日中間の売掛金・債権回収とは|内容証明から仮差押え・訴訟・仲裁・強制執行までの流れを弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
日中間の売掛金・債権回収とは、日本の会社または中国系企業が、中国の取引先や日本にいる中国人の取引先から支払われない代金を、催告・内容証明・交渉・仮差押え・訴訟または仲裁・強制執行の順に回収していく手続をいいます。
この記事の要点
- 回収は、証拠の整理と消滅時効(民法166条)の確認から始め、催告(民法150条)で時効の完成を猶予させつつ交渉します。
- 相手方が中国にある場合、日本の裁判所に訴えられるか(民事訴訟法3条の2以下)と、訴状の送達に条約上の手続と時間が必要になる点を最初に検討します。
- 日本の判決を中国で執行すること、中国の判決を日本で執行すること(民事訴訟法118条)は、いずれも実務上困難とされており、仲裁条項があれば仲裁判断による執行が現実的です。
- 相手方の財産が日本にあれば、仮差押え(民事保全法20条)と判決後の強制執行(民事執行法)で回収できます。
- 相手の事務所に押しかけて支払を迫る行為は、住居侵入(刑法130条)や恐喝(刑法249条)として逆に刑事責任を問われるおそれがあります。
こんな場面で問題になります
- 中国の仕入先に前払金を送ったが商品が届かず、連絡も途絶えた。
- 日本国内の中国系の飲食店や貿易会社に商品を納めたが、代金を払わないまま店を閉め、経営者が帰国したらしい。
- 日本法人が中国の販売先に商品を輸出し、品質を理由に代金の一部しか払われていない。
- 中国語の契約書に中国の裁判所を管轄とする条項があり、日本で訴えられるのかわからない。
- 相手の中国人経営者に微信で何度も催促したが既読にならず、直接会いに行こうと考えている。
債権回収はまず何から始めますか
契約書・注文書・納品書・請求書・微信や電子メールのやり取りを整理して債権の存在と金額を立証できる状態にし、消滅時効が迫っていないかを確認します。
日中間の取引では、正式な契約書がなく、微信のメッセージと振込記録だけで取引が進んでいることが少なくありません。それでも、注文と承諾、納品と受領、金額の合意が記録から読み取れれば、債権を立証できます。中国語の記録は日本の裁判所に出すときに訳文が必要になりますので、早めに整理してください。債権は消滅時効(民法166条)にかかると請求できなくなり、催告をすると一定期間は時効の完成が猶予されます(民法150条)。相手が債務を認める書面に署名すれば時効は更新されます(民法152条)。時効期間が迫っている場合は、交渉を続ける前に訴訟や支払督促で時効の完成を止める必要があります。
内容証明郵便はどのように使いますか
弁護士名で、債権の内容・金額・支払期限と、期限までに支払がなければ法的手続に移る旨を記載して送り、催告の証拠と交渉のきっかけにします。
内容証明郵便は、いつ、誰が、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明する制度で、催告(民法150条)をした証拠になります。相手が日本国内にいる場合は、弁護士名で送ることで、相手が弁護士を立てて交渉に応じてくることが多くあります。相手が中国にいる場合、内容証明郵便は国外に送れませんので、国際郵便や電子メール、微信で同じ内容を送り、送信と受領の記録を残します。中国の相手方には中国語の文書を併せて送り、日本の弁護士が代理していることと、仲裁や訴訟に進む意思があることを明確に伝えることが交渉を動かします。
相手方が中国にいるとき、日本の裁判所に訴えられますか
契約で日本の裁判所を管轄と合意している場合や、債務の履行地が日本にある場合などは日本の裁判所に訴えることができますが、訴状の送達と判決の執行に大きな制約があります。
日本の裁判所の国際裁判管轄は民事訴訟法3条の2以下に定められ、契約上の債務の履行地が日本にあるとき(3条の3)や、当事者が日本の裁判所で裁判をする合意をしているとき(3条の7)は、相手方が中国にいても日本で訴えることができます。ただし、訴状を中国にいる相手方に送達するには、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約に基づく手続が必要で、相当の時間がかかります。さらに、日本で勝訴判決を得ても、それを中国で執行することは実務上困難とされています。そのため、相手方の財産が中国にしかない場合は、日本での訴訟よりも、契約に仲裁条項があれば仲裁を、なければ中国の弁護士と連携した中国での手続を検討することになります。
| 手続 | 根拠 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 催告・内容証明 | 民法150条 | 最初の段階。時効の完成猶予 | 国外には内容証明を送れない |
| 仮差押え | 民事保全法20条 | 相手の日本国内の預金・売掛金・不動産を凍結 | 担保金が必要。相手に知られる前に申し立てる |
| 支払督促 | 民事訴訟法382条以下 | 相手が日本国内にいて争わない見込み | 異議が出ると訴訟に移行 |
| 訴訟 | 民事訴訟法3条の2以下、118条 | 金額が大きい、争いがある | 中国への送達に時間。日本の判決の中国での執行は困難とされる |
| 仲裁 | 仲裁法、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約 | 契約に仲裁条項がある | 日中双方で執行を求められる |
| 強制執行 | 民事執行法 | 判決・仲裁判断・和解調書を得た後 | 財産の特定が必要(財産開示手続) |
相手方の財産が日本にあるときはどう回収しますか
まず仮差押え(民事保全法20条)で預金や売掛金、不動産を凍結し、訴訟や支払督促で債務名義を得てから強制執行(民事執行法)で回収します。
相手が中国に帰国したり資産を移したりする前に、日本国内の財産を押さえることが回収の成否を分けます。仮差押えは、債権の存在と保全の必要性を疎明し、担保金を納めて申し立てる手続で、相手に知られる前に裁判所が決定を出します。その後、訴訟で判決を得るか、相手が争わない見込みなら支払督促(民事訴訟法382条以下)を申し立て、債務名義を得て強制執行に進みます。相手の財産がわからない場合は、財産開示手続や第三者からの情報取得手続(民事執行法)で預金口座や勤務先を調べることができます。相手が日本国内の法人であれば、代表者個人の財産には原則として執行できませんので、連帯保証や個人の支払約束を取り付けておくことが重要です。
日本の判決や中国の判決は相手の国で執行できますか
日本と中国の間では判決の相互承認が実務上困難とされており、確実な執行の手段としては、仲裁判断を得て外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約に基づき執行を求める方法が現実的です。
外国の判決を日本で執行するには、民事訴訟法118条の要件(裁判権の承認、送達、公序、相互の保証)を満たし、執行判決(民事執行法)を得る必要があります。中国の判決についてはこの要件の充足が実務上困難とされており、逆に日本の判決の中国での承認・執行も同様に困難とされています。これに対し、仲裁判断は、日中両国が締約国である外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約により、相手国で承認と執行を求めることができます。既に契約に仲裁条項がある場合はそれに従い、ない場合でも、紛争が生じた後に相手方と仲裁合意を結ぶことは可能です。今後の取引では、契約書に仲裁条項を置くこと、日本国内の担保や保証を確保することが、回収可能性を左右します。
相手が払わないときに刑事告訴はできますか
最初から支払う意思も能力もないのに取引を持ちかけたと立証できる場合は詐欺(刑法246条:10年以下の拘禁刑)として告訴できますが、単なる不払いは犯罪ではなく、自力での取立ては逆に処罰されます。
前払金を受け取って商品を送らず連絡を絶った、架空の会社名で注文したといった事情があれば、詐欺に当たる可能性があり、告訴は交渉を動かす手段にもなります。ただし、取引の途中で資金繰りが悪化して払えなくなった場合は民事の問題であり、警察は原則として介入しません。相手の店舗や自宅に押しかけて居座れば住居侵入(刑法130条:3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金)、脅して払わせれば恐喝(刑法249条)に当たり、債権者の側が逮捕されることがあります。微信で家族や取引先に相手の不払いを広めることも、名誉毀損や業務妨害の問題を生じます。回収は法的手続で行ってください。
中国籍の方に特有の留意点
第一に、債権者が中国系企業の場合、経営者の在留資格が経営・管理であれば、売掛金の回収不能は会社の継続性に関わり、更新の審査で事業の安定性を説明する材料として回収の取組みを記録しておくことが役立ちます。第二に、債務者が中国籍の方の場合、帰国されると日本での手続は送達から難しくなります。帰国の兆候があれば、仮差押えを急ぎ、出国前に支払合意書と連帯保証を取り付けることが現実的です。第三に、言語と証拠です。微信のやり取りは中国語のまま証拠になりますが、裁判所には訳文が必要で、スクリーンショットの改ざんを疑われないよう原本のデータを保存してください。第四に、刑事事件との関係です。債務者側の中国籍の方が詐欺で有罪となれば、1年を超える拘禁刑の実刑は退去強制事由(入管法24条4号リ)となり、執行猶予付きでも詐欺罪による拘禁刑は別表第一の在留資格者の退去強制事由(同4号の2)に当たります。債権者側がこれを交渉の圧力に使うと恐喝になりかねませんので、告訴の判断は弁護士に委ねてください。
弁護士に相談すべき場面
- 中国の取引先や日本国内の中国系の取引先からの支払が止まり、交渉の進め方と時効の確認が必要なとき。
- 相手が帰国や資産の移転をしそうで、仮差押えを急ぐ必要があるとき。
- 契約書の管轄・準拠法・仲裁条項を踏まえて、日本で訴えるか、仲裁か、中国での手続かを決めたいとき。
- 相手の対応が詐欺に当たるかどうか、刑事告訴を検討したいとき。
- 逆に、取引先から不払いを理由に告訴や取立てを受け、刑事事件や在留への影響が心配なとき。日中間の債権回収では、日本国内の保全・訴訟・執行と、仲裁条項の活用、中国側での手続の検討を一体で扱い、刑事事件に発展した場合は、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で対応します(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。
よくある質問
契約書がなく微信のやり取りしかありません。回収できますか
注文、承諾、納品、金額の合意が微信の記録や振込記録から読み取れれば、債権を立証できます。原本のデータを保存し、日本語の訳文を付けて証拠にします。
相手が中国に帰国してしまいました。もう回収できませんか
日本国内に財産が残っていれば、仮差押えと強制執行で回収できる可能性があります。相手が中国にいる場合の訴訟は、送達に時間がかかり、日本の判決の中国での執行も実務上困難とされるため、仲裁合意や中国での手続を含めて検討します。
日本の裁判で勝てば中国の相手の財産を差し押さえられますか
日本の判決を中国で執行することは実務上困難とされています。契約に仲裁条項があれば、仲裁判断を得て外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約に基づいて中国で執行を求める方法が現実的です。
払わない相手を警察に告訴できますか
最初から支払う意思も能力もなく取引を持ちかけたと立証できれば詐欺(刑法246条)として告訴できますが、途中で払えなくなった単なる不払いは民事の問題です。告訴の見込みは弁護士に相談してください。
相手の店に行って直接払ってもらうのは問題ですか
店や自宅に押しかけて居座れば住居侵入、脅して払わせれば恐喝として債権者の側が処罰されるおそれがあります。回収は内容証明・仮差押え・訴訟などの法的手続で行ってください。
根拠条文・出典
- 民法150条(催告による時効の完成猶予)、152条(承認による時効の更新)、166条(債権等の消滅時効)、415条(債務不履行による損害賠償)、541条(催告による解除)
- 民事訴訟法3条の2以下(国際裁判管轄)、3条の3(契約上の債務の履行地)、3条の7(管轄権に関する合意)、118条(外国裁判所の確定判決の効力)、382条以下(支払督促)
- 民事保全法20条(仮差押命令の必要性)、民事執行法(強制執行・執行判決・財産開示手続・第三者からの情報取得手続)
- 仲裁法、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約
- 民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約
- 刑法130条(住居侵入等)、246条(詐欺)、249条(恐喝)
- 出入国管理及び難民認定法24条4号リ・4号の2(退去強制事由)、経営・管理の在留資格
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