ストーカー被害で警察が動かないときの救済手段とは|警告の申出は不受理にできず、警察は警告するか理由を書面で示さなければならない
2026/10/25
ストーカー被害で警察が動かないときは、「相談」ではなく、ストーカー規制法4条1項に基づく「警告の申出」を書面で行うのが第一の救済手段である。警察は警告の申出を不受理とすることはできず、受理した上で、警告をするか、警告をしない旨とその理由を書面で通知するか、いずれかの応答をしなければならない(法4条4項)。これがストーカー規制法の建前である。
この記事の要点
- 警察の「相談受理」と、ストーカー規制法上の「警告の申出」は別物である。警告を求めるなら、施行規則の警告申出書(別記様式第1号)を添えて書面で申し出る。
- 法4条1項の要件(3条違反行為と反復のおそれ)は警告を発するための要件であって、申出を受理するための要件ではない。警察庁の現行通達も、つきまとい等でないことが明らかな場合を除き受理するよう指示している。
- 申出を受けた警察に残された対応は、警告をするか、理由を付して警告をしない旨を書面で通知するか、の2つしかない(法4条4項、規則3条)。禁止命令等の申出についても同じである(法5条7項)。
- 「拒絶していないから対象外」「民事の問題だから」は、警告の申出を受け付けない理由にならない。拒絶を要件とするのは法2条1項5号だけである。
- それでも動かないときは、公安委員会への苦情申出(警察法79条)、監察への通知、禁止命令等の申出、告訴、行政訴訟・国家賠償へと段階的に進む。弊所は、このような事案で文書警告の発令へと警察を動かした多数の実績がある。
本稿は、筆者が実際に担当した複数の事件で、警察署長・警察本部長・公安委員会・監察官に宛てて提出した意見書・通知書・苦情申出書の論旨を、事件を特定しない形で一般化したものである。個別事件の事実関係には触れない。
「警察が動かない」とは、どのような場面か?
多くの場合、警察が動かないのではなく、被害の申告が「相談」として処理され、法律上の手続に乗っていないのである。
実務でよく見るのは、次のような対応である。
- 話は聞いてもらえたが、「相談」として記録されただけで終わった。
- 警察から相手方に電話で注意をしたと言われたが、しばらくすると行為が再開した。
- 「相手に拒絶の意思を伝えていないから、ストーカー規制法の対象にならない」と言われた。
- 「交際中の金銭のトラブルがあるなら民事の問題だ」と言われた。
- 警告申出書を出そうとしたが、「要件を満たさない」として受け取ってもらえなかった。
いずれも、被害者にとっては「警察が動かない」状態である。しかし、ストーカー規制法は、被害者に、警察に警告を求める申出をする権利を与えている(法4条1項)。この申出を正式に行えば、警察は法律上の応答義務を負う。ここが出発点である。
ストーカー規制法の警告とは、どのような手続か?
警告は、警察本部長又は警察署長(法律上「警察本部長等」)が、つきまとい等をした者に対し、更に反復してはならない旨を文書で警告する制度である(法4条1項、施行規則2条)。
手続は、申出の受理と、警告をするか否かの判断という2段階に分かれる。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 申出 | 被害者が警告申出書(別記様式第1号)を提出する | 法4条1項、規則1条 |
| 受理 | 警察が警告申出書の提出を受ける | 規則1条、令和8年通達第4の2 |
| 判断(警告する場合) | 警告書(別記様式第2号)を相手方に交付し、申出人に内容と日時を通知する | 法4条1項・3項、規則2条 |
| 判断(警告しない場合) | 警告をしない旨とその理由を、申出人に書面で通知する | 法4条4項、規則3条 |
| 次の段階 | 公安委員会による禁止命令等(違反には罰則)。緊急時は聴聞を経ずに発令できる | 法5条1項・3項 |
令和7年の法改正により、警察本部長等は職権でも警告ができるようになった。もっとも、職権警告は警察の判断に委ねられる。被害者の側から確実に手続を動かすのは、やはり申出である。
警察は警告の申出を不受理にできるのか?
できない。申出を受理した上で、警告をするか、理由を付して警告をしない旨を通知するか、のいずれかで応答するのがストーカー規制法の建前である。
理由は3つある。
第1に、法4条1項が定める「3条違反行為があり、かつ、更に反復するおそれがある」という要件は、警告を「することができる」ための要件である。申出を受理するための要件ではない。
第2に、施行規則は、申出を受けた警察の対応として、警告書を交付する場合(規則2条)と、警告をしない旨とその理由を通知する場合(規則3条)の2つだけを定めている。申出そのものを受理しないという処理は、法にも規則にも予定されていない。法4条4項も、「警察本部長等は、警告をしなかったときは、速やかに、その旨及びその理由を第1項の申出をした者に書面により通知しなければならない。」と定めている。
第3に、警察庁自身がそのように指示している。令和8年5月13日付けの解釈運用通達は、「警告の申出の受理は、警察本部長等が規則第1条に規定する別記様式第1号の警告申出書の提出を受けることにより行われる。」とした上で、「警告の申出があった場合には、申出に係る行為がつきまとい等又は位置情報無承諾取得等でないことが明らかな場合を除き、受理すること。」としている(警察庁丙人少発第18号・第4の2⑴)。
受理の段階では、申出人が相手方の行為をつきまとい等と認識し、警告を求める意思を示せば足りる。つきまとい等に当たるか、反復のおそれがあるかは、受理した後に警察が調べて判断すべき事柄である。
不受理には、もう1つ見過ごせない問題がある。本来であれば理由を付して書面で通知すべき「警告しない」という判断を、不受理という形に置き換えると、警察は理由を示す義務を免れ、被害者は判断の理由を知って争う機会を失う。申請を拒否するときに理由の提示を求める行政手続法8条の趣旨に照らしても、行政手続に憲法31条の保障が及び得るとした判例(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)に照らしても、相当な処理とは言えない。
「相手に拒絶していないから対象外」と言われたら?
拒絶を要件とするのは、法2条1項5号(拒まれたにもかかわらず連続して電話・文書・電子メール等を送ること)だけである。他の類型には拒絶の要件はない。
たとえば、義務のないことを要求する行為(3号)、著しく粗野又は乱暴な言動(4号)、名誉を害する事項を告げ又は知り得る状態に置く行為(7号)、性的羞恥心を害する事項を告げ又は画像等を送る行為(8号)は、相手方が拒絶したかどうかに関係なく、つきまとい等に当たり得る。通達も、7号の「名誉を害する事項」について、「相手方の社会的評価を害し、名誉感情を害する事柄を告げるなどすれば足り、事実を摘示することまでは要しない」としている(通達第2の1⑶キ)。
5号についても、通達は、被害者が警察に相談し、警察から行為者に拒んでいる旨を告げ、行為者がそれを認識した場合も「拒まれた」に当たると解している(通達第2の1⑶オ(イ))。警察から口頭注意を受けた後に連絡を続けている相手方は、まさにこの場面に当たる。
拒絶の有無は、そもそも受理の段階で問題にすべき事柄ではない。仮に5号の該当性に疑問があるとしても、それは受理した後の実体判断の問題であり、申出を受け付けない理由にはならない。
「民事の問題だ」と言われたら?
当事者間に金銭などをめぐる民事上の紛争があることと、相手方がつきまとい等をしているかどうかは、別の問題である。
交際の解消に伴う金銭の清算、贈り物の返還、過去に一方が被害申告をしたことなど、背景に民事の争いがある事案は珍しくない。しかし、民事上の言い分があるからといって、配偶者や勤務先に性的な画像を送り付けたり、犯罪者であるかのような風評を広めたりしてよいことにはならない。民事上の紛争の存在は、警告の申出を受理しない理由にも、警告をしない理由にもならない。
口頭注意で止まらないときは、どうすればよいか?
口頭注意の後に行為が再開したという事実は、「更に反復するおそれ」を最も直接に裏付ける事情である。文書による警告と、禁止命令等を求める段階に進むべきである。
法が警告を書面で行うこととし(規則2条)、さらに違反に罰則を伴う禁止命令等の制度を設けたのは、事実上の注意では止まらない事案に対応するためである。注意の日付、その後に再開した連絡の日時・手段・内容は、申出書の中心的な事実として記載する。相手方が自宅住所を知っている、家族や勤務先に連絡が広がっているといった事情があれば、緊急の禁止命令等(法5条3項)も併せて求める。
警察が動かない場合の救済手段には、どのようなものがあるか?
警告の申出を軸に、宛先と根拠を変えながら段階的に手続を重ねていく。
| 手段 | 宛先 | 根拠 | 求める内容 |
|---|---|---|---|
| 警告の申出 | 住所地を管轄する警察署長、都道府県警察本部長 | ストーカー規制法4条1項、規則1条 | 文書による警告。警告しないときは理由の書面通知(法4条4項) |
| 禁止命令等の申出 | 都道府県公安委員会 | 同法5条1項・3項、規則4条 | 禁止命令等。緊急時は聴聞前の発令。発令しないときは理由の書面通知(法5条7項) |
| 苦情の申出 | 都道府県公安委員会 | 警察法79条 | 不受理や放置についての苦情。処理の結果は文書で通知される |
| 監察への通知 | 都道府県警察本部の監察部門 | 警察内部の監察制度 | 違法・不適切な取扱いの是正 |
| 告訴 | 警察署(司法警察員)、検察庁 | 刑事訴訟法230条、犯罪捜査規範63条 | 名誉毀損罪・脅迫罪・強要罪・業務妨害罪等に当たる行為の捜査 |
| 訴訟 | 裁判所 | 行政事件訴訟法、国家賠償法1条1項 | 違法な不受理の是正、応答義務の確認、損害の賠償 |
実務では、警察署長・警察本部長・監察部門・公安委員会に、同じ趣旨の書面を同時に送ることが多い。誰か1人の担当者の判断で手続が止まることを防ぐためである。各書面には、他の宛先にも同趣旨の書面を送付している旨を明記しておく。
訴訟は最後の手段である。不受理を申請に対する拒否処分と捉えて取消訴訟と義務付け訴訟を提起する方法、応答義務の確認を求める公法上の当事者訴訟による方法、国家賠償請求による方法が考えられる。もっとも、筆者が目指すのは、訴訟に至る前に、不受理の撤回と申出の受理によって解決することである。
警告申出書には、何を書けばよいか?
警察が「警告をしない」と判断する余地をなくすよう、要件ごとに事実と証拠を対応させて書く。
- 目的:相手方の行為が、好意の感情又はそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行われていること(法2条1項柱書)。相手方自身の言葉(「別れ話をされた恨み」等)があれば、そのまま引用する。
- 行為類型:法2条1項の何号に当たるかを、行為ごとに特定する。配偶者や同居の親族に対する行為も対象になる。
- 不安:身体の安全、住居等の平穏、名誉が害される不安を覚えていること(法3条)。
- 反復のおそれ:期間、回数、手段の変化、注意後の再開。
- 緊急性:自宅住所の把握、家族・勤務先への拡大。
- 手続上の求め:警告しない場合は法4条4項による書面通知を求めること。代理人や家族の情報を相手方に開示しないよう求めること。
証拠は、画面の写し、メール、郵便物、通話記録を、日付順に整理して添付する。
舟渡国際法律事務所に依頼する意味は何か?
弊所は、警察が「相談」として止めていた事案、申出書の受理を拒まれた事案で、意見書・通知書・苦情申出書を組み合わせ、文書警告の発令へと警察を動かした多数の実績がある。
筆者は、警告を受けた側の代理人としても、ストーカー規制法4条1項に基づく文書警告を争ってきた。大阪高等裁判所令和6年6月26日判決は、この事件で、警告の法的効力を認め、司法救済のルートを開いた。この事件は、興津征雄神戸大学教授の評釈(法学教室534号124頁)、鈴木崇弘九州大学准教授の論文(法政研究93巻1号1頁)をはじめ、複数の学術誌で取り上げられている。警告を発する側の論理と、警告を受ける側の論理の双方を知っていることが、警察に対して説得力のある申出をする力になっている。
弊所には中国律師と中国語の専属通訳が在籍しており、中国語を話す方のストーカー被害にも対応している。微信(WeChat)でのご相談は、夜間・土日も受け付けている。
よくある質問
警察に相談しただけでは、警告の申出をしたことにならないのか?
ならない。警告の申出の受理は、警告申出書(別記様式第1号)の提出を受けることにより行われる(令和8年通達第4の2⑴)。警告を求めるなら、その旨を明確にして申出書を提出する必要がある。
警察が警告をしなかった場合、理由を教えてもらえるのか?
教えてもらえる。警察本部長等は、警告をしなかったときは、その旨と理由を申出人に書面で通知しなければならない(法4条4項、規則3条・別記様式第3号)。公安委員会が禁止命令等をしなかったときも同様である(法5条7項)。
相手方に拒絶の意思を伝えていなくても、警告を求められるのか?
求められる。拒絶を要件とするのは法2条1項5号だけであり、名誉を害する事項の告知(7号)や性的羞恥心を害する画像等の送付(8号)などには拒絶の要件はない。
弁護士が代理人として申出をした場合、弁護士の名前は相手方に知られるのか?
申出書で、代理人の氏名・事務所等を相手方に開示しないよう明確に求めておくべきである。相手方が「代理人を立てろ」と連絡の口実にしている事案では、とくに重要である。
住所地以外の警察署に相談していた場合は、どこに申し出ればよいか?
申出人の住所地を管轄する警察署長のほか、都道府県警察本部長に申し出ることができる。実務では、相談済みの警察署、管轄の警察署、警察本部の三者に同趣旨の書面を送ることが多い。
根拠条文・出典
- ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成12年法律第81号)1条、2条1項、3条、4条1項・3項・4項、5条1項・3項・7項、21条
- ストーカー行為等の規制等に関する法律施行規則1条、2条、3条、4条
- 警察庁生活安全局長「ストーカー行為等の規制等に関する法律等の解釈及び運用上の留意事項について(通達)」令和8年5月13日警察庁丙人少発第18号(警察庁)
- 警察庁「ストーカー規制法の改正について」(警察庁)
- 警察法79条、行政手続法8条、刑事訴訟法230条、犯罪捜査規範63条、行政事件訴訟法3条6項2号・37条の3・4条、国家賠償法1条1項
- 最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁
- 大阪高判令和6年6月26日判例地方自治521号154頁
- 興津征雄「ストーカー規制法4条1項の警告の処分性」法学教室534号124頁(2025年)、天本哲史・社会志林72巻2号27頁(2025年)、鈴木崇弘「最高裁判決における『処分』概念の一考察」法政研究93巻1号1頁(2026年)
当職の弁護方針の全体は、note「松村大介弁護士の弁護方針|法律に命を吹き込む」に記している。担当事件の一覧は解決事例、弁護士の経歴は弁護士紹介を参照されたい。
最終更新日:2026年10月25日
執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119
