示談交渉とは|外国人の刑事事件で被害者と示談するときの進め方と注意点(不起訴・在留資格)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
示談とは、加害者側が被害者に謝罪と損害の賠償を行い、被害者がそれを受け入れて処罰を求めない意思(宥恕)を示すことを内容とする当事者間の合意をいいます。刑事事件では示談の成立が不起訴や刑の軽減に直結する最も重要な情状の一つで、外国人の方にとっては在留資格を守る手段でもあります。
この記事の要点
- 検察官は犯罪後の情況を考慮して起訴しないことができ(刑訴法248条)、被害者との示談の成立は不起訴の判断で重視されます。
- 名誉毀損など親告罪では、告訴の取消し(刑訴法237条)により公訴提起ができなくなります。
- 窃盗・傷害・詐欺などで拘禁刑(執行猶予付きを含む)になると、別表第一の在留資格者は退去強制事由(入管法24条4号の2)に該当するため、示談で不起訴・罰金にとどめることが在留を守ります。
- 示談書には清算条項・宥恕条項・接触禁止条項を入れ、中国語訳を添えて本人が内容を理解したうえで署名します。
こんな場面で問題になります
- 万引きで店舗が被害届を出し、本人は謝りたいが店に直接行ってよいかわからない。
- 飲食店や駅で口論になり相手を殴ってけがをさせ、傷害の被疑者として捜査されている。
- SNS上の投稿で相手の名誉を傷つけたとして告訴され、投稿の削除と謝罪を求められている。
示談とは何ですか。謝罪や弁償と何が違いますか
示談は、謝罪と賠償に加えて、被害者が処罰を求めない、または今後争わないという意思表示を含む合意であり、単なる弁償よりも刑事手続上の効果が大きいものです。
示談の中核は、①加害者の謝罪、②損害の賠償(示談金の支払い)、③被害者の宥恕(処罰を望まないという意思)の三つです。弁償だけでは②にとどまりますが、③が加わることで被害者の処罰感情が解消したと評価され、検察官や裁判所の判断に影響します。示談は民法上の和解契約(民法695条)でもあり、清算条項を入れれば後日の追加請求も防げます。
示談が成立すると刑事手続はどうなりますか
起訴前なら不起訴(起訴猶予)の有力な事情となり、親告罪なら告訴の取消しで起訴ができなくなります。起訴後は執行猶予や罰金への軽減を支える量刑事情になります。
検察官は、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況により訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができます(刑訴法248条)。示談の成立は、この犯罪後の情況の中心です。名誉毀損(刑法230条・232条)のような親告罪では、告訴が取り消されると公訴を提起できず(刑訴法237条)、取消しは第一審の判決があるまで可能です。起訴後でも、公判で示談書を証拠提出すれば執行猶予の判断や罰金額に影響します。身柄事件では勾留期間の満了(刑訴法208条)までに成立させることが処分の分かれ目になります。
| 段階 | 示談の効果 | 弁護人の活動 |
|---|---|---|
| 捜査段階(起訴前) | 不起訴(起訴猶予)の有力な事情。親告罪は告訴取消しで起訴不能 | 被害者の連絡先の確認、交渉、示談書の作成、検察官への報告 |
| 起訴後・公判中 | 執行猶予・罰金への軽減など量刑上の事情。親告罪は第一審判決まで告訴取消し可能 | 示談書・嘆願書の証拠提出、被害者の意見の確認 |
| 判決後 | 控訴審で情状として考慮 | 控訴趣意書での主張、追加の示談 |
被害者とはどのように連絡を取りますか
加害者本人や家族が直接連絡を取ることは避け、弁護人が検察官・警察官を通じて被害者の意向を確認し、被害者が同意した場合に限って弁護人が交渉します。
捜査機関は、被害者の住所や電話番号を加害者側に教えません。弁護人が担当の検察官または警察官に、示談の申入れをしたいので被害者に連絡先の開示の可否を尋ねてほしい、と依頼し、被害者が承諾した場合に弁護人限りで連絡先が伝えられます。本人や家族が勝手に被害者を探して接触すると、証拠隠滅や脅迫と疑われて逮捕・勾留の理由になり、示談そのものも壊れます。被害者が中国語話者でも同じです。
示談金の金額はどのように決まりますか
決まった相場表はなく、被害の内容・治療費や修理費などの実損・精神的苦痛・加害者側の資力・被害者の処罰感情を踏まえて交渉で決まります。
財産犯であれば被害額の弁償が出発点で、それに謝罪の趣旨を加えた金額を提示します。傷害や性犯罪では、治療費・休業損害に加えて慰謝料の要素が中心になります。同種事件の裁判例や保険の基準を参考にしつつ、被害者の感情に配慮した金額を弁護人が提案します。支払いは銀行振込で記録を残し、現金を手渡すときは受領書を取ります。
示談書に入れるべき条項は何ですか
示談金の額と支払方法、宥恕(処罰を望まない旨)、告訴の取消し、清算条項、接触禁止、口外禁止の各条項を入れ、中国語訳を添えます。
宥恕条項は、被害者が加害者を許し寛大な処分を望む旨を明記するもので、検察官の判断に最も影響します。親告罪では告訴取消しの条項を入れ、取消書を別途作成して検察官に提出します。清算条項は、示談書に定めるほかに債権債務がないことを確認する条項で、後日の追加請求を防ぎます。接触禁止・口外禁止は被害者側の要望として入ることが多く、違反すると示談の効果が失われるおそれがあるため、本人が内容を理解していることが重要です。
示談が成立しても在留資格に影響しますか
示談により不起訴または罰金にとどまれば、薬物事犯を除き退去強制事由にはなりません。示談が成立せず拘禁刑(執行猶予付きを含む)になると、別表第一の在留資格者は退去強制事由に該当し得ます。
| 罪名 | 法定刑 | 示談なしで拘禁刑になった場合の在留 | 示談で不起訴・罰金になった場合 |
|---|---|---|---|
| 窃盗(刑法235条) | 10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 別表第一の在留資格者は執行猶予でも入管法24条4号の2に該当 | 退去強制事由に該当しない |
| 傷害(刑法204条) | 15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金 | 同上 | 退去強制事由に該当しない |
| 詐欺(刑法246条) | 10年以下の拘禁刑 | 同上 | 罰金刑がないため不起訴を目指す |
| 住居侵入(刑法130条) | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 | 同上 | 退去強制事由に該当しない |
入管法24条4号の2は、就労・留学など別表第一の在留資格の人が窃盗・詐欺・傷害・住居侵入などの罪で拘禁刑に処せられた場合に、執行猶予がついていても退去強制の対象とする規定です。1年を超える実刑は在留資格を問わず4号リに該当します。罰金で終われば退去強制事由ではありませんが、在留期間更新や永住許可の審査で素行として考慮されるため、示談書や被害者の宥恕の事実は入管への説明資料としても使えます。
被害者が示談に応じてくれないときはどうしますか
示談を強いることはできませんが、謝罪文の送付、賠償金の提示や供託、贖罪寄付など、被害回復に向けた誠意を記録に残す方法があり、検察官・裁判所はそれも情状として考慮します。
被害者が連絡先の開示を拒む、あるいは金額の折り合いがつかないことは珍しくありません。その場合、弁護人は、被害者に謝罪文を預かってもらえるか検察官に尋ねる、提示した金額と交渉経過を報告書にまとめて検察官に提出する、受け取りを拒まれた賠償金を法務局に供託する(民法494条)、といった方法で誠意を客観化します。処罰感情が強い事件でも、可能な限りの対応をした事実は量刑で考慮されます。
中国籍の方に特有の留意点
- 直接の謝罪を避ける:中国では当事者同士や家族が直接話し合って解決する習慣がありますが、日本の刑事事件で本人や家族が被害者に接触すると、証拠隠滅・威迫と疑われます。中国の家族が日本の被害者に連絡しようとするのも止めてください。
- 示談書の言語:示談書は日本語が原本になります。弁護人が中国語訳を交付し、宥恕や清算の意味を確認したうえで署名してもらいます。
- 示談金の送金:中国からの送金は外貨管理の制約で時間がかかることがあります。勾留期間の満了に間に合うよう、早い段階で家族に資金の準備を依頼してください。
- 在留資格との一体的な検討:不起訴・罰金・執行猶予のどれで終わるかで在留への影響が変わります(入管法24条4号リ・4号の2、5条1項4号)。示談の目標は在留資格の種類を踏まえて決めます。
弁護士に相談すべき場面
- 逮捕・勾留され、勾留期間が終わる前に示談を成立させて不起訴を目指したいとき。
- 被害者が店舗・企業で、担当者や連絡先がわからないとき。
- 名誉毀損など親告罪で告訴され、告訴の取消しを求めたいとき。
- 被害者側から高額な示談金を求められ、妥当かどうか判断がつかないとき。
- 在留期限の更新や永住申請を控えており、処分の結果が在留に与える影響を知りたいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針ですが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。それでも、取調べの直前に捜査官と協議することで、通訳の確保や取調べの範囲を確認し、不当な取調べを牽制する効果があります。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
示談が成立すれば不起訴になりますか
不起訴が約束されるわけではありませんが、起訴猶予(刑訴法248条)の判断で示談の成立は最も重視される事情の一つです。親告罪では告訴の取消しにより起訴ができなくなります。
被害者の連絡先を警察に聞けば教えてもらえますか
本人や家族には教えてもらえません。弁護人が検察官・警察官を通じて被害者の意向を確認し、被害者が承諾した場合に弁護人限りで連絡先が伝えられます。
示談金は中国の家族が払っても問題ありませんか
問題ありません。ただし送金に時間がかかることがあるため、早めに準備し、支払いの記録を残してください。
示談書は中国語で作れますか
原本は日本語で作成し、検察官・裁判所に提出します。弁護人が中国語訳を作成し、内容を確認したうえで署名してもらいます。
示談ができれば在留資格は守られますか
不起訴や罰金で終われば薬物事犯を除き退去強制事由にはなりません。拘禁刑(執行猶予付きを含む)になると、別表第一の在留資格者は入管法24条4号の2に該当し得るため、示談の目標は在留資格を踏まえて設定します。
根拠条文・出典
- 刑事訴訟法248条(起訴便宜主義)、237条(告訴の取消し)、208条(勾留期間)、39条1項(接見交通)
- 刑法235条(窃盗)、204条(傷害)、246条(詐欺)、130条(住居侵入)、230条・232条(名誉毀損・親告罪)
- 民法695条(和解)、494条(供託)
- 出入国管理及び難民認定法24条4号チ・4号リ・4号の2(退去強制事由)、5条1項4号(上陸拒否)
関連する解説
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