黙秘権とは|憲法38条1項に基づく権利と取調べにおける行使の方法
2026/09/04
黙秘権とは、被疑者及び被告人が、取調べや裁判において供述を拒むことができる権利をいう。憲法38条1項は、何人も自己に不利益な供述を強要されないと定めており、刑訴法198条2項は、取調べに際して供述を拒むことができる旨を告げなければならないと定めている。
この記事の要点
- 黙秘権は憲法上の保障に基づく権利であり、取調べの前に告知される。
- 全部を黙秘することも、一部の質問にだけ答えないことも可能である。
- 黙秘したことを理由に不利益な取扱いをすることは許されない。
- 供述を拒んでいても調書が作成されることはあり、署名押印は別に拒むことができる。
- 通訳を介する場合は、うなずきや相づちが同意として訳される危険がある。
黙秘権とは何か
黙秘権とは、供述するかどうかを本人が決めることができ、供述を強いられないという権利である。憲法38条1項が自己に不利益な供述の強要を禁じ、刑事訴訟法がこれを受けて、取調べに先立つ告知を義務づけている。
この権利は、自白を得ようとする取調べの圧力から本人を守るためのものである。日本の刑事手続では取調べが長時間にわたることがあり、供述するかどうかを自分で決められるという原則は、その場面で最も重い意味を持つ。
黙秘権はどの場面で行使できるか
結論として、捜査段階から公判まで、手続の全ての段階で行使できる。
| 場面 | 行使の方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 逮捕直後の取調べ | 供述を拒む旨を述べる | 弁護人が付く前の段階であり、告知の有無を記憶しておく |
| 勾留質問 | 裁判官に対しても供述を拒むことができる | 住居や氏名の確認は別に行われる |
| 検察官の取調べ | 同じ方針を維持する | 相手が代わっても方針は変えない |
| 公判 | 終始沈黙し、又は個々の質問に答えないことができる | 被告人質問での対応は弁護人と決める |
黙秘権はどのように行使するか
結論として、黙秘しますという意思を明確に述べ、それを維持することである。曖昧な態度をとると、質問が続けられ、断片的な発言が記録に残る。
実務上は、質問の内容にかかわらず同じ表現を繰り返す方法が採られる。取調べに応じる姿勢と、供述するかどうかは別の問題であり、態度が悪いと評価されることを恐れて話し始める必要はない。弁護人と方針を決め、その方針を毎回の取調べで維持することが重要である。
黙秘すると不利に扱われるのか
結論として、黙秘したことを理由に不利益に扱うことは許されない。憲法が供述の強要を禁じている以上、供述しなかったことを事実認定や量刑において不利に評価することは、その保障を実質的に失わせるからである。
もっとも、取調べの場では、話さないと勾留が長引く、反省していないと受け取られるといった説明を受けることがある。それが法的な評価ではないことを理解したうえで、供述するかどうかを判断する必要がある。判断には見通しが必要であり、そのために弁護人の助言を得る意味がある。
黙秘権と供述調書はどう関係するか
供述を拒んでいる場合であっても、取調べの経過が記録されることはある。作成された書面に署名押印をするかどうかは別の問題であり、これを拒むことができる。
署名押印を拒めば、その書面が証拠として用いられる範囲は限られる。したがって、内容を確認しないまま、あるいは納得できないまま署名しないことが重要である。供述調書の作成過程については別の記事で整理している。
外国人の事件で黙秘権が問題になるのはどのような場面か
最も問題になるのは、通訳を介することによるずれである。相づちのつもりでうなずいた場面や、聞き取れなかったが答えた場面が、同意や自白として訳されてしまう危険がある。
また、母語の表現をそのまま日本語にすると意味が変わる場合があり、本人が意図しない内容が記録に残ることもある。黙秘すると決めた場合には、うなずきや相づちも控え、同じ表現を繰り返すのが安全である。さらに、在留資格への影響を恐れて事実と異なる供述をしてしまう例もある。刑事の見通しと入管の見通しの双方を踏まえて方針を決める必要がある。司法通訳の体制についても確認しておきたい。
よくあるご質問
Q1 黙秘すると不利になりませんか。
黙秘したことを理由に不利益な取扱いをすることは、憲法が保障する権利の趣旨に反します。取調べの場では、話さないと不利になると告げられることがありますが、それは法的な評価ではありません。何を話し、何を話さないかは、弁護人と相談して決めてください。
Q2 一部だけ黙秘することはできますか。
できます。質問の一部にだけ答え、他の質問には答えないという対応も可能です。ただし、断片的に答えると、その部分だけが調書に残り、全体として不正確な内容になることがあります。方針は弁護人と決めておくのが安全です。
Q3 黙秘していれば調書は作られませんか。
供述を拒んでいる場合でも、その経過が記録されることはあります。作成された調書に署名押印をするかどうかは別の問題であり、署名押印を拒むことができます。内容に納得できないまま署名しないことが重要です。
Q4 通訳を介する場合に気を付けることはありますか。
相づちのつもりでうなずいたり、はいと答えたりした場面が、同意として訳されてしまう危険があります。黙秘すると決めたときは、質問の内容にかかわらず同じ表現を繰り返し、うなずきや相づちも控えるのが安全です。
Q5 黙秘は在留資格に影響しますか。
黙秘したこと自体が在留資格の判断に直接影響するわけではありません。もっとも、刑事手続の結果は在留に影響しますので、供述の方針は、刑事の見通しと入管の見通しの両方を踏まえて決める必要があります。
おわりに
黙秘するかどうかは、事案の内容と証拠の状況によって判断が分かれる。重要なのは、本人が自分で決められる権利であるという点である。言葉の通じない場所で、その決定を一人で行うことは容易ではない。早い段階で弁護人と方針を共有しておくことが求められる。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。
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