執行停止とは|行政処分の効力を止める申立ての要件と入管事件(退去強制令書)での使い方を弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
執行停止とは、処分の取消訴訟を起こした人が裁判所に申し立て、「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に、判決が出るまでの間、処分の効力・執行・手続の続行の全部または一部を止めてもらう制度です(行政事件訴訟法25条2項)。取消訴訟を起こしただけでは処分は止まらないため(同条1項)、退去強制令書のように執行されると取り返しがつかない処分では、提訴と同時に執行停止を申し立てることが実務の基本です。
この記事の要点
- 取消訴訟を提起しても処分の効力・執行は止まらないのが原則で、止めるには裁判所の執行停止決定が必要です(行訴法25条1項・2項)。
- 要件は、重大な損害を避けるため緊急の必要があること、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと、本案について理由がないとみえないことです(行訴法25条2項〜4項)。
- 入管の処分には審査請求ができないため(行政不服審査法7条1項10号)、執行停止は取消訴訟に伴う行訴法25条の申立てとして行います。
- 退去強制令書は送還と収容の二つの効力を持ち、送還部分の停止は認められやすく、収容部分の停止は事情次第です。
- 執行停止が認められても在留資格が戻るわけではなく、本案の取消訴訟で勝つための時間を確保する手段です。
こんな場面で問題になります
- 在留特別許可が認められず退去強制令書が発付され、収容施設から中国へ送還される日が迫っている。
- 日本人の配偶者や日本で生まれ育った子がいるのに、裁決と退去強制令書の取消訴訟の結論を待たずに送還されそうになっている。
- 中国系企業が営業停止命令・許可取消しを受け、判決を待つ間に取引先を失い事業が立ち行かなくなる。
- 持病の治療中に収容され、送還だけでなく収容そのものによる健康悪化が心配される。
執行停止はどのような要件で認められますか
処分の取消訴訟が係属していること、重大な損害を避けるため緊急の必要があること、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがないこと、本案について理由がないとみえないことが要件で、申立人が疎明します(行訴法25条2項〜5項)。
「重大な損害」の判断では、損害の回復の困難の程度を考慮し、損害の性質・程度と処分の内容・性質も勘案するとされています(行訴法25条3項)。金銭で回復できる損害は認められにくく、生命・身体・家族関係・訴訟を続ける機会のように、後から取り戻せない損害が中心になります。「本案について理由がないとみえるとき」とは、取消訴訟の主張が一見して成り立たない場合をいい、執行停止の段階で本案の勝訴まで証明する必要はありません。執行停止の申立ては本案の係属する裁判所に行い(行訴法28条)、口頭弁論を経ずに、当事者の意見を聴いて決定されます(同25条6項)。決定に対しては即時抗告ができます(同条7項)。
効力の停止・執行の停止・手続の続行の停止はどう違いますか
処分の効力そのものを止める「効力の停止」、処分を実現する行為を止める「執行の停止」、処分を前提に進む次の手続を止める「手続の続行の停止」があり、効力の停止は他の二つで目的を達成できるときは認められません(行訴法25条2項ただし書)。
退去強制令書の場合、令書を根拠に行われる送還や収容を止めるのは「執行の停止」です。営業停止命令のように処分の存在自体が営業を妨げる場合は「効力の停止」を求めます。申立書では、処分のどの部分を、いつまで止めるのかを特定して書く必要があり、入管事件では「本案判決の確定まで、退去強制令書に基づく送還部分の執行を停止する」という形が典型です。
退去強制令書の執行停止はどのように使いますか
退去強制令書の取消訴訟(在留特別許可をしない裁決の取消訴訟と併せることが多い)を提起すると同時に、送還部分を中心に執行停止を申し立て、送還される前に裁判所の決定を得ることが目的です。
退去強制令書(入管法51条)が発付されると、入国警備官はその者を送還し(同52条3項)、直ちに送還できないときは収容します(同条5項)。送還されてしまうと、本人は日本で訴訟を続けることが著しく困難になり、仮に勝訴しても上陸拒否期間(同5条1項9号)により原状回復が難しくなります。裁判所はこの点を「重大な損害」とみて、送還部分の執行停止を認める例が多くあります。他方、収容部分については、仮放免(同54条)や令和6年の改正で設けられた監理措置という代替手段があることなどから、認められにくい傾向にあり、健康状態や家族の事情を具体的に疎明する必要があります。送還日が迫っている場合は、申立てと同時に裁判所に至急の審理を求め、入管にも申立ての事実を伝えて送還を控えるよう求めます。
| 退去強制令書の効力 | 執行停止の傾向 | 主張の中心 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 送還部分 | 認められる例が多い | 送還されると訴訟の追行が困難・上陸拒否期間で回復困難 | 行訴法25条2項・3項、入管法52条3項、5条1項9号 |
| 収容部分 | 事情次第 | 健康状態、幼い子の養育、仮放免・監理措置では足りない事情 | 行訴法25条2項、入管法52条5項、54条 |
| 裁決(在留特別許可をしない判断) | 停止の対象になりにくい | 裁決自体は執行行為を伴わないため、令書の執行停止で対応 | 入管法49条、50条 |
執行停止が認められると何が変わりますか
本案判決の確定までの間、送還されない地位が確保されますが、在留資格が与えられるわけではなく、就労や移動には制限が残ります。
送還部分の執行停止が認められた場合、入管は本案の判決が確定するまで送還できません。収容部分が停止されなければ収容は続くため、別途、仮放免の許可を求めることになります。仮放免中は住居や行動範囲、出頭の条件が付され、就労はできません。執行停止の決定は、事情が変わったときは相手方の申立てで取り消されることがあります(行訴法26条)。また内閣総理大臣の異議(同27条)という制度もありますが、入管事件で実際に使われることはまれです。執行停止はあくまで時間を確保する手段であり、本案の取消訴訟で裁決や令書の違法性を主張立証することが本来の目的です。
入管以外の処分ではどのように使いますか
営業停止命令や許可取消しのように、執行されると事業が継続できなくなる処分でも執行停止を申し立てられますが、損害が金銭で回復できると判断されると認められにくいため、取引先や従業員への影響を具体的に示す必要があります。
中国系企業が受ける営業関係の処分では、営業停止期間が判決前に終わってしまうと訴えの利益が失われる問題があり、執行停止で処分の効力を止めることが本案を維持する意味も持ちます。課税処分については、国税通則法に不服申立ての制度と徴収の猶予に関する定めがあり、行訴法の執行停止とは別に検討します。まだ処分がされていない段階では、仮の差止め(行訴法37条の5)という手段もあります。
中国籍の方に特有の留意点
- 送還のタイミング:中国への送還は旅券や渡航文書の準備が整い次第行われるため、退去強制令書の発付から送還までの時間は事案により短く、執行停止の申立ては発付後直ちに行う必要があります。
- 上陸拒否期間:送還されると上陸拒否期間(入管法5条1項9号。退去強制は5年、再度は10年)が生じ、日本人配偶者や子との生活の回復が困難になることが、重大な損害の疎明の核心になります。
- 刑事事件との関係:薬物事犯の有罪判決(入管法24条4号チ)や1年を超える拘禁刑(同4号リ)、別表第一の在留資格者が特定の罪で拘禁刑に処せられた場合(同4号の2)は退去強制事由になります。刑事事件の段階から在留への影響を見据えた弁護が重要です。
- 疎明資料:家族関係、子の就学、治療の必要性などは中国語の資料も多いため、訳文を付けて迅速に提出できるよう準備します。
- 収容中の連絡:収容施設での面会や書面のやり取りは制約があるため、家族が代理人弁護士と連絡を取れる体制を早く作ることが重要です。
弁護士に相談すべき場面
- 在留特別許可をしない裁決や退去強制令書の発付を受けたとき。出訴期間(行訴法14条1項・6か月)より前に、送還そのものが迫るため、受け取った日に相談してください。
- 収容中の家族が近く送還されると聞いたとき。
- 日本人や永住者の配偶者・子がいる、長期間日本で生活しているなど、本案で主張できる事情があるとき。
- 持病や妊娠などで収容の継続が健康に影響するとき。
- 営業停止命令や許可取消しで事業の継続が危ぶまれるとき。
舟渡国際法律事務所は、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。入管事件と刑事弁護を一体で扱い、退去強制令書の取消訴訟と執行停止の申立てを迅速に行います。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
取消訴訟を起こしただけでは送還されないのですか
取消訴訟の提起だけでは処分の執行は止まりません(行訴法25条1項)。送還を止めるには、裁判所に執行停止を申し立て、送還部分の執行を停止する決定を得る必要があります。
入管の処分に審査請求と執行停止を申し立てることはできますか
外国人の出入国に関する処分は行政不服審査法の適用除外です(行審法7条1項10号)。審査請求に伴う執行停止は使えないため、取消訴訟を提起したうえで行訴法25条の執行停止を申し立てます。
執行停止が認められれば収容からも出られますか
送還部分だけが停止された場合、収容は続きます。収容からの解放は収容部分の執行停止か仮放免(入管法54条)によります。収容部分の停止は、健康状態や子の養育など具体的な事情を疎明する必要があります。
執行停止が認められると在留資格はもらえますか
もらえません。執行停止は本案判決の確定まで送還されない地位を確保するだけで、在留資格や就労の許可は生じません。在留を確保するには、本案の取消訴訟で勝ち、改めて在留特別許可の判断を受ける必要があります。
執行停止はどのくらいの期間で判断されますか
口頭弁論を経ず、当事者の意見を聴いて決定されるため(行訴法25条6項)、本案より短期間で判断されます。送還が迫っている場合は、申立てと同時に至急の審理を求めます。期間は事案と裁判所により異なります。
根拠条文・出典
- 行政事件訴訟法25条(執行停止。1項 執行不停止の原則、2項 要件と効力・執行・手続の続行の停止、3項 重大な損害の判断、4項 消極要件、5項 疎明、6項 審理、7項 即時抗告)、26条(事情変更による取消し)、27条(内閣総理大臣の異議)、28条(管轄)、37条の5(仮の義務付け・仮の差止め)、3条2項(取消訴訟)、14条1項(出訴期間)
- 行政不服審査法7条1項10号(外国人の出入国に関する処分の適用除外)、25条(審査請求に伴う執行停止)
- 出入国管理及び難民認定法49条(異議の申出と裁決)、50条(在留特別許可)、51条(退去強制令書の発付)、52条3項・5項(送還・収容)、54条(仮放免)、5条1項9号(上陸拒否期間)、24条4号チ・4号リ・4号の2(退去強制事由)
- 国税通則法(不服申立て・徴収の猶予)
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