執行猶予とは|刑法25条の要件と、執行猶予でも退去強制となる場合を解説
2026/09/04
執行猶予とは、有罪判決において刑を言い渡しながら、一定の期間その執行を猶予し、期間を無事に経過したときは刑の言渡しの効力を失わせる制度をいう。刑法25条に定められている。刑事施設に収容されずに社会内で生活しながら更生を図ることを目的とするが、有罪判決である以上、前科となる。
この記事の要点
- 執行猶予は有罪判決であり、刑の執行が猶予されるだけで前科は残る。
- 猶予される期間は1年以上5年以下の範囲で定められる。
- 猶予期間を無事に経過すれば、刑の言渡しは効力を失う。
- 猶予期間中に再び罪を犯すなどした場合、猶予が取り消されることがある。
- 罪名と在留資格によっては、執行猶予でも退去強制事由に当たる。
執行猶予とは何か
執行猶予とは、刑を言い渡したうえで、その執行を待つ制度である。刑法25条は、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができると定めている。
猶予されるのは刑の執行であって、有罪の言渡しそのものではない。したがって、執行猶予の判決を受けた者は前科を有することになる。この点は、裁判が開かれず前科にもならない不起訴処分と決定的に異なる。
執行猶予の要件は何か
刑の全部の執行猶予が認められるための主な要件は次のとおりである。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 言い渡される刑 | 3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金であること |
| 前科の状況 | 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがないこと、または一定の期間が経過していること |
| 情状 | 情状により猶予が相当と認められること |
| 猶予の期間 | 1年以上5年以下の範囲で定められる |
| 保護観察 | 猶予期間中、保護観察に付されることがある |
このほか、刑の一部の執行を猶予する制度も設けられている。また、猶予期間中に再び罪を犯して拘禁刑に処せられた場合などには、猶予が取り消され、猶予されていた刑が執行される。
執行猶予期間が終わるとどうなるか
猶予期間を取消しなく経過すれば、刑の言渡しは効力を失う。これにより、その刑を理由とする資格の制限などは将来に向かって解消する。
もっとも、有罪判決を受けたという事実そのものが消えるわけではなく、前科としての記録は残る。その後に別の事件を起こした場合、量刑の判断において考慮されることになる。
執行猶予と起訴猶予は何が違うか
言葉は似ているが、判断する者も効果も異なる。
| 項目 | 執行猶予 | 起訴猶予 |
|---|---|---|
| 判断する者 | 裁判所 | 検察官 |
| 手続 | 公判を経て判決が言い渡される | 裁判は開かれない |
| 前科 | 付く | 付かない |
| 取消し | 猶予が取り消されることがある | 取消しの制度はない |
起訴猶予については、起訴猶予の解説をご覧ください。
外国人の事件で執行猶予が問題になるのはどのような場面か
執行猶予の判決を受けても、退去強制事由に該当する場合があるという点が最も重要である。実務では、この点を知らないまま判決を迎え、後に入管の手続が始まって驚かれることが少なくない。整理すると次のようになる。
| 場面 | 執行猶予付き判決の場合の扱い |
|---|---|
| 入管法24条4号リ | 無期または1年を超える拘禁刑が対象であるが、刑の全部の執行猶予を受けた者は除かれる |
| 入管法24条4号チ | 薬物に関する法令に違反して有罪の判決を受けた場合、執行猶予でも該当する |
| 入管法24条4号の2 | 別表第一の在留資格で在留する者が、窃盗や傷害などの一定の犯罪により拘禁刑に処せられた場合、執行猶予でも該当する |
| 在留期間の更新 | 素行に関する事情として考慮され、更新が認められないことがある |
ここから分かるのは、執行猶予が付いたかどうかだけでは結論が決まらないということである。第1に、在留資格が別表第一のもの、すなわち就労資格や留学などであるか、それとも別表第二の身分に基づくものであるか。第2に、刑の種類。第3に、罪名が薬物事犯や4号の2に列挙された犯罪に当たるか。この3点の組合せによって結論が変わる。
したがって、刑事弁護の段階から、判決後の在留手続を見据えて資料を整えておく必要がある。略式命令による罰金の場合の扱いについては、略式命令の解説も参照されたい。
よくあるご質問
Q1 執行猶予は前科になりますか。
なります。執行猶予は有罪判決であり、刑の執行が猶予されるにすぎません。猶予期間を無事に経過すれば刑の言渡しは効力を失いますが、有罪判決を受けた事実の記録は残ります。
Q2 執行猶予なら強制送還されませんか。
罪名と在留資格によります。薬物に関する事犯では執行猶予でも退去強制事由に該当するとされ、また、就労資格などで在留する方が窃盗や傷害などの一定の犯罪により拘禁刑に処せられた場合も同様です。個別の事案について弁護士にご確認ください。
Q3 執行猶予中に働けますか。
刑事手続の面では、社会内で生活することが前提ですので、就労が禁じられるわけではありません。ただし、在留資格の面では別の判断となります。退去強制手続が始まっていないか、在留期間が残っているかを確認する必要があります。
Q4 猶予期間はどのくらいですか。
1年以上5年以下の範囲で、裁判所が定めます。事案の内容や情状によって異なり、保護観察に付されることもあります。判決の主文でご確認ください。
Q5 執行猶予が取り消されるのはどのような場合ですか。
猶予期間中に再び罪を犯して拘禁刑に処せられた場合などです。取り消されると、猶予されていた刑が執行されます。猶予期間中は、生活の立て直しに専念していただくことが何より重要です。
おわりに
執行猶予の判決を受けて刑事施設に入らずに済んだとしても、それで在留の問題まで終わるわけではありません。罪名と在留資格の種類の組合せによっては、執行猶予であっても退去強制手続が始まります。判決の後にこそ、確認しておくべきことがあります。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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