自己破産と在留資格|永住許可・在留期間更新への影響と退去強制事由にならない理由(外国人の破産)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
自己破産をしても、それ自体で在留資格を失うことはなく、退去強制の対象にもなりません。ただし、在留期間の更新(入管法21条)や永住許可(入管法22条)の審査では、素行の善良さと独立した生計を営める能力が考慮されるため、破産に至った事情と免責後の生活の立て直しをどう説明するかが重要になります。
この記事の要点
- 破産や債務不履行は、入管法24条の退去強制事由にも、22条の4の在留資格取消事由にも含まれていません。
- 免責許可(破産法252条)を受ければ支払義務は免除されますが、税金・養育費・悪意の不法行為に基づく損害賠償などの非免責債権(破産法253条)は残ります。
- 永住許可の審査では「素行が善良であること」と「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」が要件とされています(入管法22条2項)。
- 在留期間の更新は、在留状況を総合的に見て「更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかで判断されます(入管法21条3項)。
- 借入れの経緯に虚偽申告や使途の問題があると、免責不許可事由(破産法252条1項)や刑事事件に発展し、その段階で在留資格に直接影響します。
こんな場面で問題になります
- 永住申請を来年予定しているが、カードローンの返済が行き詰まり、自己破産を勧められている。
- 「経営・管理」で会社を経営していたが、取引先の倒産で会社が立ち行かなくなり、個人保証していた借入れも返せない。
- 「技術・人文知識・国際業務」で働いており、在留期間の更新が半年後に迫る中で破産申立てを検討している。
- 「日本人の配偶者等」で在留しており、配偶者には内緒で借金を重ねた結果、破産せざるを得なくなった。
- 破産手続中に中国の親の看病で一時帰国する必要が出てきたが、裁判所の許可がいると聞いて戸惑っている。
自己破産は退去強制や在留資格取消しの理由になりますか
なりません。退去強制事由にも在留資格取消事由にも、破産や借金の不払いは含まれていません。
入管法24条は退去強制事由を列挙しており、不法入国・不法残留、資格外活動、一定の刑罰法令違反による有罪判決(4号チ・4号リ・4号の2など)がその中心です。破産手続の開始決定や免責は、刑罰ではなく民事の手続であり、ここには該当しません。在留資格の取消し(入管法22条の4)も、偽りその他不正の手段による上陸許可や在留資格の取得、在留活動を一定期間行っていないことなどを理由とするもので、経済的な破綻はその対象ではありません。したがって、自己破産をしたことだけを理由に日本からの退去を求められることはない、というのが出発点です。
在留期間の更新ではどのように見られますか
更新は「適当と認めるに足りる相当の理由」の有無(入管法21条3項)で判断され、破産そのものより、在留活動が続いているかと生計が立っているかが問われます。
就労系の在留資格では、現に雇用され、在留資格に対応する活動を行っていることが中心的な審査事項です。会社員の方が破産しても、雇用が続き給与収入があれば、在留活動の実態は変わりません。審査では納税状況や公的義務の履行も見られるため、住民税や社会保険料の滞納があれば破産とは別に説明を求められることがあります。これに対し「経営・管理」の場合は、事業の継続そのものが在留活動です。会社の倒産と個人の破産が重なると、更新のためには事業を立て直すか、別の在留資格への変更(入管法20条)を検討することになります。
永住許可の審査で破産はどう影響しますか
永住許可には「素行が善良であること」と「独立の生計を営むに足りる資産又は技能を有すること」が要件とされており(入管法22条2項)、破産の事実は主に後者の評価に関係します。
永住許可は、在留資格の中で最も安定した地位を与えるものであるため、審査は更新より厳格です。独立生計の要件は、将来にわたって安定した生活が見込めるかを問うもので、破産に至った直後は、収入はあっても家計の安定性に疑問を持たれやすい状態です。一方、免責を受けて債務がなくなり、その後に一定期間、安定した収入で生活し、納税も続けているのであれば、むしろ生計は健全化したと説明することができます。素行要件については、破産そのものは法令違反ではないため、借入れの経緯に不正がなければ直ちに否定的に評価されるものではありません。問題になるのは、借入れの際に収入を偽ったり、返す意思がないのに借りたりした場合で、それは素行の問題であると同時に刑事事件の問題でもあります。
| 手続・在留資格 | 審査の視点 | 破産の影響の出方 | 準備すべき説明 |
|---|---|---|---|
| 在留期間の更新(就労系) | 在留活動の継続、納税等の公的義務(入管法21条3項) | 雇用が続いていれば限定的 | 在職証明、給与の継続、滞納の有無 |
| 在留期間の更新(経営・管理) | 事業の継続性・安定性 | 会社の倒産と重なると大きい | 事業再建の計画、または在留資格変更の検討 |
| 永住許可 | 素行善良、独立生計(入管法22条2項) | 免責直後は生計の安定性が問われる | 免責後の収入・納税の実績、破産に至った事情 |
| 身分系(配偶者等・定住者) | 婚姻の実態、世帯の生計 | 世帯として生計が立っていれば限定的 | 配偶者の収入を含む世帯の家計 |
免責されない債務があるというのは本当ですか
本当です。免責許可を受けても、税金、養育費、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償などの非免責債権(破産法253条)は支払義務が残ります。
免責(破産法252条)は、破産者を債務から解放して経済的な再出発を可能にする制度ですが、すべての債務が対象になるわけではありません。租税等の請求権、悪意の不法行為による損害賠償請求権、養育費などは免責の対象から除外されています(破産法253条)。在留審査との関係では、税金の滞納は納税義務の不履行として更新や永住の審査に直接響くため、破産とは別に、分納の相談などで解消に向けた動きを示すことが大切です。また、借入れの過程で虚偽の資料を提出していたり、財産を隠したりすると、免責不許可事由(破産法252条1項)に当たり、免責自体が認められないことがあります。
破産手続中に一時帰国や出張はできますか
破産手続中は裁判所の許可なく居住地を離れることが制限されており(破産法37条)、帰国や出張の前に許可を得る必要があります。
破産法37条は、破産者が裁判所の許可を得ないで居住地を離れることを制限しています。これは手続への協力を確保するための規定で、理由を説明して許可を得れば、親の看病や業務上の出張のための出国も認められ得ます。無断で出国すると、手続への非協力と評価されて免責に影響するおそれがあります。あわせて、出国の際には再入国許可またはみなし再入国許可の要件を満たすことが前提で、在留期限内に戻らなければ在留資格を失います。破産手続と在留資格の両方の制約を確認したうえで日程を組む必要があります。
借入れの経緯に問題がある場合はどうなりますか
収入の偽装や返済意思のない借入れがあると、免責不許可の問題にとどまらず、詐欺(刑法246条)などの刑事事件となり、有罪となれば在留資格に直接影響します。
自己破産そのものは在留に影響しませんが、その前提となる借入れに不正があると、話は刑事事件に変わります。虚偽の収入証明で融資を受ければ詐欺(刑法246条)や私文書偽造(刑法159条)が問題になり、別表第一の在留資格の方が詐欺や文書偽造の罪で拘禁刑に処せられると、執行猶予付きでも退去強制事由(入管法24条4号の2)に該当します。また、1年を超える拘禁刑の実刑は4号リに当たります。心当たりのある方は、破産の申立てより前に、刑事事件として立件される可能性と、その場合の在留への影響を弁護士と検討しておく必要があります。
中国籍の方に特有の留意点
第一に、在留審査で求められる説明を日本語で正確に用意することです。破産に至った事情、免責後の収入、納税状況は、申請書と添付資料で整合的に示す必要があり、中国語で事実関係を丁寧に確認してから日本語の説明文を作ることが欠かせません。第二に、中国の家族や同胞からの借入れです。これらは日本の破産手続で債権者として扱えますが、日本の免責が中国の裁判所でそのまま認められるとは限らず、帰国後に中国で請求を受ける可能性は残ります。第三に、帰国を前提にするかどうかです。破産手続中の出国には裁判所の許可が必要で(破産法37条)、在留期限や再入国許可の管理も並行して必要です。第四に、破産を機に在留資格の変更(入管法20条)を考える場合、変更の可否は新しい在留資格の要件で審査されますので、収入の見込みと活動内容を早めに固めることが大切です。第五に、借入れに関連して警察から呼出しを受けた場合は、取調べに応じる前に弁護士に相談してください。当事務所は外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で対応しています(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。
弁護士に相談すべき場面
- 永住申請や在留期間の更新を控えており、破産の時期と申請の時期をどう組み合わせるべきか迷っている。
- 「経営・管理」で会社が倒産し、個人保証の債務と在留資格の両方をどうするか決めなければならない。
- 税金や社会保険料の滞納があり、破産しても残る債務の扱いと在留審査への影響を整理したい。
- 借入れの際の申告内容に不安があり、刑事事件になる可能性と在留への影響を確認したい。
- 破産手続中に帰国や出張の必要が生じ、裁判所の許可と在留資格の両面で手順を確認したい。
当事務所は中国語での相談に対応しており(専属通訳が常駐)、債務整理・在留手続・刑事弁護を切り離さずに一体として扱います。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
自己破産をすると強制送還されますか
されません。退去強制事由(入管法24条)は不法残留や刑罰法令違反などを列挙したもので、破産は含まれていません。破産を理由に退去強制手続が始まることはありません。
自己破産の事実を入管に申告する義務はありますか
申請書に破産歴を書く欄は通常ありません。ただし、収入・資産・納税状況は申告事項であり、虚偽を書けば在留資格取消し(入管法22条の4)の原因になり得るため、聞かれたことには正確に答える必要があります。
永住申請の直前に破産した場合、申請は待つべきですか
免責直後は「独立の生計」の説明が難しいことが多く、免責後の収入と生活の安定を実績として示せるようになってから申請する方が、不許可のリスクを下げられます。時期は個別に相談してください。
配偶者が破産した場合、私の在留資格にも影響しますか
配偶者の破産がご本人の退去強制事由になることはありません。「家族滞在」や「日本人の配偶者等」で世帯の生計を扶養者の収入に頼っている場合は、更新時に世帯の生計の説明が必要になることがあります。
「経営・管理」の在留資格で会社が倒産し、個人も破産したら更新できますか
「経営・管理」は事業の継続が在留活動の中身であるため、事業が完全に止まると更新は難しくなります。別の事業の再開や他の在留資格への変更(入管法20条)を早い段階で検討する必要があります。
根拠条文・出典
- 入管法21条(在留期間の更新)、22条(永住許可)、20条(在留資格の変更)、22条の4(在留資格の取消し)、24条(退去強制事由。4号チ・4号リ・4号の2)
- 破産法252条(免責許可の決定・免責不許可事由)、253条(免責の効力・非免責債権)、37条(破産者の居住に係る制限)
- 刑法246条(詐欺)、159条(私文書偽造等)
- 貸金業法21条(取立て行為の規制)
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