短期滞在で来日した中国籍の方が電車内のスリで逮捕されたらどうなるか|複数回来日・上陸拒否・再入国
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
短期滞在の在留資格で来日した中国籍の方が電車内のスリで逮捕されると、窃盗罪(刑法235条)として最長23日間の身柄拘束の中で起訴・不起訴が決まり、拘禁刑の判決を受ければ執行猶予が付いても退去強制事由に該当し(入管法24条4号の2)、送還後は原則5年間、上陸を拒否されます(同法5条1項9号)。
この記事の要点
- 電車内のスリは窃盗罪で、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です(刑法235条。未遂も243条で処罰)。
- 現行犯逮捕(刑事訴訟法212条・213条)の後、48時間以内に送致、24時間以内に勾留請求、勾留は最大20日です(同法203条・205条・208条)。
- 身柄拘束中に短期滞在の在留期限が切れた場合の扱いは個別の判断となるため、弁護人を通じて入管に確認する必要があります。
- 短期滞在は別表第一の在留資格であり、窃盗罪で拘禁刑となれば執行猶予でも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。
- 退去強制後は5年間(再度は10年間)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸を拒否されます(入管法5条1項9号・4号)。
報道された事案の概要
報道によれば、2026年10月、東京都内を走る私鉄の電車内で、女性のバッグから財布を盗んだとして、中国籍の30代の男性が窃盗の疑いで逮捕されました。男性は短期滞在の在留資格で入国しており、過去にも複数回来日していたと報じられています。また、同年9月には、観光地で観光客を狙ったスリの疑いで外国籍の方が逮捕されたとする報道もありました。いずれも容疑の段階であり、有罪が確定したものではありません。
電車内のスリは何罪で、どのような刑になりますか
スリは窃盗罪に当たり、法定刑は10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金で、財布を抜き取る前に取り押さえられた場合も未遂として処罰されます。
刑法235条は、他人の財物を窃取した者を10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処すると定め、243条により未遂も処罰されます。電車内のスリは、混雑に乗じて被害者に気付かれないよう財布を抜き取る手口で、被害額が少額でも、複数の被害者を狙った形跡があれば常習性が疑われ、公判請求されて拘禁刑が言い渡されることがあります。初犯で被害額が小さく、被害弁償と示談が済んでいる場合には、起訴猶予や罰金で終わる例もあります。被害者が被害に気付いて取り押さえた場合や、警戒中の警察官が現認した場合には、現行犯逮捕(刑事訴訟法212条・213条)となるのが通常です。
逮捕された後の流れはどうなりますか
48時間以内に検察官に送致され、24時間以内に勾留請求されると、10日から20日の勾留の中で起訴するかどうかが決まります。
逮捕後は48時間以内に検察官へ送致され(刑事訴訟法203条)、検察官は24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを決め(同法205条)、裁判官が勾留を認めると10日間、延長されれば最大10日間、警察署の留置施設に拘束されます(同法208条)。短期滞在の方は日本に住居がなく、出国すれば捜査が続けられなくなるため、逃亡のおそれを理由に勾留が認められやすい傾向があります。取調べには通訳人が付き、黙秘権が告げられます(同法198条2項)。供述調書の内容に納得できなければ署名押印を拒むことができます。弁護人は立会人なしで接見でき(同法39条1項)、被害者への弁償の申入れ、家族や領事機関への連絡、所持品の確認などを進めます。本人が希望すれば領事機関に逮捕の事実が通報されます(領事関係に関するウィーン条約36条)。
| 段階 | 期間 | 根拠条文 | 短期滞在の方に特有の問題 |
|---|---|---|---|
| 現行犯逮捕から送致 | 48時間以内 | 刑事訴訟法212条・213条・203条 | 旅券・航空券・宿泊先の確認、領事機関への通報の希望 |
| 送致から勾留請求 | 24時間以内 | 同法205条 | 住居がないことを理由に勾留されやすい |
| 勾留 | 10日+延長最大10日 | 同法208条 | 在留期限の経過、帰国便の変更、被害弁償の手配 |
| 不起訴・罰金 | 釈放時 | 同法248条 | 釈放後の出国手続、入管への相談 |
| 拘禁刑の判決 | 確定後 | 入管法24条4号の2 | 執行猶予でも退去強制手続、5年間の上陸拒否 |
勾留中に短期滞在の在留期限が切れたらどうなりますか
勾留中は本人の意思で出国できないため、在留期限を過ぎたことの扱いは入管が個別に判断しており、弁護人を通じて入管に確認しながら進める必要があります。
短期滞在の在留期間は90日、30日又は15日であり、勾留が長引くと在留期限が到来することがあります。在留期間は身柄拘束中も進行しますが、勾留中の方は出国も入管への出頭も自由にできません。このような場合に不法残留として扱われるかどうか、釈放後に在留期間の更新や出国のための手続をどのように行うかは、事案ごとに入管が判断しており、画一的な扱いを断言することはできません。弁護人が勾留の事実を入管に説明し、釈放後の出国の見込みや必要な手続を事前に確認しておくことが、後の再入国審査で不利益を受けないために重要です。釈放後に自己判断で出国せず滞在を続けると、不法残留として退去強制事由(入管法24条4号ロ)に該当するおそれがあります。
判決の後はどうなりますか。執行猶予でも強制送還されますか
短期滞在は別表第一の在留資格であるため、窃盗罪で拘禁刑の判決を受けると、執行猶予が付いても退去強制事由に該当し、判決確定後に退去強制手続に進みます。
入管法24条4号の2は、別表第一の在留資格をもって在留する者が、刑法第2編第36章(窃盗及び強盗の罪)などの罪により拘禁刑に処せられた場合を退去強制事由と定めており、刑の全部の執行猶予が付いても該当します。短期滞在は別表第一の在留資格ですから、執行猶予付きの判決であっても、判決確定後は入管の違反調査、収容又は監理措置、違反審査、口頭審理、異議の申出という手続を経て退去強制令書が発付され、送還されます。この過程で在留特別許可(同法50条)を求めることはできますが、短期滞在の方には日本に家族や生活の基盤がないことが多く、許可される事情は限られます。実刑判決の場合は服役を終えた後に送還されます。罰金刑で終わった場合は4号の2には該当しませんが、釈放後は速やかに出国することになります。
「複数回来日」が意味することは何ですか。次の入国審査で問われますか
短期滞在は観光・親族訪問・商用などの活動に限られる在留資格であり、頻繁な来日はその活動目的の真実性を疑われる要素となるほか、有罪判決や退去強制の記録は次の上陸審査で上陸拒否事由として扱われます。
報道で「短期滞在で複数回来日していた」と伝えられるのは、入国審査で申告した観光などの目的と実際の活動が一致していたのかが捜査上の関心事になるからです。短期滞在は、観光、保養、親族訪問、商用などの活動を行う在留資格であり、収入を伴う活動はできません。頻繁な出入国を繰り返す方は、入国時に滞在目的、滞在先、帰国便、所持金などを詳しく質問されることがあり、申告した目的と異なる活動が判明すると、偽りその他不正の手段により上陸許可を受けたとして在留資格の取消し(入管法22条の4)や退去強制の対象になることもあります。さらに、退去強制された方は5年間(過去にも退去強制された方は10年間)上陸を拒否され(同法5条1項9号)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸拒否事由に該当します(同項4号)。上陸拒否事由に当たる方が再び日本に入国するには、上陸特別許可を求める必要があります。
中国にいる家族は来日して面会できますか
家族が短期滞在の査証を取得して来日し、留置施設で面会することは可能ですが、接見等禁止の決定が付いている場合は裁判所の一部解除がなければ会えません。
勾留中の方との面会は、勾留が決まった後、留置施設の面会時間内に、施設の職員の立会いの下で行われます。家族が中国から来日するには短期滞在の査証が必要で、親族訪問を目的として申請することになります。ただし、スリのように共犯者や余罪が疑われる事件では、裁判所が接見等禁止(刑事訴訟法81条)を付けることがあり、その場合は弁護人以外は面会も手紙のやり取りもできません。弁護人は、家族に限って面会を認めるよう一部解除を申し立てることができます。来日の時期を決める前に、弁護人を通じて接見等禁止の有無、面会の可否、被害弁償に必要な資金の送金方法などを確認しておくことをお勧めします。
外国人(中国籍の方)の在留資格への影響
短期滞在は別表第一の在留資格であるため、窃盗罪(刑法第2編第36章)で拘禁刑に処せられると、執行猶予の有無を問わず退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。罰金刑であればこの規定には該当しませんが、在留期限が過ぎていれば不法残留(同条4号ロ)が別に問題になります。退去強制された方は5年間、再度の場合は10年間上陸を拒否され(同法5条1項9号)、1年以上の拘禁刑に処せられた方は期間の定めなく上陸拒否事由に該当します(同項4号)。申告した入国目的と実際の活動が異なっていた場合は、在留資格の取消し(同法22条の4)が問題になることもあります。退去強制手続の中で在留特別許可(同法50条)を求めることはできますが、短期滞在の方は日本に生活の基盤がないことが多く、日本人や永住者の家族がいるなどの特別の事情がない限り、許可は難しいのが実情です。なお、既に日本で就労や留学の在留資格を持つ方が同じ罪を犯した場合も、別表第一である限り同じ規定が適用されます。
弁護士に相談すべき場面
- 観光で来日した家族が逮捕されたと連絡を受け、どこに拘束されているか、いつ帰国できるかが分からないとき。
- 被害者への弁償と示談によって不起訴を目指し、早期の釈放と帰国を実現したいとき。
- 勾留が長引き、短期滞在の在留期限や帰国便の扱いについて入管に確認が必要なとき。
- 家族が中国から来日して面会したいが、接見等禁止が付いているとき。
- 将来再び日本に入国する予定があり、上陸拒否期間や上陸特別許可について知りたいとき。
当事務所では中国語での相談に対応しており、専属通訳が常駐しています。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で臨んでいますが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、釈放後の出国手続や再入国の見通しまで含めて対応します。
よくある質問
スリで逮捕されたら、どれくらい身柄を拘束されますか。
現行犯逮捕から48時間以内に送致、24時間以内に勾留請求、勾留は10日で最大10日延長されるため、起訴・不起訴の決定までに最長23日間拘束されることがあります(刑事訴訟法203条・205条・208条)。被害弁償が済み、余罪の疑いがなければ、勾留の途中で釈放されることもあります。
被害者に弁償すれば不起訴になりますか。
被害額が少なく、弁償と示談が成立し、前科や余罪がない場合には起訴猶予となることが多いものの、結果を約束できるものではありません。電車内のスリは常習性が疑われやすく、複数回の来日や所持品の状況から余罪の捜査が行われることもあります。弁護人を通じて早期に被害者に連絡を取ることが重要です。
勾留中に短期滞在の在留期限が切れたら不法残留になりますか。
勾留中は本人の意思で出国できないため、在留期限を過ぎたことをどう扱うかは、入管が個別に判断します。釈放後の出国の手配や、在留期間の更新を申請できるかどうかについては、弁護人が入管に確認したうえで進める必要があります。自己判断で放置すると、後の再入国審査で不利に扱われるおそれがあります。
執行猶予が付けば日本に残れますか。
短期滞在は別表第一の在留資格であり、窃盗罪で拘禁刑の判決を受けると、執行猶予が付いても退去強制事由に該当します(入管法24条4号の2)。短期滞在の方には日本に残る基盤がないことが通常であるため、判決後は退去強制手続に進み、送還後5年間は上陸できません(同法5条1項9号)。
中国にいる家族は面会に来られますか。
家族が短期滞在の査証を取得して来日し、勾留中の本人と留置施設で面会することは制度上可能です。ただし、接見等禁止の決定が付いている場合は弁護人以外は面会できず、家族との面会を認めるよう裁判所に一部解除を求める必要があります。来日前に弁護人と面会の可否や時期を確認してください。
根拠条文・出典
- 刑法235条・243条(e-Gov法令検索で確認)
- 刑事訴訟法39条1項・81条・198条2項・203条・205条・208条・212条・213条・248条(同上)
- 出入国管理及び難民認定法5条1項4号・9号、22条の4、24条4号ロ・4号の2、50条(同上)
- 領事関係に関するウィーン条約36条
- 2026年9月から10月の各社報道
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