和解契約とは|示談書・和解書で必ず確認すべき条項(清算条項・守秘条項・違約条項・準拠法・言語)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
和解契約とは、当事者が互いに譲歩して、その間にある争いをやめることを約束する契約をいいます(民法695条)。示談書・和解書・合意書はいずれも和解契約の書面であり、一度成立すると、後から真実が違っていたとわかっても原則として内容を覆せません(民法696条)。だからこそ、署名の前に条項を一つずつ確認する必要があります。
この記事の要点
- 和解契約は互譲を要素とする契約で(民法695条)、成立後は争いの内容について当事者を拘束します(民法696条)。
- 清算条項は、書面に定めた以外に債権債務がないことを確認する条項で、入れないと追加請求の余地が残り、広すぎると関係のない権利まで放棄したことになります。
- 守秘条項・違約条項は、違反したときに何が起きるかを具体的に書かなければ、後の紛争の種になります。
- 相手方が中国にいる、または中国語話者であるときは、準拠法(法の適用に関する通則法7条)、裁判管轄、日本語と中国語のどちらが優先するかを明記します。
- 通常の和解契約書だけでは強制執行はできず、執行の必要があれば公正証書、訴え提起前の和解(民訴法275条)、調停調書(民事調停法)、和解調書(民訴法267条)にします。
こんな場面で問題になります
- 傷害事件の被害者として、加害者側の弁護士から示談書の案が届き、宥恕と清算の文言の意味がわからない。
- 中国系企業との取引トラブルを和解で終えたが、中国語の合意書と日本語の合意書で金額の記載が食い違っていた。
- 退職時に会社から合意書への署名を求められ、未払賃金やハラスメントの請求をすべて放棄する内容になっていた。
- 交通事故で保険会社の示談書に署名した後に症状が悪化し、追加の請求ができるか知りたい。
- 知人への貸金について返済の合意書を交わしたが、約束どおり支払われず、次に何ができるかわからない。
和解契約とは何ですか。示談書・和解書・合意書は何が違いますか
いずれも当事者が譲歩し合って争いを終わらせる和解契約(民法695条)の書面であり、法律上の効力に名称による違いはありません。刑事事件では示談書、民事では和解書・合意書と呼ぶことが多いだけです。
和解の本質は互譲です。一方だけが全面的に譲る内容は、和解というより債務の承認や権利の放棄にあたり、それでも契約としては有効ですが、錯誤や強迫を理由に争われやすくなります。和解が成立すると、当事者は争いの対象について和解の内容に拘束され、後から証拠が出てきて事実が違うと判明しても、原則として和解をなかったことにはできません(民法696条)。刑事事件の示談書は、被害者の宥恕(処罰を望まない意思)を記載する点に特徴があり、検察官や裁判所への提出を前提に作成します。
清算条項とは何ですか。入れないとどうなりますか
清算条項は、和解書に定めたもののほかに当事者間に債権債務がないことを相互に確認する条項で、追加請求を防ぐ中心的な条項です。範囲を「本件に関し」と限定するか、一切の債権債務とするかで効果が大きく変わります。
典型的な文言は「甲及び乙は、甲乙間には、本和解書に定めるもののほか、本件に関し何らの債権債務がないことを相互に確認する。」というものです。「本件に関し」を入れれば清算の範囲はその紛争に限られ、「本件に関し」を外して「一切の債権債務がない」とすれば、当事者間の他の請求権も放棄したことになります。交通事故や傷害事件では、後遺障害が後日判明する可能性があるため、「後遺障害が生じた場合は別途協議する」という留保を付けることがあります。清算条項を入れ忘れると、和解金を払ったのに別の名目で追加請求を受ける余地が残ります。
守秘条項・口外禁止条項はどこまで有効ですか
和解の内容や存在を第三者に話さないことを約束する守秘条項は有効ですが、例外(弁護士・税理士・家族・裁判所や捜査機関への開示)と、違反した場合の効果を明記しなければ実効性がありません。
文言の例は「甲及び乙は、本和解の内容及び本件に関する事実を、正当な理由なく第三者に開示しない。ただし、法令に基づく場合、弁護士・税理士等の専門家に相談する場合、及び捜査機関・裁判所に対して開示する場合を除く。」です。刑事事件の示談では、被害者側の要望として、加害者が被害者に接触しないことを約束する接触禁止条項と一緒に入ることが多く、SNSへの投稿禁止を明記することもあります。中国語圏の方は微信のグループで事件の経過を共有しがちですが、守秘条項に違反すると違約金の請求や、刑事事件なら宥恕の撤回につながりかねないため、家族にも内容を説明しておく必要があります。
違約条項(違約金・期限の利益喪失)はどう書きますか
支払いを分けて行う場合は、一回でも支払いを怠ったときに残額を一括で請求できる期限の利益喪失条項を入れ、守秘義務などの違反には違約金の額をあらかじめ定めておきます(民法420条の賠償額の予定)。
| 条項 | 目的 | 文言の例 | 確認すべき点 |
|---|---|---|---|
| 支払条項 | 金額・期限・方法を特定する | 「乙は甲に対し、和解金として金○円を、○年○月○日限り、甲指定の口座に振り込んで支払う。振込手数料は乙の負担とする。」 | 通貨(円か人民元か)、為替、手数料の負担、振込先の名義 |
| 期限の利益喪失条項 | 分けて支払う場合の不履行への備え | 「乙が支払を一回でも怠ったときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う。」 | 催告の要否、遅延損害金の利率 |
| 清算条項 | 追加請求の防止 | 「本件に関し、本書に定めるほか何らの債権債務がないことを相互に確認する。」 | 「本件に関し」の有無、後遺障害の留保 |
| 守秘条項 | 内容の秘匿 | 「正当な理由なく第三者に開示しない。ただし専門家・裁判所・捜査機関への開示を除く。」 | 例外の範囲、SNSへの言及 |
| 違約条項 | 違反の抑止 | 「本条に違反した当事者は、相手方に対し違約金として金○円を支払う。」 | 金額の相当性、損害賠償との関係 |
| 準拠法・管轄条項 | 渉外事案での紛争処理 | 「本和解は日本法に準拠し、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」 | 相手方の所在地、執行の可能性 |
| 言語条項 | 訳文との食い違いの処理 | 「本和解書は日本語で作成し、中国語訳は参考訳とする。両者に相違があるときは日本語版が優先する。」 | 依頼者が中国語訳を確認したか |
違約金は、あらかじめ損害賠償の額を定めるもので(民法420条)、裁判で実際の損害額を証明する負担を省けます。ただし、違反の内容に比べて著しく高額な違約金は、公序良俗の観点から減額されたり無効とされたりするおそれがあるため、相当な範囲で定めます。中国では違約金が実損に比べて高すぎるときに裁判所が調整する扱いが知られており、中国の当事者は違約金条項に慣れている一方、日本法上の効果とは前提が異なることを説明しておく必要があります。
準拠法と言語の優先条項はなぜ必要ですか
当事者の一方が中国にいる、または中国企業であるときは、どの国の法律で解釈するか(準拠法)、どこの裁判所で争うか(管轄)、日本語と中国語のどちらの文言が正文かを定めなければ、争いになったときに和解の内容そのものを争われます。
契約の準拠法は当事者が選択できます(法の適用に関する通則法7条)。日本で履行される和解であれば日本法を選び、日本の裁判所を専属的合意管轄とするのが通常です。言語については、日本語版と中国語版の両方に署名すると、翻訳のわずかな違いが「どちらが本当の合意か」という紛争を生みます。日本語版を正本とし、中国語版は参考訳であること、相違があれば日本語版が優先することを条項に書き、依頼者には署名前に中国語訳で内容を確認してもらいます。相手方が中国にいて日本に財産がない場合は、日本の判決や和解を中国で執行することに実務上の困難があるため、支払いを一括で先に受ける、担保を取る、日本国内の財産を特定するといった条件面での工夫を優先します。
和解したのに相手が払わないときはどうしますか
通常の和解契約書は債務名義ではないため、支払いがなければ改めて訴訟を起こす必要があります。不履行が心配なときは、最初から強制執行のできる文書にしておきます。
強制執行をするには債務名義(民事執行法22条)が必要です。当事者が私的に作成した和解契約書はこれに当たりません。方法は三つあります。第一に、公証役場で執行認諾文言付きの公正証書を作成する方法で、金銭の支払いについて強制執行ができます。第二に、簡易裁判所に訴え提起前の和解(民訴法275条)を申し立て、和解調書にする方法で、確定判決と同一の効力をもちます(民訴法267条)。第三に、民事調停を申し立てて調停調書にする方法で、調停調書も裁判上の和解と同じ効力をもちます(民事調停法)。いずれも相手方の協力が必要なため、交渉の段階でどの形式にするかを合意しておきます。
署名前に本人が確認すべきことは何ですか
金額と通貨、支払期限、清算条項の範囲、守秘・接触禁止の内容、違約金、準拠法と言語の優先、そして自分が放棄する権利が何かを、中国語訳で理解したうえで署名します。
相手方から示された案をそのまま受け入れる必要はありません。清算条項が広すぎないか、守秘義務が一方的でないか、違約金が不均衡でないかを確認し、修正を求めます。刑事事件の示談書では、宥恕の文言の有無、告訴取消しの有無、検察官・裁判所への提出に同意する旨が重要です。労働事件の合意書では、未払賃金・退職金・慰謝料のどれを清算するのか、在職中の秘密保持や競業避止が新たに課されていないかを確認します。署名は本人が行い、代筆や家族による署名は避けます。
中国籍の方に特有の留意点
- 言語:日本語版を正本とし、中国語訳は参考訳であることを明記します。中国語訳のない日本語の書面に署名を求められたときは、訳文の交付を求めてください。署名後に「意味がわからなかった」という主張は通りにくいのが実情です。
- 用語の違い:中国語の「和解」「调解」「谅解」は日本法の和解・調停・宥恕と対応がずれることがあります。「谅解书」は日本の刑事事件では宥恕条項を含む示談書に当たりますが、文言どおりの効果が生じるかは日本語の正本で判断されます。
- 準拠法・管轄・送達:相手方が中国にいる場合、準拠法と管轄を定めても執行には困難が残ります。相手が日本にいる間の履行、担保、公正証書化を優先します。
- 在留資格との関係:刑事事件の示談は不起訴や刑の軽重に影響し、拘禁刑(執行猶予付きを含む)になれば入管法24条4号リ・4号の2の退去強制事由に関わります。示談書は入管への説明資料にもなるため、宥恕の文言を明確にしておきます。
- 守秘条項と家族:中国の家族が微信で事件の経過を共有すると守秘義務違反になり得ます。合意後は家族にも内容を伝えてください。
弁護士に相談すべき場面
- 相手方や保険会社、相手方の弁護士から示談書・和解書の案を受け取り、署名を求められているとき。
- 清算条項・守秘条項・違約金の範囲が広すぎる、または一方的だと感じるとき。
- 相手方が中国にいる、または中国企業で、準拠法・言語・執行の問題があるとき。
- 刑事事件の被害者または加害者として示談書を作成するとき。
- 和解したのに相手が支払わず、次の手続を検討しているとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。和解書・示談書は日本語の正本と中国語訳を併せて作成し、依頼者が内容を理解したうえで署名できるようにしています。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。
よくある質問
示談書に署名した後で、事実が違うとわかったら取り消せますか
和解には確定効があり(民法696条)、争いの対象となった事項については、後から事実が違うとわかっても原則として覆せません。争いの対象でなかった前提事実に錯誤があった場合などに限り争う余地があります。署名前の確認が重要です。
清算条項に「一切の債権債務がない」とあれば、別の件の請求もできなくなりますか
「本件に関し」という限定がなければ、当事者間の他の請求権も放棄したと解釈されるおそれがあります。他に請求したいものがあるときは、清算の範囲を本件に限定するか、除外する事項を明記します。
中国語版と日本語版の内容が違うときはどちらが有効ですか
言語の優先条項があればそれに従います。条項がないと、どちらが真の合意かをめぐって争いになります。日本語版を正本とし中国語版は参考訳とする条項を入れるのが通常です。
和解書を作れば、相手が払わないときに差押えができますか
私的に作成した和解書だけでは強制執行はできません。執行認諾文言付きの公正証書、訴え提起前の和解(民訴法275条)、調停調書(民事調停法)のいずれかにしておく必要があります。
守秘条項があると家族にも話せませんか
条項の文言によります。通常は弁護士など専門家への相談や法令に基づく開示を例外とし、家族への説明を認める形にします。例外が書かれていない案を示されたときは修正を求めます。
根拠条文・出典
- 民法695条(和解)、696条(和解の効力)、420条(賠償額の予定)
- 民事訴訟法267条(和解調書等の効力)、275条(訴え提起前の和解)
- 民事調停法(調停の成立と調停調書の効力)
- 民事執行法22条(債務名義)
- 法の適用に関する通則法7条(当事者による準拠法の選択)
- 弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
- 出入国管理及び難民認定法24条4号リ・4号の2(退去強制事由)
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