在留特別許可が認められなかったら|裁決・退去強制令書の取消訴訟と執行停止、出訴期間6か月の争い方を弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
在留特別許可が認められなかった場合、異議の申出に理由がないとの裁決と退去強制令書の発付がされますが、これらはいずれも行政処分であり、処分を知った日から6か月以内の取消訴訟(行訴法3条2項・14条1項)と、送還を止めるための執行停止(同法25条)によって争うことができます。
この記事の要点
- 在留特別許可の不許可は、法務大臣の裁決(入管法49条)と主任審査官による退去強制令書の発付という二つの処分として現れ、いずれも取消訴訟の対象です(行訴法3条2項)。
- 出訴期間は処分を知った日から6か月(行訴法14条1項)で、審査請求はできません(行政不服審査法7条1項10号)。
- 送還を避けるには執行停止(行訴法25条)の申立てが不可欠で、重大な損害を避けるため緊急の必要があることを疎明します。
- 本案では、入管法50条の考慮事情の見落とし・事実誤認・公表事例との不均衡を理由に裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)を主張します。
- 令和6年6月10日施行の改正で不許可の理由が通知されるようになり、その理由の当否が争点になります。
こんな場面で問題になります
- 日本人の配偶者と同居しているのに、婚姻の信憑性が低いとして在留特別許可が認められなかった。
- 日本で生まれ育った子が就学しているのに、親の不法入国を理由に家族全員が不許可となった。
- 収容されたまま退去強制令書が発付され、近く送還すると告げられた。
- 執行猶予付き判決の後に退去強制手続に入り、在留特別許可を求めたが認められなかった。
- 不許可の理由書を受け取ったが、記載された事実に誤りがある。
在留特別許可が認められないとどうなりますか
異議の申出に理由がないとの裁決が主任審査官に通知され、主任審査官が退去強制令書を発付し、送還と、それまでの収容又は監理措置の対象になります。
退去強制手続では、入国審査官の違反審査(入管法45条)、特別審理官の口頭審理(同法48条)を経て法務大臣に異議を申し出ることができ(同法49条)、法務大臣は異議に理由がない場合でも在留を特別に許可できます(同法50条)。許可されなければ、裁決の結果が主任審査官に通知され、退去強制令書が発付されます。令和6年6月10日施行の改正により、退去強制令書が発付されるまでに在留特別許可を申請する手続と、許可しない場合に理由を通知する仕組みが法律に定められました。令書が発付されると、本人は送還されるまで収容されるか、監理人のもとで監理措置に付され、送還先に送還されます。送還後の上陸拒否期間は5年(再度の場合は10年)です(同法5条1項9号)。
裁決や退去強制令書は裁判で争えますか
争えます。裁決と退去強制令書の発付はいずれも行政処分であり、取消訴訟の対象になります。審査請求はできません。
取消訴訟は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為の取消しを求める訴訟です(行訴法3条2項)。在留特別許可をしない裁決は、法務大臣が本人の在留の可否を最終的に決める処分であり、退去強制令書の発付処分はその裁決に基づいて送還と収容の根拠を作る処分です。実務では、裁決の取消しと令書発付処分の取消しを一つの訴えで併せて求めるのが通常です。外国人の出入国に関する処分は行政不服審査法の審査請求の対象外(同法7条1項10号)であるため、入管に不服を申し立てる制度はなく、争う手段は裁判所への訴訟に限られます。被告は国で、第一審は地方裁判所です。
出訴期間はいつまでですか
処分があったことを知った日から6か月以内です(行訴法14条1項)。処分の日から1年を経過したときも、正当な理由がなければ提起できません(同条2項)。
退去強制令書の発付は、本人に令書が示された時点で知ったことになります。収容中であっても期間は進行し、送還されてしまえば訴訟を続けること自体は可能でも、裁判所への出頭や証拠の収集は著しく困難になります。したがって、6か月の期間を待たず、令書の発付後できるだけ早く訴訟と執行停止の申立てを同時に行う必要があります。
| 手続 | 根拠 | 期間・要件 |
|---|---|---|
| 取消訴訟の提起 | 行訴法3条2項・14条1項 | 処分を知った日から6か月以内(処分の日から1年) |
| 執行停止の申立て | 行訴法25条 | 本案の係属が前提。重大な損害を避けるため緊急の必要があること |
| 審査請求 | 行政不服審査法7条1項10号 | 出入国に関する処分は対象外 |
| 裁量権の逸脱・濫用の主張 | 行訴法30条 | 考慮事情の見落とし、事実誤認、比例・平等原則違反など |
執行停止とは何ですか
取消訴訟を起こしても処分の効力は止まらないため、裁判所に申し立てて退去強制令書の執行(送還・収容)を一時的に止めてもらう手続です(行訴法25条)。
執行停止は、処分の執行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときに認められ、本案について理由がないとみえるときや公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは認められません。退去強制令書については、送還部分と収容部分を分けて判断され、送還されれば訴訟を追行できなくなり、家族との分離や子の就学の断絶といった回復困難な損害が生じることから、送還部分の執行停止は比較的認められやすい一方、収容部分の停止はより厳格に判断される傾向があります。執行停止は在留資格を与えるものではないため、停止中も在留資格のない状態は続き、就労は認められないのが原則です。
裁判ではどのような主張をしますか
法務大臣の広い裁量を前提に、考慮事情の見落とし、事実の誤認、公表事例との不均衡、理由の不備を具体的に示して、裁量権の逸脱・濫用(行訴法30条)を主張します。
最高裁大法廷昭和53年10月4日判決(マクリーン事件)以来、外国人の在留の許否は法務大臣の広い裁量に委ねられるとされていますが、裁量にも限界があり、判断の基礎とされた事実に誤りがある場合や、考慮すべき事情を考慮せず、考慮すべきでない事情を考慮した場合、社会通念に照らして著しく妥当性を欠く場合には違法となります。改正後の入管法50条が考慮事情を法定したことで、どの事情をどう評価したかが理由通知に現れるため、理由書に記載された事実の誤りや、家族関係・人道上の配慮の見落としを指摘しやすくなりました。入管庁の「在留特別許可に係るガイドライン」と公表事例は、同種の事案との不均衡(平等原則)を示す資料として用います。子がいる事案では児童の権利条約3条に基づく子の最善の利益の考慮を主張します。口頭審理での通訳の不備など手続の違法も独立の主張になります。
訴訟中の生活はどうなりますか
執行停止が認められても在留資格は生じず、収容が続く場合は仮放免や監理措置を別途求める必要があります。
退去強制令書の送還部分だけが停止された場合、収容は続くため、仮放免(入管法54条)又は監理措置(同法52条の2)を求めます。いずれも在留資格ではなく、就労は原則として認められず、住居や出頭の条件が付されます。家族や支援者の協力、生活費の確保、子の就学の継続について、訴訟の前に計画を立てておくことが必要です。判決で裁決が取り消されれば、法務大臣は判決の趣旨に従って改めて在留特別許可の可否を判断します(行訴法33条)。裁判所が直接に在留資格を与えるのではありませんが、判決の理由が再判断を拘束します。
再審情願は有効ですか
再審情願は法律上の制度ではなく、入管が応答する義務もないため、改正後は令書発付前の申請で主張を尽くし、不許可なら訴訟で争うのが基本です。
退去強制令書の発付後に在留特別許可を求める嘆願(再審情願)は、従来から実務で行われてきましたが、法律上の手続ではなく、入管に審査や応答の義務はありません。令和6年の改正で令書発付前の申請手続が法定されたことにより、主張と資料は申請の段階で出し切ることが一層重要になりました。令書発付後に新たな事情(出生、婚姻、病気など)が生じた場合には、これを法務大臣の職権による判断を求める資料として提出するとともに、取消訴訟の中でも事情の変化として主張します。
中国籍の方に特有の留意点
- 送還先と証拠:送還されると中国から訴訟を追行することになり、出頭や証拠の収集が著しく困難になります。執行停止の申立てを令書発付の直後に行うことが重要です。
- 理由通知の翻訳:不許可の理由は日本語で通知されます。記載された事実に誤りがないか、弁護士と中国語で逐一確認してください。事実誤認は取消しの有力な根拠になります。
- 口頭審理の通訳:口頭審理や聴取の通訳に不正確な点があった場合、調書の内容と本人の認識の食い違いを早期に指摘し、手続の違法として主張できるよう記録を残してください。
- 帰国の可能性:訴訟を断念して帰国する場合、退去強制の上陸拒否期間は5年です(入管法5条1項9号)。1年以上の拘禁刑の前科があれば期間の定めのない上陸拒否事由(同項4号)になり、上陸特別許可(同法12条)が必要です。
- 刑事事件との関係:刑事事件が並行している場合、刑事の結果が入管法24条4号チ・リ・4号の2の該当性に直結するため、刑事弁護と入管訴訟を一体で進める必要があります。
弁護士に相談すべき場面
- 在留特別許可の不許可の通知や退去強制令書を受け取り、送還を止めたいとき。
- 不許可の理由に記載された事実に誤りがあり、争いたいとき。
- 収容が続いており、執行停止と仮放免・監理措置を同時に検討したいとき。
- 家族や子の事情を裁判でどう主張すべきか知りたいとき。
- 帰国して再来日を目指すか、訴訟で争うかを決めかねているとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。入管事件と刑事弁護を一体で扱い、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針です(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
在留特別許可が認められないと、すぐに送還されますか
退去強制令書が発付されると送還の対象になりますが、取消訴訟とともに執行停止(行訴法25条)を申し立て、裁判所が送還部分の執行停止を認めれば、訴訟の間は送還されません。令書が発付された時点で速やかに動くことが重要です。
審査請求はできますか
できません。外国人の出入国に関する処分は行政不服審査法の審査請求の対象外(同法7条1項10号)です。争う手段は取消訴訟です。
取消訴訟はいつまでに起こす必要がありますか
処分があったことを知った日から6か月以内です(行訴法14条1項)。退去強制令書の発付を知った日から数えますので、収容中であっても期間は進みます。
裁判で勝てば在留資格がもらえますか
判決で裁決が取り消されると、法務大臣は判決の趣旨に従って改めて判断することになります。裁判所が直接に在留特別許可を与えるのではありませんが、判決の理由が再判断を拘束します。
執行停止が認められている間、働けますか
執行停止は退去強制令書の効力を止めるものであり、在留資格を与えるものではありません。就労は認められないのが原則で、生活の方法は訴訟の前に検討しておく必要があります。
根拠条文・出典
- 行政事件訴訟法3条2項(取消訴訟)、14条1項・2項(出訴期間)、25条(執行停止)、30条(裁量処分の取消し)、33条(取消判決の拘束力)
- 行政不服審査法7条1項10号(外国人の出入国に関する処分の適用除外)
- 出入国管理及び難民認定法45条(違反審査)、48条(口頭審理)、49条(異議の申出・裁決・退去強制令書)、50条(在留特別許可。令和6年6月10日施行の改正で申請手続・考慮事情・理由の通知を規定)、52条の2(監理措置)、54条(仮放免)、5条1項4号・9号(上陸拒否)、12条(上陸特別許可)、24条4号チ・リ・4号の2(退去強制事由)
- 最高裁大法廷昭和53年10月4日判決(マクリーン事件)
- 児童の権利に関する条約3条(児童の最善の利益)
- 出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」、同庁公表の在留特別許可された事例・されなかった事例
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