略式命令とは|公判を開かずに罰金を科す手続と前科・在留への影響を解説
2026/09/04
略式命令とは、簡易裁判所が、公判を開かずに書面の審理だけで100万円以下の罰金または科料を科す裁判をいう。被疑者が略式手続によることに異議がない旨を書面で明らかにした場合に限って用いられる。公開の法廷での審理は行われないが、有罪の裁判であり前科となる。
この記事の要点
- 略式命令は簡易裁判所が書面審理だけで行う裁判であり、公判は開かれない。
- 科されるのは100万円以下の罰金または科料に限られる。
- 被疑者本人が略式手続によることに異議がない旨を書面で示す必要がある。
- 告知を受けた日から14日以内であれば、正式裁判を請求することができる。
- 有罪の裁判であるから前科となり、在留資格の審査でも考慮されうる。
略式命令とは何か
略式命令とは、公判を開かずに罰金または科料を科す簡易な裁判である。事案が明白で争いがなく、科される刑も罰金にとどまる事件について、手続を簡略化し、当事者の負担を軽くするために設けられている。
刑訴法上、略式命令によることができるのは、簡易裁判所の管轄に属する事件で、100万円以下の罰金または科料を科す場合に限られる。拘禁刑を科すことはできない。
略式命令の要件は何か
略式命令が用いられるには、次の要件がすべて満たされる必要がある。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所 | 簡易裁判所の管轄に属する事件であること |
| 刑の種類 | 100万円以下の罰金または科料を科す場合であること |
| 本人の意思 | 略式手続によることに異議がない旨を書面で明らかにしていること |
| 請求する者 | 検察官が公訴の提起と同時に略式命令を請求すること |
| 審理の方法 | 書面の審理により行い、公判は開かれないこと |
とりわけ重要なのは本人の意思である。本人が異議を述べれば略式命令によることはできず、通常の公判手続で審理される。したがって、同意を求められた段階で、その意味を理解しておく必要がある。
略式命令はどのような流れで進むか
手続は、検察官の請求から罰金の納付までが比較的短期間で進む。まず、捜査の段階で検察官が略式手続の説明を行い、本人が異議のない旨の書面に署名する。次に、検察官が公訴の提起と同時に略式命令を請求する。
簡易裁判所は、提出された書面を審理して略式命令を発し、本人に告知する。身体を拘束されていた場合は、この段階で釈放されることが多い。罰金は指定された期限までに納付する。納付できないときは、労役場に留置されることがある。
略式命令に納得できないときはどうすればよいか
略式命令の告知を受けた日から14日以内であれば、正式裁判を請求することができる。この請求により、事件は通常の公判手続で審理し直されることになる。
期間内に正式裁判の請求がなければ、略式命令は確定し、確定判決と同一の効力を有する。したがって、内容に疑問がある場合は、14日という期間を意識して速やかに弁護人に相談する必要がある。
略式命令と通常の裁判は何が違うか
両者の違いは次のとおりである。
| 項目 | 略式命令 | 通常の公判手続 |
|---|---|---|
| 審理の方法 | 書面のみ | 公開の法廷で証拠調べを行う |
| 本人の出廷 | 不要 | 必要 |
| 科される刑 | 100万円以下の罰金または科料 | 拘禁刑を含む |
| 要する期間 | 短期間で終わる | 数か月を要することがある |
| 前科 | 付く | 有罪であれば付く |
不起訴となった場合との違いについては、不起訴処分の解説を参照されたい。
外国人の事件で略式命令が問題になるのはどのような場面か
最も注意すべきなのは、略式命令が有罪の裁判であり、在留資格の審査に影響しうるという点である。早く釈放されるという利点に目を奪われ、同意の意味を十分に理解しないまま署名してしまう例が見られる。
罰金であれば、無期または1年を超える拘禁刑に処せられた者を退去強制事由とする入管法24条4号リには当たらない。しかし、薬物事犯については、同条4号チが薬物に関する法令に違反して有罪の判決を受けた者を退去強制事由としているため、罰金であっても該当しうる。罪名によって結論が異なるのであり、金額の多寡だけで判断することはできない。
また、在留期間の更新や在留資格の変更の審査では、素行が良好であるかどうかが考慮される。罰金前科があることは、この判断において不利に働きうる。争う余地のある事件で安易に同意することは、刑事手続の負担を軽くする代わりに、在留の基盤を損なう結果になりかねない。
よくあるご質問
Q1 略式命令は前科になりますか。
なります。略式命令は有罪の裁判であり、確定すれば確定判決と同一の効力を持ちます。公判が開かれないため実感を持ちにくいのですが、罰金前科として記録が残ります。
Q2 同意しないとどうなりますか。
略式命令によることはできず、通常の公判手続で審理されます。手続には時間がかかりますが、事実を争う場合や、処分の内容に納得できない場合には、同意しないという選択もありえます。判断に迷われる場合は弁護人にご相談ください。
Q3 罰金を払えないときはどうなりますか。
期限までに納付できない場合、労役場に留置されることがあります。分割による納付などの相談ができる場合もありますので、納付が難しいときは早めに検察庁または弁護人にご相談ください。
Q4 略式命令でも強制送還されますか。
罪名によります。罰金であれば1年を超える拘禁刑を理由とする退去強制事由には当たりませんが、薬物に関する事犯では罰金であっても退去強制事由に該当しうるとされています。個別の事案について弁護士にご確認ください。
Q5 あとから取り消せますか。
告知を受けた日から14日以内であれば正式裁判を請求できます。この期間を過ぎると確定してしまいますので、疑問があるときは速やかにご相談ください。
おわりに
略式命令は、短期間で身体の拘束が解かれるという点で、当事者にとって望ましい面があります。しかし、それは有罪の裁判であり、前科として残ります。同意を求められた場面で、その意味を理解したうえで判断できたかどうかが、後から大きな差になります。
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本記事は一般的な解説であり、個別の事案については弁護士に直接ご相談ください。
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執筆者情報
弁護士 松村大介(第一東京弁護士会・登録番号59077)
舟渡国際法律事務所(東京都豊島区)
主たる注力分野:中国籍の依頼者を中心とする外国人刑事弁護、出入国管理関係の行政訴訟
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