不当解雇とは|外国人労働者が解雇を争う方法と在留資格への影響(労働契約法16条・労働審判)
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
不当解雇とは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇をいい、労働契約法16条によって無効とされます。外国人であっても日本で働く以上は日本の労働法で保護され、解雇が無効なら従業員としての地位と解雇後の賃金を請求できます。
この記事の要点
- 解雇は使用者が自由にできるものではなく、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がなければ無効です(労働契約法16条)。
- 国籍を理由とする労働条件の差別は禁止されており(労働基準法3条)、外国人だから解雇しやすいという扱いは許されません。
- 解雇には解雇予告または解雇予告手当が必要で(労働基準法20条)、解雇理由を書いた証明書を請求できます(労働基準法22条)。
- 解雇を争う手続には、交渉、労働審判(原則3回以内の期日で終結。労働審判法15条2項)、訴訟があります。
- 解雇されても在留資格が直ちに失われるわけではありませんが、就労資格の方は一定期間活動しないままでいると在留資格取消し(入管法22条の4)の対象になり得るため、転職活動や争いの記録を残すことが大切です。
こんな場面で問題になります
- 技術・人文知識・国際業務の在留資格で働く中国籍の社員が、業績不振を理由に突然翌日からの解雇を告げられた。
- 中国系企業に勤める社員が、社長の親族との対立を理由に口頭で「明日から来なくていい」と言われ、退職届を書くよう迫られた。
- 残業代や有給休暇を求めたところ、その直後に協調性がないとして解雇された。
- 解雇後、在留資格が無くなると思い込んで帰国の準備を始めてしまった。
解雇が無効になるのはどのような場合ですか
解雇の理由が客観的に合理的でないか、理由があっても解雇まで至るのは重すぎる場合は、解雇は無効です(労働契約法16条)。
日本の裁判所は解雇の有効性を厳しく審査します。能力不足を理由にする場合でも、どの業務ができなかったのか、指導して改善の機会を与えたのか、配置転換などの手段を検討したのかが問われます。経営上の理由による整理解雇では、人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、説明・協議の手続が総合的に判断されます。日本語能力は、採用時に分かっていたはずの事情であり、採用後にそれだけを理由に解雇することは、通常は相当性を欠きます。
契約期間の定めがある有期契約では、期間の途中の解雇は「やむを得ない事由」がなければできず(労働契約法17条1項)、無期契約の解雇よりもさらに厳しく判断されます。期間満了時の雇止めについても、更新を繰り返してきた場合や更新への合理的な期待がある場合には、解雇と同様の理由が必要です(労働契約法19条)。
解雇を告げられたら最初に何をすべきですか
退職届や合意書に署名せず、解雇の事実と理由を書面で確認し、証拠を手元に残すことが最初の一歩です。
解雇と退職勧奨は違います。会社から「辞めてほしい」と言われても、応じる義務はありません。退職届に署名すると、自分の意思で辞めたことになり、解雇の無効を争う道が原則として閉ざされます。解雇だと言われたときは、解雇の日付と理由を記載した解雇理由証明書を請求してください(労働基準法22条)。会社は交付を拒めません。口頭の通告なら、その日のうちに日時・発言者・内容をメモし、録音があれば保存します。微信やメール、就業規則、雇用契約書、給与明細も重要な証拠です。
解雇予告や解雇予告手当(労働基準法20条)が無い即日解雇は、それ自体が手続違反ですが、予告手当が支払われたからといって解雇が有効になるわけではありません。
解雇が無効だと何を請求できますか
従業員としての地位の確認と、解雇の日から解決までの賃金(いわゆるバックペイ)を請求できます。
解雇が無効であれば、労働契約は続いています。会社が働かせなかったのは会社側の事情ですから、働けなかった期間の賃金を請求できます(民法536条2項)。実際には職場復帰より金銭解決を望む方も多く、解雇を撤回したうえで合意退職とし、解決金を支払う形の和解が広く行われています。どの形を目指すかは、本人の希望、転職の見込み、在留資格の状況を踏まえて決めます。
| 手続 | 特徴 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 弁護士による交渉 | 受任通知を送り、解雇撤回や解決金を話し合う | 会社に話し合いの姿勢があるとき、早期解決を望むとき |
| 労働審判 | 地方裁判所で、原則3回以内の期日で審理を終結(労働審判法15条2項) | 争点が比較的明確で、金銭解決も視野に入るとき |
| 訴訟(地位確認請求) | 判決で解雇の有効・無効を確定させる | 職場復帰を強く望むとき、証人尋問が必要なとき |
| 労働基準監督署への申告 | 予告手当や賃金の未払など労基法違反を申告する(労働基準法104条) | 解雇の有効性よりも法違反の是正を求めるとき |
労働審判はどのように使いますか
労働審判は、裁判官と労働問題の専門家で構成される労働審判委員会が、原則3回以内の期日で調停を試み、まとまらなければ審判を出す手続です。
解雇事件では比較的短期間で解決に至ることが多く、外国人の方にとっても負担の小さい手続です。申立書には解雇の経緯、無効である理由、請求の内容を具体的に書き、証拠を添付します。期日では本人が直接質問を受けるため、日本語に不安がある場合は通訳の手配を裁判所に求めます。審判に不服があれば異議を申し立てて訴訟に移行できます(労働審判法)。
解雇されると在留資格はどうなりますか
解雇された日に在留資格が消えるわけではなく、在留期間の満了までは在留でき、同じ在留資格の範囲で転職先を探すことができます。
技術・人文知識・国際業務や特定技能などの就労資格は、特定の会社ではなく活動の内容に対して与えられています。解雇されたら、本人は契約機関に関する届出(入管法19条の16)を行い、同じ在留資格で働ける転職先を探します。ただし、就労資格の方が一定期間その活動を行っていない場合は、在留資格取消しの対象になり得ます(入管法22条の4)。正当な理由があれば取り消されないため、解雇を争っていること、転職活動をしていることを記録に残し、意見聴取の手続で説明できるようにしておきます。在留期間の更新(入管法21条)が近い場合は、解雇を争っている事情と今後の見通しを申請書で説明する必要があります。
中国籍の方に特有の留意点
- 言語と証拠:解雇理由証明書や就業規則は日本語で作られます。内容を正確に理解しないまま署名しないでください。
- 中国系企業での解雇:社長や親族との人間関係を理由にした解雇、口頭での即日解雇、退職届の強要が目立ちます。日本法では、会社の国籍にかかわらず労働契約法と労働基準法が適用されます。
- 帰国の判断:解雇を争う前に帰国してしまうと、労働審判や訴訟への出席、証拠の収集が難しくなります。帰国の時期は弁護士と相談してから決めてください。帰国後も代理人を通じて交渉や手続を続けることは可能です。
- 在留資格との関係:解雇をめぐって会社と対立しても、それ自体は退去強制事由ではありません。一方、在留資格の範囲を超える仕事をアルバイトとして始めると資格外活動(入管法19条)の問題が生じます。
- 会社側からの刑事告訴:解雇をめぐる対立の中で、会社が業務上横領や背任を理由に告訴をちらつかせることがあります。刑事事件になれば在留資格に直結するため、労働事件と刑事弁護を一体で扱える弁護士に早く相談してください。
弁護士に相談すべき場面
- 解雇を告げられた当日から数日以内。退職届にまだ署名していない段階が最も選択肢が多い時期です。
- 解雇理由証明書の内容が事実と異なる、または理由があいまいなとき。
- 在留期間の満了や更新申請の時期が近く、解雇が在留に影響しそうなとき。
- 会社から解決金の提示を受け、金額が妥当か判断できないとき。
- 解雇と同時に未払残業代や損害賠償の問題も生じているとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。労働事件は、解雇や未払賃金の問題と在留資格の問題が同時に進むことが多いため、労働事件と入管事件を一体で扱い、全国からご相談を承ります。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
外国人でも不当解雇を争えますか
争えます。労働契約法・労働基準法は国籍を問わず日本で働く労働者に適用され、国籍による差別は労働基準法3条で禁止されています。
退職届にサインしてしまいました。もう争えませんか
原則として自分の意思による退職と扱われますが、強迫や誤解によって署名した場合には退職の意思表示の無効・取消しを主張できる余地があります。早めにご相談ください。
解雇されたら在留資格はすぐに無くなりますか
無くなりません。在留期間の満了までは在留でき、同じ在留資格で働ける転職先を探せます。ただし一定期間活動しないままでいると在留資格取消し(入管法22条の4)の対象になり得るため、転職活動の記録を残してください。
解雇を争うのにどのくらいの期間がかかりますか
交渉なら数週間から数か月、労働審判は原則3回以内の期日で終結します(労働審判法15条2項)。訴訟はそれより長くかかります。
帰国してからでも解雇を争えますか
代理人を通じて交渉や労働審判の申立てを行うことは可能ですが、本人の出席や証拠収集に制約が生じます。帰国前にご相談ください。
根拠条文・出典
- 労働契約法16条(解雇権濫用法理)、17条1項(有期労働契約の期間途中の解雇)、19条(有期労働契約の更新等)
- 労働基準法3条(国籍等による差別的取扱いの禁止)、20条(解雇の予告)、22条(退職時等の証明)、104条(監督機関に対する申告)
- 労働審判法15条2項(原則3回以内の期日での審理終結)、同法(異議の申立てと訴訟への移行)
- 民法536条2項(債権者の責めに帰すべき事由による履行不能と反対給付)
- 出入国管理及び難民認定法19条(活動の範囲)、19条の16(所属機関等に関する届出)、21条(在留期間の更新)、22条の4(在留資格の取消し)
関連する解説
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