違反調査とは|入国警備官による調査の端緒から収容令書の請求までの流れ
2026/09/04
違反調査とは、入国警備官が、外国人について退去強制事由に該当する容疑があると認めるときに、その事実の有無を明らかにするために行う調査をいう。退去強制手続の入口に当たる手続であり、この調査の結果を踏まえて、入国警備官は主任審査官に収容令書の発付を請求する。
この記事の要点
- 違反調査は入国警備官が担当し、退去強制事由に該当する容疑の有無を確かめる行政調査である。
- 端緒は、本人の出頭申告、警察等からの通報、事業所への立入り、他の在留手続での判明など多様である。
- 質問は任意の調査であるが、臨検・捜索・押収を行うには裁判官の許可状を要する。
- 容疑が認められると収容令書が発付され、身柄は入国審査官に引き渡されて違反審査に移る。
違反調査とは何か
違反調査は、退去強制手続の最初の段階に位置する事実調査である。入管法は、外国人が退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由があるときに、入国警備官がその事実を調査することができる旨を定めている。ここでいう退去強制事由とは、不法残留、不法入国、資格外活動、一定の刑罰に処せられたことなど、入管法第24条が列挙する事由である。
違反調査は、刑罰を科すための捜査ではなく、退去強制という行政処分を行うべきかどうかを判断するための調査である。根拠となるのは入管法であり、手続の性質は刑事手続とは異なるが、調査で明らかになった事実が刑事事件の端緒となることもある。
違反調査はどのような端緒から始まるか
違反調査の端緒は一つに限られない。実務上よく見られるのは次の場面である。
- 在留期間を過ぎた本人が、自ら地方出入国在留管理局に出頭して申告した場合
- 警察に検挙され、刑事手続の過程で在留状況が判明して入管に通知された場合
- 入国警備官が事業所や住居に赴いて調査し、稼働の実態が判明した場合
- 在留期間の更新や在留資格の変更の審査で、申請内容と実態の食い違いが判明した場合
どの端緒から始まったかは、その後の見通しを左右する。自ら出頭した場合と摘発された場合とでは、後の評価が異なりうるからである。
違反調査ではどのようなことが行われるか
違反調査の中心は、容疑者本人および関係者に対する質問である。入管法上、入国警備官は、調査のため必要があるときは、容疑者の出頭を求めて質問し、関係人に質問し、公務所等に照会して報告を求めることができる。いずれも相手方の任意の協力を前提とする。
これに対し、住居等に立ち入って臨検し、証拠物を捜索し押収する処分は、権利の制約が強いため、あらかじめ裁判官の発する許可状を得なければならない。許可状のない立入りに応じる法的義務は原則としてない。
| 調査の方法 | 性質 | 裁判官の許可状 |
|---|---|---|
| 容疑者への出頭要求と質問 | 任意 | 不要 |
| 関係人への質問 | 任意 | 不要 |
| 公務所等への照会 | 任意 | 不要 |
| 臨検・捜索・押収 | 強制 | 必要 |
質問の結果は調書にまとめられ、署名等を求められる。内容を理解しないまま署名すると後に不利に働くことがあるため、通訳を通じて確認することが重要である。
出頭申告と摘発は何が違うか
結論として、いずれも違反調査に至る点は同じであるが、身柄の扱いと後の評価に差が生じやすい。自ら出頭した場合は、事前に住居や身元引受人を準備できるため収容を避けやすい。
| 比較の視点 | 自ら出頭して申告した場合 | 摘発された場合 |
|---|---|---|
| 手続の始まり方 | 本人の申告 | 入国警備官の調査や関係機関からの通知 |
| 身柄 | 収容されずに手続が進む例がある | 収容令書が発付されることが多い |
| 出国命令の対象 | 不法残留のみで他の要件を満たせば対象となりうる | 対象とならない |
| 在留特別許可の判断 | 有利な事情として考慮されうる | 特段の有利な事情とはならない |
違反調査の後はどう進むか
違反調査が終わると、手続は収容と審査の段階へ移る。入国警備官は、退去強制事由に該当すると疑うに足りる相当の理由があると判断した場合、主任審査官に収容令書の発付を請求し、これを執行して入国審査官に身柄を引き渡す。引渡しを受けた入国審査官が行うのが違反審査である。
違反審査で退去強制事由に該当すると認定され、これに服さない場合は口頭審理を請求することができ、その判定にも服さない場合は異議の申出をすることになる。違反調査で作成された調書は、これらの各段階でも基礎資料として用いられる。
違反調査ではどのような点に注意すべきか
最も重要なのは、この段階で述べた内容が後の手続を通じて使われる点である。入国の経緯、稼働の状況、家族関係、生活の実態は、いずれも後に在留特別許可の可否を判断する際の考慮事情に直結する。記憶が不確かなまま断定的に述べ、事実と異なる調書に署名すると、後から訂正することは容易ではない。
通訳の質も見過ごせない。日本語の質問を十分に理解できないまま応答が記録されると、意図しない内容が事実として固定される。理解できない点はその場で伝え、訂正を求めるべきである。
外国人の刑事事件で違反調査が問題になるのはどのような場面か
刑事処分が決まる前後の時期に違反調査が動き出すことが多い。起訴猶予や罰金であっても、在留資格に対応する活動と実態が食い違えば違反調査の対象となりうるし、実刑判決を受けた場合は刑期の満了に合わせて入管が身柄を引き継ぐ取扱いが一般的である。
そのため、刑事弁護の段階から、判決後にどの退去強制事由が問題となるのか、在留特別許可を求める余地があるのかを想定し、示談書や身元引受書などの資料を整えておく必要がある。
よくあるご質問
Q1 違反調査で呼び出されたら必ず収容されますか。
必ず収容されるわけではありません。退去強制事由に該当する容疑が認められれば収容令書が発付されるのが原則ですが、令和5年改正入管法の施行後は、収容に代えて監理措置に付される場合もあります。呼出しを受けた段階でご相談ください。
Q2 違反調査で黙っていることはできますか。
質問に対して供述を拒むことはできると解されています。ただし、退去強制手続は行政手続であり、何も述べないことが有利に働くとは限りません。在留を求める事情があるなら、むしろ的確に述べて記録に残す必要があります。
Q3 自分から入管に出頭した方がよいのでしょうか。
在留期間を過ぎた方が自ら出頭した場合、一定の要件を満たせば出国命令の対象となり、上陸拒否期間が短くなります。在留特別許可を求める場合にも有利な事情として評価されやすい傾向があります。もっとも出頭すれば解決するわけではありません。
Q4 違反調査に弁護士が立ち会うことはできますか。
入国警備官の質問の場に弁護士が当然に立ち会えるという扱いにはなっていません。もっとも、事前に事情を整理して書面を提出し、調査後の手続に備えて資料を準備することは可能です。
Q5 刑事事件の捜査中でも違反調査は行われますか。
行われることがあります。警察や検察庁から入管へ通知され違反調査が始まる例は少なくありません。実刑判決を受けて服役した場合には、刑期の満了時に身柄が入管へ引き継がれる取扱いが一般的です。
おわりに
違反調査は退去強制手続の入口であるにもかかわらず、当事者にとっては何が始まったのか分かりにくい。呼出しの通知を受け取っただけで、収容されるのか、家族と離れるのか、仕事はどうなるのかが判然としないまま日が過ぎることも多い。この段階で事実と資料を整理できるかどうかが、後の見通しを大きく変える。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。
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