司法通訳とは|法廷通訳と捜査段階の通訳の規律の差と誤訳への対応
2026/09/04
司法通訳とは、刑事手続において、日本語を理解しない者と捜査機関又は裁判所との間で通訳及び翻訳を行うことをいう。公判における通訳には刑事訴訟法上の規律があるが、捜査段階の通訳については明文の規律が乏しく、この差が実務上の問題を生んでいる。
この記事の要点
- 裁判所法は裁判所で日本語を用いると定め、刑訴法は国語に通じない者には通訳人に通訳をさせなければならないと定めている。
- 刑訴法は通訳及び翻訳について鑑定に関する規定を準用しており、宣誓等の規律が及ぶ。
- 捜査段階の通訳は捜査機関が手配し、中立性を担保する明文の仕組みが乏しい。
- 司法通訳には国家資格の制度がなく、裁判所は候補者名簿に基づいて選任している。
- 捜査段階と公判段階で通訳人が異なることが多く、訳語の差異が争点になり得る。
司法通訳とは何か
司法通訳とは、刑事手続の各段階で行われる通訳及び翻訳をいう。日本語を理解しない人が手続に参加するためには、供述の内容が正確に訳されることが不可欠であり、通訳は手続の前提そのものである。
裁判所法74条は、裁判所では日本語を用いると定めている。これを受けて刑訴法175条は、国語に通じない者に陳述をさせる場合には通訳人に通訳をさせなければならないと定め、刑訴法178条は、通訳及び翻訳について鑑定に関する規定を準用している。準用により、宣誓や忌避に関する規律が通訳人にも及ぶ。
捜査段階と公判段階で規律はどう違うか
結論として、公判には明文の規律があるのに対し、捜査段階の通訳を直接規律する規定は乏しい。
| 項目 | 捜査段階 | 公判段階 |
|---|---|---|
| 根拠 | 直接の明文規定に乏しい | 裁判所法74条、刑訴法175条、178条 |
| 手配する者 | 警察又は検察庁 | 裁判所 |
| 宣誓 | 制度上の仕組みがない | 鑑定の規定の準用により行われる |
| 忌避 | 制度上の仕組みがない | 鑑定の規定の準用による |
| 記録 | 調書に通訳人の氏名が記載される | 公判調書に記録される |
司法通訳に資格制度はあるか
結論として、国家資格の制度はない。裁判所は、言語能力の確認、研修及び面接を経た人を法廷通訳人の候補者名簿に登録し、その中から事件ごとに選任している。しかし、これは公的な資格試験による認定ではない。
捜査段階の通訳についても同様であり、捜査機関が独自に確保した通訳人が用いられる。言語によっては対応できる人が限られ、同一の人が長期間にわたり同種の事件を担当することもある。中立性をどのように担保するかは、制度上の課題として指摘されてきた。
通訳の費用は誰が負担するか
公判における通訳の費用は、被告人に負担させない取扱いがされている。自由権規約14条3項は、裁判所において用いられる言語を理解し又は話すことができない者は無料で通訳の援助を受けると定めており、この保障が前提となる。
これに対し、私選弁護人との打合せや接見に同行する通訳の費用は、依頼者の負担となる。接見の頻度が費用に影響するため、依頼の前に費用の範囲を確認しておく必要がある。
誤訳があったときはどうするか
結論として、その場で指摘し、記録に残すことが基本である。公判であれば弁護人を通じて指摘し、必要に応じて通訳人に確認を求める。取調べであれば訂正を求め、応じてもらえない場合は署名押印を拒む。
後の段階で誤訳を争う場合には、録音の有無、通訳人の氏名、交替の経過、当時のやりとりの記憶が手掛かりとなる。供述調書の記載と本人の記憶が食い違う理由を説明するためにも、これらの事情を早い段階で整理しておくことが必要である。
外国人の事件で司法通訳が問題になるのはどのような場面か
最も問題になるのは、法律上の概念に対応する語が母語にない場面である。故意、共謀、承諾といった語は、日常語に置き換えて訳されることがあり、その置換えによって供述の意味が変わることがある。
また、方言や少数言語の場合、対応できる通訳人が限られ、期日の調整に時間を要することがある。中国語であっても、地域によって語彙や言い回しに差があるため、意思疎通に齟齬が生じることがある。当事務所では、接見、取調べへの対応、打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えている。
よくあるご質問
Q1 司法通訳には国家資格がありますか。
国家資格はありません。裁判所は、研修や面接を経て法廷通訳人の候補者名簿に登録した人の中から通訳人を選任していますが、これは資格試験による認定ではありません。捜査段階の通訳についても、同様の資格制度はありません。
Q2 通訳の費用は誰が負担しますか。
公判における通訳の費用は、被告人に負担させない取扱いがされています。日本が批准している自由権規約14条3項は、裁判所で用いられる言語を理解できない者が無料で通訳の援助を受けることを保障しています。私選弁護人との打合せの通訳費用は、これとは別に依頼者の負担となります。
Q3 訳が違うと感じたらどうすればよいですか。
その場で申し出てください。公判であれば、弁護人を通じて指摘し、必要に応じて通訳人に確認を求めます。取調べであれば、訂正を求め、応じてもらえない場合は署名押印を拒み、そのやりとりを弁護人に伝えてください。
Q4 方言や少数言語でも通訳を付けてもらえますか。
手続上、日本語を理解できない者には通訳を付けることとされていますので、原則として付されます。もっとも、対応できる通訳人の数が限られる言語では、期日の調整に時間を要することがあります。使用言語は早い段階で正確に伝えてください。
Q5 同じ通訳人が捜査から裁判まで担当しますか。
通常は異なります。捜査段階の通訳人は捜査機関が手配し、公判の通訳人は裁判所が選任します。担当者が交替すると訳語の選び方が変わることがあり、その差異が争点になる場合があります。
おわりに
通訳は、手続の内容そのものを左右する。にもかかわらず、その担い手をどのように確保し、質をどのように保つかについて、制度は十分に整っているとはいえない。訳語に違和感を覚えたときに、その場で声を上げられるかどうかが、後の争いの成否を分ける。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
刑事手続と在留資格の問題を一体としてお取り扱いしております。
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