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偽装結婚でも在留特別許可は認められるのか:在留資格目的の結婚との違いと、婚姻が在留特別許可に与える重み

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偽装結婚でも在留特別許可は認められるのか:在留資格目的の結婚との違いと、婚姻が在留特別許可に与える重み

偽装結婚でも在留特別許可は認められるのか:在留資格目的の結婚との違いと、婚姻が在留特別許可に与える重み

2026/10/03

弁護士 松村大介(舟渡国際法律事務所・第一東京弁護士会・登録番号59077) 更新日:2026年10月3日

偽装結婚とは、夫婦として生活する意思がないのに、在留資格を得る手段として婚姻の届出だけをする結婚をいう(法律上の用語ではない)。結論から述べる。偽装結婚が認定された外国人に対し、入管庁が公表した事例の中で在留特別許可が出されたものは、当事務所が確認した範囲で一件もない。他方で、在留資格を得たいという動機があったというだけでは、偽装結婚にはならない。そして、実態のある婚姻は、在留特別許可において最も重い積極要素の一つである。

この記事の要点

  • 入管庁が公表した在留特別許可の事例(平成26年分〜令和7年分)のうち、「偽装結婚」と特記された事例は8件あり、すべて不許可である。
  • 在留資格を得たい動機と、夫婦としての実態を築く意思は両立し得る。大阪高裁令和3年10月13日判決は、この考え方に沿って「婚姻の実態がなかったとは認められない」と判断した。
  • 在留特別許可のガイドラインは、婚姻を積極要素とする一方、「婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合」を除いている。許否を分けるのは、届出の有無ではなく婚姻の実態である。
  • 同居していなくても、婚姻の実態が認められる余地はある。ただし、同居の事実を偽って申請すれば、別に刑事責任と在留資格取消しの問題が生じる。
  • 偽装結婚を疑われたときは、取調べや入管の聴取の前に、婚姻の経緯と実態を時系列で整理し、弁護士に相談するのがよい。

偽装結婚とは何か。在留資格を得たい気持ちがあれば、それだけで偽装になるのか

結論:在留資格を得たいという動機があるだけでは、偽装結婚にならない。問題は、夫婦として共同生活を築く意思があったかどうかである。

婚姻は、「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」は無効とされる(民法742条1号)。偽装結婚が問題になる場面は、この「婚姻をする意思」の有無に行き着く。

婚姻意思の意味について、最高裁は、届出をする意思があるだけでは足りないとしている。元検察官の須賀正行は、次のように紹介している。

「当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指すものと解すべきであり、したがって、たとえ婚姻の届出自体について当事者間に意思の合致があり、ひいて当事者間に、一応、所論法律上の夫婦という身分関係を設定する意思はあったと認めうる場合であっても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたにすぎないものであって、前述のように真に夫婦関係の設定を欲する効果意思がなかった場合には、その効力を生じないものと解すべきである」 (最判昭和44年10月31日民集23巻10号1894頁。須賀正行「元検察官のキャンパスノート No.87」捜査研究814号(2018年)75頁の引用による)

この判示が無効としているのは、婚姻が「単に他の目的を達するための便法として仮託されたにすぎない」場合である。他の目的が併存していること自体を、無効の理由としているわけではない。

ここで、捜査実務の見方にも触れておく。須賀は、偽装結婚を公正証書原本不実記載等罪(刑法157条1項)で立件する際の故意について、こう述べている。

「「虚偽の申立て」については、当事者双方とも外国人当事者に在留資格を得させる目的で婚姻することを認識しているのが通常ですから、「虚偽の申立て」の認識に欠けるところはないと思われます。」 (須賀・前掲77頁)

捜査側は、在留資格を得させる目的の婚姻を、無効な婚姻の典型として扱っている。一方、裁判所は、次の項で見るとおり、動機と実態を分けて考えた事例がある。両者の距離がどこにあるかが、この問題の核心である。

状況 法的な評価の方向 在留特別許可での扱い
夫婦としての実態を築く意思があり、在留資格を得たい気持ちも併存していた 婚姻は有効。動機の併存だけで偽装とはされない(大阪高判令和3年10月13日の考え方) 婚姻は積極要素として評価される
婚姻届だけを出し、夫婦としての実態を築く意思がなかった(便法として仮託した) 婚姻は無効となり得る。刑事責任と在留資格取消しの問題が生じる 積極要素から外れ、公表事例では不許可が並ぶ
偽装を疑われたが、実態は存在する 実態の立証が争点になる 実態が認められるかどうかで許否が分かれる

夫婦のあり方は一様ではない。裁判所はどこまで「実態」を認めたのか

結論:大阪高裁は、同居の事実がなく、在留資格を得る動機が強く、別の異性との親密な関係まであった事案で、なお「婚姻の実態がなかったとは認められない」と判断した。夫婦のあり方に幅があることを前提にした判断である。

大阪高裁令和3年10月13日判決(令和3年(う)第59号、高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号408頁、判例タイムズ1503号50頁)は、いわゆる偽装結婚事案について、入管法70条1項2号の2(虚偽申請罪)で有罪とした原判決を破棄し、無罪を言い渡した。検察官が上訴せず、確定している(猪股正貴「刑事判例研究〔539〕」警察学論集76巻6号(2023年)175頁)。

事案は、日本人の配偶者等の在留資格で在留していた外国人が、戸籍上の配偶者である日本人Aと共謀し、同居の事実がないのに、同居しているとする内容虚偽の在留期間更新許可申請書を提出して更新許可を受けた、というものである(猪股・同171頁)。

一審(大阪地判令和2年12月9日・判例集未登載)は、有罪としていた。その根拠は、次のような事実である(猪股・同173頁)。被告人は在留資格取消しが迫った状況でAと見合いをしてその日に結婚を約束し、18日後に婚姻届を提出した。入籍後Aと同居したことがなく、同居を求められても拒んだ。自宅マンションの鍵も渡さず、生計も別にしていた。さらに、別の日本人男性Cから住居を手配してもらい、好意を示すメッセージも送っていた。一審はこれらから、婚姻の実態の不存在を認めた。

控訴審は、同居の事実がないという認定は是認した。しかし、婚姻の実態がないという認定は覆した。法律時報の評釈は、判旨を次のように紹介している。

「被告人とAとの間に婚姻の実態はないという原判決の認定は不合理なものであって是認できず、婚姻の実態がなかったとは認められない。よって、原判決には事実の誤認がある」 (西村剛輝「特別刑法判例研究【108】入管法70条1項2号の2における「偽りその他不正の手段」と「許可」との間の因果関係」法律時報95巻11号(2023年)148頁)

警察学論集の評釈は、控訴審が一審の根拠事実を一つずつ検討した内容を、次のように整理している(猪股・前掲186頁-187頁注6)。

「在留資格を得たいという動機と婚姻の実態を形成する意思は両立し得るものであり、むしろ、日本人の配偶者として在留資格を得て在留期間の更新を受け続けるためには、配偶者との婚姻の実態を形成することが必要であるから、在留資格を得ることが動機であったということから直ちに婚姻の実態を形成する意思がなかったと推認するのは合理的な判断ではない」

「同居した事実が存在せず、同居を求められても拒み、自宅マンションの鍵を渡すこともしていなかったとした点については、当初は同居の意思はあったが、やむを得ず同居を断念したとみる余地もあり、その後同居しなかったことも、夫婦間での合意に基づく別居とみる余地がある」

「生計を別としていたとした点についても、夫婦には相互に扶助義務があるが、夫婦がそれぞれ収入を有し、それにより各自の生活費を賄えるのであれば、夫婦の合意により生計を別にし、相互に金銭的給付をせずに生活をしていても、何ら扶助義務に反するものではないから、これによって婚姻の実態がないということはできない」

「日本人男性Cとの関係については、日本人Aとの結婚当初から不貞関係にあったとまでは認められないし、そのことを全く日本人Aは知らなかったのであるから、それらの事実は被告人と日本人Aとの婚姻の実態の客観面に直接影響する事情ではない」

猪股は、これを「婚姻の実態が多様化していることを踏まえて検討が行われたものと考えられる」と評している(同187頁注6)。もっとも、同じ箇所で次のようにも述べている。

「前記一つ一つの論理の当否は、さておき、後述するとおり、入管法における在留資格「日本人の配偶者」は、現に日本人と婚姻しているだけではなく、本邦において行おうとする活動が日本人配偶者としての活動に該当することが必要であるから、そのような考え方との整合性はなお検討の余地があるように思われる。」 (猪股・同187頁注6)

猪股は、出入国在留管理庁の参事官として、この論文を書いている(同170頁)。「意見にわたる部分は筆者の個人的な意見・感想である」とも断っている(同171頁)。入管行政の側から見ると、この判断の論理には疑問があるということである。この指摘は、弁護人として知っておくべき反対の見方である。

同居していなければ「婚姻の実態がない」のか

結論:同居の有無だけで婚姻の実態は決まらない。大阪高裁は、同居の事実がなくても、実態があれば通常は更新が許可されるというのが入管当局の扱いだと認定した。ただし、同居を偽って申請することは別の問題である。

最高裁は、「日本人の配偶者等」の在留資格について、法律上有効な婚姻があるだけでは足りないとしている。

「外国人が「日本人の配偶者等」の身分を有する者として別表第二所定の「日本人の配偶者等」の在留資格をもって本邦に在留するためには、単にその日本人配偶者との間に法律上有効な婚姻関係にあるだけでは足りず、当該外国人が本邦において行おうとする活動が日本人の配偶者の身分を有する者としての活動に該当することを要するものと解するのが相当である。」 (最判平成14年10月17日民集56巻8号1823頁。猪股・前掲187頁注9の引用による)

「日本人との間に婚姻関係が法律上存続している外国人であっても、その婚姻関係が社会生活上の実質的基礎を失っている場合には、その者の活動は日本人の配偶者としての身分を有する者としての活動に該当するということはできないと解するのが相当である。」 (同上)

この判決が基準にしているのは、同居という外形ではなく、婚姻関係が「社会生活上の実質的基礎」を失っているかどうかである。入管実務の体系書も、「日本人の配偶者」を、法律上の婚姻関係にあって「夫婦としての同居・協力・扶助の活動を行って本邦に在留するもの」に限られるとしつつ、「夫婦の身分関係・財産関係など私法関係を規律する民法上の配偶者の概念と必ずしも一致するものではない」としている(坂中英徳=斎藤利男『出入国管理及び難民認定法逐条解説〔改訂第4版〕』160頁。猪股・前掲187頁注8の引用による)。

大阪高判令和3年10月13日は、この実務の扱いを次のように認定している。

「もっとも、原審記録によれば、同居の事実はないという原判決の認定は是認できるから、被告人がAと共謀の上、同居の事実を偽った在留期間更新許可申請書を提出したことは認められ、これは出入国管理及び難民認定法70条1項2号の2にいう『偽りその他不正の手段』に当たる。 しかし、当審における事実取調べの結果によれば、日本人の配偶者であって日本人配偶者等の在留資格で本邦に在留している外国人が在留期間の更新許可の申請をした場合、配偶者と同居していなくても、婚姻の実態があると認められるのであれば、通常は更新が許可されるというのが出入国在留管理当局の扱いであると認められ、そうすると、被告人が同居の事実を偽った申請書を提出した行為と在留期間の更新許可を受けたこととの因果関係は直ちには認め難い。そして、検察官は、当審弁論において、婚姻の実態があると判断される場合には上記の因果関係は認められないと陳述し、この点について更なる立証はしないとの態度を示している。 よって、上記因果関係は認められず、原判決の上記事実誤認が判決に影響を及ぼすことは明らかである。」 (西村・前掲148頁の引用による)

この判決を、同居していなくてもよい、あるいは虚偽の記載をしてよい、という趣旨に読んではならない。判決は、同居の事実を偽った申請が「偽りその他不正の手段」に当たることは認めている。無罪になったのは、その偽りと許可との間の因果関係が認められなかったからである。

しかも、評釈は、判決の射程を狭く見ている。西村は次のように述べる。

「本判決は、法務大臣の広範な裁量判断を前提とする局面において、「偽りその他不正の手段」を認めつつ、「許可」との間の因果関係を否定した高裁判例として重要な意義を有する。ただ、本判決の射程は、実はそれほど広くないのかもしれない。」 (西村・前掲151頁)

西村は、仮に真実の申請をしていれば6月の更新しか受けられなかったという場合には、1年の更新許可との間で因果関係を肯定する余地があると指摘している(同151頁)。入管実務でも、実態に疑わしい点はあるが活動を行っていないとまでは認定できない場合に、「より短い在留期間を付与し、次の更新時期に再びその実態を調査するという運用も行われている」とされる(猪股・前掲177頁)。

別居は、在留資格取消しの問題にもなり得る。日本人の配偶者等の在留資格をもって在留する者が、配偶者の身分を有する者としての活動を継続して6月以上行わないで在留している場合は、正当な理由がない限り、在留資格を取り消され得る(入管法22条の4第1項7号)。別居に事情があるなら、その事情を事実どおりに説明できるようにしておく必要がある。

偽装結婚と認定されると、刑事と入管でどのような不利益があるのか

結論:刑事では公正証書原本不実記載等罪と入管法70条1項2号の2の虚偽申請罪、入管では在留資格の取消しと退去強制が問題になる。日本人の側も、共犯として責任を問われ得る。

場面 根拠 内容
刑事(戸籍への記載) 刑法157条1項・158条1項 公務員に虚偽の申立てをして戸籍簿に不実の記載をさせた者は、5年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金。その記載を使用した者も同じ
刑事(在留許可の取得) 入管法70条1項2号の2 偽りその他不正の手段により、在留期間の更新許可などを受けた者は、3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科
入管(在留資格取消し) 入管法22条の4第1項1号・2号 偽りその他不正の手段による上陸許可・在留資格の許可等が判明したときは、在留資格を取り消し得る
入管(退去強制) 入管法24条2号の2 22条の4第1項1号又は2号により在留資格を取り消された者は、退去強制の対象になる

(条文は令和8年10月3日にe-Govの現行規定で確認した。)

入管法70条1項2号の2は、平成28年の入管法改正で新設され、平成29年1月1日から施行された(猪股・前掲171頁)。従来の公正証書原本不実記載等罪では、「婚姻の意思の不存在」といった当事者の内心を立証する必要があった。猪股は、虚偽申請罪の特徴を、次のように説明している。

「この新設された虚偽申請罪は、当初の婚姻自体が虚偽であったとの立証は要せず、比較的、証拠の収集が容易な直近の申請行為を立件することができ、婚姻意思といった内心面ではなく、申請書や提出資料に記載された婚姻実態や同居の事実の有無といった客観的事実に虚偽があるか否かが主な立証対象であり、立証が比較的容易である点にメリットがあると指摘されることがある」 (猪股・同179頁)

つまり、現在の捜査は、婚姻届の出し方よりも、申請書に書いた「同居」「婚姻の実態」が事実かどうかを見る。申請書の記載を事実どおりにすることの重みは、ここにある。

なお、虚偽申請罪は、偽りの手段を用いただけでは成立せず、現に許可がされ、その許可と偽りの手段との間に因果関係があることが必要と考えられている(猪股・同180頁)。

日本人の配偶者も、無関係ではない。大阪高判の事案でも、起訴状は、外国人本人が日本人Aと共謀の上で申請書を提出した、という構成であった(猪股・同171頁)。婚姻届の面では、日本人の側が戸籍に不実の記載をさせたという問題になる(須賀・前掲76頁)。

在留資格の取消しでは、1号又は2号に当たる取消しは、出国のための期間の指定の対象から除かれている(入管法22条の4第7項)。したがって、偽装結婚を理由とする取消しは、退去強制の手続に直結しやすい。

偽装結婚と認定された外国人は、在留特別許可を受けられるのか

結論:公表事例に限れば、偽装結婚と特記された8件はすべて不許可である。ガイドラインも、偽装した婚姻を積極要素から除き、在留資格の偽装に関わる行為を消極要素に挙げている。

在留特別許可は、退去強制対象者について、法務大臣が在留を特別に許可する制度である(入管法50条1項)。判断に当たっては、「在留を希望する理由、家族関係、素行、本邦に入国することとなつた経緯、本邦に在留している期間、その間の法的地位、退去強制の理由となつた事実及び人道上の配慮の必要性」が考慮される(同条5項)。

出入国在留管理庁のガイドラインは、積極要素としての家族関係を、次のように定めている。

「当該外国人が、日本人又は特別永住者と法的に婚姻している場合(退去強制を免れるために、婚姻を偽装し、又は形式的な婚姻届を提出した場合を除く。)であって、夫婦として相当期間共同生活をし、相互に協力して扶助しており、かつ、夫婦の間に子がいるなど婚姻が安定かつ成熟していること」 (出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」)

消極要素としては、素行の項に、「他の外国人の不法就労や、在留資格の偽装に関わる行為等を行ったことがあること」が挙げられている(同ガイドライン)。

除外されているのは、「婚姻を偽装し」、又は「形式的な婚姻届を提出した」場合である。在留資格を得たい動機があることは、除外事由として書かれていない。この文言は、前に見た「便法として仮託されたにすぎない」という婚姻無効の基準と、同じ線を引いているように読める。

入管庁が公表している事例集(平成26年分〜令和7年分)を、当事務所で原典のPDFに当たって調べたところ、特記事項などに「偽装結婚」と記された事例は8件あった。すべて、在留特別許可がされなかった事例である。

公表年分 類型 発覚・事由、在日期間 刑事処分等 特記事項(原文)
平成26年 その他 警察逮捕・在留資格取消、約2年4月 電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役1年6月、執行猶予3年 「偽装結婚であることが判明し,在留資格を取り消されたもの。」「在留資格取消処分後,偽装結婚相手と同居を始めて本邦在留を希望したもの。」
平成27年 その他 警察逮捕・刑罰法令違反、約7年4月 電磁的公正証書原本不実記録等により懲役1年6月、執行猶予3年 日本人との偽装結婚後に離婚し、「投資・経営」への変更許可を受けたが、有罪判決を受けたもの(要旨)
平成28年 外国人家族 呼出状による出頭・不法残留、約7年5月 記載なし 「日本人との偽装結婚後に不法残留したもの。」
平成30年 配偶者が正規在留外国人 出頭申告・不法入国、約7年6月 記載なし 「他人名義で日本人と偽装結婚の上,不法入国したもの。」
令和元年 その他 警察逮捕・不法残留、約4年8月 入管法違反により懲役1年6月、執行猶予3年 「日本人と偽装結婚し,不正に在留資格変更許可を受けたとして,左記判決を受けたもの。」
令和元年 その他 警察逮捕・在留資格取消、約6年3月 入管法違反、電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役2年、執行猶予3年 「偽装結婚であることが判明し,在留資格を取り消されたもの。」
令和2年 配偶者が日本人 警察逮捕・在留資格取消、約6年8月(婚姻約2月) 入管法違反及び電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役2年、執行猶予4年 「日本人との婚姻が偽装結婚であることが判明し,在留資格を取り消されたもの。警察に逮捕された後,別の日本人と婚姻したもの。」
令和2年 その他 警察逮捕・在留資格取消、約5年2月 入管法違反、電磁的公正証書原本不実記録・同供用により懲役2年、執行猶予3年 「偽装結婚であることが判明し,在留資格を取り消されたもの。」

(出典:出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」各年分。令和3年分、同4年分、令和5年分、同6年分及び令和7年分には「偽装結婚」の記載は見当たらない。)

注意すべき点が二つある。第一に、事例集は、毎年各約20件前後の抜粋であり、全件ではない。公表されていない事案について、偽装結婚に関わった外国人が許可を受けた例が絶対にない、とまでは言えない。第二に、これらの事例は、いずれも偽装結婚が「判明」した、又は有罪判決を受けた事案である。偽装が疑われただけの事案ではない。

偽装結婚に関与することは、勧められない。この記事で扱っているのは、疑われた場合の法的な構造と、防御の筋道である。

婚姻は、在留特別許可でどれほどの重みを持つのか

結論:日本人との婚姻は、在留特別許可で大きな積極要素になる。ただし、重みを持つのは婚姻届の存在ではなく、婚姻の実態である。実態が認められなかった場合は、刑事処分がなくても不許可になっている。

配偶者が日本人の場合の公表事例を見ると、短い婚姻期間でも許可された例がある。

公表年分 結果 発覚、在日期間・不法滞在期間 婚姻期間、子 刑事処分等・特記事項
令和7年 許可(日本人の配偶者等・1年) 出頭申告・不法残留、約6年1月・約6年 約1年4月、子なし 刑事処分なし
令和7年 許可(同上) 出頭申告・不法残留、約5年9月・約5年8月 約1年1月、子1人(未成年) 刑事処分なし
令和6年(施行後) 許可(同上) 警察逮捕・不法残留、約20年10月・約10年3月 約2月、子なし 入管法違反(不法残留)により懲役2年6月、執行猶予4年
令和5年 不許可 出頭申告・不法残留、約4年4月・約1年9月 約1年8月、子なし 刑事処分なし。「婚姻・同居の実態が認められなかったもの。」
令和2年 不許可 出頭申告・不法残留、約4年7月・約1年6月 約6月、子なし 刑事処分なし。「婚姻の実態がないもの。」
令和5年 不許可 摘発・不法就労助長、約29年9月 約30年3月、子なし 入管法違反(不法就労助長)により罰金30万円の略式命令。「婚姻・同居の実態が認められなかったもの。」

令和7年の許可事例(婚姻約1年4月・子なし・刑事処分なし)と、令和5年の不許可事例(婚姻約1年8月・子なし・刑事処分なし)を比べると、発覚の経緯も、子の有無も、刑事処分の有無も同じである。婚姻期間は、むしろ不許可例のほうが長い。違いとして記載されているのは、「婚姻・同居の実態が認められなかった」という特記である(年分が異なる事例の比較であり、在日期間などの差もある)。令和5年には、婚姻約30年3月でも、実態が認められなかったとして不許可とされた例もある。

令和6年(施行後)の許可例は、さらに示唆に富む。警察に逮捕され、不法残留期間が約10年3月に及び、懲役2年6月(執行猶予4年)の判決を受けていても、婚姻約2月で「日本人の配偶者等(1年)」の許可がされている。在日期間が約20年10月と長いことなど、他の事情との総合判断であるが、婚姻の重みが、刑事処分や不法残留期間の長さを上回り得ることを示している。

他方で、摘発された後に婚姻した事案は、厳しく見られている。平成26年の公表事例には、勾留中に婚姻が成立した事案(婚姻約2月、不法入国で懲役2年・執行猶予4年)と、「摘発後,当局収容中に婚姻が成立したもの」(婚姻約1月)が、いずれも不許可とされている。前に見た令和2年の事例も、逮捕後に別の日本人と婚姻した事案である。ガイドラインが婚姻の積極評価から除くのは、「退去強制を免れるために」偽装した婚姻や、形式的な婚姻届だけの場合であった。手続の最中に慌てて入籍した、という経過は、そこに近づく。

内縁の評価も触れておく。ガイドラインの積極要素は、「法的に婚姻している場合」に限っている。当事務所が公表事例から内縁・婚約の記載のある事例を全件抽出して整理したところ、内縁のみを積極事情とし、夫婦間に子もない事案で許可された例は、平成26年〜令和7年の範囲では見当たらなかった。内縁期間が長い場合は、法律婚に移行した後に、婚姻期間の短さを補う事情として評価されている例がある(平成27年の許可事例で、婚姻約1年6月・内縁期間約11年9月)。

偽装結婚を疑われたとき、何から始めるべきか

結論:取調べや入管の聴取の前に、婚姻の経緯と実態を時系列で整理し、弁護士に相談する。資料を新たに作ったり、関係者と口裏を合わせたりしてはならない。

偽装結婚の捜査で、何が見られているのか。須賀は、捜査事項として、次のようなものを挙げている(須賀・前掲79頁-80頁)。

  • 婚姻に至った動機、目的
  • 婚姻を届け出るに至った経緯(出会った経緯、出会った後の交際の有無・状況、意思疎通の能力・程度)
  • 報酬の支払いの有無
  • 入国後の婚姻生活の実態(同居しているか、同居していなくても時々会っているか、性的関係があるか、各当事者の生活費の負担状況)
  • 外国人当事者の我が国における活動状況(就労の有無、就労で得た金員の使途)

須賀自身が、婚姻意思について、「意思はその者の内心であるから、その真実の解明には困難がつきまとうが、他の証拠の積み重ねが重要」と述べている(同79頁)。つまり、疑われた側は、同じ項目について、客観的な資料で事実を示すことになる。

段階ごとに、できることが違う。

第1に、警察の事情聴取や入管の調査の段階である。入管は、入管法59条の2に基づく事実の調査として、入国審査官に事実関係を調査させることがある(猪股・前掲182頁)。聴取で話した内容は、後の刑事手続や在留資格取消しの手続で使われる。説明の内容を整理する前に供述してしまうと、後から修正するのは難しい。外国語での聴取では、通訳の質も問題になる。

第2に、在留資格取消しの手続の段階である。取消しの前には、入国審査官による意見聴取が行われ、外国人又はその代理人は、期日に出頭して、意見を述べ、証拠を提出することができる(入管法22条の4第2項〜4項)。ここで婚姻の実態を示す資料を出せるかどうかが、取消しの可否を左右する。

第3に、刑事事件になった段階である。起訴されれば、有罪か無罪か、量刑がどうなるかが、在留特別許可の判断枠組みに直結する。無期又は1年を超える拘禁刑の実刑に処せられた者は、在留特別許可に際し、「本邦への在留を許可しないことが人道上の配慮に欠けると認められる特別の事情があると認めるときに限る」とされる(入管法50条1項ただし書)。執行猶予が付くかどうかは、在留の見通しに大きく響く。

最後に、申請書の記載について。大阪高判の事案は、同居の事実を偽った申請書を出したことが「偽りその他不正の手段」に当たると認められた事案である。実態があっても、別居の事実を偽って書くと、別の問題が生じる。申請書は、事実のとおりに書き、別居の事情があるなら、その事情を併せて説明するのが基本である。

この問題の限界はどこにあるのか

結論:大阪高判の射程は広くなく、偽装結婚の実態が事実としてある場合に、在留特別許可を期待するのは難しい。他方、実態のある婚姻まで偽装と決めつけることも許されない。

三点を述べておく。

第一に、大阪高判令和3年10月13日は、一事例にすぎない。評釈自身が、射程は広くないかもしれないと述べている。しかも、無罪の決め手は、因果関係を肯定するための立証を検察官が尽くさなかったことにあった(西村・前掲150頁-151頁は、「検察官による更なる立証が行われなかったため、利益原則に従い、上記のような結論となった」と整理する)。本件の判断を、偽装結婚の疑いがあっても無罪になる、と読むことはできない。

第二に、私は、この記事で引用した大阪高判の判旨を、評釈の引用により確認している。判決原文(判例タイムズ1503号50頁、高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号408頁)は、記事の公開前に改めて照合する。

第三に、公表事例は、抜粋である。許可事例と不許可事例の線引きは、事例から推測するほかなく、個別の事案に当たるときは、事実関係の詳細を踏まえて、同種の事例との本質的な異同を検討する必要がある。

そのうえで、私は、次の点を主張したい。夫婦のあり方は、一様ではない。別居している夫婦も、生計を別にしている夫婦も、世の中には現にいる。在留資格を得たいという動機が併存していることを理由に、実態のある婚姻を偽装と断じることは、最高裁が示した「便法として仮託されたにすぎない」という基準を超えて、婚姻の自由に踏み込むことになる。他方で、婚姻の実態が本当になく、届出だけがある婚姻は、在留特別許可の場面でも、保護される婚姻にならない。この線を、事実に基づいて引くのが、弁護人の仕事である。

よくある質問

Q1 偽装結婚と認定された場合でも、在留特別許可を受けられる可能性はありますか。 公表事例に限れば、「偽装結婚」と特記された平成26年分〜令和7年分の8件は、すべて不許可です。ガイドラインも、偽装した婚姻を積極要素から除き、在留資格の偽装に関わる行為を消極要素に挙げています。ただし、公表事例は抜粋であり、個別の事情次第で結論が変わる余地は、理論上は残ります。

Q2 在留資格を得たい気持ちで結婚した場合、偽装結婚になりますか。 動機だけでは偽装結婚になりません。最高裁は、婚姻が「単に他の目的を達するための便法として仮託されたにすぎない」場合に、婚姻意思を欠くとしています。大阪高裁令和3年10月13日判決は、「在留資格を得たいという動機と婚姻の実態を形成する意思は両立し得る」という趣旨の判断をしています(評釈による引用)。

Q3 同居していなければ、婚姻の実態がないと判断されますか。 同居の有無だけでは決まりません。大阪高裁は、同居の事実がなくても婚姻の実態が認められた事案で、通常は更新が許可されるのが入管当局の扱いだと認定しました。ただし、実態があっても同居していると偽って申請すれば、虚偽申請の問題が生じます。

Q4 偽装結婚を疑われて事情を聴かれています。まず何をすべきですか。 聴取に応じる前に、婚姻の経緯と実態(出会い、交際、同居の有無と理由、生活費の負担、連絡の記録など)を時系列で整理し、弁護士に相談してください。資料を新たに作ったり、関係者と口裏を合わせたりすることは、事態を悪化させます。

Q5 日本人の配偶者も処罰されますか。 共謀して虚偽の申請や虚偽の届出をした場合は、共犯として刑事責任を問われ得ます。婚姻届の面では、戸籍に不実の記載をさせたとして、刑法157条1項(公正証書原本不実記載等罪)が問題になります。

Q6 婚姻届を出していれば、在留特別許可で有利になりますか。 実態のある婚姻であれば、大きな積極要素になります。届出だけで実態が認められなければ、刑事処分がなくても不許可になった公表事例があります(令和2年、令和5年)。内縁のみで子もない事案で許可された公表事例は、当事務所の整理では見当たりません。

出典

  • 出入国管理及び難民認定法22条の4・24条・50条・70条、民法739条・742条、刑法157条・158条(e-Gov法令検索、令和8年10月3日確認)
  • 出入国在留管理庁「在留特別許可に係るガイドライン」https://www.moj.go.jp/isa/deportation/resources/08_00035.html
  • 出入国在留管理庁「在留特別許可された事例及び在留特別許可されなかった事例について」平成26年分〜令和7年分(原典PDFで確認)
  • 大阪高判令和3年10月13日(令和3年(う)第59号)高等裁判所刑事裁判速報集(令3)号408頁、判例タイムズ1503号50頁(西村・猪股の評釈の引用による)
  • 大阪地判令和2年12月9日判例集未登載(猪股の評釈による)
  • 最判昭和44年10月31日民集23巻10号1894頁(須賀・捜査研究814号の引用による)
  • 最判平成14年10月17日民集56巻8号1823頁(猪股・警察学論集76巻6号の引用による)
  • 西村剛輝「特別刑法判例研究【108】入管法70条1項2号の2における「偽りその他不正の手段」と「許可」との間の因果関係」法律時報95巻11号148頁(2023年)
  • 猪股正貴「刑事判例研究〔539〕」警察学論集76巻6号170頁(2023年)
  • 須賀正行「元検察官のキャンパスノート No.87 外事事件 在留資格等不正取得罪(入管法70条1項2号の2)」捜査研究814号71頁(2018年)

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執筆者

松村大介(弁護士、舟渡国際法律事務所、第一東京弁護士会所属、登録番号59077) 中国語圏の依頼者の刑事弁護と、入管・在留に関する行政訴訟を主な業務としています。 事務所サイト:https://matsumura-lawoffice.jp/ 代表電話:050-7587-4639 微信(WeChat)ID:matsumura1119 最終更新日:2026年10月3日

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