法務大臣の裁決とは|異議の申出への判断と在留特別許可が生まれる仕組み
2026/09/04
法務大臣の裁決とは、退去強制手続における異議の申出に対して法務大臣が行う判断をいう。退去強制手続の行政段階における最終の判断であり、在留特別許可を与えるかどうかもこの段階で決まる。
この記事の要点
- 裁決は、特別審理官の判定に対する異議の申出を受けて行われる。
- 結論は、異議に理由があるか否か、そして在留を特別に許可するか否かで分かれる。
- 異議に理由がないとされる場合でも、在留特別許可がされることがある。
- 権限は法務大臣にあるが、実際には地方出入国在留管理局長に委任されている。
- 裁決に不服がある場合は、取消訴訟と執行停止の申立てを検討することになる。
法務大臣の裁決とは何か
裁決は、異議の申出に対する判断である。口頭審理の判定に服さない容疑者が法務大臣に異議を申し出ると、法務大臣がその理由の有無を判断する。これが裁決であり、退去強制手続の行政段階における最終の判断となる。
裁決の結果は、主任審査官から本人に通知される。異議に理由があるとされれば直ちに放免され、理由がないとされれば退去強制令書が発付される。ただし、後者の場合でも、なお在留を特別に許可する余地が残されている点が、この手続の要である。
裁決にはどのような結論があるか
結論として、実務上は三つの帰結がありうる。
| 裁決の内容 | その後の取扱い |
|---|---|
| 異議の申出に理由がある | 直ちに放免される |
| 異議の申出に理由がないが、在留を特別に許可する | 在留特別許可がされ、在留資格が与えられる |
| 異議の申出に理由がなく、在留も許可しない | 退去強制令書が発付される |
相談の場面で目指すのは、多くの場合、二つ目の帰結である。退去強制事由に該当すること自体は動かせなくとも、在留を認めるべき事情を示すことで結論を変えうるからである。
なぜ理由がなくても在留特別許可がされるのか
入管法第50条が、異議の申出に理由がないと認める場合であっても、法務大臣が在留を特別に許可することができる旨を定めているからである。この規定があるために、退去強制事由に該当することを認めたうえで、なお在留を求めるという主張が成り立つ。
令和5年改正入管法は、この在留特別許可について、申請の手続を法律上明確にし、考慮すべき事情を条文に列挙し、許可しない場合には理由を示すこととした。改正前は運用上のガイドラインに委ねられていた部分が、法律の規律に取り込まれたことになる。
在留特別許可ではどのような事情が考慮されるか
入管法第50条第5項は、考慮すべき事情を列挙している。実務上は、この項目に沿って資料を整えて主張することになる。
| 考慮事情 | 主張の際に示す資料の例 |
|---|---|
| 在留を希望する理由 | 本人の陳述書、家族の陳述書 |
| 家族関係 | 戸籍謄本、住民票、婚姻の実態を示す資料、子の在学証明書 |
| 素行 | 納税証明書、就労状況を示す資料、前科前歴の有無に関する説明 |
| 入国の経緯および在留の期間 | 旅券の写し、在留の経過を示す資料 |
| 本邦における法的地位 | 従前の在留資格に関する資料 |
| 退去強制の理由となった事実 | 刑事事件の判決書、示談書、被害弁償の資料 |
| 人道上の配慮の必要性 | 診断書、本国の事情に関する資料 |
なお、同条第1項のただし書は、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者などについて、特別の事情があると認めるときに限り許可することができるとしている。刑事事件を経た事案では、この特別の事情をどのように基礎づけるかが中心的な課題となる。
裁決は誰が行うのか
条文上の権限者は法務大臣である。しかし実際には、この権限は地方出入国在留管理局長に委任されており、多くの事案では同局長が判断している。大臣自身が個別の事案を判断するわけではない。
この点は、裁決の性質を理解するうえで重要である。裁決は政治的な恩恵ではなく、法が定めた考慮事情に沿って行われるべき行政判断であり、その判断過程に誤りがあれば司法の審査の対象となる。
裁決に不服がある場合はどうするか
結論として、裁決および退去強制令書の発付について取消訴訟を提起し、あわせて執行停止を申し立てることが基本になる。取消訴訟を提起しただけでは送還は止まらないため、執行停止の申立てを併せて行う必要がある。
出訴期間にも注意を要する。行政事件訴訟法は、処分または裁決があったことを知った日から原則として6か月以内に訴えを提起すべきものと定めている。詳しくは取消訴訟および執行停止の解説をご覧いただきたい。
外国人の刑事事件で裁決が問題になるのはどのような場面か
刑事事件で有罪判決を受けた方の退去強制手続では、裁決が最終的な分かれ目になる。刑の重さそのものを争うことはできないため、在留を認めるべき事情をどれだけ具体的に示せるかに帰着する。
実務上重視されるのは、家族関係の実態、日本での在留の経過、被害弁償や示談の状況、再犯を防ぐための具体的な環境である。刑事弁護の段階でこれらの資料を整えておけば、そのまま裁決に向けた主張の土台となる。刑事と入管を切り離さずに準備することが、この場面では特に意味をもつ。
よくあるご質問
Q1 裁決はどのくらいの期間で出ますか。
事案により幅があり、数か月で出ることもあれば、それ以上かかることもあります。家族関係や在留の実態について詳しい調査がされる事案では、審理に時間を要する傾向があります。収容されている場合は、その間の身柄について別途対応が必要です。
Q2 異議に理由がないとされたら、必ず退去になりますか。
必ずではありません。入管法は、異議の申出に理由がないと認める場合であっても、在留を特別に許可することができると定めています。理由がないという判断と、在留特別許可を与えるかどうかの判断は別のものです。
Q3 裁決をするのは本当に法務大臣ですか。
条文上の権限者は法務大臣ですが、実際にはその権限が地方出入国在留管理局長に委任されており、多くの事案では同局長が判断しています。裁決の通知は主任審査官から本人に対して行われます。
Q4 在留特別許可がされなかった理由は教えてもらえますか。
令和5年改正入管法により、在留特別許可をしない場合には理由を示す仕組みが整えられました。示された理由は、その後に取消訴訟を検討する際の出発点になりますので、必ず内容を確認してください。
Q5 裁決に不服がある場合、どうすればよいですか。
裁決および退去強制令書の発付について、取消訴訟を提起することが考えられます。訴訟を起こしただけでは送還は止まらないため、あわせて執行停止の申立てを行うのが実務の基本です。時間的な余裕がありませんので、早期にご相談ください。
おわりに
裁決は、当事者にとっては通知の書面として届くだけである。しかし、その書面に至るまでに述べたこと、提出した資料のすべてが評価の対象になっている。結論を左右するのは、通知を受け取った後の対応ではなく、それまでに何を積み上げられたかである。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。
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