在宅事件とは|逮捕されない刑事事件の流れと中国籍の方の注意点(呼出し・取調べ・在留資格)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
在宅事件とは、警察や検察が被疑者を逮捕・勾留せず、本人が自宅で普段どおり生活しながら捜査を受ける刑事事件をいいます。逮捕されない分だけ軽く見られがちですが、起訴されて有罪になれば身柄事件と同じように前科がつき、在留資格にも影響します。
この記事の要点
- 在宅事件でも起訴・有罪となれば、1年を超える拘禁刑(入管法24条4号リ)や、執行猶予付きでも窃盗・傷害・詐欺などによる拘禁刑(同4号の2)は退去強制事由になります。
- 逮捕された場合の48時間・24時間・10日(延長最大10日)という時間制限(刑訴法203条・205条・208条)は在宅事件にはなく、捜査は長期化しがちです。
- 取調べの前には黙秘権が告知され(刑訴法198条2項)、調書への署名押印を拒む権利があります。
- 正当な理由なく呼出しに応じない、転居や出国の動きを見せるといった事情は逃亡のおそれとみられ、逮捕状(刑訴法199条)に切り替わるきっかけになります。
こんな場面で問題になります
- ドラッグストアでの万引きを疑われ、警察署で話を聞かれたその日に帰されたが、後日また来るよう言われた。
- 自転車や自動車の事故で相手がけがをし、過失運転致傷(自動車運転死傷処罰法5条)の疑いで在宅のまま捜査されている。
- 居酒屋での口論から相手を押してけがをさせ、被害届が出されたと警察から電話があった。
- フリマアプリやSNSでの転売・代行業について、詐欺や商標法違反の疑いで任意の出頭を求められた。
- 経営する会社に捜索が入り、不法就労助長(入管法73条の2)の疑いで経営者として呼ばれている。
在宅事件とはどのような事件ですか
在宅事件とは、身柄を拘束されないまま被疑者として捜査の対象になっている事件のことで、事件が軽いという意味でも、起訴されないという意味でもありません。
刑事事件は、逮捕・勾留で身柄を拘束したまま進める身柄事件と、拘束せずに進める在宅事件に分かれます。警察は、証拠隠滅や逃亡のおそれが小さいと判断すれば、逮捕せずに必要なときだけ呼び出して取調べを行います。最初から在宅のこともあれば、勾留請求の却下や勾留満了で釈放された後に在宅に切り替わることもあります。いずれも警察は捜査が終われば事件を検察官に送致し(刑訴法246条)、検察官が起訴するかどうかを決めます(刑訴法248条)。逮捕は捜査の手段であって処罰ではなく、在宅のまま起訴され、公判で有罪判決を受けることは普通にあります。
在宅事件はどのような流れで進みますか
警察の取調べ、検察官への送致、検察官の取調べ、処分の決定(不起訴・略式命令・公判請求)の順に進み、各段階に法律上の時間制限はありません。
身柄事件には、逮捕から48時間以内に送致、送致から24時間以内に勾留請求、勾留は原則10日で延長しても最大10日という制限(刑訴法203条・205条・208条)があり、処分までの道筋が見えます。在宅事件にはこの制限がなく、呼出しが何か月も空くことや、送致後に検察官から連絡が来るまで時間がかかることが珍しくありません。連絡が来ないから終わったと思い込むのは危険で、処分の有無は弁護人が担当検察官に問い合わせて確認できます。
| 段階 | 内容 | 身柄事件の時間制限 | 在宅事件 |
|---|---|---|---|
| 警察の取調べ | 呼出し・供述調書の作成 | 逮捕から48時間以内に送致(刑訴法203条) | 制限なし |
| 送致 | 事件記録と証拠を検察官へ | 送致から24時間以内に勾留請求(刑訴法205条) | 制限なし |
| 検察官の捜査 | 検察庁での取調べ・補充捜査 | 勾留10日、延長最大10日(刑訴法208条) | 制限なし |
| 処分 | 不起訴・略式命令請求・公判請求 | 勾留満了までに決定 | 公訴時効(刑訴法250条)まで |
警察や検察からの呼出しには応じなければなりませんか
任意の呼出しに法的な強制力はありませんが、正当な理由なく応じないと逮捕に切り替わるおそれがあるため、弁護人と相談のうえ日程を調整して出頭するのが原則です。
在宅事件の取調べは任意捜査(刑訴法197条1項・198条1項)であり、出頭を拒んだり、出頭後いつでも退去したりできます。ただし、何度も呼出しを無視すると、逃亡のおそれがあるとして逮捕状が請求されることがあります。仕事や通訳の都合で日程が合わないときは、断るのではなく弁護人を通じて別の日を提案してください。呼出しの電話では、何の事件か、被疑者としてか参考人としてかを確認し、わからなければそのまま弁護士に伝えてください。
在宅事件の取調べで気をつけることは何ですか
黙秘権の告知を受けたうえで、事実と異なる調書には署名押印しないこと、通訳に不安があれば中断を求めることが重要です。
取調べの冒頭で、警察官・検察官は黙秘権を告げなければなりません(刑訴法198条2項)。供述調書は読み聞かせを受けて内容を確認し、誤りがあれば訂正を申し立てることができ、署名押印を拒むこともできます(同条4項・5項)。中国籍の方は警察が用意した通訳人を通じて取調べを受けますが、通訳の精度は一定ではありません。意味が取れないまま、はい、と答えると、その内容が日本語の調書として残ります。取調べの前に弁護人と想定問答を整理しておくことが、不利な調書を防ぐ最も確かな方法です。
在宅事件の結果は在留資格にどう影響しますか
不起訴なら退去強制事由にはなりませんが、罰金は更新・永住審査で考慮され、拘禁刑(執行猶予付きを含む)は退去強制事由になり得ます。
| 処分の結果 | 前科 | 退去強制事由(入管法24条) | 在留審査への影響 |
|---|---|---|---|
| 不起訴 | つかない | 該当しない | 原則なし(事情の説明を求められることはある) |
| 略式命令(罰金) | つく | 薬物事犯は4号チに該当。その他は原則該当しない | 更新・変更・永住の審査で素行として考慮 |
| 拘禁刑(執行猶予付き) | つく | 別表第一の在留資格者は、窃盗・傷害・詐欺など4号の2の対象罪で該当 | 更新不許可の可能性が高まる |
| 1年を超える拘禁刑(実刑) | つく | 4号リに該当 | 退去強制。出国後は上陸拒否(5条1項4号) |
入管法24条4号の2は、就労系・留学など別表第一の在留資格をもつ人が、刑法の窃盗・詐欺・傷害・住居侵入などの罪で拘禁刑に処せられた場合、執行猶予がついていても退去強制の対象とする規定です。日本人の配偶者等・永住者など別表第二の在留資格は4号の2の対象ではありませんが、4号リ(1年を超える実刑)には該当します。在宅事件の段階で目指すべきは、まず不起訴、次に罰金であり、公判請求を避けることが在留を守ることに直結します。
在宅事件の途中で中国に帰国してもよいですか
出国が法律上禁止されるわけではありませんが、捜査中の無断の出国は逃亡と評価され、再入国時に逮捕されることもあるため、事前に弁護人を通じて検察官に伝えるべきです。
在宅事件ではパスポートを取り上げられないため、物理的には出国できます。しかし、予定を伝えずに出国すると、捜査機関は逃亡とみて逮捕状を請求し、再入国時に空港で執行されることがあります。親族の病気や冠婚葬祭で帰国が必要なときは、弁護人から担当検察官に帰国期間と連絡先を伝えたうえで出国するのが安全です。また、在留期限が捜査中に到来する場合、更新申請で事件の係属をどう説明するかは事前の検討が必要です。偽りの申告は在留資格取消し(入管法22条の4)の原因になります。
中国籍の方に特有の留意点
- 在留期間の更新:入管は警察からの通報や申請書の記載で事件を把握することがあり、処分の見込みによっては在留期間が短く許可されたり、処分が出るまで審査が保留されたりします。
- 通訳と言語:取調べの通訳人は警察が手配しますが、弁護人との打合せには事務所の通訳をつけられます。身柄事件の接見(刑訴法39条1項)と異なり、在宅事件では時間や場所の制約なく弁護人と相談できます。
- 中国の親族・知人との連絡:微信での連絡は自由ですが、事件の内容を関係者に書き送ると、口裏合わせや証拠隠滅と疑われることがあります。
- 上陸拒否:1年以上の拘禁刑に処せられた場合、出国後に再入国しようとしても上陸拒否(入管法5条1項4号)の対象になります。
弁護士に相談すべき場面
- 警察から呼出しの電話があり、何の事件かわからない、または通訳なしで話をするよう言われたとき。
- 被害者がいる事件(万引き・傷害・交通事故・詐欺)で、不起訴を目指して示談を進めたいとき。
- 在留期限の更新や永住申請の時期と捜査が重なっているとき。
- 帰国や海外出張の予定があり、出国してよいか判断がつかないとき。
- 既に調書に署名してしまい、内容が事実と異なると感じているとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針ですが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。それでも、取調べの直前に捜査官と協議することで、通訳の確保や取調べの範囲を確認し、不当な取調べを牽制する効果があります。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
在宅事件はどのくらいの期間で終わりますか
法律上の期限がなく、数か月以上かかることも珍しくありません。進行状況や処分の見込みは、弁護人が担当検察官に問い合わせて確認できます。
在宅事件で弁護人をつける意味はありますか
あります。起訴前に示談や意見書で不起訴を目指す時間があることが在宅事件の最大の利点で、不起訴になれば前科も退去強制事由も生じません。
警察から参考人として来るよう言われました。安心してよいですか
参考人でも供述の内容によって被疑者に変わることがあります。参考人も出頭や供述を拒むことができ(刑訴法223条)、調書への署名押印も拒めます。
在宅事件で罰金になった場合、在留資格の更新はできますか
罰金は薬物事犯(入管法24条4号チ)を除き退去強制事由ではありませんが、更新や永住の審査で素行として考慮されます。事情の説明と再発防止の資料を準備してください。
根拠条文・出典
- 刑事訴訟法197条1項・198条(任意捜査・取調べ・黙秘権の告知・調書の署名押印)
- 刑事訴訟法199条(逮捕状)、203条・205条・208条(身柄事件の時間制限)
- 刑事訴訟法223条(参考人の取調べ)、246条(送致)、248条(起訴便宜主義)、250条(公訴時効)、461条(略式手続)
- 刑事訴訟法30条(弁護人の選任)、39条1項(接見交通)
- 出入国管理及び難民認定法24条4号チ・4号リ・4号の2(退去強制事由)、5条1項4号(上陸拒否)、22条の4(在留資格の取消し)、73条の2(不法就労助長)
- 自動車運転死傷処罰法5条(過失運転致死傷)
関連する解説
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