労働審判とは|原則3回以内で解決する手続と外国人の利用(通訳・帰国後・在留資格との関係)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
労働審判とは、解雇や未払賃金など労働者個人と使用者との間の労働紛争について、地方裁判所に置かれる労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理し、話し合い(調停)による解決を試み、まとまらなければ審判という判断を示す手続をいいます(労働審判法)。訴訟より短期間で、しかも裁判所の関与のもとで解決できるため、外国人労働者にとっても使いやすい手続です。
この記事の要点
- 労働審判は、個々の労働者と使用者との間の民事紛争を対象とし、労働組合と会社の紛争は対象になりません(労働審判法1条)。
- 労働審判委員会は裁判官である労働審判官1名と、労働関係の専門知識を持つ労働審判員2名で構成されます(労働審判法)。
- 特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日で審理を終結します(労働審判法15条2項)。
- 調停が成立すれば裁判上の和解と同じ効力があり、審判に当事者が異議を申し立てれば訴訟に移行します(労働審判法)。
- 日本語に通じない当事者には裁判所が通訳人を付けます(民事訴訟法154条の準用)。
こんな場面で問題になります
- 中国籍の正社員が解雇され、会社は話し合いに応じないが、本人は訴訟のような長い手続は避けたい。
- 技能実習や特定技能で働いていた方が、未払の残業代を請求したいが、会社が計算書を無視している。
- 退職勧奨に応じて退職したが、約束された退職金や未消化の有給休暇分が支払われない。
- 中国系企業に勤める社員が、一方的な給与の減額や配置転換を受け、元の条件に戻すよう求めたい。
- 在留期間の満了が近く、その前に紛争を解決して次の仕事に移りたい。
労働審判はどのような手続ですか
裁判官と労働問題の専門家が、当事者双方から直接話を聞き、短期間で権利関係を踏まえた解決案を示す手続です。
訴訟では書面のやり取りを何度も重ね、証人尋問を経て判決に至りますが、労働審判では第1回期日から委員会が当事者本人に質問し、争点を整理します。審理の中心は書面ではなく期日での口頭のやり取りであり、委員会は早い段階から解決の方向性を示します。多くの事件は調停で解決し、調停が成立しなければ委員会が審判を出します。審判は、解雇の有効・無効や支払額だけでなく、解決金の支払と合意退職といった実情に即した内容を定めることができます。
労働審判で扱える紛争と扱えない紛争は何ですか
解雇、賃金、退職金、労働条件の変更、ハラスメントによる損害賠償など、労働者個人と会社の間の紛争は広く扱えますが、労働組合と会社の紛争や、争点が多すぎて3回の期日で判断できない事件には向きません。
労働審判法1条は、個別労働関係民事紛争を対象と定めています。解雇の無効を前提とする地位の確認、未払残業代の請求、退職金の請求、ハラスメントを理由とする慰謝料の請求はいずれも対象です。一方、複雑な事実関係について多くの証人尋問が必要な事件や、会社が倒産している事件には適しません。委員会は事件が労働審判に向かないと判断したときは手続を終了させることができ、その場合は訴訟で争うことになります。
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 申立て | 地方裁判所に申立書と証拠を提出する。申立書には請求の内容、紛争の経緯、予想される争点とそれに関する主張をまとめて書く |
| 第1回期日 | 委員会が双方の本人から直接事情を聞き、争点を整理し、心証を示したうえで調停を試みる。最も重要な期日 |
| 第2回・第3回期日 | 追加の主張・証拠を踏まえて調停を続ける。特別の事情がない限り3回以内で終結(労働審判法15条2項) |
| 調停成立 | 裁判上の和解と同じ効力。合意した金銭の支払がなければ強制執行ができる |
| 審判 | 調停不成立のとき委員会が判断を示す。異議の申立てがなければ確定し、異議があれば訴訟に移行する |
第1回期日ではどのような準備が必要ですか
主張と証拠を申立ての時点で出し切り、本人が自分の言葉で経緯を説明できるよう準備することが必要です。
労働審判では、第1回期日で委員会がほぼ心証を固めると言われます。会社側は期日の前に答弁書を出してきますので、その内容を踏まえて反論を準備します。期日では、委員会が本人に対して、いつ、誰から、どのような言葉で解雇を告げられたか、どのように残業していたか、といった具体的な質問をします。弁護士が代わりに答えることは想定されておらず、本人が答える場面が多いため、事前に経緯を時系列で整理し、証拠と照らし合わせておきます。通訳を介する場合は、質問と回答が正確に伝わるよう、専門用語や固有名詞を事前に通訳人と共有しておくことが重要です。
審判に納得できないときはどうなりますか
所定の期間内に異議を申し立てれば審判は効力を失い、申立ての時点で訴訟が提起されたものとみなされます(労働審判法)。
会社側が異議を出すこともあり、その場合は訴訟で改めて争うことになります。もっとも、労働審判で委員会が示した心証は訴訟での見通しにも影響するため、労働審判で示された解決案を踏まえて訴訟上の和解に至ることも少なくありません。異議の期間は短いため、審判が出たら直ちに弁護士と対応を決めてください。
外国人が労働審判を利用するときの注意点は何ですか
申立書と証拠は日本語で作成し、本人の出席と通訳の確保、在留期限との関係を事前に計画することが必要です。
裁判所に提出する書面は日本語で作成し、中国語の証拠には訳文を添付します。本人が日本語に通じない場合、裁判所は通訳人を付けますが、通訳人の手配には時間がかかるため、申立ての段階で通訳が必要であることを伝えます。在留期間の満了が近い場合は、期日の設定や解決の時期を考慮して申立ての時期を決めます。解雇を争う事件では、在留資格の更新申請と労働審判が並行することもあり、入管に対して紛争の状況をどう説明するかもあわせて検討します。
中国籍の方に特有の留意点
- 通訳の質:法廷通訳人の語学力は保証されているわけではなく、重要な場面で誤訳が生じることがあります。弁護士と事務所の通訳が内容を確認し、誤りがあればその場で指摘します。
- 帰国との関係:期日には本人の出席が原則として必要で、帰国後に労働審判を申し立てる場合は来日の負担が生じます。帰国前に申立てを済ませるか、交渉での解決を優先するかを検討します。
- 中国系企業が相手方のとき:代表者が中国に滞在していて書類が届かない、日本側に決定権者がいないといった事情で手続が遅れることがあります。送達先と交渉相手を早めに確認します。
- 在留資格との関係:労働審判を申し立てること自体は在留資格に影響しません。解雇後に一定期間活動していない場合の在留資格取消し(入管法22条の4)については、争っている事実を記録で示せるようにします。
- 家族・知人への連絡:会社との紛争の内容を微信などで広く共有すると、名誉毀損や守秘義務違反を主張される原因になります。情報の扱いは弁護士と相談してください。
弁護士に相談すべき場面
- 解雇や未払賃金について会社と直接話しても進展がなく、裁判所の手続を検討したいとき。
- 会社から労働審判の申立書が届き、答弁書の提出期限が迫っているとき。
- 在留期限や帰国の予定があり、解決の時期を計画的に決めたいとき。
- 通訳を介した手続に不安があり、自分の主張が正確に伝わるか心配なとき。
- 労働審判で示された解決案を受け入れるべきか判断に迷うとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。労働事件は、解雇や未払賃金の問題と在留資格の問題が同時に進むことが多いため、労働事件と入管事件を一体で扱い、全国からご相談を承ります。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
労働審判はどのくらいの期間で終わりますか
特別の事情がある場合を除き3回以内の期日で審理を終結します(労働審判法15条2項)。多くの事件は申立てから数か月以内に調停または審判で解決します。
日本語ができなくても労働審判を利用できますか
利用できます。日本語に通じない当事者には裁判所が通訳人を付けます(民事訴訟法154条の準用)。申立ての段階で通訳が必要であることを伝え、中国語の証拠には訳文を添付します。
労働審判と訴訟はどちらを選ぶべきですか
早期の解決と金銭的な解決を望む場合は労働審判が適しています。証人尋問を要する複雑な事件や、判決による明確な判断を求める場合は訴訟を検討します。
審判に不服があるときはどうすればよいですか
所定の期間内に異議を申し立てれば審判は効力を失い、訴訟に移行します。期間が短いため、審判が出たら直ちに弁護士と対応を決めてください。
労働審判を申し立てると在留資格に影響しますか
影響しません。裁判所の手続を利用することは正当な権利行使です。ただし解雇後に活動しない期間が続く場合は在留資格取消しの問題が別途生じ得るため、争っている事実を記録で示せるようにしてください。
根拠条文・出典
- 労働審判法1条(目的・個別労働関係民事紛争)、同法(労働審判委員会の構成、申立て、調停の効力、審判、異議の申立てと訴訟への移行)
- 労働審判法15条2項(特別の事情がある場合を除き3回以内の期日で審理終結)
- 民事訴訟法154条(通訳人の立会い等)
- 労働契約法16条(解雇権濫用法理)
- 労働基準法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)、115条・附則143条(賃金請求権の消滅時効・当分の間3年)
- 出入国管理及び難民認定法21条(在留期間の更新)、22条の4(在留資格の取消し)
関連する解説
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