舟渡国際法律事務所

キャッシュカードを受け取っただけで逮捕された外国人の方へ|「身分証不携帯」の裏にある詐欺・窃盗の捜査と、黙秘の意味

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キャッシュカードを受け取っただけで逮捕された外国人の方へ|「身分証不携帯」の裏にある詐欺・窃盗の捜査と、黙秘の意味

キャッシュカードを受け取っただけで逮捕された外国人の方へ|「身分証不携帯」の裏にある詐欺・窃盗の捜査と、黙秘の意味

2026/09/04

「知り合いに頼まれて封筒を受け取っただけ」「アプリで見つけた高収入の仕事で、カードを預かってATMでお金を下ろしただけ」。そうお考えのまま逮捕され、日本の刑事手続に直面している外国人の方が、いま各地にいらっしゃいます。逮捕状の罪名が在留カードの不携帯や軽微な違反であっても、捜査機関が本当に調べようとしているのは、その先にある詐欺罪・窃盗罪であることが少なくありません。本記事は、日本語を母語としない当事者の方とそのご家族に向けて、最初の数日で何が起き、そこで何をすべきかを、条文と裁判例に即して整理したものです。

本記事の要点

  • キャッシュカードや現金の受取役(受け子)・引出役(出し子)は、金銭を手にしていなくても、詐欺罪(刑法246条1項・10年以下の拘禁刑)の共同正犯として立件されます。
  • 高齢者から警察官や銀行員を装ってカードを預かり、封筒ごとすり替える手口は、詐欺ではなく窃盗罪(刑法235条)として扱われます。
  • 「詐欺だとは知らなかった」という弁解は、最高裁平成30年12月11日判決・同月14日判決の枠組みにより、認識した状況の不自然さから故意が推認されて排斥されることが多いのが実情です。
  • 受け取る前に捕まった未遂の事案でも罪は成立し、未遂による減軽は任意的なものにすぎません(刑法43条本文)。実刑を科された割合は法務省の調査で5割を超えています。
  • 1年を超える拘禁刑の実刑が確定すると、入管法24条4号リの退去強制事由に該当し、日本での生活の基盤そのものが失われます。だからこそ、起訴前の段階で不起訴処分を目指す弁護活動が決定的に重要です。

在留カードを持っていなかっただけなのに、なぜ逮捕されたのですか

在留カードの携帯は入管法23条2項が定める義務であり、違反した場合の罰則は20万円以下の罰金です(同法75条の3)。旅券の携帯義務違反であれば10万円以下の罰金にとどまります(同法23条1項・76条1号)。16歳未満の方に携帯義務はありません(同条5項)。いずれも拘禁刑のない、軽い部類の罪です。

それでも逮捕・勾留はできてしまいます。刑事訴訟法199条1項ただし書は軽微な罰金にあたる罪について逮捕の要件を絞っていますが、その基準額は入管法のような刑法以外の法律の罪では当分の間2万円とされており、20万円以下の罰金にあたる在留カード不携帯はこの制限にかかりません。法律上は通常どおり逮捕・勾留が可能な罪なのです。

問題は、その身柄拘束の期間中に行われる取調べの中身です。職務質問の端緒がATMの防犯カメラの画像であったり、被害者宅周辺での目撃情報であったりする場合、警察が最初から見据えているのは詐欺・窃盗です。軽微な罪名で身柄を確保し、勾留期間を使って本命の事件を固め、満期近くに詐欺罪で再逮捕する。特殊詐欺の実行役の捜査では珍しくない流れです。逮捕状の罪名が軽いことは、事件が軽いことを意味しません。

受け取っただけ、下ろしただけでも罪になりますか

なります。詐欺罪は、欺く行為・錯誤・交付・財産の移転という一連の過程を全体として捉える犯罪であり、そのうち一つの役割を分担した者は、刑法60条により共同正犯として全体の責任を負います。電話をかけた者と、玄関先で封筒を受け取った者と、ATMで現金を引き出した者は、法的には同じ「正犯」です。報酬が数万円でも、被害額が数百万円であれば、その数百万円の詐欺の正犯として扱われます。

手口によって罪名は変わります。被害者にうそを言って自らカードを差し出させる類型は詐欺罪ですが、警察官や金融機関の職員を装って「封筒に入れて保管してください」と指示し、被害者が印鑑を取りに離れた隙に偽のカード入り封筒とすり替える類型は、被害者の意思に基づく交付がないため窃盗罪(10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)となります。

なお警察庁の統計によれば、令和6年の特殊詐欺の検挙人員2,274人のうち、受け子・出し子とその見張り役が1,651人、72.6%を占めます。逮捕されるのは末端の受取役なのです。同年の外国人の検挙人員は130人で、国籍別では中国39人、ベトナム32人でした。

「詐欺とは知らなかった」という説明は通りますか

ここが最も誤解されている点です。故意の立証は、被告人が「知っていた」と述べる必要はなく、置かれた状況から推認されます。

最高裁は平成30年12月11日の判決(刑集72巻6号672頁)で、他人になりすまして空室で宅配便を受け取り駅のトイレに置く仕事を報酬1万円で繰り返していた事案につき、その手口が報道等で広く知られているかどうかにかかわらず、被告人が認識していた事実からすれば詐欺に当たる可能性を認識していたと推認できると判示しました。被告人は「拳銃か薬物だと思っていた」と弁解しましたが、中身を確認したわけでもなく、詐欺の可能性の認識が排除されたことをうかがわせる事情はない、として退けられています。同月14日の判決(同巻同号737頁)も同じ枠組みを採りました。

身分証を偽って荷物を受け取る、他人名義のカードでATMを操作する、指示は消えるメッセージアプリでしか来ない、報酬が労力に比して不自然に高い——こうした事情が一つでも供述調書に残れば、「知らなかった」という主張は極めて通りにくくなります。取調べの初期に何をどう話すかが、故意の認定を左右します。

未遂で終わったのだから軽く済みますか

そうとは限りません。詐欺罪の未遂は刑法250条で処罰され、未遂による刑の減軽は「できる」と定められた任意的なものにすぎません(刑法43条本文)。

実行の着手も、想像より早い段階で認められます。最高裁令和4年2月14日決定(刑集76巻2号101頁)は、電話をかける役が被害者にうそを言った後、すり替え役が被害者宅の約140メートル手前で警察官に気づいて断念した事案につき、うそが被害者を従わせる状況を作り出していたことと被害者宅付近まで到達していたことを併せれば占有侵害の危険は明らかであるとして、窃盗未遂罪の成立を認めました。カードに触れてすらいなくても未遂は成立します。

警察が被害者の協力を得てあらかじめ待ち構える「だまされたふり作戦」の後に加わった場合も同様で、最高裁平成29年12月11日決定(刑集71巻10号535頁)は、既にうそが見破られていることを知らずに荷物の受領に関与した者につき、詐欺未遂罪の共同正犯の責任を認めています。

そして量刑です。法務省の確定記録調査によれば、特殊詐欺の受け子・出し子等の実行役のうち、刑の全部の実刑を科された者の割合は54.9%に上ります。全部執行猶予は3年以下の拘禁刑の言渡しを受けた場合に可能ですが(刑法25条1項)、組織的犯行への加担、被害額の大きさ、被害弁償の困難さといった事情が重なり、初犯でも実刑となる例が相当数あります。「未遂だから」「初めてだから」という理由だけで日本に残れると考えるのは危険です。

有罪になったら在留資格はどうなりますか

入管法24条4号リは、無期又は1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由と定めています(全部執行猶予が付された場合は除外)。詐欺の実行役の量刑は1年を超えることが多く、実刑判決が確定すればこの規定に直接該当します。

退去強制に至らない場合でも、在留期間の更新が不許可となったり(入管法21条)、在留資格が取り消されたり(同法22条の4)するリスクは残ります。留学生であれば学校を除籍され、就労資格であれば雇用契約が終了し、資格の基礎自体が失われることも少なくありません。

したがって外国人の刑事事件における目標は、執行猶予判決の獲得ではありません。起訴される前に不起訴処分を獲得することです。検察官に対し、関与の経緯・組織内での地位・欺罔の程度・被害弁償の努力を具体的な資料で示し、公訴を提起しない判断を求める。この起訴前の数週間の活動が、その後の人生の所在地を決めます。

いま、この瞬間にできる三つのこと

第一に、黙秘権を行使することです。日本の取調べでは、話した内容が捜査官の作文した供述調書にまとめられ、署名すれば後の裁判で有力な証拠となります。善意を説明しようとした一言が、故意を推認させる事実の自白として記録される危険が常にあります。弁護人と方針を決めるまでは何も話さないという選択が、最も安全です。

第二に、弁護人を選任することです。逮捕直後であれば当番弁護士を、方針を継続的に共有するのであれば私選弁護人を、いずれにせよ最初の72時間のうちに呼んでください。勾留を阻止できるか否かは、この期間の活動で決まります。

第三に、通訳です。捜査機関が用意する通訳人は捜査機関の側に立つ者であり、訳し方のわずかなずれが供述調書に不利な形で固定されます。また領事関係に関するウィーン条約36条1項(b)により、逮捕された外国人には自国の領事による接見・通信を求める権利がありますが、この告知が遅れる例も見受けられます。弁護人の側で独自に通訳を確保することの意味は、ここにあります。

当事務所のご案内

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)の松村大介弁護士(第一東京弁護士会・登録番号59077・2019年登録)は、中国籍をはじめとする外国人の刑事弁護と入管手続を主たる注力分野としています。

特殊詐欺の分野では、出し子行為に関わったとされた20代女性について、指示役からの欺罔的・脅迫的な状況と犯意の不存在を総合的に主張し、不起訴処分を獲得した事例があります。また、受け子として複数回にわたり再逮捕された事案において、取調べへの徹底した対応と不当な取調べへの抗議を重ね、全件について不起訴処分を得た事例もあります。

刑事手続の後の入管手続にも一貫して対応します。不法就労助長罪に問われ強制退去の危機にあった女性の事案では、退去強制事由の判断に故意・過失を要しないとする従来の実務に対し、責任主義の射程を問う訴訟を提起して上訴審まで争い、その後に在留特別許可が認められました。刑事事件の段階から故意・過失を争うことが後の入管手続における主張の土台になるという考え方は、当事務所が現に係争中の論点でもあります。

当事務所では、接見の初動から公判の結審まで、松村大介弁護士が全工程を直接担当します。外国人事件に精通した中国語専属通訳が常駐しており、中国語以外の言語については事案に応じて通訳人を手配いたします。刑事手続終了後の在留資格の更新・変更等は、提携の行政書士とともにワンストップで対応します。

なお、過去の解決事例は個別の事情に基づくものであり、同様の結果を保証するものではございません。

おわりに

受け子・出し子として摘発された方の多くは、組織の全体像を知らず、名前も顔も知らない相手からメッセージアプリで指示を受けていただけです。しかし日本の刑事法は、その一片の役割分担に全体の責任を負わせます。逮捕状の罪名が軽いからと安心せず、取調べに応じる前に弁護人を呼んでください。適切な初動によって道が開ける事案は、確実にあります。

本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。

本記事は2026年9月時点の情報に基づいています。

よくあるご質問

Q. 逮捕された家族と連絡を取ることはできますか。

A. 勾留され接見等禁止が付されている場合、ご家族との面会や手紙のやりとりは制限されます。弁護人はこの制限を受けずに接見できるため、弁護人を通じて状況を把握し、ご家族へお伝えするという経路が現実的です。接見等禁止の一部解除を求める申立てを行うこともあります。

Q. 報酬を受け取っていなくても罪になりますか。

A. なります。詐欺罪・窃盗罪の成立に、実行役が報酬を得たことは要件とされていません。報酬の有無や金額は、量刑を判断する一事情として考慮されるにとどまります。

Q. 被害者に返金すれば不起訴になりますか。

A. 被害弁償と示談は、不起訴処分を求めるうえで重要な事情ですが、それだけで結論が決まるわけではありません。特殊詐欺では被害者が多数にのぼり、また被害金が組織に渡って手元にないことも多く、弁償の可否と方法は事案ごとに慎重な検討を要します。

Q. 母国に帰ってしまえば済む話ではありませんか。

A. 逮捕・勾留されている間は出国できません。仮に釈放されても、退去強制手続を経て送還された場合には、原則として5年間または10年間の上陸拒否期間が生じ、その後の来日が長期にわたって困難になります。刑事手続の段階で結果を変えることの意味は、ここにもあります。

執筆者

松村 大介(まつむら だいすけ)/弁護士

第一東京弁護士会所属(登録番号:59077/2019年登録)

舟渡国際法律事務所(東京都豊島区高田三丁目4番10号 布施ビル本館3階)

中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護・入管手続を主たる注力分野とする。覚醒剤取締法違反(営利目的所持)での無罪判決獲得、特殊詐欺事案での不起訴処分獲得、難関とされた在留特別許可の獲得等の解決実績を有する。

舟渡国際法律事務所

ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/

微信ID:matsumura1119

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