退去強制令書とは|発付の場面と収容・送還の効果、取消訴訟と執行停止
2026/09/04
退去強制令書とは、退去強制の対象となることが確定した外国人を本邦から退去させるために、主任審査官が発付する令書をいう。この令書に基づいて、入国警備官が収容および送還を執行する。
この記事の要点
- 退去強制令書は主任審査官が発付し、入国警備官が執行する。
- 発付されるのは、認定または判定に服したとき、および異議に理由がないとの裁決がされたときである。
- 効果は、収容と送還の二つである。
- 収容令書による収容と異なり、収容期間の上限は定められていない。
- 争う手段は取消訴訟であり、送還を止めるには執行停止の申立てを要する。
退去強制令書とは何か
退去強制令書は、退去強制手続の帰結として発付される令書である。収容令書が審査の間の身柄の確保を目的とするのに対し、退去強制令書は、退去強制そのものを実現するための根拠となる。
令書には、退去強制を受ける者の氏名、国籍、退去強制の理由、送還先などが記載される。発付権者は主任審査官であり、執行するのは入国警備官である。
退去強制令書はどのような場合に発付されるか
結論として、審査のいずれかの段階で退去強制の対象であることが確定した場合に発付される。当事者が手続のどこで争うことをやめたかによって、発付の時期が変わる。
| 発付される場面 | その前の手続 |
|---|---|
| 入国審査官の認定に服したとき | 違反審査で認定を受け、口頭審理を請求しなかった場合 |
| 特別審理官の判定に服したとき | 口頭審理で判定を受け、異議の申出をしなかった場合 |
| 異議の申出に理由がないとの裁決がされたとき | 在留特別許可もされなかった場合 |
裏を返せば、口頭審理の請求や異議の申出をせずに服してしまうと、より早い段階で退去強制令書が発付されることになる。
退去強制令書が発付されると何が起こるか
効果は収容と送還の二つである。入国警備官は、令書の発付を受けた者を収容し、速やかに本邦外へ送還する。すでに収容令書により収容されている場合は、収容の根拠が退去強制令書に切り替わる。
送還先は、原則として国籍または市民権のある国である。ただし、迫害を受けるおそれのある地域への送還を禁じる国際法上の要請があり、入管法にもこれを踏まえた定めがある。詳しくは送還の解説をご覧いただきたい。
退去強制令書による収容はいつまで続くか
結論として、期間の上限は定められていない。入管法上、退去強制令書による収容は、送還することができるまで継続しうる構造となっている。収容令書による収容が原則30日、延長して最長60日であるのと大きく異なる。
この構造が長期収容の問題を生んできた。令和5年改正入管法は、収容を継続する必要があるかどうかを一定期間ごとに見直す仕組みを設け、あわせて収容に代わる監理措置の制度を導入した。従前からある仮放免とあわせて、身柄の解放を求める手段は複数ある。
退去強制令書の発付を争う方法はあるか
結論として、裁決および退去強制令書発付処分の取消訴訟を提起し、あわせて執行停止を申し立てるのが基本である。訴えを提起しただけでは処分の効力は止まらないため、執行停止の申立てが実質的な鍵となる。
| 手段 | 目的 | 留意点 |
|---|---|---|
| 取消訴訟 | 裁決と退去強制令書発付処分の取消し | 処分を知った日から原則として6か月以内に提起する |
| 執行停止の申立て | 送還および収容の執行を止める | 訴訟の提起と同時か、その後に申し立てる |
| 監理措置・仮放免の申請 | 身柄の解放 | 訴訟とは別に、行政手続として並行して行う |
いずれも時間との勝負になる。詳しくは取消訴訟および執行停止の解説をご覧いただきたい。
退去強制されると再び日本に来られるか
結論として、一定の期間、上陸が拒否される。入管法第5条第1項第9号は、退去強制を受けて出国した者について、出国した日から原則として5年間、過去にも退去強制を受けたことがある者については10年間、上陸を拒否する旨を定めている。
これとは別に、入管法は、一定の刑に処せられたことがある者について、期間の定めのない上陸拒否事由も定めている。刑事事件を経た方の場合は、この点の確認が欠かせない。詳しくは上陸拒否期間の解説をご覧いただきたい。
外国人の刑事事件で退去強制令書が問題になるのはどのような場面か
実刑判決を受けて服役した方の場合、刑期の満了とともに入管に身柄が引き継がれ、退去強制手続を経て令書が発付される流れが典型である。日本に家族がいる場合、送還は家族の分離を意味するため、令書の発付を争うかどうかが重い判断になる。
争う方針をとる場合、送還が現実に迫ってから訴訟の準備を始めるのでは間に合わない。裁決の内容を早期に確認し、取消訴訟と執行停止の準備を同時に進める必要がある。刑事弁護の段階から見通しを立てておくことが、この局面での選択肢を残す。
よくあるご質問
Q1 退去強制令書が出たら、すぐに送還されますか。
直ちに送還される場合もあれば、旅券の準備や航空便の手配に時間がかかり、その間収容が続く場合もあります。難民認定の申請中である場合など、法律上送還が停止される場面もあります。いつ送還されるかは事案により大きく異なります。
Q2 退去強制令書による収容には期限がありますか。
収容令書による収容と異なり、期間の上限は定められていません。送還することができるまで収容が続きうる構造です。もっとも、令和5年改正入管法により、収容の必要性を一定期間ごとに見直す仕組みと監理措置の制度が設けられました。
Q3 退去強制令書の発付を裁判で争えますか。
争えます。裁決および退去強制令書発付処分の取消訴訟を提起することが考えられます。ただし訴えを起こしただけでは送還は止まりませんので、執行停止の申立てを併せて行うのが実務の基本です。
Q4 退去強制されると、もう日本に来られませんか。
一律に永久ではありません。退去強制を受けた場合には原則として5年間、過去にも退去強制を受けたことがある場合には10年間、上陸が拒否されます。ただし、一定の刑に処せられたことがある方については、期間の定めのない上陸拒否事由が別に定められています。
Q5 自分で費用を負担して出国することはできますか。
できる場合があります。自費出国の許可を受けて自ら出国する取扱いがあり、国費による送還を待つよりも早く出国できることがあります。ただし、在留を求めて争う方針であれば、出国は主張を放棄することにつながりますので、慎重に判断する必要があります。
おわりに
退去強制令書は、それまでの手続の結論を書面にしたものにすぎない。しかし当事者にとっては、生活の場所と家族との関係が同時に失われることを意味する。争うのか、出国して次の道を探すのかという判断には、正確な見通しが要る。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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