【解決事例】「だまされたふり作戦」で逮捕された中国籍の受け子が執行猶予に|特殊詐欺とビザ(在留資格)
2026/10/18
最終更新:2026年10月18日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
「だまされたふり作戦」で逮捕された中国籍の受け子について、松村大介弁護士は、未遂で現実の被害がないこと、末端の役割であること、示談の成立などを裁判例に沿って示し、求刑3年6月に対して執行猶予判決を得ました。
この記事の要点
- 特殊詐欺の受け子は、初犯でも実刑になりやすい類型です。
- 本件は、被害者が警察に通報したうえで現金を渡すふりをする「だまされたふり作戦」の下で、受け取りに来たところを逮捕された事案です。
- 未遂で現実の財産的損害がないこと、末端で分け前もわずかであること、被害者と150万円で示談したこと、初犯で帰国を確約していることを柱に弁論し、執行猶予判決を得ました。
- 詐欺は刑法第2編第37章の罪で、別表第一の在留資格の方は執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。
外国人が日本で刑事事件の当事者になると、どのような手続が進むのか?
逮捕から最長23日間の身体拘束を経て、検察官が起訴か不起訴かを決め、起訴されれば裁判で刑が決まります。手続は日本人と同じですが、外国人の場合は通訳と在留資格の問題が加わります。
警察は逮捕から48時間以内に事件を検察官に送り(刑事訴訟法203条1項)、検察官は受け取ってから24時間以内、かつ逮捕から72時間以内に、裁判官に勾留を請求するかどうかを決めます(同法205条1項・2項)。勾留が認められると原則10日間、やむを得ない事由があるときはさらに最大10日間延長されます(同法208条)。
この間に、検察官は起訴するか不起訴にするかを決めます。不起訴になれば裁判は開かれず、前科もつきません。起訴されると公判が開かれ、拘禁刑(実刑または執行猶予)や罰金などの刑が言い渡されます。起訴後は保釈を請求できます(刑事訴訟法89条・90条)。
外国人の方には、取調べや裁判で通訳が付きます。ただ、逮捕直後の72時間は家族でも面会できないことが多く、この間に本人と会えるのは弁護人だけです。最初の取調べで何を話すかが、その後の処分と在留資格の両方を左右します。
| 段階 | 期間・内容 | 弁護士の主な活動 |
|---|---|---|
| 逮捕 | 48時間以内に検察官へ送致(刑訴法203条1項) | すぐに接見し、取調べへの対応を助言。家族へ連絡 |
| 送致・勾留請求 | 送致から24時間以内・逮捕から72時間以内に勾留請求の判断(同法205条) | 勾留請求をしないよう検察官に、請求を却下するよう裁判官に意見書を出す |
| 勾留 | 原則10日、延長で最大さらに10日(同法208条) | 準抗告(同法429条1項2号)、勾留取消請求、示談交渉 |
| 起訴・不起訴 | 検察官が処分を決める(同法248条) | 不起訴を求める意見書。在留資格への影響も示す |
| 公判・判決 | 拘禁刑(実刑・執行猶予)、罰金など | 保釈請求、情状立証、無罪主張 |
刑事事件はビザ(在留資格)にどう影響するのか?
影響は、在留資格の種類、罪名、刑の種類(不起訴・罰金・執行猶予・実刑)の組合せで決まります。とくに留学・技術・人文知識・国際業務・家族滞在など「別表第一」の在留資格の方は、執行猶予付きの拘禁刑でも退去強制事由に当たる罪が多いことに注意が必要です。
特殊詐欺で有罪になると、在留資格への影響は避けにくくなります。詐欺罪は刑法第2編第37章の罪であり、別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、家族滞在、特定技能など)で在留する人が拘禁刑に処せられれば、執行猶予付きでも退去強制事由に当たります(入管法24条4号の2)。
また、1年以上の拘禁刑に処せられたことのある人は、上陸拒否事由に当たります(入管法5条1項4号)。将来もう一度日本に来ることを考えるなら、刑の重さそのものが意味をもちます。受け子事件では、刑事の結果と帰国後の生活まで見通した方針を立てる必要があります。
| 刑事事件の結果 | 別表第一の在留資格(留学、技術・人文知識・国際業務、家族滞在、特定技能など) | 別表第二の在留資格(永住者、日本人の配偶者等、定住者など) |
|---|---|---|
| 不起訴 | 退去強制事由には当たらない | 退去強制事由には当たらない |
| 罰金 | 入管法24条4号の2には当たらない。更新・変更・永住の審査では不利な事情 | 退去強制事由には当たらない(※)。更新・永住の審査では不利な事情 |
| 拘禁刑・全部執行猶予 | 窃盗・詐欺・傷害・暴行・文書偽造・住居侵入などの罪であれば、24条4号の2に当たる | 1年を超える刑でも24条4号リには当たらない(※) |
| 拘禁刑・実刑 | 上記の罪であれば24条4号の2に当たる。1年を超えれば24条4号リにも当たる | 1年を超えれば24条4号リに当たる |
| 薬物事件の有罪判決 | 罰金・執行猶予でも24条4号チに当たる | 罰金・執行猶予でも24条4号チに当たる |
※薬物事件など、別の号に当たる場合を除きます。退去強制されると、原則として一定期間は日本に上陸できなくなります(入管法5条1項9号)。退去強制事由に当たる場合でも、法務大臣が在留特別許可をすることがあります(同法50条1項)。
実際の事件はどのような事案だったのか?
ご依頼者は中国籍の男性です。投資詐欺の被害者から現金650万円を受け取る役として現場に向かったところ、被害者の通報を受けて待機していた警察官に逮捕されました。いわゆる「だまされたふり作戦」の下での逮捕です。
検察官の求刑は拘禁刑3年6月でした。
どのような結果になったのか?
裁判所は執行猶予付きの判決を言い渡しました。求刑3年6月という重い求刑に対し、実刑を回避することができました。
松村大介弁護士はどのような弁護方針をとったのか?
1 未遂で現実の被害がないことを示す
だまされたふり作戦の下では、被害者は現金をだまし取られていません。本件は未遂にとどまり、現実の財産的損害が生じていないことを、福岡高判平成29年5月31日の枠組みに沿って主張しました。
2 末端の役割と、わずかな分け前を具体的に示す
ご依頼者は組織の末端の受け子であり、分け前もわずかでした。組織内での位置づけを具体的に示しました。
3 現実の被害がなくても示談を成立させる
現実の被害はありませんでしたが、被害者と150万円で示談を成立させました。被害者の処罰感情に配慮したことを示す重要な事情です。
4 裁判例に照らし「特に酌むべき事情」を立証する
受け子事案で実刑と執行猶予を分ける事情を示した裁判例(福岡高判令和2年2月26日)を量刑調査メモで整理し、初犯であること、帰国を確約していることを含め、本件にその事情が備わっていることを具体的に示しました。
弁護方針の全文は「松村大介弁護士の弁護方針|法律に命を吹き込む」(note)をご覧ください。
同種の事件で、今後の弁護のポイントは何か?
1 だまされたふり作戦でも詐欺未遂は成立し得る
最高裁平成29年12月11日決定は、だまされたふり作戦の開始後に加わった受け子について、詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めています。成立を争うだけでなく、量刑の事情を丁寧に積み上げることが重要です。
2 役割・報酬・認識を早い段階で整理する
受け子は「指示どおり受け取っただけ」という立場になりがちです。役割の軽さや報酬の少なさは、取調べの段階から一貫した形で示す必要があります。
3 現実の被害がなくても被害者対応を怠らない
未遂であっても、被害者への謝罪と示談は量刑に大きく影響します。
4 判決後の在留・帰国の方針を早く決める
執行猶予でも退去強制事由に当たり得るため、帰国を前提にするのか、在留特別許可を求めるのかを、公判の段階から決めておく必要があります。
よくある質問
Q.受け子は初犯でも実刑になりますか。
A.実刑になることが少なくない類型です。ただし、未遂で被害がないこと、役割が軽いこと、示談が成立していることなどを裁判例に沿って示せば、執行猶予の可能性はあります。
Q.「だまされたふり作戦」で逮捕された場合、罪は軽くなりますか。
A.現実の被害が生じていない点は量刑上有利な事情です。ただし、最高裁平成29年12月11日決定のとおり、詐欺未遂罪自体は成立し得ます。
Q.外国人の家族が逮捕されました。まず何をすればよいですか。
A.どの警察署に留置されているかを確かめ、刑事弁護人に接見を依頼してください。逮捕直後の72時間は家族でも面会できないことが多く、本人と会えるのは弁護人だけです。最初の取調べへの対応が、処分と在留資格の両方を左右します。
Q.中国語で相談できますか。
A.はい。舟渡国際法律事務所では中国語でのご相談をお受けしています。外国人の刑事事件の接見には、事務所の中国語専属通訳または中国律師が通訳として同行します。微信(WeChat)ID matsumura1119 でもご相談を受け付けています。
外国人の刑事事件のご相談
舟渡国際法律事務所では、松村大介弁護士が外国人の刑事事件と入管手続を一体で担当します。刑事の処分だけでなく、その後の在留資格まで見通した弁護を行います。
外国人の刑事事件の接見には、事務所の中国語専属通訳または中国律師が通訳として同行します。全国の警察署へ出張接見します。
電話:050-7587-4639 / お問い合わせフォーム / 微信(WeChat)ID:matsumura1119(夜間・土日も受付)
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本記事の事例は、ご依頼者の同意の範囲で、個人が特定されないよう内容を加工しています。結果は個別の事情に基づくものであり、同種の事件で同じ結果を保証するものではありません。