民事調停とは|裁判をせずに解決する手続の流れ・効力と、外国人・中国籍の方の利用のしかた
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
民事調停とは、裁判所に設けられた調停委員会(裁判官または調停官と民間の調停委員)が当事者双方の言い分を聞き、互いに譲り合って合意することで民事の紛争を解決する手続をいいます(民事調停法)。判決のように裁判所が白黒をつけるのではなく、当事者の合意で終わる点が特徴で、成立した調停調書は確定判決と同じ効力をもちます。
この記事の要点
- 民事調停は、当事者の互譲により条理にかない実情に即した解決を図る手続で(民事調停法1条)、原則として相手方の住所地の簡易裁判所に申し立てます。
- 調停が成立して調停調書に記載されると、裁判上の和解と同一の効力があり(民事調停法16条)、確定判決と同じように強制執行ができます(民訴法267条、民事執行法22条)。
- 調停は非公開で、訴訟より手続が簡易ですが、相手方が出席しなければ不成立となり、訴訟に移ることになります。
- 外国人が当事者のときは、通訳の手配、本人確認、相手方が国外にいる場合の送達が実務上の課題になります。
- 相手方との交渉がまとまらないが訴訟までは避けたい、支払いの担保として裁判所の書面にしたい、という場面で有効です。
こんな場面で問題になります
- 中国系の取引先と代金の支払時期をめぐって対立しているが、取引関係は続けたいので訴訟は避けたい。
- 退去時に大家から高額な原状回復費用を請求され、敷金が返ってこない。
- 知人に貸したお金の返済について、相手は払う意思はあると言うが、口約束では不安なので裁判所の書面にしたい。
- 隣人との騒音や境界のトラブルで、話し合いの場がもてない。
- 相手方から簡易裁判所の調停期日の呼出状が届いたが、日本語が読めず、出席すべきかわからない。
民事調停とは何ですか。訴訟とどう違いますか
民事調停は、裁判所の調停委員会が双方の話を聞いて合意を促す手続で、訴訟のように裁判所が判決で権利の有無を決めるものではありません。非公開で、厳格な証拠調べもなく、費用と時間の負担が訴訟より軽いのが特徴です。
民事調停法1条は、民事に関する紛争につき、当事者の互譲により、条理にかない実情に即した解決を図ることを目的と定めています。調停委員会は、裁判官(または民事調停官)と、弁護士・不動産鑑定士・建築士などの民間の調停委員で構成され、当事者から交互に事情を聞き、解決案を示します。訴訟では主張と証拠に基づいて判決が出ますが、調停では当事者が納得しなければ合意は成立しません。そのため、法律的に厳密には請求が難しい事案でも、相手に支払う意思があれば現実的な解決ができる一方、相手が全く応じない事案には向きません。
どこに申し立て、どのように進みますか
原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申立書と証拠を提出し、裁判所が指定する期日に当事者が出席して調停委員会と話し合います。期日は何回か重ねることが多く、合意に達すれば調停調書が作成されます。
| 段階 | 内容 | 外国人の当事者が準備すること |
|---|---|---|
| ①申立て | 相手方の住所地の簡易裁判所(合意があれば他の裁判所も可)に申立書・証拠・申立手数料(収入印紙)を提出 | 在留カードやパスポートの写し、契約書・微信履歴などの証拠、日本語訳 |
| ②期日の指定・呼出し | 裁判所が期日を定め、相手方に申立書の写しと呼出状を送達 | 相手方が国外にいる場合は送達に時間がかかる |
| ③調停期日 | 調停委員会が当事者から交互に事情を聞き、争点の整理と解決案の提示を行う。非公開 | 通訳の同行、出席できないときは代理人の選任 |
| ④成立・不成立 | 合意すれば調停調書を作成。合意できなければ不成立(または調停に代わる決定) | 調停条項の中国語訳の確認 |
| ⑤履行・執行 | 調停調書に基づき履行。不履行なら強制執行 | 支払口座、通貨の確認 |
調停は本人が出席するのが原則ですが、弁護士を代理人として選任すれば、弁護士が出席して交渉を進めることができます。簡易裁判所では、裁判所の許可を得て弁護士以外の者が代理人となることもあります(民訴法54条)が、報酬を得て代理する行為は弁護士法72条との関係で問題となるため、知人に代理を頼むことはお勧めしません。
調停が成立するとどんな効力がありますか
調停で合意した内容を調書に記載すると、その記載は裁判上の和解と同一の効力をもち(民事調停法16条)、裁判上の和解は確定判決と同一の効力をもちます(民訴法267条)。つまり、相手が守らなければ裁判をやり直すことなく強制執行ができます。
これが、私的な和解契約書と調停の最大の違いです。当事者だけで作った和解書は、相手が支払わないときに改めて訴訟を起こす必要がありますが、調停調書は債務名義(民事執行法22条)として、給与・預金・不動産の差押えに使えます。相手方に支払う意思があり、合意内容もほぼ固まっているのに、口約束や私文書では不安だという場合に、調停は合意を裁判所の書面にする手段として使えます。調停条項には、支払額・支払期限・遅延したときの扱い(期限の利益喪失)・清算条項を入れ、後の争いの余地をなくします。
調停が成立しなかったときはどうなりますか
当事者の合意が見込めないときは調停不成立(不調)となり、紛争は解決されないまま終わります。その後は訴訟を提起することになりますが、裁判所が調停に代わる決定をすることもあります。
相手方が期日に出席しない、あるいは条件の隔たりが大きいときは、調停委員会は調停を不成立として終了させます。不成立になっても申立人に不利な判断が残るわけではなく、調停で明らかになった相手方の言い分や資料は、訴訟の準備に役立ちます。また、裁判所は、相当と認めるときに、当事者の意見を聴いて職権で調停に代わる決定をすることができます(民事調停法17条)。この決定に対して当事者が所定の期間内に異議を申し立てれば効力を失いますが、異議がなければ裁判上の和解と同一の効力をもちます。調停不成立の後に訴えを提起する場合、所定の期間内であれば調停申立ての時に訴えの提起があったものとみなされ(民事調停法19条)、時効の点で不利になりません。
訴訟・労働審判・民間の紛争解決手続との違いは何ですか
調停は合意がなければ終わらない、訴訟は判決で決まる、労働審判は労働事件に限って審判が出る、という違いがあり、事案の性質と相手方の態度で使い分けます。
| 手続 | 決め方 | 公開 | 向いている事案 | 根拠法 |
|---|---|---|---|---|
| 民事調停 | 当事者の合意。調停委員会が解決案を提示 | 非公開 | 相手に話し合う意思がある、関係を続けたい、合意を裁判所の書面にしたい | 民事調停法 |
| 訴訟 | 裁判所の判決(途中で和解も可能) | 公開 | 相手が応じない、権利の有無を決めてほしい | 民事訴訟法 |
| 労働審判 | 労働審判委員会の調停・審判。3回以内の期日で終結 | 非公開 | 解雇・未払賃金など個別の労働紛争 | 労働審判法 |
| 訴え提起前の和解 | すでにできた合意を簡易裁判所で和解調書にする | 非公開 | 合意済みで執行力だけ付けたい | 民訴法275条 |
| 弁護士会等の民間型紛争解決手続 | 第三者機関のあっせん・仲裁 | 非公開 | 専門分野の紛争、裁判所を避けたい | 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律 |
外国人が当事者のときに何に注意しますか
通訳の手配、本人確認書類、相手方が国外にいる場合の送達、調停条項の言語の四点が実務上の課題で、いずれも申立て前に見通しを立てておく必要があります。
裁判所は、日本語に通じない当事者のために通訳人を立ち会わせることができます(民訴法154条)が、民事では当事者が自ら通訳を同行する扱いが多く、調停委員会との意思疎通は当事者側の責任で確保する必要があります。弁護士が代理人として出席し、専属通訳が本人の意思を確認する体制であれば、本人が日本語に不安があっても手続を進められます。相手方が中国にいる場合、呼出状の送達に時間がかかるうえ、出席も見込みにくいため、調停は現実的でないことが多く、相手方が日本にいる間に申し立てるか、別の手段を検討します。調停条項は日本語で作成されるため、成立前に中国語訳で内容を確認します。
弁護士に依頼するとどのような利点がありますか
申立書と証拠を法的に整理した形で提出でき、期日では弁護士が調停委員会との協議を担い、調停条項に清算条項や期限の利益喪失条項を漏れなく入れられます。不成立の場合には、そのまま訴訟に移行できます。
調停は本人でも申し立てられますが、調停委員会は中立であって申立人の味方ではありません。自分の主張を裏付ける証拠を整理し、相手方の反論に法律的に応答し、合意案が将来の執行に耐える内容になっているかを確認するのは当事者側の仕事です。弁護士が代理人として付くことで、調停委員会からの解決案に対し、受け入れるべきか、どこまで譲るかの判断を法的な見通しに基づいて行えます。調停申立ての前に弁護士名で交渉を試み、それでもまとまらないときに調停へ進むという段階的な進め方も可能です。
中国籍の方に特有の留意点
- 通訳:調停期日での発言は調停委員会の心証に直結します。家族や知人の通訳では法律用語が正確に伝わらないことが多いため、法律実務に慣れた通訳を同行させるか、弁護士の専属通訳を通じて意思を確認します。
- 本人確認と住所:申立書には当事者の住所を記載し、裁判所からの書類はその住所に送達されます。引越しや帰国で書類を受け取れないと手続が進まないため、在留カードの住所を最新にしておきます。
- 相手方が中国にいる場合:送達に時間がかかり出席も見込めないため、調停よりも、相手が日本にいる間の交渉、日本国内の財産の保全、公正証書化を優先します。
- 調停条項の言語:調停調書は日本語で作成されます。弁護士が中国語訳を交付し、金額・期限・清算条項の意味を確認したうえで成立させます。
- 在留資格との関係:民事調停の申立てや応訴自体は在留資格に影響しません。ただし、刑事事件に関係する紛争(被害弁償など)は、不起訴や刑の軽重を通じて在留に影響するため(入管法24条4号リ・4号の2)、刑事弁護と一体で進めます。
弁護士に相談すべき場面
- 相手方との交渉がまとまらないが、取引関係や人間関係を壊したくないため訴訟は避けたいとき。
- 相手に支払う意思はあるものの、口約束や私文書では不安で、裁判所の書面にしておきたいとき。
- 簡易裁判所から調停期日の呼出状が届き、内容がわからないとき。
- 調停が不成立となり、訴訟に進むべきか判断したいとき。
- 相手方が中国にいる、または中国企業で、送達・執行の見通しを知りたいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。交渉・調停・訴訟を一連の流れとして扱い、刑事事件に関わる紛争では刑事弁護と入管事件を一体で進めます。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
民事調停は本人だけで申し立てられますか
申し立てられます。ただし調停委員会は中立で、主張や証拠の整理、調停条項の内容の確認は当事者側の責任です。日本語に不安がある場合や合意内容に執行力をもたせたい場合は弁護士に依頼することをお勧めします。
相手が調停に来なかったらどうなりますか
相手方の出席を強制することはできず、出席しなければ通常は不成立となります。その後は訴訟を提起することになります。調停で集めた資料は訴訟でも使えます。
調停で決まったことを相手が守らなかったら
調停調書は裁判上の和解と同一の効力をもち(民事調停法16条)、確定判決と同じように強制執行ができます(民訴法267条、民事執行法22条)。改めて訴訟を起こす必要はありません。
調停の期日に通訳は裁判所が用意してくれますか
裁判所が通訳人を立ち会わせることはあります(民訴法154条)が、民事では当事者が通訳を同行するのが実情です。弁護士が代理人として出席し、専属通訳が本人の意思を確認する体制で対応できます。
相手が中国にいても調停はできますか
申立て自体は可能ですが、呼出状の送達に時間がかかり、出席も見込みにくいため、現実的でないことが多いです。相手が日本にいる間の交渉や、日本国内の財産の確保を優先します。
根拠条文・出典
- 民事調停法1条(目的)、16条(調停の成立・効力)、17条(調停に代わる決定)、19条(調停不成立の場合の訴えの提起)
- 民事訴訟法267条(和解調書等の効力)、275条(訴え提起前の和解)、54条(訴訟代理人の資格)、154条(通訳人)
- 民事執行法22条(債務名義)
- 労働審判法15条2項(3回以内の期日)
- 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
- 裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律
- 出入国管理及び難民認定法24条4号リ・4号の2(退去強制事由)
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