国際離婚の親権とは|子の監護・面会交流と中国への連れ去りの問題を中国語対応の弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
国際離婚の親権とは、父母の国籍や居住国が異なる夫婦が離婚するときに、どの国の法律で親権者を決め、子を誰がどこで育て、離れて暮らす親とどう会わせるかを定める問題をいいます。中国籍の方が関わる場合は、中国本土がハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)を締結していないため、子が中国へ連れ去られたときに返還を求める国際的な枠組みがなく、事前の備えが特に重要です。
この記事の要点
- 親権など親子間の法律関係の準拠法は、子の本国法が父または母の本国法と同一であればその法、そうでなければ子の常居所地法です(法の適用に関する通則法32条)。
- 日本法では離婚時に親権者を定める必要があり、改正民法の施行により離婚後の共同親権も選べるようになりました(民法819条)。
- 面会交流と養育費は子の監護に関する事項として協議で定め、調わなければ家庭裁判所が定めます(民法766条、家事事件手続法)。
- 中国本土はハーグ条約を締結しておらず、中国へ連れ去られた子の返還を条約に基づいて求めることはできません。
- 日本では監護者指定・子の引渡しの審判と保全処分、人身保護請求が使えますが、中国での承認・執行は難しいため、連れ去りの予防が最も重要です。
こんな場面で問題になります
- 日本人の夫と中国籍の妻が離婚の話合い中で、妻が子を連れて中国の実家に帰ると言っており、夫は子に会えなくなるのではないかと心配している。
- 中国籍同士の夫婦が日本で離婚し、父が子を中国の祖父母に預けたまま日本に戻ってこないため、母が引渡しを求めたい。
- 離婚後に親権者となった中国籍の母が帰国を考えているが、日本に残る父との面会交流をどう約束すればよいか分からない。
- 別居中の相手が子を連れて行方を告げずに転居し、子の旅券も持ち去ったため、出国を止められないか相談したい。
- 中国で離婚判決を受けて親権者と定められたが、日本にいる相手が子を渡さないので日本で強制したい。
国際離婚の親権はどの国の法律で決まりますか
通則法32条により、子の本国法が父または母の本国法と同一ならその法、そうでなければ子の常居所地法が適用されます。
法の適用に関する通則法32条は、親子間の法律関係について、子の本国法が父または母の本国法と同一である場合にはその法、それ以外の場合には子の常居所地法によると定めています。中国籍同士の夫婦の子は中国籍ですから中国法が準拠法になりますが、日本の家庭裁判所で手続をすること自体は可能で、裁判所は中国法の内容を踏まえて判断します。日本人と中国籍の方の間に生まれた子は日本国籍を取得し、日本国籍を含む重国籍の場合は日本法が本国法とされるため(通則法38条1項)、親権の準拠法は日本法になります。中国は二重国籍を認めていないため、中国側では中国籍として扱われることがあり、旅券や出入国の場面でこの食い違いが問題になります。
共同親権と単独親権はどのように決めますか
父母の協議で単独か共同かを定め、協議が調わなければ家庭裁判所が子の利益を基準に定めますが、暴力や虐待のおそれがある場合は単独親権とされます(民法819条)。
改正民法の施行により、離婚後も父母の双方を親権者とする共同親権を選ぶことができるようになりました。協議で定めることができないときや協議ができないときは家庭裁判所が定め、父母の一方が他方や子に暴力や虐待をするおそれがあるなど、共同親権では子の利益を害する場合には単独親権としなければなりません。共同親権を選んでも、子と同居して日常の世話をする監護者を一方に定めること(民法766条)は可能です。国際離婚では、親権者が帰国した場合に日本に残る親が子の進学や医療に関与できるか、旅券の申請や出国に双方の同意が必要になるかといった実際の運用を先に考えて、共同か単独かを決めることが大切です。
面会交流はどのように取り決めますか
面会交流は子の監護に関する事項として父母の協議で定め、協議が調わなければ家庭裁判所の調停・審判で定めます(民法766条、家事事件手続法244条)。
面会交流の頻度・方法・場所は、まず父母が協議で定め、調わなければ家庭裁判所に調停を申し立て、不成立なら審判で定められます。一方の親が中国に帰国する予定がある場合は、オンラインでの交流、来日時や訪中時の直接の面会、渡航費用の負担、子の旅券の管理方法まで具体的に決めておくことが重要です。取決めは調停調書や審判書、公正証書の形にしておくと、不履行の際に家庭裁判所の履行勧告や間接強制(民事執行法172条)を利用できます。ただし、相手が中国に帰国してしまうと日本の裁判所の命令を中国で執行することは難しいため、面会の実現は相手との信頼関係と、帰国前に作った取決めの具体性に左右されます。
相手が子を中国へ連れて行ってしまったらどうなりますか
中国本土はハーグ条約を締結していないため条約に基づく返還申立てはできず、日本の裁判所の判断を中国で執行することも難しいため、連れ去られる前の予防が最も重要です。
ハーグ条約は、締約国間で不法に連れ去られた子を元の居住国に返還させる仕組みですが、中国本土は締約国ではなく、日本の中央当局を通じた返還の申請はできません。日本では、監護者の指定と子の引渡しを求める審判(家事事件手続法)や人身保護請求(人身保護法)を申し立てることができ、相手が日本に戻る見込みがある場合や日本に財産がある場合には意味がありますが、子が中国にいる限り日本の審判を中国で執行することは困難で、日中間では判決の承認について相互の保証(民事訴訟法118条)が認められにくい状況が続いています。中国で子の監護権を争うには中国の裁判所で手続をとる必要があり、中国の律師との連携が欠かせません。親による連れ去りでも、態様によっては未成年者略取罪(刑法224条)や所在国外移送目的略取罪(刑法226条)に当たると判断された例があり、刑事告訴は交渉の手段になり得ますが、子の返還そのものにつながるとは限りません。
| 場面 | 日本でとれる手続 | 根拠 | 中国との関係 |
|---|---|---|---|
| 国内で子を連れて別居された | 監護者指定・子の引渡しの審判と審判前の保全処分 | 家事事件手続法、民事執行法174条・175条 | 相手の帰国前に申し立てることが重要 |
| 中国へ連れ去られた | 監護者指定・引渡しの審判、人身保護請求 | 家事事件手続法、人身保護法 | 中国本土はハーグ条約未締結、承認・執行が困難 |
| 連れ去りのおそれがある | 監護者指定の申立てと保全処分、旅券の管理、取決めの文書化 | 家事事件手続法105条 | 子の中国旅券は中国側で発給され日本では止められない |
| 面会交流が守られない | 履行勧告、間接強制 | 民法766条、民事執行法172条 | 相手が中国にいると執行は難しい |
日本国内で子を連れて別居されたときはどうしますか
家庭裁判所に監護者の指定と子の引渡しの審判を申し立て、必要なら審判前の保全処分(家事事件手続法105条)を併せて申し立てます。
家庭裁判所は、これまで主に子の世話をしてきたのは誰か、別居後の監護の状況、子の意思、連れ去りの態様などを総合して監護者を定めます。相手の了解なく子を連れ出した経緯は不利に考慮されることがあり、逆に自分が子を連れて別居する場合も同じ目で見られます。審判や保全処分で引渡しが命じられても相手が従わないときは、民事執行法174条・175条に基づく子の引渡しの強制執行が可能です。相手に出国の兆候があるときは、保全処分で早期に監護者を定めておくことが、その後の出国や中国側での手続に対する有力な材料になります。
養育費はどのように決め、どう確保しますか
養育費は民法766条の監護に関する事項として協議または家庭裁判所で定め、公正証書や調停調書にしておけば強制執行ができます。
養育費の準拠法は扶養義務の準拠法に関する法律によります。日本の家庭裁判所では父母の収入をもとに算定し、調停調書・審判書や執行認諾文言付きの公正証書(民事執行法22条)があれば、給与や預金の差押えが可能です。改正民法では法定養育費の制度も設けられました。相手が中国に帰国した後は日本での執行が難しくなるため、帰国前にまとまった額の支払を受ける、日本にある財産から回収するなどの工夫が必要です。
中国籍の方に特有の留意点
- 在留資格:日本人との間の子を監護・養育する中国籍の親は、離婚後に定住者への在留資格変更(入管法20条)が検討されます。親権者や監護者の定め方が在留資格の判断に直結します。
- 子の国籍と旅券:日本人との子は日本旅券と中国側の渡航書類の両方を持ち得ます。日本旅券は親権者の同意の確認が行われますが、中国側の書類は日本では管理できません。
- 中国の祖父母による監護:子を中国の祖父母に預ける育て方は中国では一般的ですが、日本の家庭裁判所では監護の実態として評価され、不利に働くことがあります。
- 言語と通訳:家庭裁判所の調査官による子や親の面接は日本語で行われ、通訳が必要な場合は事前に申し出ます。微信の記録などの証拠には訳文が必要です。
- 中国の判決:中国の裁判所で親権者と定められても、日本で執行するには日本の裁判所の承認手続が必要で、相互の保証の問題があります。日本に子がいるなら日本で改めて監護者指定を申し立てる方が早いことが多いです。
弁護士に相談すべき場面
- 相手が子を連れて中国へ帰るおそれがあり、出国前に手を打ちたいとき。
- 子を連れて別居された、または自分が子を連れて別居する前に法的な評価を知りたいとき。
- 共同親権と単独親権のどちらを選ぶべきか、帰国の予定を踏まえて判断したいとき。
- 面会交流や養育費の取決めを、帰国後も守られる形で文書にしたいとき。
- 子が既に中国にいて、日本と中国の両方で手続をとるべきか検討したいとき。
舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。離婚・親権・相続などの家事事件と、それに伴う在留資格の問題を一体で扱い、必要に応じて刑事弁護・行政訴訟にも対応します。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
中国に連れ去られた子をハーグ条約で取り戻せますか
中国本土はハーグ条約を締結していないため、条約に基づく返還申立てはできません。日本で監護者指定・引渡しの審判や人身保護請求をすることはできますが、中国での執行は難しく、中国の裁判所での手続と交渉を組み合わせる必要があります。
相手が子を連れて出国するのを止める方法はありますか
日本には親の申立てで子の出国を直接禁止する制度はありません。監護者指定の申立てと保全処分(家事事件手続法105条)、子の旅券の管理、相手との取決めの文書化が現実的な手段です。
中国籍同士の夫婦の親権は日本の裁判所で決められますか
日本に子と父母が住んでいれば日本の家庭裁判所で手続ができます。準拠法は通則法32条により中国法になることがあり、裁判所は中国法の内容を踏まえて判断します。
離婚後に共同親権を選んでも、一方が中国に帰国できますか
帰国自体は可能ですが、子の居所や進学などの重要事項は双方で決める必要があります。帰国を予定しているなら、監護者をどちらにするか、面会交流をどう実現するかを先に取り決めておくべきです。
子を連れて黙って別居すると不利になりますか
相手の了解なく子を連れ出した経緯は監護者の判断で不利に考慮されることがあります。ただし暴力から避難する場合などは正当と評価されますので、別居前に記録を残し弁護士に相談してください。
根拠条文・出典
- 法の適用に関する通則法32条(親子間の法律関係)、38条1項(本国法・重国籍)
- 民法766条(子の監護に関する事項・面会交流・養育費)、819条(離婚後の親権者)
- 家事事件手続法244条(家事調停)、105条(審判前の保全処分)、別表第二(子の監護に関する処分)
- 民事執行法22条(債務名義)、172条(間接強制)、174条・175条(子の引渡しの強制執行)
- 人身保護法、民事訴訟法118条(外国裁判所の確定判決の効力)
- 刑法224条(未成年者略取及び誘拐)、226条(所在国外移送目的略取及び誘拐)
- 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)および同条約の実施に関する法律
- 出入国管理及び難民認定法20条(在留資格の変更)
関連する解説
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