送還忌避とは|令和5年改正入管法の退去命令と送還停止効の例外を整理する
2026/09/04
送還忌避とは、退去強制令書の発付を受けた外国人が、送還に応じない状態をいう。出入国在留管理行政において用いられる呼称であり、令和5年改正入管法は、この状態への対応として複数の制度を設けた。
この記事の要点
- 送還忌避は、退去強制令書の発付を受けながら送還に応じない状態を指す行政上の呼称である。
- 背景には、日本に生活の基盤や家族がある場合、本国に帰れない事情がある場合などがある。
- 令和5年改正入管法は、送還停止効の例外、退去を命ずる処分、監理措置、補完的保護の各制度を設けた。
- 退去を命ずる処分に従わない場合の罰則が定められている。
- 送還を避けたいのであれば、状態にとどまるのではなく、法律上の手続によって主張する必要がある。
送還忌避とは何か
送還忌避は、法律用語というより、行政の運用と立法の説明の中で用いられてきた呼称である。退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、自ら出国せず、また送還の手続にも応じない状態を指す。
この呼称は、送還に応じられない事情の中身を捨象しやすい点に注意を要する。実際には、本国に帰れない事情を主張して手続を続けている人と、単に出国を拒んでいる人とが、同じ言葉で括られることがある。制度を理解するうえでは、当事者ごとの事情を分けて考える必要がある。
なぜ送還に応じられない人がいるのか
結論として、理由は一様ではない。実務上よく見られるのは次のような事情である。
- 日本人または正規在留者である配偶者や子がおり、送還が家族の分離を意味する場合
- 本国で迫害を受けるおそれがあると主張し、難民認定の申請をしている場合
- 長年日本で生活し、本国に生活の基盤も身寄りもない場合
- 治療が必要であり、本国で同等の医療を受けられないと主張する場合
- 本国政府が旅券を発給せず、事実上出国できない場合
最後の類型は、本人の意思とは関係なく送還が実現しない場合であり、性質が大きく異なる。
令和5年改正入管法で何が変わったか
結論として、送還を促す仕組みと、収容を避ける仕組みとが同時に設けられた。令和6年6月10日から施行されている。
| 制度 | 内容 |
|---|---|
| 送還停止効の例外 | 難民認定の申請中でも、一定の場合には送還が停止されないこととされた |
| 退去を命ずる処分 | 一定の者に対し、期限を定めて本邦からの退去を命ずることができることとされた |
| 命令違反の罰則 | 退去を命ずる処分に従わない場合について、罰則が定められた |
| 監理措置 | 収容に代えて、監理人の監理の下で社会内での生活を認める制度が設けられた |
| 補完的保護対象者 | 難民に当たらないが同様に保護すべき者を認定する制度が設けられた |
送還を促す方向の改正と、収容を回避し保護を拡げる方向の改正とが同じ法律に含まれている。当事者にとっては、どちらの制度に乗せて主張するかが実際上の課題となる。
送還停止効の例外とはどのようなものか
従前は、難民認定の申請をしている間は一律に送還が停止されていた。令和5年改正は、この送還停止効について例外を設けた。
| 例外の類型 | 内容 |
|---|---|
| 3回目以降の申請 | 難民等と認定すべき相当の理由がある資料を提出した場合を除く |
| 重い刑に処せられた者 | 無期または3年以上の拘禁刑に処せられた者 |
| テロリスト等 | 入管法が定める一定の者 |
刑事事件を経た方にとっては、二つ目の類型が直接に関係する。詳しくは難民認定申請の解説をご覧いただきたい。
退去を命ずる処分に従わないとどうなるか
結論として、刑事責任を問われうる。令和5年改正入管法は、一定の者に対して期限を定めて本邦からの退去を命ずることができるものとし、この命令に従わない場合について罰則を定めた。従前は、送還に応じないこと自体を処罰する規定がなかったため、この点が大きな変更である。
実務上重要なのは、この命令を受けた段階では、すでに争う手段が限られているという点である。命令が出てから対応を考えるのではなく、それ以前の審査の各段階で主張を尽くしておく必要がある。
送還を避けたい場合に取りうる法的手段は何か
取りうる手段は、事情の内容によって異なる。日本での生活の継続を求めるのであれば在留特別許可を求める主張が中心となり、その判断は法務大臣の裁決の段階で行われる。本国での迫害のおそれを主張するのであれば、難民認定の申請または補完的保護対象者の認定の申請による。
行政手続で結論が出た後は、取消訴訟と執行停止に舞台が移る。身柄については監理措置や仮放免を求めることになる。いずれにせよ、送還に応じないという状態にとどまることは、法的な主張の代わりにはならない。
外国人の刑事事件で送還忌避が問題になるのはどのような場面か
実刑判決を受けた方は、送還停止効の例外の類型に当たる可能性がある。無期または3年以上の拘禁刑に処せられた場合、難民認定の申請中であっても送還されうるため、難民認定の手続だけに依拠する方針は成り立ちにくい。
そのため、刑事弁護の段階から、量刑が入管手続に及ぼす影響を織り込んでおくことが重要になる。同じ有罪であっても、刑の重さによって後の選択肢が変わるからである。刑事と入管を一体として考えることが、この場面では特に意味をもつ。
よくあるご質問
Q1 送還忌避は犯罪ですか。
送還に応じないという状態それ自体を処罰する規定があるわけではありません。もっとも、令和5年改正入管法により、退去を命ずる処分が設けられ、この命令に従わない場合について罰則が定められました。単なる状態の呼称と、法律上の義務違反とは区別して理解する必要があります。
Q2 難民認定を申請していれば送還されませんか。
申請中は送還が停止されるのが原則ですが、令和5年改正により例外が設けられました。3回目以降の申請である場合、無期または3年以上の拘禁刑に処せられた者である場合などは、申請中であっても送還されうる仕組みになっています。
Q3 本国に帰れない事情がある場合はどうすればよいですか。
事情の内容に応じて、難民認定の申請、補完的保護対象者としての認定の申請、在留特別許可を求める主張、退去強制令書発付処分の取消訴訟と執行停止など、取りうる手段が異なります。まずは事情を整理して、どの制度に乗せるかを検討することが出発点になります。
Q4 送還を拒み続ければ、いつか在留が認められますか。
そのような見通しは立ちません。むしろ、退去命令や罰則の対象となりうるほか、収容が長期化する要因にもなります。在留を求めるのであれば、法律上の手続に乗せて主張することが必要です。
Q5 監理措置になれば送還されないのですか。
監理措置は収容を解く仕組みであり、送還の義務そのものを免れさせるものではありません。社会内で生活しながら手続を進められる点に意味がありますが、退去強制令書の効力が消えるわけではないことに注意が必要です。
おわりに
送還忌避という言葉は、送還に応じない人という側面だけを切り取りやすい。しかし実際には、日本に家族がいる、本国に帰る先がない、旅券が発給されないなど、事情はそれぞれ異なる。まずは自分の事情がどの制度に乗るのかを見極めることが、遠回りのようで確かな道になる。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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