて許可の壁は高くなります。ただし、子の年齢・就学期間・日本への定着の程度、中国での生活基盤の有無など、子に関する事情が極めて強い場合には、許可された例もあります。事案ごとの検討が必要です。
不許可になったら、子どもは学校を続けられますか
退去強制令書が発付されても、取消訴訟(行訴法3条2項、出訴期間6か月)と執行停止(同法25条)の申立てにより、送還を止めて訴訟中に就学を続けられる可能性があります。子の学期や進学の時期を踏まえて早めに動く必要があります。
根拠条文・出典
- 出入国管理及び難民認定法50条(在留特別許可。令和6年6月10日施行の改正で申請手続・考慮事情・理由の通知を規定)
- 出入国管理及び難民認定法24条1号・4号ロ・4号チ・4号リ(退去強制事由)、24条の3(出国命令)、27条(違反調査)、44条の2(監理措置)、45条(違反審査)、48条(口頭審理)、49条(異議の申出・裁決・退去強制令書)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項9号(上陸拒否期間)、12条(上陸特別許可)
- 児童の権利に関する条約3条(児童の最善の利益)、12条(意見を表明する権利)
- 行政事件訴訟法3条2項(取消訴訟)、14条1項(出訴期間)、25条(執行停止)、30条(裁量処分の取消し)
- 行政不服審査法7条1項10号(外国人の出入国に関する処分の適用除外)
- 出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」、同庁公表の在留特別許可された事例・されなかった事例、令和5年公表の本邦で出生し就学する在留資格のない子とその家族への対応方針
関連する解説
ご相談・お問い合わせ
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)
中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。全国からご相談を承ります。
電話:050-7587-4639
微信(WeChat)ID:matsumura1119
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
本ページは一般的な情報提供であり、個別の事案の結果を保証するものではありません。