中国企業の日本進出で必要な法務とは|会社設立・許認可・契約・在留資格を弁護士が解説
2026/10/11
最終更新:2026年10月11日 執筆:弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)/舟渡国際法律事務所
中国企業の日本進出の法務とは、日本で事業を行う拠点の形態(株式会社・合同会社・支店・駐在員事務所)の選択、業種ごとの許認可、取引先との契約、経営者と従業員の在留資格、労務・税務の体制づくりを、進出の前に一体として設計することをいいます。
この記事の要点
- 日本法人(株式会社・合同会社)と外国会社の支店では、設立の手続も責任の範囲も異なります(会社法25条以下・575条以下、外国会社は会社法817条・818条)。
- 許認可が必要な業種で無許可のまま営業すると、行政処分だけでなく刑事罰の対象になり、経営者の在留資格にも影響します(古物営業法、旅館業法、住宅宿泊事業法、食品衛生法など)。
- 日本の取引先との契約では、準拠法(法の適用に関する通則法7条)と国際裁判管轄(民事訴訟法3条の2以下)を最初に決めておく必要があります。
- 経営者本人は経営・管理、従業員は技術・人文知識・国際業務などの在留資格が必要で、在留資格の範囲を超えた就労をさせると不法就労助長(入管法73条の2)に問われます。
- 中国本社が出資する場合、外国為替及び外国貿易法の対内直接投資の届出が必要になることがあります。
こんな場面で問題になります
- 中国の貿易会社が日本に販売拠点を置きたいが、子会社にするか支店にするか、駐在員事務所で足りるのかわからない。
- 中国人経営者が日本で合同会社を設立したところ、代表者の住所や資本金の払込みを理由に経営・管理の在留資格が認められなかった。
- 日本で民泊やリサイクル品の輸出を始めたが、旅館業法や古物営業法の許可・届出が必要だと後から知った。
- 日本の取引先と中国語の契約書だけを交わし、代金不払いが起きてから、どこの裁判所でどの国の法律で争うのかが決まっていないことに気づいた。
- 中国から派遣した社員を、技術・人文知識・国際業務の在留資格のまま店舗の現場作業に就かせていた。
日本進出の拠点はどの形態を選べばよいですか
日本で継続的に営業するなら日本法人(株式会社または合同会社)が原則で、本社の責任で営業するなら支店、営業をしないなら駐在員事務所という使い分けになります。
株式会社と合同会社は、いずれも日本法上の法人として本社とは別の権利義務の主体になります(会社法25条以下・575条以下)。株式会社は取引先や金融機関からの信用が得やすく、合同会社は設立と運営の手続が簡素です。支店は、外国会社が日本で継続して取引をするために置くもので、日本における代表者を定めて登記する必要があります(会社法817条・818条)。支店は本社と同一の法人ですから、日本での債務は本社が負います。駐在員事務所は、市場調査や情報収集のための拠点で、営業活動はできません。どの形態を選ぶかは、責任の切り分け、許認可の取りやすさ、経営者の在留資格との関係で決まります。
| 形態 | 法人格 | 根拠 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 株式会社 | 日本法人(本社とは別) | 会社法25条以下 | 信用を得やすい。定款認証と設立登記が必要 |
| 合同会社 | 日本法人(本社とは別) | 会社法575条以下 | 手続が簡素。出資者が業務を執行する |
| 支店 | 本社と同一 | 会社法817条・818条 | 日本における代表者の登記が必要。債務は本社が負う |
| 駐在員事務所 | なし | 登記不要 | 営業活動はできない |
会社設立の手続と、中国本社が株主になる場合の注意点は何ですか
定款の作成・認証、資本金の払込み、設立登記という流れは日本人の設立と同じですが、出資者が中国企業・中国在住者のときは、外為法の届出と、印鑑証明に代わる書類の準備が加わります。
株式会社の設立は、発起人が定款を作成して公証人の認証を受け、出資金を払い込み、法務局に設立登記を申請して成立します(会社法26条・30条・34条・49条)。出資者が中国に住んでいる場合、日本の印鑑証明書がないため、中国の公証処で作成した署名証明や、本社の登記事項の証明に日本語訳を付けて提出します。中国の本社が日本法人の株式を取得する場合は、外国為替及び外国貿易法の対内直接投資に当たり、業種によっては事前届出、それ以外でも事後報告が必要です。また、資本金を一度払い込んですぐ引き出す方法は、後に経営・管理の在留資格の審査で事業の実態を疑われる原因になりますので、事業計画と整合した払込みを行ってください。
許認可が必要な業種にはどのようなものがありますか
中古品の売買、宿泊、飲食、建設、不動産、酒類の販売、人材紹介などは、営業を始める前に許可・登録・届出が必要で、無許可営業は刑事罰の対象です。
中国企業の進出で特に多いのは、中古車・ブランド品・電子機器を仕入れて輸出する事業(古物営業法)、民泊や旅館(旅館業法・住宅宿泊事業法)、飲食店(食品衛生法)、建設工事(建設業法)、不動産仲介(宅地建物取引業法)、酒類の販売(酒税法)、人材紹介・派遣(職業安定法・労働者派遣法)です。これらは、会社ができてから申請すればよいというものではなく、営業所の要件や管理者の資格が決まっているため、物件の契約や人員の配置の前に要件を確認しなければなりません。無許可で営業すると、行政処分のほか刑事罰を受け、経営者が有罪となれば在留資格の更新や永住許可の審査で不利に扱われます。
日本の取引先との契約書は中国語のままでよいですか
言語そのものに法律上の制限はありませんが、準拠法と裁判管轄の定めがない契約は紛争時に不利になるため、日本語と中国語の正本を作り、どちらを優先するかも決めておくべきです。
日中間の契約では、どの国の法律で契約を解釈するか(法の適用に関する通則法7条)、どの国の裁判所で争うか(民事訴訟法3条の2以下)を当事者が合意で決めることができます。この定めがないと、紛争が起きた後に管轄と準拠法から争うことになります。日本の裁判所の判決を中国で執行することも、中国の判決を日本で執行すること(民事訴訟法118条)も、日中間では実務上困難とされていますので、相手方の財産が中国にある取引では、仲裁条項を置くことが現実的な選択肢になります。日中両国はいずれも外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約の締約国です。また、債務不履行による損害賠償(民法415条)や解除(民法541条)の要件は、契約書で具体化しておくほど紛争時の立証が楽になります。
経営者と従業員の在留資格はどうなりますか
経営者は経営・管理、本社から派遣する幹部は企業内転勤、日本で採用する事務・技術職は技術・人文知識・国際業務が基本で、在留資格の範囲外の仕事をさせることは不法就労助長になります。
経営・管理の在留資格は、事業所の確保、事業の規模、事業の継続性と安定性が審査され、設立直後の会社では事業計画書の説得力が問われます。技術・人文知識・国際業務は、学歴や職歴と業務内容の関連性が要件で、店舗の接客や倉庫作業などの現場業務を主にさせることはできません。在留資格の範囲を超える仕事をさせた場合、会社と経営者が不法就労助長(入管法73条の2)に問われ、知らなかったという弁解は、在留カードを確認していなければ通りません。外国人を雇用したときは外国人雇用状況の届出(労働施策総合推進法28条)も必要です。
進出後に起きやすい紛争と刑事リスクは何ですか
代金の不払い、労務トラブル、不法就労助長、税務の申告漏れが典型で、刑事事件になると経営者個人の在留にまで影響します。
進出後の紛争で最も多いのは売掛金の回収と従業員との労働紛争です。刑事リスクとしては、不法就労助長のほか、消費税の不正還付や申告漏れ(偽りその他不正の行為で消費税を免れた場合は10年以下の拘禁刑若しくは1000万円以下の罰金又は併科:消費税法64条1項)、輸出入をめぐる関税法違反、取引先を欺く詐欺(刑法246条:10年以下の拘禁刑)があります。経営者が1年を超える拘禁刑の実刑を受ければ退去強制事由(入管法24条4号リ)となり、執行猶予付きでも詐欺などの罪で拘禁刑に処せられれば別表第一の在留資格者は退去強制事由(同4号の2)に当たります。会社の問題は、経営者個人の刑事事件と在留問題に直結するという意識が必要です。
中国籍の方に特有の留意点
第一に、経営者の在留資格が会社の実態と結びついていることです。登記上は会社があっても、事務所や事業の実態がないと判断されれば、経営・管理の更新が認められず、偽りその他不正の手段で許可を受けたとされると在留資格の取消し(入管法22条の4)の対象になります。第二に、中国本社と日本法人の間の契約・送金です。本社からの借入れや本社への支払は、税務上も外為法上も記録を残し、日本側の帳簿と整合させておく必要があります。第三に、書類の言語です。登記や許認可の申請書類は日本語で提出し、中国語の資料には訳文を付けます。契約書は日中両言語の正本を作り、優先言語を定めてください。第四に、紛争時の送達と執行です。相手方が中国にあれば、訴状の送達は条約に基づく手続となり時間がかかり、判決の相互承認も実務上困難とされていますので、仲裁条項や日本国内の担保の確保を契約段階で検討しておくべきです。
弁護士に相談すべき場面
- 拠点の形態(子会社・支店・駐在員事務所)と経営者の在留資格を、進出前に一体で設計したいとき。
- 始めようとする事業に許可・登録・届出が必要かどうか、営業所や管理者の要件を含めて確認したいとき。
- 日本の取引先と契約書を交わす前に、準拠法・裁判管轄・仲裁条項・言語条項を整えたいとき。
- 従業員の在留資格と業務内容が合っているか、不法就労助長に当たらないかを確認したいとき。
- 捜査機関や入管、税務署、労働基準監督署から調査・照会を受けたとき。会社の法務と経営者・従業員の在留問題を一体で扱い、刑事事件に発展した場合は、外国人の刑事事件では取調べへの弁護人の立会いを求める方針で対応します(立会いが認められることは現状ほとんどありません)。行政事件の取扱いは複数の学術誌に掲載され研究の対象となっています。
よくある質問
中国企業が日本で会社を作るとき、代表者は日本に住んでいなければなりませんか
会社法上、代表取締役が日本に住所を持つことは設立登記の要件ではありません。ただし、経営者本人が日本で経営に当たるには経営・管理の在留資格が必要で、銀行口座の開設や許認可の申請では日本に居住する責任者がいないと実務上進まないことが多くあります。
駐在員事務所で販売活動をしてはいけませんか
駐在員事務所は市場調査や連絡業務のための拠点で、営業活動を行うと外国会社として継続取引をしているとみなされ、支店の登記(会社法818条)や納税義務の問題が生じます。販売を始めるなら日本法人か支店にしてください。
中国本社が日本法人に出資するときに届出は必要ですか
外国為替及び外国貿易法の対内直接投資に当たり、業種によっては事前届出が、それ以外でも事後報告が必要です。届出の要否は業種と出資の形態で異なりますので、設立前に確認してください。
日本の取引先との契約で中国法を準拠法にできますか
当事者が合意すれば中国法を準拠法に選ぶことができます(法の適用に関する通則法7条)。ただし、日本の裁判所で中国法の内容を立証する負担があり、日本の取引先が応じないことも多いため、仲裁条項と組み合わせて検討するのが現実的です。
従業員の在留資格と仕事の内容が合っていないと、会社はどうなりますか
会社と経営者が不法就労助長(入管法73条の2)に問われるおそれがあります。在留カードで在留資格と就労制限の有無を確認し、業務内容を在留資格の範囲に合わせることが必要です。
根拠条文・出典
- 会社法25条以下(株式会社の設立)、26条・30条・34条・49条(定款・認証・出資の履行・成立)、575条以下(合同会社)、817条・818条(外国会社の日本における代表者・登記)
- 外国為替及び外国貿易法(対内直接投資の届出・報告)
- 古物営業法、旅館業法、住宅宿泊事業法、食品衛生法、建設業法、宅地建物取引業法、酒税法、職業安定法、労働者派遣法(各許認可)
- 法の適用に関する通則法7条(準拠法の選択)、民事訴訟法3条の2以下(国際裁判管轄)、118条(外国判決の承認)、民事執行法(執行判決)、仲裁法、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約
- 民法415条(債務不履行による損害賠償)、541条(催告による解除)
- 出入国管理及び難民認定法(経営・管理、企業内転勤、技術・人文知識・国際業務の各在留資格)、73条の2(不法就労助長)、22条の4(在留資格の取消し)、24条4号リ・4号の2(退去強制事由)
- 労働施策総合推進法28条(外国人雇用状況の届出)
- 消費税法64条1項、刑法246条(詐欺)
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