国家賠償請求とは|国賠法1条の要件、入管収容や捜査の違法を争う方法
2026/09/04
国家賠償請求とは、公権力の行使に当たる公務員が職務を行うについて故意又は過失によって違法に損害を加えたときに、国又は公共団体に対して損害の賠償を求める請求をいう。国家賠償法第1条がその根拠であり、違法な行政処分、捜査、収容などによって生じた損害の救済を図る制度である。
この記事の要点
- 国家賠償請求は、違法な公権力の行使によって生じた損害を金銭で填補する制度である。
- 公務員個人ではなく、国又は公共団体が賠償の責任を負うのが原則である。
- 処分が取り消されたことだけで、直ちに賠償が認められるわけではない。
- 公の営造物の設置管理の瑕疵による損害についても、別途賠償の規定がある。
- 外国人が被害者の場合には、相互の保証の有無が問題となることがある。
国家賠償請求とは何か
国家賠償請求は、行政の活動によって生じた損害を、事後に金銭で回復するための請求である。国家賠償法第1条は、公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずる旨を定めている。処分の取消しや無効の確認が、処分の効力そのものを争う救済であるのに対し、国家賠償請求は既に生じた損害を金銭で填補する救済である点に違いがある。取消訴訟の出訴期間が過ぎた後でも提起できること、処分に当たらない事実行為も対象になり得ることから、救済の幅が広い。
国家賠償請求の要件は何か
公権力の行使に当たること、公務員の職務行為であること、故意又は過失があること、違法であること、損害が発生し行為との間に因果関係があることが必要である。ここでいう公権力の行使は広く解されており、行政処分だけでなく、捜査、指導、公立学校での教育活動なども含まれる。違法と過失の関係については、担当公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認められるかどうかを基準とする考え方が判例上採られている。
| 要件 | 内容 | 争点となりやすい点 |
|---|---|---|
| 公権力の行使 | 行政処分のほか捜査、指導、事実行為を含む | 純粋な私経済作用との区別 |
| 職務を行うについて | 職務の外形を備えているか | 私的な行為との区別 |
| 故意又は過失 | 注意義務違反の有無 | 違法性の判断と重なることが多い |
| 違法 | 職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたか | 処分の取消しと賠償の違法の関係 |
| 損害と因果関係 | 財産的損害と精神的損害 | 慰謝料額の算定資料 |
権限の不行使も違法となるのか
行政庁が規制権限を行使しなかったことが違法とされる場合がある。判例上、規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨や目的、権限の性質に照らし、具体的事情の下において、権限の不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときに違法となると解されている。生命や身体に対する重大な危険が予見でき、権限を行使すれば結果を回避できたといえる場面で問題となる。入管の分野では、収容中の被収容者の健康状態に対する対応が争われる類型がこれに近い構造をもつ。
国家賠償請求の手続はどう進むか
民事訴訟として、地方裁判所に訴えを提起することから始まる。被告は国又は当該公共団体であり、公務員個人を被告とすることは原則としてできないと解されている。審理では、行政側の内部文書や記録の提出が結論を左右することが多いため、文書送付の嘱託や文書提出命令の申立てを活用する。処分の違法を争う取消訴訟と併合して提起することもでき、事案によっては取消訴訟で処分の違法を確定させてから賠償を求める段階的な進め方が選ばれる。
国家賠償請求にはどのくらいの期間がかかるか
第一審の判決までに1年から3年程度を要することが多い。事実関係の立証に証人尋問を要する事案では、さらに長くなることがある。請求権の行使には期間の制限があり、民法の不法行為に関する規定が適用される結果、損害及び加害者を知った時からの期間制限と、不法行為の時から20年という制限がある。生命又は身体を害する不法行為については、知った時からの期間が長く取られている。時の経過とともに記録の保存期間が過ぎ、立証が困難になるため、早期に資料を確保することが重要である。
国家賠償請求と取消訴訟・審査請求は何が違うか
目的と効果が異なる。次の表のとおり、それぞれの救済の役割を理解して使い分ける必要がある。
| 手段 | 目的 | 期間の制限 |
|---|---|---|
| 取消訴訟 | 処分の効力を失わせる | 行政事件訴訟法第14条の出訴期間 |
| 審査請求 | 行政庁に処分の見直しを求める | 行政不服審査法第18条の審査請求期間 |
| 国家賠償請求 | 生じた損害を金銭で填補する | 民法の不法行為の期間制限 |
関連する用語として、義務付け訴訟、差止訴訟、出訴期間もあわせてご覧いただきたい。
外国人の事件で国家賠償請求が問題になるのはどのような場面か
入管の収容と送還、捜査の違法が代表的な類型である。収容の必要性や相当性を欠いたまま収容が長期にわたった場合、仮放免の判断が著しく合理性を欠く場合、収容中の体調不良に対する医療上の対応が適切でなかった場合などが争われる。送還の場面では、裁判を受ける権利や難民認定手続の利用を実質的に妨げたといえるかが問題となる。捜査に関しては、通訳を付さないまま取調べが行われた、弁護人との接見が正当な理由なく制限されたといった事情が主張されることがある。いずれの類型でも、当時の記録をどれだけ確保できるかが結論を分けるため、刑事手続や入管手続が進行している段階から資料を残しておくことが重要である。
よくあるご質問
Q1 処分が取り消されれば、必ず賠償も認められますか。
そうとは限りません。判例上、処分が違法として取り消されたことから直ちに国家賠償法上の違法があるとされるわけではなく、担当公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったかどうかが別に検討されます。
Q2 外国人でも国に賠償を請求できますか。
請求は可能です。ただし国家賠償法には、外国人が被害者である場合には相互の保証があるときに限り適用される旨の規定があるため、国籍国の法制度について個別の検討が必要となります。
Q3 いつまでに訴えを起こさなければなりませんか。
民法の不法行為の規定が適用され、損害及び加害者を知った時から一定期間、また不法行為の時から20年という制限があります。生命や身体を害された場合には期間が長くなる扱いがあるため、早めに確認してください。
Q4 刑事事件で不起訴になった場合、捜査は違法になりますか。
不起訴になったことだけで捜査が違法になるわけではありません。判例上、逮捕や起訴の当時における資料に照らして合理的な根拠を欠いていたといえるかどうかが判断の基準となります。
Q5 入管の収容が長期に及んだ場合はどうですか。
収容の必要性や相当性を欠いたまま収容が続けられたといえるか、仮放免の判断が著しく合理性を欠いていたといえるかが争点となります。収容中の医療対応の当否が問題となる類型もあります。
おわりに
国家賠償請求は、既に起きてしまった被害を金銭で回復するほかない場面で用いられる。証拠の多くが行政の側にあるため、記録の保存期間が過ぎる前に着手できるかどうかが結果を分ける。処遇や捜査に疑問を感じた時点で、記録の確保から始めていただきたい。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
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