民事裁判の流れとは|外国人・外国企業が日本で訴える・訴えられたときの手続(管轄・送達・言語・判決の執行)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
民事裁判の流れとは、原告が裁判所に訴状を提出し(民訴法133条)、裁判所が被告に訴状を送達し、口頭弁論と証拠調べを経て判決が言い渡され、不服があれば控訴・上告に進む一連の手続をいいます。外国人や外国企業が当事者のときは、国際裁判管轄(民訴法3条の2以下)、外国送達(民訴法108条)、外国語書類の扱い(裁判所法74条・民訴規則138条)の問題が加わります。
この記事の要点
- 日本の裁判所で裁判ができるかは、国際裁判管轄の規定(民訴法3条の2以下)で決まり、被告の住所や契約の履行地、不法行為地などが基準になります。
- 訴えは訴状を裁判所に提出して始まり(民訴法133条)、被告が外国にいるときは条約や外交ルートを通じた送達(民訴法108条)が必要です。
- 裁判所では日本語を用いるため(裁判所法74条)、中国語の契約書や微信のやり取りを証拠にするときは訳文を添付します(民訴規則138条)。
- 第一審の判決に不服があれば、判決書の送達から2週間以内に控訴できます(民訴法285条)。
こんな場面で問題になります
- 中国にいる取引先が日本の会社に代金を払わないので、日本の裁判所に訴えたいが、相手の住所が中国にある。
- 日本で会社を経営する中国人経営者が、取引先から売買代金や損害賠償を求める訴状を受け取った。
- 中国人同士の貸金トラブルで、借用書もやり取りもすべて中国語・微信である。
- 日本の判決を得たが、相手の財産が中国にしかなく回収の方法が分からない。
外国人・外国企業が当事者でも日本の裁判所で裁判できますか
被告の住所や主たる事務所が日本にある場合のほか、契約上の債務の履行地や不法行為地が日本にある場合などには、日本の裁判所に国際裁判管轄が認められます(民訴法3条の2以下)。
民訴法3条の2は被告の住所・事務所が日本にあれば管轄を認め、3条の3は契約上の債務の履行地、財産所在地、不法行為地などの事件類型ごとの管轄を定めています。書面で日本の裁判所を合意していれば合意管轄(民訴法3条の7)も認められます。逆に、契約書に中国の裁判所や仲裁機関を専属とする条項があると、日本での提訴が認められない場合があります。日中間の契約では、管轄条項と準拠法条項(通則法7条)の確認が出発点です。なお、管轄があっても、証拠や当事者が外国に偏っているなど特別の事情があるときは訴えが却下されることがあります(民訴法3条の9)。
訴状の提出から判決までの流れはどうなっていますか
訴状の提出、被告への送達、答弁書の提出、口頭弁論と争点整理、証人尋問などの証拠調べ、和解の試み、判決という順序で進みます。
原告が訴状を提出し(民訴法133条)、裁判所が被告に送達します。被告は答弁書で認否と反論を示し、その後は双方が準備書面と書証を交互に提出し、弁論準備手続(民訴法168条)で争点を絞ります。争点が固まれば証人尋問・当事者尋問を行い、裁判所は適切な時期に和解を勧めます(民訴法89条)。和解が成立しなければ判決が言い渡されます。被告が答弁書も出さず期日にも出頭しないと、原告の主張を認めたものとみなされ(民訴法159条)、請求どおりの判決が出ることがあります。
| 段階 | 主な内容 | 根拠 | 外国人・外国企業が当事者のときの留意点 |
|---|---|---|---|
| 提訴 | 訴状の提出 | 民訴法133条 | 国際裁判管轄の確認、外国企業の資格証明と訳文 |
| 送達 | 訴状・期日呼出状の送達 | 民訴法108条(外国送達) | 中国への送達は中央当局経由で訳文が必要、時間を要する |
| 答弁・争点整理 | 答弁書、準備書面、書証の提出 | 民訴法161条・168条 | 書面は日本語(裁判所法74条)、外国語の証拠には訳文(民訴規則138条) |
| 証拠調べ | 証人尋問・当事者尋問 | 民訴法154条(通訳人) | 日本語に通じない当事者・証人には通訳人が立ち会う |
| 判決・控訴 | 判決の言渡しと送達、控訴 | 民訴法285条 | 控訴は判決書送達から2週間以内。外国での執行可能性は別途検討 |
相手が中国にいるとき、訴状はどうやって届けますか
外国にいる相手への送達は、裁判所が外国の管轄官庁や日本の大使・領事に嘱託して行い(民訴法108条)、中国との間では送達条約に基づく中央当局経由の送達が用いられます。
外国にいる当事者には国内のように郵便で送達することができません。中国との間では、送達条約に基づき、日本の裁判所から外務省を経て中国の中央当局に書類が送られ、中国の裁判所が相手方に交付します。書類には中国語の訳文が必要です。この手続は相当の時間がかかり、送達が完了するまで第一回口頭弁論期日を開くことができません。相手の所在が分からない場合や嘱託によっても送達できない場合には、公示送達(民訴法110条)が認められることがあります。逆に、中国の裁判所からの送達書類が日本の住所に届くこともあり、受け取ったら放置せず期限と対応を確認してください。
中国語の契約書や微信の記録は証拠になりますか
証拠になりますが、裁判所では日本語を用いるため(裁判所法74条)、外国語の文書には訳文を添付して提出します(民訴規則138条)。
中国語の契約書、借用書、領収書、微信や支付宝のやり取りの画面は、いずれも書証として提出できます。訳文は当事者側で用意し、相手方が訳の正確性を争えば、裁判所は双方の訳を比べて判断します。微信のやり取りは、送信者・受信者・日時が分かる形で保存し、改ざんの疑いを持たれないよう元データを残しておくことが重要です。中国で作成された公文書や公証書を使う場合には、認証の要否と訳文の両方を確認します。翻訳の質は判決に直結するため、法律用語の違いを理解した翻訳者に依頼し、弁護士が訳文を確認してから提出することが望まれます。
日本の判決は中国で執行できますか
日本と中国の間では判決の相互承認が実務上確立しておらず、日本の判決を中国で執行することは困難とされています。相手の財産が中国にしかない場合は、仲裁の利用や中国での提訴を最初から検討します。
日本の確定判決は、国内の財産に対しては債務名義(民事執行法22条)として強制執行できますが、外国での執行はその国の裁判所が日本の判決を承認するかにかかっています。日本が外国判決を承認する要件(民訴法118条)には相互の保証が含まれますが、日本と中国の間では互いに相手国の判決の承認を否定した裁判例があり、相互の保証が認められにくい状況が続いています。これに対し、仲裁判断は日中双方が加入する条約により相互に執行できるため、契約書に仲裁条項を置くことが実務上の対策になります。すでに紛争が生じている場合は、日本国内の財産を調査し、必要なら仮差押え(民事保全法20条)で保全してから提訴することを検討します。
中国籍の方に特有の留意点
- 在留資格への影響:民事裁判の当事者になること自体は在留資格に影響しません。ただし経営・管理の在留資格の方は、判決で多額の支払義務を負うと事業の安定性が更新審査(入管法21条)で問われることがあります。
- 言語:訴状や判決書は日本語で届きます。漢字で大意は分かっても期限や法律上の効果を誤解しやすいため、受け取ったらすぐ弁護士に見せてください。代理人がつけば本人の毎回の出廷は不要で、尋問の際は通訳人が立ち会います(民訴法154条)。
- 帰国との関係:被告が帰国すると送達と執行の両方が困難になります。原告側は相手が日本にいるうちに提訴・保全し、被告側は帰国前に代理人を選任して対応を引き継ぐことが必要です。
- 準拠法:中国人同士の契約でも、準拠法は当事者の選択(通則法7条)や最密接関係地法(通則法8条)で決まり、中国法が適用される場面があります。
- 中国からの証拠収集:中国にいる関係者から証拠を集めるときは、原本性と訳文の両方を確保し、期日に間に合わせる必要があります。
弁護士に相談すべき場面
- 日本の裁判所から訴状や呼出状が届いたが、内容が分からない、または期日が迫っているとき。
- 中国にいる相手を日本で訴えたいが、管轄・送達・回収の見込みを確認したいとき。
- 証拠が中国語の契約書や微信のやり取りだけで、どう提出すればよいか分からないとき。
- 中国の裁判所からの送達書類が日本の住所に届いたとき。
- これから日中間の契約を結ぶにあたり、管轄・準拠法・仲裁条項を決めたいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。中国籍の方や中国系企業の民事事件では、中国語の証拠の整理と訳文の作成、中国にいる関係者との連絡、刑事事件や入管手続との関係まで一体で扱います。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
日本語が全く分からなくても日本で裁判できますか
できます。代理人弁護士が書面の作成と期日対応を行い、本人が法廷で陳述するときは通訳人が立ち会います(民訴法154条)。当事務所では中国語での打合せが可能です。
訴状が届いたのに放置するとどうなりますか
答弁書を出さず期日にも出頭しないと、相手の主張を認めたものとみなされ(民訴法159条)、請求どおりの判決が出ることがあります。届いたらすぐに期限を確認してください。
中国にいる相手に訴状を送るのにどれくらいかかりますか
条約に基づく中央当局経由の送達(民訴法108条)は国内送達より大幅に時間がかかります。具体的な期間は事案により異なるため、提訴前に見通しを確認します。
微信のやり取りだけで契約の証拠になりますか
なります。送信者・日時が分かる形で保存し、訳文を添付して書証として提出します(民訴規則138条)。元データを残しておくことが大切です。
日本の判決で中国にある財産を差し押さえられますか
日本と中国の間では判決の相互承認が確立しておらず、困難とされています。仲裁条項の利用や中国での提訴、日本国内の財産の保全を検討します。
根拠条文・出典
- 民事訴訟法3条の2〜3条の9(国際裁判管轄)、3条の7(管轄の合意)、89条(和解の試み)、108条(外国における送達)、110条(公示送達)、118条(外国裁判所の確定判決の効力)、133条(訴え提起の方式)、154条(通訳人の立会い等)、159条(自白の擬制)、161条(準備書面)、168条(弁論準備手続)、285条(控訴期間)
- 民事訴訟規則138条(訳文の添付)
- 裁判所法74条(裁判所では日本語を用いる)
- 法の適用に関する通則法7条・8条(契約の準拠法)
- 民事執行法22条(債務名義)、民事保全法20条(仮差押命令の必要性)
- 出入国管理及び難民認定法21条(在留期間の更新)
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