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刑事裁判の通訳とは|法廷通訳の誤訳を争う方法と、通訳の質を確保する手順(中国語・方言・供述調書)

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刑事裁判の通訳とは|法廷通訳の誤訳を争う方法と、通訳の質を確保する手順(中国語・方言・供述調書)

刑事裁判の通訳とは|法廷通訳の誤訳を争う方法と、通訳の質を確保する手順(中国語・方言・供述調書)

2026/10/11

最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所

刑事裁判の通訳とは、日本語に通じない被告人や証人のために、裁判所が選任した通訳人が法廷でのやり取りを訳す手続をいいます(刑訴法175条)。通訳の誤りは被告人の防御に直結するため、弁護人は通訳の質を事前に確保し、誤訳があればその場で指摘して記録に残し、必要なら控訴審で争います。

この記事の要点

  • 国語に通じない者に陳述をさせる場合、裁判所は通訳人に通訳をさせなければなりません(刑訴法175条)。通訳人には鑑定の規定が準用され、宣誓のうえ通訳します(刑訴法178条)。
  • 公判調書の記載の正確性については異議を申し立てることができ(刑訴法51条)、法廷での誤訳を争う足がかりになります。
  • 捜査段階の供述調書に通訳の誤りがあれば、任意性・信用性を争い(刑訴法319条・322条)、調書の証拠採用に同意しない対応をとります。
  • 誤訳が判決に影響した場合、控訴審では訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)や事実誤認(刑訴法382条)として主張します。

こんな場面で問題になります

  • 被告人の母語が広東語・閩南語・東北方言などで、標準的な普通話の通訳人では細かいニュアンスが伝わらない。
  • 通訳人が、故意・未必の故意・共謀といった法律用語を日常語に置き換えたため、認めていない事実を認めたように訳された。
  • 捜査段階で通訳人を介して作成された供述調書が、公判で読み上げられると本人の記憶と食い違っている。
  • 判決の言渡しが口頭で通訳されただけで、判決書の中国語訳が渡されず、控訴するかどうか判断できない。

刑事裁判の通訳はどのように手配されますか

公判の通訳人は裁判所が選任し、被告人の言語と方言に応じて裁判所の通訳人候補者名簿から指定されます。弁護人は、起訴後早い段階で被告人の母語・方言・識字の程度を裁判所に伝え、適切な言語の通訳人を求めます。

通訳人は鑑定人の規定の準用により宣誓を行い(刑訴法178条)、公判での被告人質問、証人尋問、検察官の論告、弁護人の弁論、判決の言渡しを通訳します。起訴状や判決書などの書面は翻訳(刑訴法177条)の問題になり、起訴状の翻訳文は通常交付されますが、判決書の全文翻訳が交付されるとは限りません。弁護人は第一回公判前の打合せで、被告人の出身地と使用言語、学歴、日本語の理解度を具体的に裁判所に伝え、普通話か方言か、簡体字か繁体字かといった指定を行います。

捜査段階の通訳と法廷の通訳は何が違いますか

捜査段階の通訳人は警察・検察が手配し、法廷の通訳人は裁判所が選任します。弁護人との接見・打合せの通訳は弁護人が手配でき、三つの場面で通訳人が異なることが通常です。

場面通訳人を手配する者根拠弁護側ができること
警察・検察の取調べ捜査機関刑訴法223条(通訳の嘱託)取調べ前の打合せ、黙秘権・署名押印拒否の確認、調書の読み聞かせ時の訂正申立て
弁護人との接見・打合せ弁護人刑訴法39条1項事務所の通訳を同行、方言への対応、法廷通訳の内容確認
公判(被告人質問・証人尋問・判決)裁判所刑訴法175条・178条言語・方言の指定、弁護側通訳の同席、誤訳の即時指摘、公判調書への異議(刑訴法51条)
書証の翻訳提出者または裁判所刑訴法177条訳文の正確性の確認、必要な訳文の交付請求

捜査段階の通訳は取調室の中で行われ、弁護人の立会いがないまま日本語の調書が作られます。そのため、取調べ前の打合せで想定される質問を整理し、理解できない質問には答えない、読み聞かせで違和感があれば訂正を求める、納得できなければ署名押印しない、という対応を本人と確認しておくことが重要です。

通訳に誤りがあるとどうなりますか

誤訳は、本人が言っていないことを認めたことにされる、証人の証言の意味を取り違えて反対尋問ができない、裁判所が事実を誤って認定する、といった形で判決に影響し得ます。

刑事裁判では、被告人が自分に対する証拠を理解し、反論する機会を保障されていることが手続の前提です。通訳が不正確であれば、この前提が崩れます。たとえば中国語の「可能」は推量にも許可にも訳せ、否認の趣旨で述べた言葉が肯定に訳されることがあります。法律用語では、日本法の「故意」と中国法の「故意」の範囲が異なり、共謀・幇助・未遂といった概念も一対一で対応しません。通訳人が法律の素養を欠くと、こうした違いが訳文に反映されず、本人の意図と異なる供述が記録されます。

法廷での誤訳はどうやって見つけ、争いますか

弁護人側で中国語が分かる通訳を法廷に同席させて通訳内容を逐一確認し、誤訳があればその場で裁判長に指摘して訂正を求め、公判調書に残します。

公判の通訳は口頭で行われるため、その場で気づかなければ記録に残りません。弁護人は、事務所の通訳や中国語の分かる補助者を同席させ、通訳人の訳と被告人の発言を照合します。誤訳に気づいたときは、尋問の途中でも裁判長に通訳の訂正を求める、質問を言い換えてもらう、被告人に再度説明させる、といった対応をします。裁判所によっては通訳を含む法廷のやり取りが録音されており、弁護人はその確認を求めることができます。公判調書の記載に誤りがあれば異議を申し立て(刑訴法51条)、通訳人の能力に根本的な問題があるときは交代を求めます。判決後に誤訳が判明した場合は、控訴趣意書で訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)や事実誤認(刑訴法382条)として、誤訳の内容を具体的に特定して主張します。

捜査段階の供述調書の誤訳はどう争いますか

調書の内容が本人の供述と異なるときは、証拠採用に同意せず(刑訴法326条)、任意性・信用性を争って、取調べの経過と通訳の状況を被告人質問や通訳人の証人尋問で明らかにします。

供述調書は通訳人を介した日本語の要約であり、本人は日本語の文面を読めないまま署名していることが少なくありません。弁護人は、読み聞かせがどのように行われたか、本人がどの部分を理解していたか、訂正を申し出たのに反映されなかったことがあるかを確認し、任意性や特信性(刑訴法322条)を争います。取調べの録音録画(刑訴法301条の2)がある事件では、記録媒体の開示を求めて通訳の内容を直接検証できます。通訳人を証人として尋問し、訳し方の問題を明らかにすることもあります。

通訳の質を確保するために弁護人は何をしますか

被告人の言語・方言の確認、裁判所への言語指定、重要な書面の中国語訳の準備、弁護人側通訳の同席、法廷での用語の統一を、起訴直後から計画的に行います。

具体的には、①接見で出身地・母語・方言・識字能力を確認し、②裁判所に通訳人の言語の指定を求め、③起訴状、検察官請求証拠の要旨、弁護側の主張を中国語で本人に説明し、④被告人質問の想定問答を中国語で準備し、⑤公判に弁護人側通訳を同席させて訳を確認し、⑥判決の内容を中国語で説明して控訴の要否を本人が判断できるようにします。法廷通訳の費用は訴訟費用として被告人に負担させない運用が一般的で、自由権規約14条3項(f)も通訳の援助を無償で受ける権利を定めています。

中国籍の方に特有の留意点

  • 方言と地域差:中国語には普通話のほか広東語・閩南語・客家語などがあり、普通話でも地域差があります。最も正確に話せる言語を早い段階で弁護人に伝えてください。
  • 法律用語の違い:中国法の「拘留」は行政処分を含み、日本の「勾留」とは異なります。起訴・執行猶予・不起訴など、同じ漢字でも制度が異なる語は、弁護人が日本法上の意味を説明します。
  • 漢字による誤解:日本語の書面を漢字で読んで分かったつもりになることがあります。調書や示談書は中国語訳で確認してから署名してください。
  • 家族の傍聴:傍聴席には通訳がつきません。家族が法廷の内容を知りたいときは、弁護人が期日後に説明します。
  • 在留への影響:判決の内容は在留資格に直結します(1年を超える実刑は入管法24条4号リ、別表第一の在留資格者の執行猶予付き拘禁刑は同4号の2)。判決の正確な理解は、控訴の判断だけでなく在留の手続にも必要です。

弁護士に相談すべき場面

  • 取調べで通訳人の言うことが分からないまま調書に署名してしまったとき。
  • 被告人の母語が方言で、警察や裁判所の通訳人と意思疎通ができていないと感じるとき。
  • 公判で通訳の内容に違和感があり、裁判所にどう伝えればよいか分からないとき。
  • 判決の内容が中国語で説明されず、控訴期間(刑訴法373条・14日)内に判断を迫られているとき。

舟渡国際法律事務所では、中国語での相談に対応しています(専属通訳が常駐)。外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針ですが、立会いが認められることは現状ほとんどありません。それでも、取調べの直前に捜査官と協議することで、通訳の確保や取調べの範囲を確認し、不当な取調べを牽制する効果があります。刑事弁護と入管事件を一体で扱い、刑事事件では無罪判決(一部無罪)の獲得実績があります。

よくある質問

法廷の通訳人は自分で選べますか

選任するのは裁判所ですが、弁護人を通じて母語・方言・文字の指定を求めることができ、能力に問題があれば交代を求めます。弁護人側の通訳を法廷に同席させることもできます。

通訳の費用は被告人が払うのですか

法廷通訳の費用は被告人に負担させない運用が一般的で、自由権規約14条3項(f)も無償の通訳援助を定めています。弁護人側の通訳は弁護人の活動費用に含まれます。

取調べの通訳が間違っていたら調書は無効になりますか

自動的に無効にはなりませんが、証拠採用に同意せず、任意性・信用性(刑訴法319条・322条)を争うことができます。録音録画があれば通訳の内容を直接検証します。

判決書の中国語訳はもらえますか

判決は法廷で口頭で通訳されますが、判決書全文の翻訳が交付されるとは限りません。弁護人が判決の内容を中国語で説明し、控訴期間内に判断できるようにします。

誤訳を理由に控訴できますか

誤訳が判決に影響を及ぼしたといえる場合、訴訟手続の法令違反(刑訴法379条)や事実誤認(刑訴法382条)として主張できます。誤訳の箇所を具体的に特定することが必要です。

根拠条文・出典

  • 刑事訴訟法175条(通訳)、177条(翻訳)、178条(鑑定の規定の準用)、223条(通訳の嘱託)、39条1項(接見交通)
  • 刑事訴訟法51条(公判調書の記載に対する異議)、301条の2(取調べの録音録画)、319条(自白の任意性)、322条(被告人の供述書・供述録取書)、326条(同意)
  • 刑事訴訟法373条(控訴期間)、379条(訴訟手続の法令違反)、382条(事実誤認)
  • 市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)14条3項(f)
  • 出入国管理及び難民認定法24条4号リ・4号の2(退去強制事由)

関連する解説

ご相談・お問い合わせ

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