権利保釈とは|刑訴法89条の6つの除外事由と否認事件での争い方
2026/09/04
権利保釈とは、刑事訴訟法が定める除外事由のいずれにも当たらない限り、裁判所が保釈を許さなければならないという保釈の類型をいう。刑訴法89条に定められている。裁判所の裁量に委ねられる裁量保釈と異なり、要件を満たせば保釈を許すことが義務づけられる点に特徴がある。
この記事の要点
- 権利保釈は、除外事由に当たらない限り裁判所が保釈を許さなければならない類型である。
- 除外事由は刑訴法89条に6つ定められており、そのいずれかに当たれば権利保釈は認められない。
- 実務上争いになるのは、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由の有無である。
- 除外事由に当たる場合でも、刑訴法90条の裁量保釈が別に検討される。
- 外国人の事件では、住居の特定と罪証隠滅のおそれの評価が中心的な争点になる。
権利保釈とは何か
権利保釈とは、保釈の請求があったときに、法が定める除外事由のいずれにも当たらない限り、裁判所が保釈を許さなければならないとされる場合をいう。刑訴法89条は、保釈の請求があったときはこれを許さなければならないと定めたうえで、例外として除外事由を列挙する構造をとっている。
この構造は、起訴後の身体拘束が本来は例外であり、有罪判決が確定するまでは無罪の推定が働くという考え方に基づく。したがって、除外事由に当たることは、身体拘束の継続を求める側が具体的に示すべき事柄であり、抽象的なおそれを述べるだけで足りるものではない。
権利保釈の除外事由は何か
除外事由は次の6つである。いずれか一つに当たれば権利保釈は認められない。
| 号 | 除外事由の内容 |
|---|---|
| 1号 | 死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき |
| 2号 | 前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき |
| 3号 | 常習として長期3年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき |
| 4号 | 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき |
| 5号 | 被害者や事件の関係者、その親族の身体若しくは財産に害を加え、又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき |
| 6号 | 被告人の氏名又は住居が分からないとき |
逃亡のおそれは、権利保釈の除外事由には含まれていない。逃亡のおそれは裁量保釈の判断において考慮される事情である。
罪証隠滅のおそれはどのように判断されるか
結論として、抽象的な可能性では足りず、隠滅の対象、方法、実効性及び被告人の主観的な可能性を具体的に検討して判断される。実務では、隠滅の対象となる証拠が何であるかを特定し、それが既に押収され、あるいは証人尋問が終わっていて、いまさら隠滅する余地がないことを示していくことになる。
否認しているという一事から罪証隠滅のおそれを導くことは、無罪の推定に反する。もっとも、実際には否認事件で除外事由が認められやすい傾向があり、この点は長く批判の対象となってきた。弁護人としては、証拠構造を分析したうえで、隠滅の余地がない理由を証拠に即して主張する必要がある。
権利保釈が認められないとどうなるか
除外事由に当たると判断された場合でも、手続はそこで終わらない。刑訴法90条は、裁判所が適当と認めるときは職権で保釈を許すことができると定めており、実務上はこの裁量保釈が主戦場となる。
また、保釈請求を却下する裁判に対しては、抗告又は準抗告により上級の裁判所の判断を求めることができる。証人尋問の終了など手続の進行によって除外事由の前提が変われば、改めて請求することもできる。
権利保釈と裁量保釈は何が違うか
結論として、裁判所に許可する義務があるかどうかが違う。
| 項目 | 権利保釈 | 裁量保釈 |
|---|---|---|
| 根拠 | 刑訴法89条 | 刑訴法90条 |
| 裁判所の対応 | 除外事由がなければ許さなければならない | 適当と認めるときに許すことができる |
| 主な判断対象 | 6つの除外事由への該当性 | 逃亡・罪証隠滅のおそれの程度と不利益の程度の衡量 |
| 逃亡のおそれ | 除外事由に含まれない | 考慮される |
外国人の事件で権利保釈が問題になるのはどのような場面か
最も問題になるのは、住居の特定と罪証隠滅のおそれである。住居が定まっていない、あるいは登録上の住所と実際の居所が異なるという状態では、氏名又は住居が分からないときに当たると判断されるおそれがある。
そのため、制限住居となる場所を具体的に示し、賃貸借契約書、同居者の陳述書、勤務先の資料を添えて、生活の実態が日本国内にあることを裏づけていく。共犯者がいる事件では口裏合わせが懸念されやすいため、共犯者の取調べや証人尋問の進行状況を踏まえ、請求の時機を選ぶことも重要である。保釈全般の手続については別の記事で整理している。
よくあるご質問
Q1 権利保釈と裁量保釈は、どちらを先に主張するのですか。
保釈請求書では、まず権利保釈の除外事由に当たらないことを述べ、仮に除外事由に当たるとしても裁量保釈を認めるべきである、という順序で主張するのが通常です。裁判所は権利保釈の可否を先に判断し、除外事由があると考える場合に裁量保釈の当否を検討します。
Q2 否認していると権利保釈は認められないのですか。
否認していること自体が除外事由なのではありません。問題となるのは罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるかどうかであり、隠滅の対象、方法、実効性を具体的に検討すべきものとされています。もっとも、実務上は否認事件で罪証隠滅のおそれが認められやすい傾向があることは否定できません。
Q3 住居が定まっていない場合はどうなりますか。
氏名又は住居が分からないときは除外事由に当たります。住居が定まっていない場合には、親族や知人の住居を制限住居として提示し、賃貸借契約書や同居に関する陳述書を提出して、生活の場が確保されていることを具体的に示す必要があります。
Q4 重い罪名だと権利保釈は使えませんか。
死刑又は無期若しくは短期1年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるときは除外事由に当たるため、権利保釈は認められません。この場合は裁量保釈を求めることになります。罪名だけで結論が決まるわけではなく、犯した罪の評価も争いの対象になります。
Q5 共犯者がいる事件では保釈は難しいですか。
共犯者との口裏合わせが懸念されるため、罪証隠滅のおそれが問題になりやすい類型です。もっとも、共犯者の取調べや証人尋問が終わった段階では、隠滅の余地は実質的に小さくなります。手続の進行に合わせて再度請求することが有効な場合があります。
おわりに
権利保釈は、身体拘束の継続を例外と位置づけた制度である。しかし現実には除外事由の解釈によって運用が左右され、否認する被告人ほど拘束が長引くという問題が指摘されてきた。除外事由に当たらないことを具体的な証拠に即して示す作業が、弁護人の仕事の中心となる。
外国人の刑事事件、とりわけ中国語圏の方の刑事弁護と、その後の在留資格の問題については、当事務所にご相談ください。接見・取調べへの対応・打合せに対応できる中国語の通訳体制を備えています。
本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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