被疑者国選弁護とは|対象となる範囲・資力要件と逮捕直後の空白
2026/09/04
被疑者国選弁護とは、勾留された被疑者について、資力が一定の基準に満たない場合等に、国の費用で弁護人を付する制度をいう。平成30年6月から、勾留された全ての被疑者が対象とされている。逮捕されただけで勾留されていない段階では利用できない。
この記事の要点
- 被疑者国選弁護の対象は勾留された被疑者であり、逮捕から勾留までの間は対象外である。
- 資力が基準額に満たないことが要件であり、資力申告書を添えて裁判官に請求する。
- 基準額以上の資力がある場合は、先に弁護士会へ私選弁護人の紹介を申し出る必要がある。
- 弁護人を指名することはできず、名簿に基づいて指名される。
- 起訴されると被疑者国選は終了し、被告人としての国選弁護人が改めて選任される。
被疑者国選弁護とは何か
被疑者国選弁護とは、勾留された被疑者に対し、国の費用で弁護人を付する制度である。憲法及び刑事訴訟法は、被疑者及び被告人が弁護人を依頼する権利を保障しており、資力を理由に弁護人を得られない事態を避けるために設けられた仕組みである。
制度は段階的に拡大されてきた。当初は一定の重い罪に限られていたが、平成30年6月から、勾留された全ての被疑者に対象が広げられている。したがって、罪名の軽重を理由に対象外とされることは、現在では原則としてない。
被疑者国選弁護の要件は何か
結論として、勾留されていること、資力が基準額に満たないこと、そして被疑者本人が請求することの三つが必要である。
| 要件 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 身体拘束の段階 | 勾留状が発せられていること | 逮捕のみの段階では利用できない |
| 資力 | 現金及び預金等の合計が基準額(50万円)に満たないこと | 資力申告書を提出する |
| 基準額以上の場合 | 弁護士会に私選弁護人の紹介を申し出たこと | 紹介を受けられなかった場合等に請求できる |
| 請求 | 被疑者本人が裁判官に請求すること | 勾留質問の際に請求できる旨が告知される |
被疑者国選弁護の手続はどう進むか
手続は勾留の場面から始まる。検察官が勾留を請求すると、裁判官による勾留質問が行われ、その際に国選弁護人の選任を請求できる旨が告知される。
被疑者が請求書と資力申告書を提出すると、日本司法支援センターを通じて候補となる弁護士が指名され、裁判官が選任する。選任された弁護人は、留置施設に接見に赴き、事実関係の聴取と今後の方針の説明を行う。この初回の接見までにどれだけ時間がかかるかは、事案や地域によって異なる。
被疑者国選弁護にはどのくらいの期間がかかるか
請求から選任までは、通常は数時間から翌日程度である。もっとも、逮捕から勾留までは最大で72時間あり、その間に取調べが集中して行われる。
取調べの初期段階でどのような供述をするかは、その後の手続に大きく影響する。制度の空白を埋める手段としては、逮捕直後に呼べる当番弁護士と、時期を問わず選任できる私選弁護人がある。
被疑者国選弁護と私選弁護は何が違うか
結論として、選任できる時期、弁護人を選べるかどうか、費用の負担者が違う。
| 項目 | 被疑者国選弁護 | 私選弁護人 |
|---|---|---|
| 選任できる時期 | 勾留された後 | 逮捕の直後から可能 |
| 弁護人の選択 | できない | できる |
| 費用 | 原則として国が負担 | 依頼者が負担 |
| 資力要件 | あり | なし |
| 通訳の手配 | 制度上の枠内で行われる | 事務所の体制に応じて柔軟に行える |
外国人の事件で被疑者国選弁護が問題になるのはどのような場面か
最も問題になるのは、意思疎通の確保である。弁護人と被疑者が共通の言語を持たない場合、接見のたびに通訳を確保しなければならず、その手配の負担が接見の頻度に影響することがある。
また、外国人の刑事事件では、量刑の見通しと同時に在留資格への影響を検討する必要がある。刑事手続の帰結が退去強制事由への該当性や在留期間更新の可否に直結するため、刑事と入管の双方を見通した方針決定が求められる。取調べにおける黙秘権の行使や供述調書の作成過程についても、早い段階で説明を受けておく必要がある。
よくあるご質問
Q1 逮捕された段階で国選弁護人は付きますか。
付きません。被疑者国選弁護の対象は勾留された被疑者であり、逮捕から勾留までの間は制度の対象外です。この期間に弁護人と会いたい場合は、当番弁護士を呼ぶか、私選弁護人を選任することになります。取調べは逮捕直後から始まりますので、この空白は小さくありません。
Q2 資力はどのように審査されますか。
現金や預金など、すぐに使える資産の合計額を申告する資力申告書を提出します。基準額に満たなければ請求ができ、基準額以上の場合は、まず弁護士会に私選弁護人の紹介を申し出たうえでなければ請求できない仕組みになっています。虚偽の申告は制度上の不利益を招きます。
Q3 国選弁護人は選ぶことができますか。
できません。名簿に基づいて指名されるため、弁護人を指定して依頼することはできません。国籍や使用言語に応じた配慮が常に行われるとは限らない点は、あらかじめ理解しておく必要があります。
Q4 国選弁護人の費用は最後まで無料ですか。
原則として国が負担しますが、有罪判決を受けた場合には、訴訟費用として一部の負担を命じられることがあります。負担を命じられた場合でも、資力がないときは免除を求める申立てをすることができます。
Q5 起訴された後も同じ弁護人が続けますか。
被疑者段階の国選弁護は起訴によって終了し、起訴後は被告人としての国選弁護人が改めて選任されます。実務上は同じ弁護士が引き続き選任されることが多いものの、制度上は別の選任です。
おわりに
被疑者国選弁護は、資力にかかわらず弁護人の助力を受けられるようにするための制度である。しかし、逮捕から勾留までの期間が対象外であること、弁護人を選べないことという二つの限界がある。取調べが始まる最初の数日をどう過ごすかは、その後の結論を左右する。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。
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