舟渡国際法律事務所

被疑者ノートとは|取調べの記録と秘密交通権による保護の範囲と意義

お問い合わせはこちら

被疑者ノートとは|取調べの記録と秘密交通権による保護の範囲と意義

被疑者ノートとは|取調べの記録と秘密交通権による保護の範囲と意義

2026/09/04

被疑者ノートとは、身体を拘束された被疑者が、取調べで何を聞かれ、何を答えたかなどを自ら記録するために用いるノートをいう。日本弁護士連合会が作成しているもので、弁護人が接見の際に差し入れ、本人が居室で日々記入する。取調べの状況を後から検証するための、被疑者側の記録である。

この記事の要点

  • 取調べの経過を本人が同時進行で記録することで、後日の争いに備えるための道具である。
  • 弁護人との打合せのための書類であるから、捜査機関がその内容を閲読することは許されない。
  • 取調官から提示を求められても、これに応じる義務はない。
  • 供述の任意性や信用性を争う場面で、記載の具体性と連続性が意味を持つ。
  • 通訳を介する外国人の事件では、訳のやりとりを記録しておく価値が特に高い。

被疑者ノートとは何か

被疑者ノートは、取調べを受けた本人が、その日のうちに状況を書き残すための記録用のノートである。取調べの録音、録画は一定の重大な事件などに限られており、多くの事件では取調室の中で何があったかを事後に確かめる手段が乏しい。捜査機関の側には取調べ状況報告書などの記録が残るのに対し、被疑者の側にはほとんど何も残らない。この非対称を少しでも埋めるために用いられるのが被疑者ノートである。表紙には、これが弁護人との打合せのための書類であることが明記されている。

被疑者ノートには何を書けばよいか

取調べのたびに、日時と担当者と内容を、そのとき感じたことを含めて書くのがよい。記憶は日を追って薄れ、後から思い出して書いたものは正確性を疑われる。その日のうちに書くことに意味がある。

記載項目具体的に書く内容
日時取調べの開始時刻と終了時刻、休憩の有無と長さ
担当者取調官の氏名又は特徴、同席者、通訳人の氏名
やりとり聞かれたこと、答えたこと、言われて気になった言葉
調書調書を作成したか、読み聞かせがあったか、署名したか、訂正を求めたか
体調睡眠、食事、持病、服薬、体調の変化

被疑者ノートはどうやって入手するか

弁護人が接見の際に持参し、差し入れる。国選弁護人であっても私選弁護人であっても取扱いは変わらない。差し入れられたノートは、居室に持ち込んで保管することが認められている。筆記具の使用や保管の方法について施設ごとに運用の差があるため、記入が妨げられる場合には、その事実を弁護人に伝え、施設に対して申入れをしてもらうことになる。弁護人が選任されていない段階では入手できないため、逮捕後できるだけ早く弁護人を選任することが前提となる。

捜査機関に内容を見られてしまうことはないか

被疑者ノートの内容を捜査機関が閲読することは許されない。刑訴法39条は、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人と立会人なしに接見し、書類又は物の授受をすることができると定めており、弁護人との打合せのために作成された書類の秘密は、この接見交通権によって保護される。取調官から提示や提出を求められても、応じる義務はない。求められた事実そのものを日付とともに記録し、次の接見で弁護人に伝えることが重要である。仮に押収されるような事態が生じたときは、押収に関する処分に対する準抗告によって争うことになる。

被疑者ノートはどのように使われるか

供述調書の任意性や信用性を争う場面で、事実経過を裏付ける資料として機能する。長時間の取調べが繰り返されたこと、否認しているのに調書が作られたこと、体調不良を訴えたのに続行されたことなどは、同時進行の記録があるかないかで説得力が大きく変わる。公判で証拠として取り調べるかどうかは弁護人と相談して決めることになり、提出すれば記載の全体が明らかになるため、有利な部分だけを選ぶことはできない。使わない選択もあり得るが、書いていなければ選択の余地自体がない。

外国人の事件で被疑者ノートが問題になるのはどのような場面か

通訳を介した取調べでは、訳出の過程で内容がずれる危険があり、その検証手段として意味を持つ。供述調書は日本語で作成され、通訳人が読み聞かせて本人が署名する運びとなるため、本人が述べた内容と調書の記載が一致しているかどうかを、本人の側から確かめることは難しい。誰が通訳したのか、通訳人が交替したのか、聞き返しがあったのか、自分の言った言葉が正確に訳されていないと感じた場面はあったのか、といった記録が後の争点になる。また、在留資格への影響を心配するあまり事実と異なる供述をしてしまう例もあり、そのような心理的な経緯を書き残しておくことが、後の説明に役立つことがある。

よくあるご質問

Q1 被疑者ノートはどこで手に入りますか。

弁護人が接見の際に持参して差し入れるのが一般的です。ご家族が直接入手して差し入れることは通常できませんので、まず弁護人にご相談ください。私選、国選のいずれの場合でも差入れは可能です。

Q2 取調べで見せるように言われたら、見せなければいけませんか。

見せる義務はありません。被疑者ノートは弁護人との打合せのための書類であり、その内容を捜査機関が把握することは秘密交通権を害します。断りにくい状況であれば、断ったこと自体をノートに記録し、次の接見で弁護人に伝えてください。

Q3 何を書けばよいのか分かりません。

日付、時間、取調官の氏名、聞かれたこと、答えたこと、調書に署名したかどうか、体調と食事、これらを毎回書けば十分です。うまく書けなくても、断片的なメモが後から意味を持つことがあります。

Q4 中国語で書いてもよいですか。

母語で書いて構いません。むしろ、慣れない日本語で書こうとして記載が薄くなるより、母語で詳しく書いた方が有益です。必要になった段階で、弁護人が翻訳の手配をします。

Q5 書いた内容は必ず裁判で使われるのですか。

使うかどうかは弁護人と相談して決めます。提出すれば内容全体が明らかになるため、有利な部分だけを取り出して使うことはできません。書いておくこと自体に意味があり、使うかどうかは後から判断できます。

関連する用語として、苦情の申出一般面会領置もあわせてご確認ください。

おわりに

取調室の中で起きたことを後から立証するのは容易ではない。被疑者ノートは、その困難を少しでも減らすための、本人にしか作れない記録である。

外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。

本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。

本記事の簡体字版はこちらをご覧ください。

執筆者情報

弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。

舟渡国際法律事務所
ウェブサイト:https://matsumura-lawoffice.jp/
微信ID:matsumura1119

----------------------------------------------------------------------
舟渡国際法律事務所
住所 : 東京都豊島区高田3丁目4-10布施ビル本館3階
電話番号 :050-7587-4639


東京にて中国人の方をサポート

東京を中心に刑事事件の弁護

----------------------------------------------------------------------

当店でご利用いただける電子決済のご案内

下記よりお選びいただけます。