舟渡国際法律事務所

日中間の契約書レビューとは|準拠法・裁判管轄・言語・紛争解決条項の確認点を弁護士が解説

お問い合わせはこちら

日中間の契約書レビューとは|準拠法・裁判管轄・言語・紛争解決条項の確認点を弁護士が解説

日中間の契約書レビューとは|準拠法・裁判管轄・言語・紛争解決条項の確認点を弁護士が解説

2026/10/11

最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所

日中間の契約書レビューとは、日本の会社と中国の会社(または中国籍の個人)の間で交わす契約について、準拠法・裁判管轄または仲裁・言語・支払条件・解除と損害賠償・署名権限などの条項を、紛争になったときに実際に使えるかという観点から点検することをいいます。

この記事の要点

  • 契約の準拠法は当事者が選べますが(法の適用に関する通則法7条)、選んでいないと紛争後に準拠法から争うことになります。
  • 裁判管轄は合意で定められますが(民事訴訟法3条の2以下)、日本と中国の判決の相互承認は実務上困難とされており、仲裁条項を置く意味が大きいです(民事訴訟法118条、仲裁法)。
  • 日本語版と中国語版の両方を作る場合は、食い違いがあったときにどちらを優先するかを定めなければ、条項ごとに争いが生じます。
  • 債務不履行による損害賠償(民法415条)や解除(民法541条)は、契約書で要件と手続を具体化しておくほど紛争時に立証しやすくなります。
  • 署名者に契約を結ぶ権限があるか(会社法349条、中国側の公章・法定代表人)を確認しないと、契約の効力自体を争われます。

こんな場面で問題になります

  • 中国の工場から商品を仕入れる契約で、相手が用意した中国語の雛形にそのまま署名し、品質不良が出てから解除や返金の条項がないことに気づいた。
  • 日本の会社と中国の会社が共同で事業を行う契約で、準拠法が中国法、管轄が中国の裁判所になっており、日本側が訴えを起こすことが現実的でない。
  • 日本語版と中国語版で支払期限の記載が違い、相手が自分に有利な版を根拠に支払を拒んでいる。
  • 中国側の署名者が法定代表人ではなく、公章も押されていないため、相手が契約の成立を否認している。
  • 在留資格が経営・管理の中国人経営者が、日本の取引先から英文と日本語の長い契約書を渡され、何を確認すべきかわからない。

準拠法条項では何を確認しますか

どの国の法律で契約を解釈するかが明記されているか、その法律の下で自社に不利な強行規定がないかを確認します。

契約の成立と効力は、当事者が選んだ地の法によります(法の適用に関する通則法7条)。日本法を準拠法にすれば、債務不履行の損害賠償(民法415条)、催告による解除(民法541条)、契約不適合責任(民法562条以下)など日本の民法のルールが適用され、日本の弁護士と裁判所が内容を把握しやすくなります。中国法を準拠法にすると、日本の裁判所で中国法の内容を立証する負担が生じ、中国の強行規定の影響も受けます。準拠法の定めがない場合は最も密接な関係がある地の法によりますが(同法8条)、それが日本か中国かを紛争後に争うこと自体が負担です。どちらの法律を選ぶにしても、準拠法と紛争解決の場所をそろえておくのが基本です。

裁判管轄条項と仲裁条項はどちらを選ぶべきですか

相手方の財産が中国にある取引では、日本の裁判所を管轄にしても判決を中国で執行することが実務上困難とされているため、仲裁条項を選ぶ意味が大きいです。

国際的な取引でも、どの国の裁判所に訴えるかを書面で合意できます(民事訴訟法3条の2以下、合意管轄は3条の7)。ただし、裁判で勝っても相手の財産がある国で執行できなければ回収できません。外国の判決を日本で執行するには承認の要件(民事訴訟法118条)を満たしたうえで執行判決(民事執行法)を得る必要があり、中国の判決の承認と、日本の判決の中国での承認は、いずれも実務上困難とされています。これに対し、仲裁判断は日中両国が締約している外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約により相互に執行を求めることができます。仲裁条項では、仲裁機関、仲裁地、仲裁の言語、仲裁人の数を具体的に定めてください。あいまいな仲裁条項は、仲裁の合意があったかどうか自体の争いを生みます。

条項確認する点根拠
準拠法日本法か中国法か。紛争解決の場所と整合しているか法の適用に関する通則法7条・8条
裁判管轄どの国のどの裁判所か。専属か。相手の財産所在地で執行できるか民事訴訟法3条の2以下・118条、民事執行法
仲裁仲裁機関・仲裁地・言語・仲裁人の数が特定されているか仲裁法、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約
言語正本の言語と、食い違いのときの優先言語契約の解釈
解除・損害賠償解除事由、催告の要否、損害の範囲、損害賠償額の予定民法415条・541条・420条
署名権限日本側は代表権、中国側は法定代表人・公章会社法349条

日本語と中国語の両方で契約書を作るときの注意点は何ですか

両方を正本とするなら優先言語を定め、一方を訳文と位置づけるならその旨を明記し、金額・期日・固有名詞を双方で照合することが必要です。

日中の契約では、両当事者が自国語の版を持ちたがるため、二言語で作られることが多くあります。このとき、食い違いがあればどちらが優先するかを定めていないと、条項ごとにどちらの版が合意内容かを争うことになります。翻訳の段階で意味がずれやすいのは、解除、損害賠償、保証、検収、不可抗力といった法律用語で、中国語の同じ漢字が日本法上は別の意味を持つことがあります。金額、通貨、支払期日、納期、当事者の名称と住所は、両方の版を並べて一つずつ照合してください。相手方が用意した版だけに署名し、自社側の言語の版を持たないことは避けるべきです。

支払・納期・検収・解除の条項はどう整えますか

支払の時期と方法、検収の基準と期間、不適合があったときの通知と対応、解除の事由と手続を具体的に書き、裁判で立証しやすい形にしておきます。

紛争になったときに最も争われるのは、代金を払う条件が満たされたかどうかと、納品物に問題があったかどうかです。検収の基準が書かれていなければ、相手は契約どおりだと主張し、こちらは不良だと主張して水掛け論になります。民法では、引き渡された目的物が契約の内容に適合しないときの追完請求や代金減額(民法562条・563条)、債務不履行による損害賠償(民法415条)、催告による解除(民法541条)が定められていますが、契約書でこれらの要件を具体化し、通知の方法や期間を決めておけば、紛争時の立証が容易になります。損害賠償額の予定(民法420条)を置くと損害の立証を省けますが、中国法上の扱いが日本法と異なるため、準拠法との整合を確認してください。

署名者の権限と契約の成立はどう確認しますか

日本側は代表取締役または権限を与えられた者の署名か、中国側は法定代表人の署名と公章があるかを確認し、相手方の登記情報で裏付けを取ります。

日本の株式会社では、代表取締役が会社を代表して契約を結びます(会社法349条)。担当者の名義だけで締結した契約は、権限の有無を争われることがあります。中国の会社では、法定代表人の署名か公章(公司印章)が契約成立の証拠として重視され、公章のない契約は相手から効力を否認されるおそれがあります。相手方の登記情報(日本側は登記事項証明書、中国側は営業執照と企業登記情報)を取り寄せ、署名者と会社の名称・住所を契約書と照合してください。電子契約を使う場合は、どの方式の電子署名を有効とするかを契約で合意しておくことが望まれます。

秘密保持・知的財産・不可抗力の条項では何を見ますか

秘密情報の範囲と期間、成果物の権利の帰属、不可抗力の事由と通知の手続を確認し、中国側の下請や関連会社への情報の流れも押さえます。

日中間の取引では、図面・配合・顧客情報が中国側の下請や関連会社に流れることが多く、秘密保持義務を相手方の役員・従業員・再委託先にまで及ぼす条項が必要です。開発や製造を委託する契約では、成果物の著作権・特許を受ける権利・商標がどちらに帰属するかを明記しないと、相手が中国で先に登録してしまう事態が起こります。不可抗力条項は、どのような事由を不可抗力とするか、通知の期限、履行遅滞の扱いを定めるもので、感染症や輸出入規制を含めるかどうかで結論が変わります。これらの条項は、紛争になってから補うことができません。

中国籍の方に特有の留意点

第一に、在留資格との関係です。経営・管理の在留資格で日本法人を経営する方が中国の取引先と結ぶ契約は、日本法人の名義で結ぶことが原則で、個人名義で結ぶと日本法人の事業の実態が疑われ、更新の審査で不利に働くことがあります。第二に、言語です。契約交渉を中国語で行い、日本側の弁護士に日本語で説明し直す過程で意味がずれやすいため、中国語で相談できる体制が重要です。第三に、送達です。相手方が中国にあれば、訴状の送達は民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約に基づく手続となり、相当の時間がかかります。契約書で日本国内の送達受取人を定めておく方法があります。第四に、刑事リスクです。納品物が契約と違うことを知りながら代金を受け取った、支払う意思がないのに発注したといった事情があれば、民事の紛争にとどまらず詐欺(刑法246条:10年以下の拘禁刑)として告訴されることがあり、有罪になれば在留資格に直結します。

弁護士に相談すべき場面

  • 中国の取引先から中国語または英語の契約書の雛形を渡され、署名する前に内容を確認したいとき。
  • 準拠法・管轄・仲裁・言語の各条項をどう定めるべきか、自社の立場(買主か売主か、財産がどこにあるか)に合わせて判断したいとき。
  • 日本語版と中国語版の食い違いが見つかり、どちらが合意内容かを争う必要が生じたとき。
  • 相手方が契約の成立や署名者の権限を否認しているとき。
  • 取引先との紛争について、相手方から刑事告訴をほのめかされたとき。契約書のレビューから交渉、紛争になった後の訴訟・仲裁まで一貫して扱い、刑事事件に発展した場合は、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で対応します(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。

    よくある質問

    契約書が中国語だけでも日本で有効ですか

    契約の言語に法律上の制限はなく、中国語だけの契約も有効です。ただし、日本の裁判所に提出するときは日本語の訳文が必要で、訳文の正確さを相手方が争うことがあります。自社側の言語の版を持ち、優先言語を定めておくことをお勧めします。

    日本の裁判所の判決は中国で執行できますか

    日本と中国の間では、判決の相互承認は実務上困難とされています。相手方の財産が中国にある場合は、仲裁条項を置き、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約に基づいて執行を求める方法を検討してください。

    仲裁条項を置くときは何を決めればよいですか

    仲裁機関、仲裁地、仲裁の言語、仲裁人の数を具体的に定めます。これらがあいまいだと、仲裁の合意があったかどうか自体が争われます。

    相手の署名はあるが公章がない契約は無効ですか

    日本法上、公章がないことだけで無効になるわけではありませんが、中国側が法定代表人の署名や公章がないことを理由に契約の成立を否認することがあります。締結時に法定代表人の署名と公章の両方を求めるのが安全です。

    損害賠償額を契約であらかじめ決めておくことはできますか

    日本法では損害賠償額の予定(民法420条)として認められ、損害の立証を省くことができます。中国法上の扱いは日本法と異なるため、準拠法との整合を確認してください。

    根拠条文・出典

    • 法の適用に関する通則法7条(当事者による準拠法の選択)、8条(最密接関係地法)
    • 民事訴訟法3条の2以下(国際裁判管轄)、3条の7(管轄権に関する合意)、118条(外国裁判所の確定判決の効力)
    • 民事執行法(執行判決)、仲裁法、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約
    • 民法415条(債務不履行による損害賠償)、420条(賠償額の予定)、541条(催告による解除)、562条・563条(追完請求・代金減額請求)
    • 会社法349条(株式会社の代表)
    • 民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約
    • 刑法246条(詐欺)、出入国管理及び難民認定法(経営・管理の在留資格)

    関連する解説

    ご相談・お問い合わせ

    舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田3-4-10 布施ビル本館3階)
    中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。全国からご相談を承ります。
    電話:050-7587-4639
    微信(WeChat)ID:matsumura1119
    ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

    本ページは一般的な情報提供であり、個別の事案の結果を保証するものではありません。

    简体中文版

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。