起訴猶予とは|刑訴法248条の考慮事情と前科・在留資格への影響を解説
2026/09/04
起訴猶予とは、犯罪の嫌疑が認められる場合であっても、犯人の性格や境遇、犯罪の軽重、犯罪後の情況を考慮して、検察官が公訴を提起しないこととする処分をいう。刑訴法248条に根拠があり、不起訴処分の一類型である。裁判は開かれず、前科にもならない。
この記事の要点
- 起訴猶予は、嫌疑があることを前提に、検察官の裁量で公訴を提起しない処分である。
- 刑訴法248条は、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、犯罪後の情況を考慮事情とする。
- 前科にはならないが、検察庁には前歴として記録が残る。
- 有罪判決を受けていないため、それ自体では退去強制事由に当たらない。
- 在留期間の更新では、素行に関する事情として考慮されることがある。
起訴猶予とは何か
起訴猶予とは、証拠上は起訴できる事件について、あえて起訴しないという検察官の判断である。刑訴法248条は、犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができると定めている。
ここでいう犯罪後の情況には、被害者との示談の成立、被害弁償、反省の状況、再犯を防ぐ環境の整備などが含まれる。したがって、起訴猶予を得られるかどうかは、事件そのものの重さだけでなく、処分が決まるまでに何を積み上げられたかによって左右される。
起訴猶予は他の不起訴とどう違うか
不起訴処分にはいくつかの類型があり、起訴猶予はそのうちの一つである。理由によって意味合いが大きく異なる。
| 類型 | 意味 | 嫌疑の有無 |
|---|---|---|
| 嫌疑なし | 犯人ではないことが明らかな場合 | 嫌疑が否定される |
| 嫌疑不十分 | 証拠が足りず有罪の証明が困難な場合 | 証明に至らない |
| 起訴猶予 | 嫌疑はあるが訴追の必要がないと判断された場合 | 嫌疑は認められる |
| 罪とならず | 行為が犯罪に当たらない場合 | 犯罪が成立しない |
いずれの類型でも前科にはならない。もっとも、起訴猶予は嫌疑を認めたうえでの処分であるため、後の手続で説明を求められる場面では、嫌疑なしや嫌疑不十分とは受け止められ方が異なる。詳しくは不起訴処分の解説を参照されたい。
起訴猶予を得るために何が重要か
処分が決まる前に、考慮事情を具体的な形で示すことが重要である。検察官は、勾留期間の満了までに処分を決めるため、時間の制約が大きい。
実務上、被害者のある事件では、示談の成立と被害弁償が最も重視される。被害者のいない事件では、反省の内容、再犯防止のための具体的な計画、身元引受人の存在、勤務先の受入れの意思などを、書面の形で提出することになる。口頭の説明だけでは、記録として残らないため考慮されにくい。
起訴猶予になると前科は付くか
起訴猶予は有罪判決ではないため、前科は付かない。裁判が開かれることもなく、刑が科されることもない。
ただし、検察庁には被疑者としての取扱いを受けた記録、いわゆる前歴が残る。前歴は一般には公開されないが、その後に別の事件を起こした場合、処分の判断において考慮されうる。同種の行為を繰り返せば、二度目に起訴猶予となる可能性は低くなる。
起訴猶予と執行猶予は何が違うか
名称が似ているため混同されやすいが、両者はまったく別の制度である。
| 項目 | 起訴猶予 | 執行猶予 |
|---|---|---|
| 判断する者 | 検察官 | 裁判所 |
| 裁判の有無 | 裁判は開かれない | 判決が言い渡される |
| 前科 | 付かない | 付く |
| 刑 | 科されない | 刑は言い渡され、執行が猶予される |
| 取消しの有無 | 取消しの制度はない | 猶予が取り消されることがある |
執行猶予については、執行猶予の解説をご覧ください。
外国人の事件で起訴猶予が問題になるのはどのような場面か
外国人の方にとって、起訴猶予は在留資格を維持するうえで大きな意味を持つ。有罪判決を受けていない以上、それ自体で退去強制事由に当たることはなく、拘禁刑に処せられた場合や薬物事犯で有罪の判決を受けた場合とは、法律上の扱いが異なるからである。
もっとも、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では、素行が良好であるかどうかが考慮される。起訴猶予となった事実そのものが直ちに不許可を意味するわけではないが、事情の説明を求められることはある。したがって、示談書や反省の経緯を記した資料は、刑事手続が終わった後も保管しておく必要がある。
なお、不法残留などの入管法上の問題は、刑事処分とは別に退去強制手続の中で判断される。刑事事件が起訴猶予で終わったからといって、在留の問題まで解決するわけではない。
よくあるご質問
Q1 起訴猶予は前科になりますか。
なりません。起訴猶予は不起訴処分の一つであり、有罪判決ではないためです。ただし、検察庁には前歴として記録が残ります。前歴は一般に公開されるものではありませんが、その後に別の事件があった場合の処分判断で考慮されることがあります。
Q2 起訴猶予になると身体拘束は解かれますか。
処分が決まれば、勾留の理由がなくなりますので釈放されます。ただし、入管法上の問題を抱えている場合には、釈放後に入管の手続に移行することがありますので、事前の見通しを立てておく必要があります。
Q3 会社や学校に知られますか。
検察官が勤務先や学校に処分の内容を通知する制度はありません。もっとも、身体を拘束されていた期間の欠勤や欠席が事実上知られることはあります。この点も含めて、早い段階で対応を考える必要があります。
Q4 起訴猶予でも在留資格に影響しますか。
有罪判決ではありませんので、それ自体で退去強制事由に当たることはありません。ただし、在留期間の更新の審査では素行が考慮されますので、事情の説明を求められることがあります。示談書などの資料は保管しておいてください。
Q5 起訴猶予になった後に起訴されることはありますか。
検察審査会への申立てがあり、その議決を経て起訴に至る場合など、例外的な経路はあります。もっとも、実際にそこまで進む例は多くありません。ご不安な点は弁護人にご確認ください。
おわりに
起訴猶予は、裁判を経ないまま手続が終わるため、当事者にとっては何が起きたのか分かりにくい処分です。前科にはならない一方、記録は残り、その後の在留期間の更新で説明を求められることがあります。処分の意味を正確に理解しておくことが、次の手続の備えになります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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