解体現場・ヤードに入管職員が同行へ|外国人を雇う事業者が今確認すべき不法就労助長罪と在留カード
2026/09/22
2026年9月11日、平口洋法務大臣は閣議後の記者会見で、外国人の不法就労対策の一環として、出入国在留管理庁(以下「入管庁」といいます。)の職員が他省庁の行政指導などに同行し、入管法に基づく対応を行う方針を明らかにしました。報道によれば、早ければ10月にも、国土交通省などが建設リサイクル法に基づいて年2回行っている解体工事現場の全国一斉パトロールに入管庁の職員が同行し、その場で外国人作業員の在留資格や在留期間を確認し、不法就労が疑われる人には入管への出頭を求めることが想定されています。解体した自動車の部品などを保管する「ヤード」についても、環境省と協力した調査が検討されていると報じられています。
解体業やヤード、スクラップの業界では、中国籍をはじめとする外国籍の経営者の方や、外国人の作業員を雇用する事業者の方が少なくありません。本記事では、この方針によって現場で何が変わるのか、雇用主にどのような刑事上・入管上の責任が生じうるのか、そして立入りの前に何を整えておくべきかを、外国人事件を扱う弁護士の立場から整理します。
本記事の要点
- これまで解体現場の行政指導に来る国や自治体の担当職員には、在留カードの提示を求める権限がありませんでした。入管庁の職員が同行すれば、その場で提示を求められ、正当な理由なく拒むと犯罪になります。
- 現場で不法就労の外国人が見つかれば、雇用主は不法就労助長罪(入管法第73条の2)の捜査対象になり得ます。この罪は「知らなかった」では免責されず、過失がなかったことまで必要です。
- 法定刑は現在、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金(併科あり)ですが、令和9年4月1日からは5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に引き上げられます。
- 雇用主が外国人の場合、不法就労助長行為は退去強制事由(入管法第24条第3号の4)にも当たり得ます。刑事の結論とは別に、在留資格を失うおそれがあります。
- 立入りの前に、在留カード原本の確認記録、下請や一人親方の就労実態、外国人雇用状況の届出を点検しておくことが、最も有効な備えになります。
1 今回の方針で、現場で何が変わるのか
在留カードを持つ中長期在留者は、在留カードを常に携帯し、入国審査官、入国警備官、警察官、海上保安官その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員が職務の執行に当たって提示を求めたときは、これに応じなければなりません(入管法第23条第2項・第3項)。これまで、建設リサイクル法に基づいて解体工事現場を回る担当職員には、この提示を求める権限がなく、現場に外国人の作業員がいても在留資格を確かめる手段がありませんでした。
入管庁の職員が同行することで、この空白が埋まります。在留カードの提示を求められた外国人が正当な理由なくこれを拒めば、1年以下の拘禁刑又は20万円以下の罰金の対象となり(同法第75条の2第2号)、在留カードを携帯していなかっただけでも20万円以下の罰金の対象となります(同法第75条の3)。作業員の方には、現場でも在留カードを必ず携帯するよう、日頃から伝えておく必要があります。
なお、在留カードの提示を求めることと、事業所に強制的に立ち入ることは別のものです。入国警備官が違反調査のために臨検や捜索を行うには、原則として、裁判官があらかじめ発する許可状が必要です(同法第31条)。報道されている同行は、他省庁のパトロールや行政指導に入管庁の職員が加わる形のものであり、その場で行われるのは、主として在留カードの確認と、不法就労が疑われる人に対する出頭の要請です。もっとも、出頭を求められた人は、入国警備官による違反調査の対象として取調べを受けることになり(同法第27条・第29条)、そこで作成される供述調書は、本人の手続だけでなく、雇用主側の事件の出発点にもなります。
入管庁の公表によれば、令和7年に退去強制手続等を執った外国人18,442人のうち、不法就労の事実が認められた人は13,435人(72.9%)で、就労内容別では農業従事者に次いで建設作業者(4,011人)が多かったとされています。法務大臣が会見で「7割以上で不法就労があった」と述べたのは、この実態を指すものと考えられます。解体現場が最初の対象とされたのも、こうした数字を背景にしたものといえるでしょう。
2 現場で不法就労が見つかったとき、雇用主に何が起きるか
不法就労助長罪(入管法第73条の2第1項)は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者などを、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めています。法人の業務に関して従業者が違反した場合には、行為者のほか、法人にも罰金刑が科されます(同法第76条の2)。さらに、令和6年に成立した改正法(令和6年法律第60号)により、令和9年4月1日からは、法定刑が5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に引き上げられます。
「不法就労活動」には、在留期間を過ぎた人(不法残留者)の就労だけでなく、在留資格はあっても、その資格では認められていない仕事をさせることも含まれます。解体やヤードの現場で問題になりやすいのは、次のような場面です。
- 留学生や家族滞在の方を、資格外活動許可の範囲(原則として週28時間以内)を超えて、あるいは許可を受けないまま働かせている
- 技能実習生や特定技能の外国人を、本来の受入れ先や認められた業務の範囲を超えて現場に出している
- 仮放免中の方など、就労が認められていない人を日払いで使っている
- 「技術・人文知識・国際業務」など、現場作業を予定しない在留資格の人を解体作業に従事させている
特に注意が必要なのは、下請や一人親方の形をとっている場合です。形式上は請負契約であっても、実際には上位の業者が作業の指示や時間の管理をしていれば、その業者が外国人に不法就労活動を「させた」と評価されるおそれがあります。契約書の形式だけで責任を免れることはできないと考えてください。
雇用主にとって最も重要なのが、同条第2項です。雇用主は、その外国人の活動が在留資格の範囲外であることや、資格外活動許可を受けていないこと、不法残留者であることなどを「知らないことを理由として」処罰を免れることはできず、「過失のないとき」に限って処罰されません。現場で在留カードが確認されるようになれば、雇用主が採用時に何を、どのように確認していたのかが、直ちに問われることになります。
3 外国籍の経営者の方にとっての、もう一つのリスク
雇用主ご自身が外国籍である場合、問題は刑事罰にとどまりません。入管法第24条第3号の4は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせる行為などを行い、唆し、又はこれを助けた外国人を、退去強制の対象としています。永住者であっても例外ではありません。しかも、この規定には、刑事罰のような「過失のないときは、この限りでない」というただし書がなく、下級審では、退去強制事由に当たるかどうかの判断に過失は要らないとする解釈が採られています。
この解釈を前提にすると、刑事事件が不起訴や罰金で終わったとしても、入管の違反調査が別に進み、在留資格そのものを失うおそれがあります。刑事で起訴猶予となった場合、それは不法就労助長行為があったことを前提とする判断ですから、入管手続ではむしろ不利な資料になりかねません。刑事段階から、嫌疑不十分による不起訴を目標に据える必要があるのはそのためです。
当事務所は、退去強制事由の判断にも責任主義が及ぶべきであり、落ち度のない雇用主を退去強制することは許されないという立場から、この問題を正面から争っています。不法就労助長を理由とする違反認定の取消しを求めた事件は、現在、最高裁判所第三小法廷に係属しています(令和7年(行ツ)第310号・令和7年(行ヒ)第347号)。結論はまだ出ていませんが、刑事段階から過失の有無を丁寧に争っておくことが、入管手続での主張の土台になるという点は、どの事件にも共通しています。この論点の詳細は、当サイトの記事「不法就労助長罪|起訴猶予では足りない」で解説しています。
4 立入りの前に整えておきたいこと
今回の方針は、抜き打ちの摘発というよりも、年2回の全国一斉パトロールなど既存の行政指導の枠組みに入管庁の職員が加わるものです。つまり、準備の時間があります。次の点を、今のうちに点検してください。
第1に、在留カード原本の確認とその記録です。全ての外国人作業員について、在留カードの原本で、在留資格、在留期間の満了日、就労制限の有無、裏面の資格外活動許可欄を確認し、その写しを保管します。入管庁が公開している在留カード等読取アプリケーションで真偽を確かめ、その結果も記録しておけば、過失がなかったことを示す有力な資料になります。在留期間の満了日は一覧表で管理し、更新の状況を定期的に確認してください。
第2に、外国人雇用状況の届出です。外国人を雇い入れたとき、離職したときは、ハローワークへの届出が義務付けられています(労働施策総合推進法第28条)。届出の控えは、雇用主が在留資格を意識して雇用管理をしていたことを示す資料にもなります。
第3に、下請や一人親方の実態の把握です。自社の従業員でなくても、自社の現場で作業する外国人については、誰が作業の指示を出し、誰が賃金を支払っているのかを整理し、元請と下請の間で在留資格の確認の責任分担を書面で決めておくことが望ましいといえます。
第4に、問題が見つかったときの対応です。点検の結果、在留資格の範囲を超えた就労などが見つかった場合、その後の対応の仕方によって、刑事上・入管上の評価は大きく変わります。自己判断で急に解雇したり、記録を後から作り直したりする前に、弁護士にご相談ください。事後的に記録を整えようとすることは、かえって事態を悪化させることがあります。
5 当日とその後の対応で押さえておきたい3つのポイント
第1に、在留カードの提示には応じる一方で、取調べでの供述は慎重に行うことです。在留カードの提示は法律上の義務ですが、その後の事情聴取で何を話すかは別の問題です。刑事手続の取調べでは、黙秘権が保障されています(憲法第38条第1項、刑事訴訟法第198条第2項)。入管の違反調査でも、作成された調書は署名の前に閲覧させるか読み聞かせることになっており(入管法第29条第3項)、内容に誤りがあれば訂正を求めることができます。不法就労助長罪では、「知らなかった」と繰り返すことが、かえって確認を怠っていたという過失の自認と受け取られることがあります。
第2に、早い段階で弁護士が関与することです。雇用主に対する最初の接触は、多くの場合、任意の出頭要請です。この段階で確認記録を整理し、供述の方針を立て、必要に応じて弁護人の意見書を先に提出することで、事件化そのものを避けられる場合があります。
第3に、経験のある通訳を確保することです。外国籍の経営者の方や作業員の方が取調べを受ける場合、通訳を介した供述の細かなニュアンスが、故意や過失の評価に直結します。在留カードを確認したのか、していないのか。その一言の訳し方で、結論が変わることがあります。
6 当事務所のご案内
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会)は、中国籍の依頼者を中心に、外国人の刑事弁護と入管手続に注力しています。不法就労助長事件では、刑事手続と入管手続を最初から一つの線として設計することを重視しています。
解決事例1 不法就労助長を理由に強制退去の危機にあった女性の在留特別許可
落ち度がないにもかかわらず不法就労助長を理由に違反認定を受け、強制退去の危機にあった女性の事案です。「退去強制事由には故意・過失は不要」とする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後、入管から在留特別許可が認められました。
解決事例2 入管法違反で起訴された方の在留特別許可
在留資格を失い、入管法違反で逮捕・起訴された方の事案です。日本人女性との間に子がいたものの婚姻・認知の手続が進んでいなかったところ、当局と交渉して婚姻・認知を成立させ、入管当局の過去の許可事例を分析して主張を組み立てた結果、在留特別許可を得ることができました。
当事務所では、松村大介弁護士が初動の相談から刑事手続、入管手続まで全工程を直接担当いたします(事務員・若手弁護士による代行は行いません)。また、外国人事件に精通した中国語の専属通訳が常駐しており、捜査機関が指定する通訳とは別に、依頼者ご本人のために動く立場の通訳をご利用いただけます。刑事手続が終わった後の在留資格の更新・変更については、提携する行政書士と連携してサポートいたします。
7 結語
解体現場やヤードへの入管庁職員の同行は、外国人を雇用する事業者にとって、採用時に何を確認していたのかが現場で直ちに問われるようになることを意味します。立入りが来てからでは、確認の記録を遡って整えることはできません。今のうちに点検を済ませておくこと、そして出頭の要請を受けたときには、供述の前に弁護士に相談することが、事業と在留資格を守るための最も有効な備えです。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではありません。本記事は2026年9月22日時点の報道と法令に基づいています。
執筆者
松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士
第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)
中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反事件での無罪判決(一部無罪)の獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分の獲得、在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
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