解決事例
身に覚えのないストーカー警告を理由とする猟銃の仮領置処分を、審査請求からわずか9日で撤回させた事例
身に覚えのないストーカー警告を理由とする猟銃の仮領置処分を、審査請求からわずか9日で撤回させた事例
依頼者:50代 男性(猟友会安全狩猟射撃指導員)
相談前
依頼者様は、約7年間にわたり銃砲所持許可を受け、適法に狩猟・射撃に従事されてきた方で、地元猟友会の安全狩猟射撃指導員として、地域の狩猟安全教育を担う公的役割を果たされてきました。前科前歴は一切ありません。
ところが、元交際相手とのメール上のやり取りをきっかけに、警察から身に覚えのないストーカー規制法違反の嫌疑をかけられ、口頭警告を受けてしまいました。さらにその翌日、警察は同口頭警告の存在を主たる根拠として、銃刀法11条8項に基づき、依頼者様が長年大切にしてきた散弾銃及び特定ライフルを仮領置したのです。事前の告知も弁明の機会も一切なく、約7年間積み上げてきた狩猟活動と、安全狩猟射撃指導員としての公的役割が、突然奪われる事態となりました。
依頼者様は、「身に覚えのない警告を理由に、適法に所持してきた銃を取り上げられるのは納得できない」とのお気持ちを抱き、当事務所にご依頼くださいました。
相談後
当事務所では、二段構えの法的対応を組み立てました。
第一に、茨城県公安委員会に対する仮領置処分の取消しを求める審査請求です。論点としては、銃刀法5条1項18号の「他人の生命等への害悪のおそれを認めるに足りる相当な理由」を充足する具体的・実質的危険が客観的に存在しないこと、約7年間の適法使用実績と安全狩猟射撃指導員としての公的役割が銃刀法の立法趣旨(札幌地判令和3年12月17日参照)に正面から合致すること、仮領置後に依頼者様が一切の問題行動に及んでいない後発的事情を考慮すべきこと(東京地判平成30年3月30日参照)、適正手続を欠いた口頭警告を主要な根拠とすることが憲法31条の趣旨に反することなどを、体系的に主張しました。
第二に、行政手続法36条の2に基づく行政指導中止申出を、警察署長宛てに正式に提出しました。本件口頭警告がストーカー規制法所定の要件を充足しないこと、告知・聴聞の機会を欠いた手続的瑕疵を伴うことを書面で明確に主張する内容です。
その結果、審査請求書を提出してからわずか9日後、茨城県公安委員会から、本件仮領置処分を撤回し、銃砲を返還する旨の通知をいただくことができました。一般に、行政不服審査における裁決は数か月から1年以上を要することも珍しくないなかでの、異例の早期判断となりました。
松村 大介 弁護士からのコメント
本件は、冤罪型のストーカー警告事案が銃刀法の包括条項(バスケット条項)を経由して甚大な不利益処分に転用される、現代の銃刀法運用に内在する構造的問題が顕在化した事例です。「単なる口頭警告」として軽く扱われがちなものが、実際には適法所持下にある銃砲の使用・収益を実質的に不可能にし、長年積み上げてきた既得の地位を一方的に剥奪する力を持ちます。本件は、その典型でした。
当事務所は、令和6年に大阪高裁でストーカー規制法4条1項の文書警告について法的効力を認めさせる判決(同年6月26日判決)を獲得した実績を有しております。本件においても、ストーカー警告の制度的性格、銃刀法の立法趣旨、適正手続の保障といった重要論点を、複数の裁判例・学説・立法資料に基づいて緻密に組み立て、徹底的に主張しました。審査請求からわずか9日での処分撤回という結果は、これらの法理論が公安委員会にも十分に説得力を持って受け止められたことの証左であると受け止めております。
もっとも、本件で問題となった構造、すなわち「対象者が制度的に争えない口頭警告が、包括条項を経由して甚大な侵益処分の根拠に転用される」という問題は、口頭警告制度それ自体に内在する憲法上の課題でもあります。口頭警告には独立の不服申立手段が法定されておらず、適正手続の保障(憲法31条)との関係で重大な疑義を残します。当事務所では、今後もこの構造的問題について、法廷と言論の両面から継続的に問題提起を続けてまいります。
もし、ご自身、あるいはご家族・知人の方が、身に覚えのない口頭警告ないし文書警告を受けてしまった、それを根拠とする銃刀法上の処分や各種資格制度上の処分が出されてしまった、というご状況がありましたら、決して一人で抱え込まず、お早めにご相談ください。「単なる口頭警告」とお考えにならず、初期段階での法的対応の質が、その後の結果を大きく左右いたします。