略式命令(罰金)が在留資格に与える影響|退去強制になる場合・更新や永住への影響と、同意する前に確認すべきこと
2026/10/15
略式命令とは、簡易裁判所が、検察官の請求により、公判を開かずに書面審理だけで100万円以下の罰金または科料を科す裁判をいう(刑事訴訟法461条)。手続は短期間で終わり、身体拘束から早く解放されますが、有罪の裁判であり前科になります。外国籍の方の場合、罰金だけで退去強制(強制送還)になる場面は限られる一方、薬物事犯では罰金でも退去強制事由に当たり得るほか、在留期間の更新や永住許可の審査では不利に考慮されます。
この記事の要点
- 略式命令は有罪の裁判で、前科になる。確定すると確定判決と同一の効力を持つ(刑事訴訟法470条)。
- 罰金のみで退去強制事由に当たる典型は薬物事犯である(出入国管理及び難民認定法24条4号チ)。
- 窃盗・傷害・詐欺などの刑法犯は、罰金だけなら24条4号の2(拘禁刑が要件)には当たらない。
- 在留期間の更新・変更では素行の評価に、永住許可・帰化では素行要件に影響する。
- 略式手続は本人が異議のない旨を書面で示した場合に限られる(同法461条の2)。同意の前に不起訴の余地と在留への影響を確認すべきである。
略式命令とは、どのような手続ですか。
検察官が起訴と同時に略式命令を請求し、簡易裁判所が書面だけで罰金額を決める手続です。対象は簡易裁判所の管轄に属する事件で、科せる刑は100万円以下の罰金または科料に限られます(刑事訴訟法461条)。検察官は、あらかじめ本人に手続を説明し、正式裁判を受けることもできる旨を告げたうえで、略式手続に異議がないかを確認し、本人はこれを書面で明らかにします(同法461条の2)。
勾留されている方は、略式命令が告知されると勾留状の効力が失われ(同法345条)、罰金を納付するなどして釈放されるのが通常です。
略式命令の罰金は、前科になるのですか。
なります。略式命令は有罪の裁判であり、確定すると確定判決と同一の効力を持ちます(刑事訴訟法470条)。罰金刑は、刑の執行を終えてから罰金以上の刑に処せられずに5年を経過すると刑の言渡しの効力が失われますが(刑法34条の2第1項)、それまでは前科として扱われます。
罰金でも退去強制になるのは、どのような場合ですか。
典型は薬物事犯です。麻薬、大麻、覚醒剤などの薬物関係法令に違反して有罪の判決を受けた者は、刑の種類を問わず退去強制事由に当たります(出入国管理及び難民認定法24条4号チ)。これに対し、留学・技能実習・技術・人文知識・国際業務などの別表第一の在留資格の方が窃盗・傷害・詐欺などで処罰された場合の退去強制事由(同条4号の2)は、拘禁刑に処せられたことが要件であり、罰金だけでは該当しません。1年を超える実刑(同条4号リ)も、罰金では問題になりません。
| 事件の種類 | 罰金(略式命令)で退去強制事由になるか | 在留審査への影響 |
|---|---|---|
| 薬物事犯(麻薬・大麻・覚醒剤など) | なり得る(24条4号チ) | 極めて大きい |
| 窃盗・傷害・詐欺など刑法犯 | 罰金だけなら24条4号の2には当たらない | 更新・変更で素行として考慮される |
| 入管法違反(資格外活動など) | 罰金だけなら24条4号ヘには当たらない。ただし資格外活動を専ら行っていた場合は24条4号イの問題が別に生じる | 大きい |
| 交通事犯(酒気帯び運転・無免許運転など) | 原則として当たらない | 更新・永住で考慮される |
在留期間の更新や在留資格の変更には、どう影響しますか。
退去強制事由に当たらなくても、更新・変更の審査で「素行が不良でないこと」の評価に影響します。出入国在留管理庁の「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」は、素行が不良でないことを考慮要素に挙げ、退去強制事由に準ずるような刑事処分を受けた行為などがある場合は素行が善良でないと判断されることがあるとしています。もっとも、罰金の前科があれば直ちに不許可になるわけではなく、事件の内容、反省、被害弁償、その後の生活状況などを示す資料で、総合的な判断を求めることができます。
永住許可や帰化には、どう影響しますか。
罰金の前科は、永住許可・帰化の審査で大きな障害になります。永住許可には素行が善良であることが求められ(出入国管理及び難民認定法22条2項1号)、帰化にも素行が善良であることが要件とされています(国籍法5条1項3号)。罰金の前科がある場合は、刑の言渡しの効力が失われるまでの期間などを踏まえて申請時期を検討する必要があります。
略式命令に同意する前に、何を確認すべきですか。
不起訴の余地がないか、罰金でも在留に重大な影響が出る罪名ではないかの2点です。検察官から略式手続の説明を受けると、早く釈放されたい一心で同意してしまう方が少なくありません。しかし、示談や被害弁償によって起訴猶予(不起訴)になる余地があれば、前科を避けられます。薬物事犯のように罰金でも退去強制事由になる罪名では、略式命令に応じることが在留に決定的な影響を与えます。同意の前に、刑事事件と入管の双方に通じた弁護士に相談してください。
略式命令に不服がある場合は、どうすればよいですか。
略式命令の告知を受けた日から14日以内に、正式裁判を請求できます(刑事訴訟法465条1項)。正式裁判では公開の法廷で審理されるため、無罪を主張したい場合や事実関係に争いがある場合の手段になります。期間を過ぎると略式命令は確定します。
よくある質問
略式命令で罰金を払えば、在留資格はそのまま維持できますか。
多くの刑法犯では、罰金だけで退去強制事由に当たることはありません。ただし薬物事犯は例外で、在留期間の更新や永住の審査でも不利に考慮されます。
略式命令と不起訴は、何が違うのですか。
略式命令は有罪の裁判で前科になります。不起訴は起訴されない処分で、前科はつきません。在留への影響も大きく異なります。
罰金の前科は、いつ消えますか。
罰金の執行を終えてから、罰金以上の刑に処せられずに5年を経過すると、刑の言渡しの効力が失われます(刑法34条の2第1項)。
略式手続への同意は、取り消せますか。
略式命令の告知から14日以内であれば、正式裁判を請求できます。同意した後でも、事実に争いがある場合などは弁護士に相談してください。
根拠条文・出典
- 刑事訴訟法345条、461条、461条の2、465条1項、470条(e-Gov法令検索で確認)
- 刑法34条の2第1項
- 出入国管理及び難民認定法22条2項1号、24条4号イ・4号ヘ・4号チ・4号リ・4号の2
- 国籍法5条1項3号
- 出入国在留管理庁「在留資格の変更、在留期間の更新許可のガイドライン」
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最終更新日:2026年10月15日 / 執筆 弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)