贖罪寄付とは|被害者がいない事件で反省を示す方法と手続の進め方
2026/09/04
贖罪寄付とは、被害者が存在しない事件や、被害者との示談が成立しない事件において、被疑者又は被告人が反省の意思を具体的な形で示すため、弁護士会その他の公益的な団体に対して行う寄付をいう。受領証明書が発行され、弁護人がこれを情状に関する資料として捜査機関や裁判所に提出する。
この記事の要点
- 贖罪寄付は法律上の制度ではなく、情状を示す方法として実務に定着した取扱いである。
- 薬物事犯や入管法違反など、被害者が存在しない類型で用いられることが多い。
- 各弁護士会が窓口を設けており、寄付金は法律援助などの公益目的に充てられる。
- 金額に一律の基準はなく、事案の重さと本人の資力に応じて弁護人と相談して決める。
- 寄付をしただけで処分が決まるものではなく、他の情状と組み合わせて初めて意味を持つ。
贖罪寄付とは何か
贖罪寄付とは、被害者への直接の償いができない事件で、反省の意思を金銭の形で外部に示す方法である。刑事訴訟法に定めのある制度ではなく、実務の中で定着した取扱いにすぎない。それでも一定の意味を持つのは、検察官が処分を決めるにあたり、また裁判所が量刑を判断するにあたり、犯罪後の情況を考慮するためである。
被害者のいる事件であれば、償いは示談や被害弁償という形をとる。しかし、被害者が存在しない事件では、償いの相手方がいない。贖罪寄付は、この空白を埋めるために、公益的な団体に対する支払という形をとったものである。
贖罪寄付はどのような事件で行われるか
被害者が存在しない事件と、被害者が示談に応じない事件が中心である。具体的には次のような場面が想定される。
| 場面 | 具体例 | 取りうる方法 |
|---|---|---|
| 被害者が存在しない | 薬物事犯、入管法違反、銃刀法違反、無免許運転 | 贖罪寄付 |
| 被害者が特定できない | 被害品が返還され被害者が処罰を求めない場合など | 贖罪寄付 |
| 被害者が受領を拒む | 謝罪も金銭も一切受け取らないと表明されている場合 | 供託又は贖罪寄付 |
| 被害者がいる | 窃盗、傷害、器物損壊など | 示談を優先する |
被害者がいる事件で、示談の努力をしないまま贖罪寄付だけを行うと、被害者を回避したという印象を与えかねない。順序として示談が優先することを、はっきりと意識しておく必要がある。
贖罪寄付はどこに、いくら寄付するのか
寄付先としては、各弁護士会が設けている窓口が一般に用いられる。集められた資金は、資力の乏しい人のための法律援助事業や犯罪被害者の支援など、公益的な目的に充てられる。弁護士会以外にも、公益的な活動を行う団体が寄付を受け付けている例がある。
金額に一律の基準はない。事案の重さ、本人の資力、他にどのような情状を積み上げられるかによって決まる。資力を大きく超える金額を無理に用意する必要はなく、金額の多寡がそのまま評価に比例するわけでもない。一度納めた寄付金は、不起訴となった場合でも返還されない。
贖罪寄付は刑事手続でどのように評価されるか
贖罪寄付は、有利な情状の一つとして考慮されるが、それのみで処分や量刑が決まるものではない。資力さえあれば誰でもできる行為であるため、寄付という事実だけを取り出しても、反省の深さを示す力は限られる。
したがって、贖罪寄付は、事実関係を認めていることを前提に、反省文、再犯に至らないための具体的な生活の設計、家族や雇用主による監督の誓約といった資料と組み合わせて提出する。起訴猶予を求める意見書や、執行猶予を求める弁論の中に位置づけて初めて、意味のある材料になる。
贖罪寄付の手続はどう進むか
手続は弁護人を通じて行うのが通常である。まず本人の意思を確認し、寄付先と金額を決める。次に、弁護士会等の窓口に申込みを行い、指定された方法で入金する。入金が確認されると受領証明書が発行され、これを情状に関する証拠として提出する。
時期が重要である。不起訴処分を求めるのであれば、検察官が処分を決める前に完了していなければ意味がない。身柄事件では勾留の期間が限られているため、方針が固まった時点で速やかに動く必要がある。判決の後に寄付をしても、その裁判の量刑には反映されない。
示談・被害弁償と贖罪寄付は何が違うか
相手方が誰かという点が最大の違いである。示談と被害弁償は被害者本人に対するものであり、贖罪寄付は被害者以外の公益的な団体に対するものである。
| 区分 | 相手方 | 被害者の同意 | 返還の有無 |
|---|---|---|---|
| 示談 | 被害者 | 必要 | 返還されない |
| 被害弁償 | 被害者 | 受領は必要 | 返還されない |
| 供託 | 供託所 | 不要 | 一定の場合に取戻しがありうる |
| 贖罪寄付 | 弁護士会等 | 不要 | 返還されない |
外国人の事件で贖罪寄付が問題になるのはどのような場面か
被害者のいない類型が多いという事情から、外国人の刑事事件では贖罪寄付を検討する場面が相対的に多い。薬物事犯、不法就労助長、資格外活動、偽造在留カードの所持といった類型は、いずれも社会全体の利益を保護する規定であり、償うべき相手方が存在しない。
もっとも、これらの類型では、寄付によって素行に関する評価が覆るとは限らない。個人の財産や身体を害する事件であれば、被害者との合意によって反社会性が個別に解消されたと説明できるのに対し、社会全体の利益を害する類型では、同じ説明が通用しないからである。それでも、受領証明書は在留期間の更新や変更の審査において反省と更生の姿勢を示す資料になる。帰国が予定されている場合には、出国の前に手続を終えておくことが望ましい。
よくあるご質問
Q1 いくら寄付すればよいですか。
一律の基準はありません。事案の重さ、本人の資力、他にどのような情状を積み上げられるかによって、弁護人と相談して決めることになります。資力を超える無理な金額を用意する必要はありませんし、金額の多さがそのまま評価に比例するわけでもありません。
Q2 贖罪寄付をすれば不起訴になりますか。
それだけで処分が決まるものではありません。贖罪寄付は、被害者への直接の償いができない事件で、反省の姿勢を客観的な形にする手段の一つです。反省文、再犯防止の計画、監督者の誓約といった資料と併せて初めて意味を持ちます。
Q3 寄付したお金は返ってきますか。
返還されません。不起訴となった場合でも、無罪となった場合でも同じです。したがって、事実関係を争うかどうかの方針が固まらないうちに寄付をすることは避け、弁護人とよく相談してから判断してください。
Q4 誰の名義で寄付しますか。
反省の主体は本人ですので、本人の名義で行うのが原則です。もっとも、身体を拘束されている間は本人が手続をできませんので、ご家族が資金を用意し、弁護人が本人の意思を確認したうえで手続を行うという形が一般的です。
Q5 在留の手続でも使えますか。
受領証明書は、在留期間の更新や変更の審査において、反省と更生の姿勢を示す資料として提出することができます。ただし、社会全体の利益を害する類型の事件では、寄付だけで素行に関する評価が覆るものではないことにご留意ください。
おわりに
贖罪寄付は、償う相手がいない事件で、反省をどう形にするかという問いへの一つの答えである。ただし、寄付は行為の重さを打ち消すものではない。なぜその行為に至り、これからどう生活を立て直すのかを説明する材料が揃って、初めて寄付にも意味が生まれる。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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